026 サウスAsへの道中で
電話越しのリオはしばし黙った。きっと、赤面しているに違いない。
『……こんなときでも冗談言えるなんて、たいしたヤツだよ』
「ジョークでもないけどな」
『……もう良い。そっちに迎えの車を出す』
「へいへい」
リオがガラを交わすほどの相手だ。おそらく、サーシャでも勝てないと踏んだのだろう。あるいは、仮に勝てたところで意味がないと思ったか。いずれにせよ、逃避行は確定事項である。
「さて、ビールとシリアルってうまいんだよな~」
とんでもゲテモノ料理を作り、サーシャは不健康の極みの朝食を流し込む。
が、8歳になったことが災いしているのか、ビールがとにかくまずい。とても食べられない、とサーシャはゴミ箱にそれを捨てる。
「ピザで良いか」
冷凍ピザを温め、サーシャは欲望のままアメリカ式ピザを食べる。しかし、こちらも2切れ食べただけで腹いっぱいになってしまった。どうも、幼女の身体は慣れないものだ。
「ッたく……。あのクソ天使もどき、いつかぶち殺してやる」
サーシャにこんなデバフをかけやがった、あの白髮の女をふと思い出す。もしあのときの身体でこの世界に来られたのなら、朝飯で苦労することもなかっただろうに。
とかやり場のない苛立ちを覚えていると、インターホンが鳴った。そこへは当然ながら、リオがいる。
「よう」
『……オマエ、顔真っ赤だけど大丈夫?』
「あぁ。シリアルにビールぶっかけたら、思ったより酔っ払っちまってさ」
『……どういう朝飯だよ。まぁ良い。近くに車停めてあるから、着いてこい』
サーシャはいつだかもらったモコモコパーカーにホットパンツという、相変わらずラブな格好で外に出た。
「全く、忙しい日々だと思わないか? リオ」
「……今に始まったことでもない。オマエが現れてから、忙しくなったのは否めないけど」
「そりゃあ、私はトリック・スターだからな」
「……そうかもね。オマエのおかげでサクラ・ファミリーは壊滅状態。アニキが連中から離脱するヤツらを、続々勧誘して回っている。一方、政府側は本気で僕とオマエ、そしてオヤジやファミリーの構成員壊滅に乗り出している。まさしくトリック・スターだよ」
「だろ? さて、行こうぜ」
「……あぁ」
サーシャとリオは、数ブロック先に停車していた車に乗り込む。
「リオ、親分の兄妹分が用意した家に送れば良いんだよな?」
「……あぁ。マルガレーテさんは信用できる。オヤジの兄妹分を信じないわけにはいかないし」
「裏道を適当に回りながら行くからな。少し時間がかかるけど、勘弁してくれな」
「……ジョン・プレイヤーと接触しなくて良いのなら、それで良い」リオは大あくびした。「……悪いけど、僕は寝不足だ。眠らせてもらう。なにかあったら起こしてくれ」
「あいよ」
車が動き出した。サーシャは寝息を立てるリオに、いつも通りの冗談を飛ばすわけにもいかないので、運転手になんとなく気になっていたことを聞いてみる。
「ねぇ、運転手さん。リオは自分の父親をぶち殺したんだよね?」
「あぁ。血まみれの44マグナム持って、行く宛もなく街をぶらついてたな」
「でも、リオは10歳でしょ? クール・ファミリーの金庫番を務められるほど、有望で有能なの?」
「ホントはヒットマンにする予定だったらしいけど、親分は案外子どもに優しいからな。それに……」
「それに?」
「3年くらい前、クール・ファミリーは壊滅状態に陥ったんだ」
「壊滅? あのクールさんがいて?」
「親分は確かに強ぇし、ポールのアニキも馬鹿みてぇに強ぇ。だが、セブン・スターズどもが3人がかりでウチを滅ぼそうとしたんだよ」
「3人も」
「クレーバー。カルティエ、そして……ジョン・プレイヤーの3人だな。あの事件の所為で大量の死傷者と逮捕者を出したウチは、しばらく立ち直れなかった」




