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キツネ転生者と騎士王子が世界を救う冒険物語  作者: 森野魚
第1章「始まりのセファルス大国」
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07 男の決意を聞き届けるのは焚き火が灰になった夜明けに

 キラキラ輝く道筋に沿って進んだところ川に辿り着いた。


 さっきから様々なものが輝き始めるこの奇妙な現象は僕だけにしか見えていないみたいだ。親方達は僕を探して追いかけていたみたいで、空中に浮いて見える妖精の粉みたいなのが見えていたわけではなさそうだ。


 もしかして、僕は何か特別な能力でも持っているのか?


 アニメのキャラは特殊能力を持っている者が多い。もしかしたら、この世界にはアニメのキャラみたいに特殊な能力を持つ者が存在して、僕がその1人なのかもしない。


 そうでなければ、先程から起きていることに説明がつかない。


 それにしても、僕に都合が良い能力でよかった。僕が望むものに対して良い選択肢をキラキラ輝かせて示してくれる力みたいだ。僕がお腹が空いたと思えば、美味しい果物を示してくれた。また、水場に行きたいと思った時、この川までの道を示してくれた。

 力の詳しい内容はまだわからないが、とても便利だということはわかる。しかし、僕の力は何がきっかけで発動をするのかが知りたいところだ。


 1人でつらつらと思考の海に沈んでいたら、僕の後ろにいた親方達が川に近づいていく動きにより現実に引き戻された。


「川っすよ、親方!!」

「やっど水をいっばい飲める」

「本当に川だ…」


 目の前の光景に呆然としていたイルは川に走っていくドリスに気付き、ハッと意識を取り戻した。


「おいエニス、フィンの傷口を洗うのを手伝ってやれ」

「1人でできるので大丈夫ですよ!」

「あい!足出せ、フィン!洗うの手伝うぜ!」


 遠慮をするフィンと手伝う気満々のエニスの攻防を眺めていたら、僕の横に泥だらけの靴が並んだ。上を向いたら親方が喜びに満ちた顔で僕のことを見ていた。笑顔が微妙に似合わない彼が笑うとヤンチャな若造みたいになり、やはり少しだけ怖い。彼が何かを言おうとして思い直したのか急に表情を引き締めた。イルは親方が何をしようとしているのかがわかったのか、僕達に近づいてきた。


 2人は真剣な表情で僕の方を向き、ゆっくりとした動作で自身の右手を左肩に置いて目を閉じた。


「俺達を川まで案内してくれてありがとう」

「俺からも感謝する」


 なるほど、これがこの世界のお礼の仕草みたいだ。「コン!」とひと鳴きしたら2人は目を開けて異なる表情で僕を見つめた。親方は楽しそうに、イルは初めて会った時よりも断然と優しい顔をしている気がする。


「イルさーん!フィンの傷洗ったっすよ!ていうか、ここの水めっちゃ綺麗っす!魚もいるっすよ!そんな遠くに立ってないでこっち来てくださいよ!」

「おう、今行く!」


 僕も親方とイルと共に川辺で各々好きに行動をしている3人に近づいて行った。フィンは大きめの石の上に座り、汚れた布が脚から取り外されていた。彼の横には先程僕達に元気よく手を振ってくれていたエニスが立っており、ドリスは土下座の格好で顔だけを川の水に突っ込んでいた。


「もうすぐ夜になる。とにかく今夜はここで休もう」

「そうだな。魚でも捕まえて食うか!」

「それだったら、親方、ドリスとエニスが魚を捕まえて、俺が火の準備をするからフィンは俺を手伝ってくれ」

「あい!」


 イルの指示を聞いた皆は各自の仕事をしに移動し始めた。ドリス以外は。彼は未だ川に顔を突っ込んだままだ。


 というか長くない???これ息出来てんの??

 え、、溺れてないよね??


 周りを見渡しても誰もドリスの様子に気づいていないみたいだ。


 ヤバいヤバい。これ絶対溺れちゃってるよ!!!


 焦った僕は急いでドリスの元に走り大きくジャンプをした。無計画で溺れている人の救助に挑んだ僕は彼の頭を横から勢いよく体当たりしてしまった。そして、当たった衝撃で僕は川に落ちた。


 幸い瀬の所だったので、足が水に浸かり、お腹が濡れただけだ。


「んぇ?なんでい今のは?」


 ビチャビチャに濡れている顔を上げたドリスが辺りを不思議そうに見渡している途中で川の中にいる僕と目が合った。


「ん?オレは魚でないでよ?」


 知ってるわ!!


 お前が溺れてるから助けてやったんだよ!


 首を傾げる大男にコンコンと訴えていたら、近くからぐぐもった笑い声が聞こえてきた。声の主を探すために振り返ったら、親方がうつむきながら片手で口を押さえ肩を震わしていた。


 何笑ってやがる!!


 親方の近くに寄りたいが、彼が立っている場所までは泳いでいかないといけない。


「お前が溺れてるとでも思ったんじゃねぇか?それにしても、よく飛んだな」


 親方のニヤニヤとした口元が片手から見え隠れしているのが腹立たしい。


 僕は本気で心配したのに!


「オレは溺れてないでよ?」

「俺達はお前の体について知ってるが、コイツは知らねぇじゃねぇか」

「そうだで。オレは体がデケエから肺もデケエんでよ、普通の奴よりも長く息が止められるんでい」


 なるほど。とんでもないな、こんなところにシンクロナイズドスイミングの適材がいたなんて。


「オレを助けようとしてくれだのでい?ありがどうけどオレは大丈夫でい」

「まあ、森の、コイツを蹴って正解だよ。ドリス、お前も魚捕まえるの手伝えよ」

「あい」


 のそりと立ち上がり川の中に入って行くドリスはカバのようだった。膝を濡らしながら前に進むドリスを見ていたら、離れた場所からエニスが大声を上げながら両手を水から出した。


「捕まえた!魚捕まえたっすよ!」

「おお!うまそうでい!オレはもっとデケエ魚を捕まえるでよ!」

「じゃあ、誰が1番デカい魚を捕まえれるか勝負っすね!あ、親方も参加っすよ!」

「…お前も参加してみるか?」


 親方がそう僕に聞いてきたが、僕の体は毛が多いのでこれ以上濡れたらヤバい。自然乾燥ではこの毛量は乾かしきれない。


 首を横に振り、陸地に向かった。川から上がったところで片方の前足をプルルっと振り、出来るだけ水を落とそうと試みた。交互に足を振り終えたら体が若干軽くなった気がした。


 焚き火担当の2人は落ち葉や枝を1箇所に集めているみたいだ。魚組の3人のうち2人は競い合っているが、1人は魚を片手にその2人を眺めている。


 僕が手伝えることは少ない。

 人間達と出会ってからずっと動いていたので少し疲れた。いや、結構疲れてるかもしれない。今日はたくさん歩いたし、少し休憩でもしようかな。


 脚を丸めて体を地面に伏せたら欠伸が漏れ出た。僕は今とても、とても眠いのかもしれない。




 急に覚醒する感覚により、僕は自分が寝ていたのだと分かった。眠いなぁと思いながら伏せたところで記憶が終わっている。


 どれぐらい寝ていたのだろうか?


 周りを見渡そうとした瞬間、僕は猛烈な違和感に気づいた。僕の下にある地面がボコボコしていて暖かい。恐る恐る顔を上げると僕の真上から声が降ってきた。


「起きたか。よく寝ていたな」


 やっぱりお前か!!


 僕はあぐらをかいている親方の足の上に乗せられている。


 どうしてこうなったんだ??

 どうせ抱えられるんだったら美男か美女の足の上で寝たかったわ!!


 急いで飛び降りようとしたが僕の両脇に手が差し込まれ、捕まってしまった。


「ずっと俺の足の上で寝てたんだ。今更降りても何も変わらねぇよ」

「コン!(うるさい!降ろせ!)」

「暴れるな、ほれ、魚食うか?」


 親方が細い木の枝に刺さった銀色の秋刀魚みたいな魚を僕の鼻の前に持ってきた。


 お腹が空いたかも…美味しそうな秋刀魚だ。


「そのまま食うか?」

「(寄生虫が怖いわ!焼いてくれ!)」

「あ?生で食わねぇのか?じゃあ、焼けって?…へー、」

「賭けは俺の勝ちだな」

「はっ、イルの言った通りだな」

「約束は守ってもらうぞ」

「あいあい。俺が最後に見張り番な」

「ああ」


 親方の膝の上で寝ていたことに驚きすぎて、周りに人がいることに気づいていなかった。余裕ができた今なら親方達がが焚き火を囲むように円になって座っているのが分かった。ドリスとエニスが彼らの顔と同じ大きさの魚を噛みちぎっている隣でフィンが小さめの魚が刺さった2本の枝を片手に1本ずつ持って焼いている。


 パチパチと火花が弾けるような音が鳴る火に親方が魚が刺さった枝を近づけた。辺りはすっかりと暗くなっていて、焚き火の柔らかい黄赤だけが魚を照らしている。焼き始めてから少ししたら、焼けた魚のいい匂いが漂ってきて涎をごきゅりと飲み込んだ。親方が枝を回して見えた魚の半面は皮がパリッと焼けていて実に食欲をそそるビジュアルだ。


「これぐれぇだろ。できたぞ」


 差し出された魚は頭から湯気が少し出ていて、焼きたて熱々で美味しそうな色をしている。はなから我慢などする気はなかったので、大きく口を開けて柔らかい身に犬歯を鎮めた。


 パリパリの皮に噛みついた快感の奥には、脂が滲み出るふわふわの身が待っていた。上質な脂が舌に絡みつき、唾液と共に飲み込めば無意識にもう1口食べるために口を開いていた。


 うまっ!!

 異世界の秋刀魚マジで美味え!!


 小骨も飲み込みながら無我夢中で秋刀魚を食べていたら、親方が僕に話しかけてきた。


「この魚はフィンがお前用に残してたんだ。川に案内してくれたお前に少しでも礼がしてぇんだってよ」


 フィンが照れくさそうに小さく笑い頷いた。


「俺が捕まえた魚でもないのですが…今はこれぐらいしかお礼ができなくてすみません、、焼き魚美味しいですか?」

「コン!(うめぇ!ありがとう!)」

「ハハ、よかった!気に入ったみたいですね。あの…その、、」


 モジモジしながら僕をチラ見してくるフィンに首を傾げていると、意を決したのか真剣な表情で僕を見て言った。


「少しだけ毛を触らせてくれませんか?あ、その、嫌だったら全然良いので、首を横に振ってもらえれば」


 なんて純粋で良い子なんだろう!!


 思い返してみれば、皆が僕のことをチビ呼びしていた中、僕のことを『森のもの』と呼ぼうと提案してくれたのが彼だ。そして僕が急に走り出した時だって親方とイルが暴言を吐く中、1人だけ僕の心配をしてくれていた。


 そんな優しい子が僕の毛を触りたいと言うのなら良いでしょう!夢は叶うべきだ!


 今度こそ親方の膝から降りられた僕はそのまま1直線にフィンの元に行き、彼の正面に座った。


 フィンが目を輝かせ、恐る恐る僕の頭に手を伸ばした。緊張をしているのか僅かに震える彼の手が1度僕の様子を伺うかのように頭上で止まる。僕が嫌がっていないことを確認したフィンはゆっくりと僕の頭に触れた。優しく手を置いた彼は動かない僕を見て慎重に毛を撫で始めた。


「柔らかい…」


 フィンの声は弾んでいて、彼の目は驚異に見開かれていたが次第に口が笑顔の形になった。無邪気に笑うフィンを見ていると僕が思っていたよりも彼は幼いのかもしれないと感じた。


 1分ほどふわふわと僕の頭を撫でたフィンは嬉しそうに僕にお礼を言って僕のために魚を焼き始めてくれた。フィンがニコニコとしながら魚を食べる僕を見つめている光景はさながら飼い主とペットだ。フィンが色々と僕に話しかけてくる間に周りの人達は片付けや寝床の準備をしているみたいだ。


「フィン!お喋りはそこまでにしとけ、もう寝る時間だ」

「あい!君はどこで寝るの?俺達と一緒に寝る?」


 人間のために準備がされた寝床は誰かの鞄に入っていたのであろうブランケットみたいなのが地面に何枚か敷いたものだけだった。


 …なんか布が汚れてるし、僕は柔らかい芝生の上で寝ようかな。


 僕はフィンの誘いには動かず焚き火の近くに座り続けた。彼が惜しむ声を漏らしながら離れて行ったが、僕は火の粉が飛んでこなさそうな場所に寝転がった。火の温もりを感じていたら不意に前世で幼い頃に家族でキャンプをした時のことを思い出した。


 静かすぎて存在を忘れていたが、イルが最初の見張り番みたいだ。他の4人は床に並んで寝入っているのかデカいいびきや均一な呼吸音が聞こえる。


 静かとは言えないが森の中とは思えないほど穏やかな夜に見つめる焚き火は僕を不思議な気持ちにさせた。


 僕は死んでしまったが、残された家族は無事だろうか?

 僕が死ぬ数日前から母は遠い親戚に会いに行っていたのであの家には僕しかいなかった。


 母にはあまり気を病まないで欲しいと願うのは身勝手な息子としての我儘だろうか。


 背の少し曲がった母の姿を暖かな紅緋色の光に見て、心がじりじりと炙られていくような感覚がした。


 1人ではないのに、孤独を感じる夜に両目を瞑った。




 脇腹に固い何かが複数個食い込む感覚に意識が浮上する。

 しょぼめた目で不満を表すため「キュ…」と鳴くと体が宙を浮いた。ああ、誰かに抱えられているんだなと眠気で動かない頭が認識をしたので大人しくされるがままにした。すぐに誰かの足の上に置かれた感覚がしたので顔を上に向けた。


 案の定そこには親方の狼みたいな顔があった。長めの黒髪が寝癖であちこち向いているのが余計に彼のワイルドな容姿を引き立たせている。


「起こしてしまったか、すまんな」

「クー(すまんって思ってるなら持ち上げるなよ…)」

「もう火は消えちまったし寒そうだったから抱えてやった方が暖かいかなと思ってな」

「コン!」

「ハハッ、そう怒るなよ。俺が寒かっただけだ」


 僕を起こしたことに悪びれもしない親方にイラッとしたが、彼が纏っている水色のオーラが心の細波を鎮めてくれたような気がした。


「どうせ起きたなら少し話に付き合ってくれねぇか?」

「(お前が起こしたんだよ!!)」


 やっぱり鎮まらなかった。

 少しは悪く思っているような態度をしろよ!!

 ポンポンって僕の背中を撫でるな!!!


 そんな僕の怒りを知らず、親方は僕から視線を外し遠くを見た。


 いつの間にか真っ暗だった森は明るくなりつつある空によって元の緑が見えるようになってきている。耳をすませば鳥のさえずりのような音も聞こえてきて、丁度夜明けの時間に起こされたみたいだ。


「…俺は本当にお前さんに感謝をしてるよ」


 親方の真摯な声音に視線を彼に戻せば、彼の灰色の瞳が空を見上げていた。


「ガキの頃、親に捨てられた俺はある盗賊団に拾われたんだ。そこでイルと出会い、ドリスも俺の後に拾われた。俺達がいたテムテ小国は治安が悪くて、裏町では親がいねぇガキが道端にゴロゴロ落ちてる。そんな俺達を拾った盗賊団の頭はテムテ小国生まれとは思えねぇほど優しかった」


 その人のことを思い浮かべ目を細めた親方は空よりも更に遠いどこかを眺めているようだった。


「お頭は俺達に食い物をくれて、テムテで生きていくための術を教えてくれた。お頭は俺たちを始め、テムテにごまんといる捨てられたガキのために孤児院を作るのが夢だと言っていた。盗賊団の仲間30人ぐれぇも皆親方の夢を叶えようとしていた。俺は一生この盗賊団の1員として生きていき、お頭が作った孤児院でガキの面倒を見て死ぬんだろうと思っていた。でも、現実は思い通りに行かねぇもんだ…俺がお頭に拾われて7年ほど経ったある日、テムテの貴族達がお頭を殺した」


 僕の背に置いてあった親方の手が強張った。


「お頭は処刑されたんだ。テムテの貴族連中がお頭がガキ共を助け回っているのを知り、反乱を始め革命を起こそうとしていると思い込んだ。そして夜中、皆が寝てる間に彼らはお頭を無理矢理捕まえた。騒音ですぐに状況に気づいた俺達は戦ったが、貴族連中が雇ったゴロツキの数の前ではお頭を取り戻すことはできなかった。そして、俺達はお頭がその日の昼に殺されることを知った」


 強く握りしめた手を震わしながら、1度ゆっくりと深呼吸をした親方は目を固く閉じた。


「俺達はすぐに貴族連中を殺しに行こうと親方が連れて行かれた屋敷に乗り込んだが、数だけが多いゴロツキ相手にまた止められた。それでも、皆血塗れになりながらも戦い、必死に親方の元に行こうとして何人かは命を落とした」


 無意識なのか、親方は自身の顔を横に走る太い傷跡を撫でた。彼の手つきからこの戦いで出来た傷なのだと直感的に分かった。


「ボロボロになって鎖で縛られた俺達は裏町の真ん中に設置された処刑台の元に連れて行かれた。そこには、猿轡を噛ませられた親方が地面に押さえつけられていた。俺達は何も出来ねぇまま…ただ見ていることしか出来なかった。俺達はお頭の命を守れず、彼の夢も叶えることはできなかった」


 親方が僕に向けた瞳の中には息を呑むほどの哀しみが渦巻いていた。


「頭を失った盗賊団は解散するしかねぇ。それから俺はイルとドリスと一緒に食っていくために盗みを繰り返す中でエニスと出会った。アイツはああ見えて俺達の中では1番手先が器用で盗みがうめぇんだ。そしてエニスが仲間になった数年後、お頭が俺を拾ってくれたように、俺は道端で死にかけていたフィンを拾った」


 辛い過去を語っていた時の張り詰めた空気とは一変して、仲間との出会いを語る親方の雰囲気は柔らかかった。

 彼がどれほど仲間を大切に思っているのかを垣間見えた瞬間だった。


 朝日が昇り、木々の間から手を伸ばした陽が親方と眠る彼の仲間にそっと触れた。


「俺を親方と呼んでここまで付いてきたアイツらには、、絶対生きてここから出て欲しいんだ。そして、今度こそ俺は死んででもコイツらを守り抜いてやる。これは誓いだ」


 旭光で照らされた灰色の中には小さなアンバーが散りばめられている。大切な人を殺され、「親方」と仲間に呼ばれるまで成長した男ーーロウルの心を象徴するような高貴な色彩だと思った。


 ロウルが経験した過去、そして彼の誓い。


 僕に聞かせる話にしては重すぎる気もするが、人の言葉を喋れない僕に聞いて欲しい気持ちも理解できる。彼はこの決意を口に出す必要があったんだ。そして、否定でも肯定でもなく、彼の言葉を静かに受け入れる相手が欲しかったのだろう。


 この森では、いつ何が起きてもおかしくない。今までは順調にここまで来れたが、この森にいる限り何が起きるかは予測不可能だ。彼らにとって僕との出会いがそうだったみたいに。


 ゴソゴソと寝床から音がして、イルが頭を掻きながら起き上がろうとしていた。親方は彼を見ながら独り言かのように呟いた。


「セファルス大国はどんな国なんだろうな」


 どんな国なのかは僕も知らないけれど、あなたの未来が輝かしいものであれと思うよ。




第1章7話を読んでいただき、ありがとうございます!

今回の話はいつもより長くなりました。作者はロウルが結構好きなんです。


この物語がよかったら評価していただけると嬉しいです!


また、この作品に対してのご意見やご感想をお待ちしております!


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