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キツネ転生者と騎士王子が世界を救う冒険物語  作者: 森野魚
第1章「始まりのセファルス大国」
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08 五人組には絶対苦労人が一人いる

今回はイル視点の話です。

 肌寒くなって目が覚めたら、ああ、俺は森の中で寝ていたのだったと思い出した。硬い地面に毛布1枚を敷いただけでは無意味だったみたいで、体がバキバキだ。

 寝起きの頭に追いついてくる記憶を整理している間にロウルの声が聞こえてくる。アイツは今見張り中か。


 独り言を言うような奴じゃねえんだけどな…あ、思い出した。そうだった。奇妙な魔物がいるんだった。


 ロウルは昔から優しかった。腐った奴しかいないあの町で人生の全てを過ごしたとは思えないほどに。

 アイツは知らない。アイツが心の底から慕っている『お頭』でさえもクズだったことを。そして、知らないままでいい。


 優しいアイツは、己よりも弱いものに対して一等優しいのを知っている。普段は盗賊団の「親方」らしく荒い男のように振る舞っているが、子供を見る目はいつも柔らかい。だから、エニスやフィンを放っておけなかったのだろう。今回だってそうだ。小さく幼い魔物を目にして殺すのをやめた。俺達が先に()らなければ、俺達が()られるのが常識である盗賊団の社会では致命的な判断だ。


 しかし、アイツの優しさが窮地に追い込まれた俺達を救った。


 正直に言って、ロウルは裏社会で生きる者としては甘すぎる。それでも、アイツに付いて行くと決断したあの日を一生後悔することはない。


 あの腐敗しきった国で見つけた唯一の親友。


 そんな彼の覚悟を聞いてしまった俺はどう反応していいのかがわからなかった。


「俺を親方と呼んでここまで付いてきたアイツらには、、絶対生きてここから出て欲しいんだ。そして、今度こそ俺は死んででもコイツらを守り抜いてやる。これは誓いだ」


 聞いたことがないような強く決意がこもったロウルの声が聞こえた時、今すぐ飛び上がってアイツの胸ぐらを掴み「ふざけんな」と怒鳴りたい衝動を抑えた。


 いつも優しく、人生をどこか楽観視しているロウルの俺達の「親方」としての決意を一生聞きたくなかった。アイツにこんなことを言わせるまでのこの状況が憎い。


 アイツが死んででも俺達を守ると勝手に誓うのなら、彼の誓いを聞いて()()()()()俺がアイツを絶対に死なせなどしない。


 冷ややかに滾る思いを心の奥底に押し込んで、今目が覚めたかのように上体を起こした。すると、俺が起き上がったのを確認したロウルが立ち上がったのが見えた。その際に彼の膝からずり落ちた小さな毛玉はやはりあの魔物だった。


 ロウルに文句を言っているかのように鳴いていた魔物だが、ロウルに軽くいなされたことに不貞腐れたのか茂みの方に歩いて行った。


「おはよう。寝れたか?」

「背中が痛い」

「ははっ!寝れたみてぇだな」

「…見張り中考えていたのだが、このセファルス大国の『()()』であの魔物のチビと昨日()ったルウモス以外に魔物に遭遇していないのが逆に心配だ」

「確かにな…まぁ、俺達の運が頗る良いだけかもしれねぇぞ?」

「そうであって欲しいがな…」

「そろそろドリスとガキ共も起こすか?」

「ああ。起こしたら昨日残した魚を食ってから出発しよう」


 寝ていた3人を起こし、昨日焼いて食べずに布に包んで残しておいた魚を皆で食べる。無言で食べていれば途中でフィンがチビの魔物がいないことに気付き、どこにいるのかを聞いてきたので最後にアレの姿を見た茂みの方を指差した。自分の魚をあげるつもりなのか、フィンは魚を手に立ち上がり茂みの方に駆け出して行った。走ったのだ。足を弓矢で撃ち抜かれたフィンが。


「まっ、」


 待てと言い終わる前に行ってしまった。


 どういうことだ?


 確かに昨日フィンは右足の脹脛を怪我して歩けなくなっていた。出血と疲労により意識を失い、ドリスが彼を背に抱えて移動していた。

 薬がなかったので傷口を水で洗って布を巻いただけだ。昨日今日で走れるほどに治るはずがない。


 無理をして走ったのか?それとも…まさか、本当に怪我が治ったのか?


 考えているとフィンが走り去った際に持っていたのと見た目が変わっていない魚を片手にドボドボと帰ってきた。


「森のものはベリーみたいなのを食べていて、魚には見向きもしませんでした…」

「そんなことよりも、フィン、痛くないのか?」

「え?」

「お前足怪我してるのに今走ってたろ!」

「え!!あ、そういえば、、」

「痛くねえので?」

「痛くないです、、足が全然痛くない」


 怪我をした足の箇所を擦るフィンの目は驚きに見開かれている。エニスが身を乗り出し、フィンを座らせてから彼の足に巻かれている布を外した。エニスが息を呑む音がしたので、急いでフィンの傷を覗き込んだ。そこには、傷が塞ぎ切って僅かに盛り上がった皮膚だけが残っていた。粘りけのある血や膿は出ていないし、瘡蓋も出来ていない。


「これは…どういうことっすか?昨日の夜、水で洗った時は血がまだ出てたっす。皮膚もぐちゃぐちゃでしたっすよ」

「心当たりはあるか?」

「ないです…俺もなんでこんなに綺麗に治っているのかがわからないです、昨日はあれほど痛かったのに」

「…もしかして、魔素を吸収したのか?」

「なんでいそれは?」


 心の中で言ったつもりだったが、口に出ていたみたいだ。まだ、フィンの異様に早い怪我の治りの原因はわからないが、もしもフィンが魔素を何らかの方法で吸収したのであれば説明も付く。


「魔素は魔力を作るための資源であり、空気中にあると言われている。しかし、魔素が特に濃く集まるエリアがあり、理由はわかっていないが、それは魔物が多く生息している場所であると言われている。そして、人は普通魔素を吸収しない」

「じゃあ、」

「ただ、例外は存在する。それが魔術師だ。魔素を吸収した生命体は、魔力を粘ることができるようになり、魔術を使えるようになる」


 俺がそう言い終わった後、沈黙が落ちた。


 魔術師になれる人間は滅多に存在しない。

 1国に5人いれば多い方だ。

 それもそのはず、普通の人はどれほど努力をしても、生まれ持った素質がなければ魔術師にはなれないのだ。

 その素質とは魔素を吸収すること。

 そして、稀少な魔術師の才能を持って生まれた人は国に保護や支援をされる。

 このように言えば、魔術師の才能を持った者の待遇は良いように聞こえるが、俺達がいたテムテ小国の魔術師の扱いは酷いものだった。


 現在のテムテ小国には魔術師が1人もいない。その理由は、数年前に魔術師の才能を持った6歳の男児を監禁して死なせたからだ。死因は自殺だったらしい。

 国は魔術師の才能を持って生まれた子がいると知ってすぐにその子を両親から取り上げて施設に閉じ込め、毎日気を失うまで魔素を吸収させて魔力を粘る特訓を繰り返させたと聞いた。そりゃいくら6歳の子供と言えど、気が狂って自殺してしまう訳だ。


 魔術師は国の財産であり、大きな兵力でもある。魔術師1人だけで歩兵500人に指摘するらしい。そのため、魔術師をより多く抱えている国の方が戦争において有利であるため、どの国も魔術師の育成には力を入れていると聞く。テムテが国唯一の魔術師の卵を死なせたことを知った国民は怒り、再度国に失望した。


 当然このことを知っているフィンは顔を青くして唇を震わせている。周りの皆も顔が曇っている。

 もしもフィンのことがテムテにバレたら…


「っ!何だ?!あっ、あなたでしたか…」


 フィンが突然沈黙を破り飛び上がったかと思えば、いつの間にか近づいていたあの魔物がフィンの手の甲の上に赤い粒達を置いたみたいだ。魔物が食べていたベリーなのだろう。


「俺にくれるんですか?あ、ありがとうございます」


 少し戸惑いながらフィンがベリーを口にしたのを見ていたらある憶測が浮かび、思わず叫んだ。


「それだ!!フィン、お前、ここの食べ物から魔素を吸収してるんじゃないか?」

「へ?」


 指で摘み上げた小さな赤いベリーのような果実をフィンがまじまじと見つめた。


「俺達が今いるこの大森林は魔物が多く生息していることで有名で、ここは魔素が濃く集まっている場所のはずだ。そして、そんな環境の中で育った魔物が普通のよりも強い。もしも、それが魔素を沢山吸収しているからだとしたら、この地で育った植物や果実なども普通の物よりも多くの魔素を吸収しているはずだ。それらを食ったフィンの体は大量の魔素を吸収し、無意識に魔力を粘って自身の怪我を治したのかもしれない」

「…有り得なくはねぇな」

「イルさんがそう言うのなら、そうなんだと思います。俺は魔素を吸収している…」


 イルは指の間に挟んでいるベリーを転がした。先ほどよりも顔色が良くなっている。


「本当のことはわからねぇが、とにかくフィンの怪我が治ってて良かったぜ」

「俺もそう思うっすよ!フィンの素質については森を出てからいくらでも考える時間があるっすよ!」

「そうだね!ドリスさん、昨日は抱えてもらってありがとうございました」

「あい。治っで良かったでい。また痛くなっだら言うんだで、いつでも抱えてやる」

「ありがとうございます!」

「よしっ!話もついたし、皆食い終わってる!そろそろ出発するから準備してこい」

「「あいあい!」」


 そうだな。フィンのことも気になるが、まずはこの森を無事に出ることだ。


 早くここを出て、俺達はこれからどうするべきかを皆でゆっくりと話し合いたい。




第1章8話を読んでいただき、ありがとうございます!


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