015 キラー・クイーン、ノースAsに降り立つ
どうやら、サーシャは巷で〝キラー・クイーン〟と呼ばれ始めているらしい。
殺しの女王? 殺人は極力控えるようにしているのに、ひどい言われようだと思う。
とはいえ、クール・ファミリーに肩入れし、ネクサス・ファミリーという敵対組織の取引を次々台無しにしていったのも事実。いよいよ連中も、〝見た目は〟8歳児のサーシャが普通ではないことに気が付いたのであろう。
まぁ、気が付かれたところでなにか支障が出るわけでもないが。
「髪の毛、伸びたなぁ~」
ツヤのある金髪が、目元を隠すくらいに伸びてしまった。シャワーの際に髪を洗うのが面倒なのは、もはやロングヘアを通り越した長髪の所為だ。
「切ってきたら? アンタ、無頓着すぎ」
洗濯物を畳んでいる、最近それとなく名前を聞いた姉リンは、いつまで経っても髪の毛を切ろうとしないサーシャに呆れているようだった。
「そうだね。リンお姉ちゃんの言う通りだよ。切ってくるか~」
「裏社会の薄汚れたお金でね」リンは嫌味を言う。
「そんな言い方もないでしょ。この見た目でお金稼ぎなんて、売春と裏稼業くらいしかないんだからさ」
「アンタ、変わったね」
「なにが?」
「〝祝福〟を受けてから、アンタは目つきも変わった。いつでも獲物に飢えてる獣みたいな目つきしてる」
「なら、祝福がいけなかったと? それしか手段がなかったのに?」サーシャは姉に向き直す。「大丈夫。これでも、自分の制御方法くらい理解している。そして殺されることもない、ってここで約束する。お姉ちゃんは安心して、家のことをやっていれば良い」
「……、」リンはサーシャを睨む。
サーシャは意にも介さない。「んじゃ、私は髪切ってくる」
相変わらず小汚い街、相も変わらぬ発砲音、薬物依存者、空気の質が悪すぎて見えない太陽。こんなところに暮らしていたら、いつかうつ病になってしまう。
というわけで、
(たまには、イーストAsから出てみようかな)
考えてみると、仕事や普段の生活をしている中で、サーシャは一度もイーストAsから出たことがない。この〝アンゲルス連邦共和国〟は、東西南北の4大都市に〝アーサー・シティ〟という首都で構成されている。なら、たまにはノースAsに向かってみよう。
そう思ったサーシャはスマホでタクシーを呼び、到着した途端「ノースAsの……運転手さんおすすめの美容院まで」と無茶振りした。
「そもそもお嬢ちゃん、お金あるのかい? ここからノースAsとなれば、200メニーは必要だよ」
「はい」サーシャは100メニー札を3枚、運転手に渡す。
「イーストAsの住民とは思えないねぇ……。まぁ良いや。美容院まで案内するよ」
「お願いします~」
*
ぴったり200メニーで、サーシャはノースAsに足を踏み入れた。とりあえずチップ代わりに100メニー札を渡して、サーシャは摩天楼の建ち並ぶ街を一瞥する。
(良い街だ。ニューヨークみてぇだな)
発展した街並みに、少し感動を覚える。空気もそれなりに澄んでいて、太陽が見えるほどだ。
またイーストAsには教会はひとつしかなかったが、ここには目視できる範囲で3つはある。異能力を授けてくれて、ありがたい説法を解いてくれる教会も、結局ヒトが訪れなければ意味がない。そう考えると、明らかに人口密度の高いノースAs市にそれなりの教会が設置されているのも妥当だろう。
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