021 姉救出作戦
サーシャは上着だけ羽織って、姉救出へと向かおうとした。
そのとき、バイプ音が鳴り響いた。サーシャはチラッと横を見て、それが姉リンのスマホだと確認する。非通知になっている時点で、サクラ・ファミリーとやらが絡んでいるのか。
「やぁ」
『テメェ、キラー・クイーンか?』
「そうらしいよ」適当な態度だ。
『テメェの姉の身柄は預かった。交換条件は、テメェそのものだ。今すぐ事務所へ来い。テメェを警察に差し出したら、姉を解放してやる』
「あぁ、そういうこと。リンお姉ちゃんは別のところにいるってわけ?」
『あァ?』
「今からアンタらの事務所行こうと思っていたんだ。けどなぁ、リンお姉ちゃんがそこにいないなら意味ないね。私も無用な殺生したくないしさ」
『……おい、ふざけてるのか?』
「ふざけているのはどっちだよ。アンタら、私と闘うのが怖くて人質取ったんだろ? だっせぇな」
『分かった、分かった。テメェのアネキで屍姦してやるよ』
「ネクロフィリアとは趣味が悪いね。全く、8歳のガキ相手になにムキになっているんだか」
電話が切られた。サーシャは肺がしぼむほど溜め息をつき、これからの展望を考える。
「事務所に特攻して皆殺しにしても、リンは殺されるだろうな。うーむ。汚ねぇ真似しやがる。機械の魔法を使えるヤツがいれば……ん?」
サーシャは自身のスマホ━━クールから与えられたそれで、リオへ電話をかけ始めた。
『……だから、アニキの出所パーティーだって』
「なら、そのアニキに変われ。相棒」
『……分かったよ。ポールのアニキ、オヤジが話していたサーシャってヤツです』
リオは渋々、ポールとサーシャをつなげた。
「始めまして。といっても、もう挨拶している余裕もないんですよ」
『なんの用件だ? こっちは寿司食ってシャンパンファイトしてるのに』
「リオを貸してください」
『あ?』
「それだけで良いんです。リオさえいれば、あとは勝手に解決するし……なんならサクラ・ファミリーにかなりの打撃を与えられるかと」
『オメェとリオがサクラ・ファミリーと抗争するのか? ハッ、ふたりで組織に真っ向から立ち向かえるのかね』ポールはシャンパンファイトしているとは思えない明瞭な口調で言う。『良いか? 連中は準構成員を含めて4000人だ。ふたりでなにができるっていうんだ?』
「別に喧嘩のケツ持ってくれ、と頼んでいるわけじゃないです。ただリオに外部的な協力をしてもらえれば良い」
『……ヘッ、面白れぇガキだな。親分が気にいるのも分かるぜ。分かったよ。リオをそちらに向かわせる。当然、おれらは全く関与しねぇからな』
「ありがとうございます」
電話を切り、サーシャは姉のスマホを握ってリオを待つ。
それから数分後、リオがやってきた。しかしインターホン越しには、なぜか巨漢がいた。
「誰です?」
『ポールだ。リオをここまで運んだ。んじゃ、あとは好きにしろ』
「どうも」
サーシャはリオを家に向かい入れて、即座に姉のスマホを彼に渡した。
「サクラ・ファミリーの三下が、非通知で電話かけてきやがった。逆探知してくれ。コイツから辿れば、芋づる式で姉がどこにいるか分かる」
「……了解」
「気が散るなら黙っておくが、きょうはポールさんの出所パーティーなんだろ? なんで張本人がオマエを連れてきたんだよ?」
「……ポールのアニキは、空間転移の祝福を受けている。一刻を争う事態なのは、アニキも理解してくれている」
「なるほど。良いアニキ分だな」
「……きょう初めて会ったけど、あのヒトの魔力は評判どおり凄まじい。〝悪魔の片鱗〟の達人だっていうのも、頷ける」
「悪魔の片鱗?」
サーシャは、カルティエと闘ったときのことを思い出す。




