011 ダクトの中へ
サーシャは、クールの説明を聞き終えると、その愛らしい幼女の顔に不敵な笑みを浮かべた。
「ステルス・ミッションか。楽しそうだね」
「……どうだか」
隣に立つリオは、相変わらずの無表情。少しくらい表情をつけてほしいものである。
ただ、その情熱のバラのような赤い瞳は、真剣な光を通して揺れていた。
「クールさん、機材は?」サーシャが指を一本立てる。「撮ってこい、ってことは機材がなきゃできないですよ?」
「おうよ。しっかり用意してある」
クールはデスクの引き出しから、ペン型の小型カメラと、耳に装着するインカムをふたつずつ取り出した。
「最新式だ。画質も申し分ねぇ。こいつでバッチリ撮ってこい。リオはこういうメカにも強い」
リオが黙ってそれを受け取り、無言で一つをサーシャに差し出す。その白く細い指先が、サーシャの小さな手のひらに軽く触れた。
「……使い方は分かるか?」
「馬鹿にするなよ。ここ押せば写真が撮れるんだろ?」サーシャはペンの上部を押す。「クールさん、現像できました?」
「あぁ。それにしても、おれってかっけぇな」
「ナルシストでもなきゃ、この業界じゃ生き残れないですよね」サーシャは冗談に皮肉で返した。「で、そのクラブの場所は? 車なんて使ったら目立っちゃうし、できれば近場だとありがたいですね」
「ここから数ブロック先だよ。会員制の高級クラブ。カネさえ払えば、殺害以外だったらなにしても良い無法地帯だ」
「なるほど、反吐が出ますね」
リオは言う。「……クラブの名前はエデン。裏口にダクトがあって、僕たちの身体なら侵入できる。全体の地図なら、もう手にしてある」
「さすが」サーシャは指を鳴らす。「よし、レッツラゴーの時間だ。けど、どうせ護衛どもも〝祝福〟受けているんだろ? 最悪ドンパチしなきゃいけないな」
その言葉を聞き、クールはデスクから拳銃を取り出す。
「念入れで、44マグナム持たせておくぞ。オマエらの腕じゃ、反動で吹き飛ぶかもだけど」
「慣れているので、大丈夫ですよ。クールさん」
「……同じくです」
「よし、行って来い。もうすでにライバル社の株式は購入してある。その中から報酬を支払う。良いな?」
「ラジャー」
「……承知です」
*
夜の闇に紛れ、サーシャたちは歩いて『エデン』の裏口に詰め寄った。けばけばしいネオンのが、イーストAsの汚れた空気を照らしている。表通りからは、重低音のビートと嬌声が漏れ聞こえている。宗教国家、という割には随分遊びほけているようだった。
「……ここだ」
「くっせぇ路地裏だな。なぁ、リオ。身体嗅がせてくれないか? オマエ、良い匂いするからさ」
「……どのみちダクト通るのだから、匂いなんて気にしていられない」
「残念だ」
周囲を警戒しつつ、どこか緊張感のないサーシャを見て、リオは溜め息混じりだった。
「……あそこだ」
「ハッ、あそこに登るのかい? お姫様抱っこして運んでくれるなら、考えてやるよ」
「……いい加減ふざけるな」
「へいへい……。冗談の通じねぇヤツだな」サーシャは〝ルール・オブ・ローを使い、自分とリオの重力を少し反転させる。「空の上で泳ぐ準備はできているかい?」
リオは身体が浮く感覚にやや戸惑っている様子だが、すぐに慣れたのかダクトの上に自身の身体をねじ込めた。
「……便利な能力だな」
「だろ? なんせ、法則を変えられるんだぜ」
「……僕は〝腕力〟を強化できるけどね」
「良い能力じゃねぇか。さて……」
ここからが本番だ。サーシャとリオは声を極力ひそめ、ダクトを進んでいく。




