014 僕らの掲げた夢
サーシャは怒号を、しかし嗚咽のように叫んだ。
『……おい、もうズラがるぞ。殺られたのか?』
インカムの向こうから、リオが怪訝そうな声色で尋ねてくる。サーシャはハッと冷静さを取り戻し、首から下を氷漬けにされた連中の横を通って去っていくのだった。
*
「汚れ仕事、ご苦労」
クール・ファミリーの事務所に戻ってきたサーシャとリオは、ソファにもたれていた。クールはふんぞり返りながら、葉巻をくわえる。
「オマエらのおかげで、近けぇうちにあの馬鹿社長の会社の株価は暴落する。これで、ポーちゃんへの保釈金が支払えるし、オマエらも相応の報酬を受け取れる」
リオが尋ねる。「……ポールのアニキが帰ってこられるんですか?」
「あぁ。保釈金は200万メニーだが、あのポーちゃんが帰ってくるんだ。これでネクサス・ファミリーのゴミ箱どもとまともにやり合える」
「相当の利益が出るようですね」サーシャは立ち上がる。「んじゃ、私は帰ります。姉が待っているし、もう夜中なので」
そもそも、クール・ファミリーとネクサス・ファミリーの抗争なんて知ったことでもない。
もっとも、今はクールたちに協力しているため、おそらく喧嘩にも巻き込まれるだろうが、それでもサーシャにとって一番大切なのはカネだ。カネがなければ、なにも掴めない。
「おう、気を付けて帰れよ」
サーシャは手をひらひらと上げ、事務所から去っていく。
(カネさえあれば、姉を守れる。たとえ前後の記憶のない家族だろうと、家族は家族だ。……あのクソ女がどんな『弱体化』を与えようが 、この〝ルール・オブ・ロー〟 と前世の経験があれば、このクソみたいな世界でも余裕で生きていける)
事務所の古びた階段を、小さな足でトントンと降りていく。 イーストAsの冷たい夜気が、戦闘で火照ったサーシャの頬を撫でた。
(それにしても……)
ふと、あの護衛の命乞いが脳裏をよぎる。 『子どもが生まれたばかりなんだ!!』 それを聞いた瞬間、自分でも抑えきれないほどの怒りが込み上げたのだ。
(クズが親になるんじゃねぇよ) 自分の父親もそうだった。 (〝おれ〟が守ったガキは、いつか国を救う英雄になる、か) あの白い髪の女の言葉を思い出す。 (英雄だろうがクズだろうが、親に恵まれなきゃロクなことにならねぇ)
サーシャは、夜空を見上げた。この街の空は、スモッグで星ひとつ見えない。 「……早く帰るか」 姉が待っている。か弱いが、必死に家を守ろうとしている姉が。
その時、事務所のビルからもう一つの小さな影が出てきた。
「……夜道は危ない」
リオだった。彼はサーシャを見ると、それだけ呟いて隣に並び歩き始めた。
「なんだよ、案外優しいところあるな」サーシャはからかうように言う。
「オヤジが……クールのオヤジが、昔こうやって僕を家まで送ってくれた」
リオは、相変わらず感情の読めない赤い瞳で、前を見据えたまま答えた。
「オマエにとっての父親は、クールさんなんだな」
「……そうだ。僕のオヤジはクールさんだけだ」リオはポツリと呟く。「……オマエがさっき、インカム越しにあんなにキレていた理由も分かる。……僕の実の父親は、僕の大好きだった妹を強姦した。だから殺してやった」
「腐れ外道だな。あの世で焼かれていれば良いが」
「……なぁ、〝サーシャ〟」
「ん?」
「……僕とサーシャならきっと、最高の相棒になれる」
それだけ言うと、リオは再び口を閉ざした。
「最高の相棒、ね」
サーシャは、ニヤッと口角を上げ、リオの背中を軽く叩く。
「なぁ、リオ。オマエの夢は?」
「……オヤジの望む世界を築くこと」
「なら私は、オマエと付き合うことにしておこうかね」
そうサーシャはおどけ、リオが顔を赤く染め上げるのを面白がるのだった。
第一幕、キリが良いんでおしまいです。
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