010 魔性の少女
「知っているよ。たとえば、企業のトップの不正を暴くとか。そうだな……私なら、ロリコンのCEOに詰め寄って、それをマスコミに垂れ込むね。そうすりゃ、ライバル企業の株価が高騰する。ただし不祥事を起こす前に、ライバルの株を買いまくる必要がある」
サーシャの見た目は、小児愛者であれば誰でも魅力的に感じる幼女。ならばその見た目を活かさない手はない。
「……概ね合っているが、今回株価を暴落させる企業のCEOはロリコンではない。もっとも、女を買い漁っているのには変わりないが」
「へー。ちなみに、なんの企業?」
「……女性向けアパレルブランド会社だ。もしもそんな会社のトップが女をいたぶる性癖を持っている、と知られれば、確実に株価は暴落する」
「なるほど。でもリオ。その前に家へ荷物を置いておきたい。着いてきてくれないか?」
「……隠れ家がバレないように注意していると思ったが?」
「オマエがチンコロするわけないと信じている。だいたい、コンビを組むなら信頼関係が必要だろう?」
「……分かった。ついていこう」
サーシャとリオは、反対側の道を歩いて少女と姉の暮らす家にたどり着く。
「……ここか」
「あぁ。荷物返してくれ」
「……待っているぞ」
サーシャは重たい買い物袋を持って、欧州の島国らしいレンガ造りの家へ入った。
「……デート、か」
なぜ、リオがそんなことを呟いたのか。それはリオにも分からなかった。
*
「よう」
サーシャはTシャツにホットパンツというラフな格好のまま、すぐ出てきた。
「……寒くないのか?」
「寒いよ。温めてほしいくらいに」
「……なら上着を羽織れば良いじゃないか」
「なに悲しいこと言っているんだ。くっつけば良いんだよ」
そう言い、サーシャはリオの身体にべったりとくっついた。柔軟剤とシャンプー、そしてフェロモンのような匂いがリオの鼻に通っていく。
「……なんの真似だ?」
「嫌か?」
「……好きにすれば良い」
(なんだ、結構子どもっぽいところあるじゃねぇか)
不健康な白い肌を赤く染め、リオはサーシャから顔を逸らしていた。照れているのは間違いない。
「……迎えの車を近くに用意した。そこで上着を羽織れ」
「なんだよ。オマエとハグしても良いくらいなのに」
「……、」口をモゴモゴ動かし、されどなにも発しなかった。
そのままサーシャはリオから離れず、500メートルくらい離れた場所に停車していたワンボックスカーに乗った。
「おぉ、温かそう」
モコモコのジャケットを羽織って、サーシャは後部座席に座る。隣には当然リオがいて、運転手はふたりが乗ったのを確認し車を動かした。
運転手がバックミラー越しにニヤついていた。「リオ、良かったな。可愛いガール・フレンドができて」
「……うるさい」
「オマエ、殺し以外に興味のねぇ殺人鬼だと思ってたから、おれぁちょっと嬉しいぜ」
「……僕だってヒトだ。親を殺したから、この道に進んだだけで」
「なら、余計に良かったじゃねぇか」
ゲラゲラ笑う運転手に、リオは露骨に不機嫌そうな表情になるのだった。
クール・ファミリーの事務所へは、そんなに距離があるわけではない。精々2~3キロ程度だ。車なら、ものの10分程度でたどり着ける。
「さて、仕事だ。姉が心配するから、早く片付けよう」
「……呑気だな」
「サディストが女凌辱しているシーンを撮れば良いんだろ? 楽な仕事には違いない」
「……果たして、そう簡単に進むか」
事務所の階段を登り、サーシャは数日振りにクールとの面会を果たす。
「よー、サーシャ」
「やぁ、クールさん」
「リオからある程度聞いてるだろ? アパレル会社のアホ社長の痴態を撮ってきてくれ。だが、あのSMマニアは馬鹿騒ぎがバレねぇように相当な護衛を配置してる。それにオメェらはガキだから、そもそもSMクラブに入れねぇだろうな。なんで、要するにステルス・ミッションだ。小さい身体使って、屋根裏から写真撮ってきてくれ」




