027 アンゲルス連邦共和国・サウスAs市
「なるほど。それでクールさんは、当時7歳だったリオに英才教育を施したと」
「そのとおり。組織はヒトがいなければ成立しねぇ。当時7~8歳だったガキに立派な金庫番になってもらわないとならねぇくらい、ウチは痛てぇ目にあったんだよ」
クール・ファミリーが手酷い目にあったのを知っている辺り、運転手もその事件の生き残りなのだろう。それは、バックミラー越しに彼がハンドルを、一瞬ギュッと力強く握ったことからも分かる。
「苦渋の決断だったと」
「そうだな……。でも、リオは賢い。おれらは脳筋でカネの稼ぎ方なんて知らねぇけど、コイツはうまくウチのカネを運用できる。だからまぁ、すべてが大誤算だったわけじゃないのさ」
*
裏道を通り続け、車は3時間もの間をかけて、ついにサウスAs市の看板が見えてきた。
「さて、少し休憩するか。リオを起こしてくれ」
「はい」
サーシャはリオを揺さぶる。が、起きる気配がない。よほど眠たいのだろう。10歳の子どもだから、夜出歩いていれば当然眠たくもなる。仕方ないので、サーシャは彼の耳に息をフッとかけてみる。
「……ッ!?」
寝ぼけ眼だが、リオは目を覚ました。彼の目に映るのは、いたずらっぽい笑みを浮かべる2歳下の幼女である。
「サウスAsに着いたぞ。これからどうするか教えてくれよ。リオ」
「……ヒトの耳に息吹きかけないでよ」
「なんだ? キスでもしてほしいか?」
「……そういうわけじゃない。あぁ、もう。オマエといるとペースが乱れる」
「可愛いヤツだな。クール・ファミリーのナンバー3ともあろう者が」
「……とりあえず、マルガレーテさんに会いに行こう。ここで降りて、タクシー拾って行く」
「なんだ、この車じゃ不満かい?」
「……違う。イーストAsナンバーの車が通っていたら、怪しまれるに決まっている。今僕らは逃げていることを忘れるな」
「ビビリだな。私とオマエで倒せない敵がいるのかい」
「……オマエだってオヤジの強さは知っているはず。そのオヤジが、僕とオマエを逃がしたことには相応の意味がある」
「あぁ、そうかい。なら降りるか」
車から降り、サーシャは南国みたいな、あるいはアメリカのマイアミのような雰囲気を感じる。
ヤシの木が並んでいて、海の匂いもする。気温もどことなく暖かい。むしろ暑いとすらいえるかもしれない。ただ、カラッっと乾燥しているため汗はすぐ蒸発するだろう。
「んじゃ、オマエら。頑張って生き残れよ」
「……あぁ」
「頑張ります」
車はUターンして去っていった。リオはワイシャツをめくり、サーシャは上着を脱ぐ。
「良い街だな。マイアミみたいだ」
「……サウスは暖かい。アンゲルス随一の観光地で、年中暑いくらい暖かいように魔術で調整している」
「なるほど。今11月なのに、日差し強すぎて目が痛いのはそれが原因か」
「……ほら」リオはサングラスを渡してきた。「……マルガレーテさんの部下が迎えに来るまで、そこに座っていよう」
「優しいところあるじゃねぇか。ありがとう」
「……オマエ、なんとなく妹に似ている。あの野郎に強姦されて、未だに入院している妹に」
「だけど、別人だぞ」
「……そんなことは分かっている。でも、放っておけない。今回だって、僕がオヤジに直訴したんだ。『サーシャも逃してやってくれないか』と」
「良いヤツだな、オマエ。やはり自分を愛してくれる家族は大事だよ」
「……そうだな」
サーシャはリオに促され、近くのベンチに座る。後ろには海が広がり、海岸のビーチにはヒトが大量に集まっていた。楽しそうな声が聴こえる。
そんな風景を背後に、サーシャとリオは束の間ボーッとする。普段からやたらと忙しいため、こういう時間は案外貴重だ。
「あーあ。海水浴したいなぁ」
「……そのうち行こう」
「お、珍しく乗り気じゃないか。良いね━━」
サーシャが言いかけた瞬間、黒塗りのセダンがこちらに向かって突撃してきた。




