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キツネ転生者と騎士王子が世界を救う冒険物語  作者: 森野魚
第1章「始まりのセファルス大国」
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04 タダ飯くれる奴は無条件でいい奴

 フィンが僕を指で差した直後、固まった僕の前には剥き出しの剣を掲げた黒髪の男が立ちはだかっていた。元から怖い顔が余計怖くなり、眼差しが鋭すぎて鉄が切れそうだ。


 僕は頭のどこかで冷静に目の前の男を観察していたが、他ではもうパニックだ。


 僕に向かって振り下ろされた容赦のない剣がスローモーションで見える。


「ひ、」


 本能のまま、後ろにひっくり返る。4本の足が地面を離れ、天にお腹を見せる。


 僕は生まれ変わってからりんごを2個食べただけなんだ!死ぬにも早すぎるだろっ!


 衝撃に備えてぎゅっと目を固く閉じ、体が自然と硬直する。


 ……


 …?


 片目を恐る恐る開けてみたら、僕が数ミリ動きでもしたら鼻先が切れる距離に剣先がぼやけて見えてヒュッと息を呑む。少しでも動いたら、僕の命はない。


「こいつは…」


 顔を動かさずに目だけで黒髪の男を見上げると、難しそうな困惑が見える表情をしている。


「見たことがねぇ魔物だな」

「親方、大丈夫ですか?!」


 フィンの上擦った声が聞こえるのと同時に、複数人の足音がドタドタと近づいてくるがわかった。


()ったか?」

「いや…」

「なんだコレは」


 僕を見て顔を顰めるボサボサな髪の男と首を傾げる大男が親方の横に並ぶ。


「イルもわからねぇか?」

「…ああ。こんな魔物は見たことがないな…セファルス大国にしか生息しない魔物か…?」

「オレもこんなの見たことがねえでよ」


 こいつらさっきから僕のことを「コレ」や「こんな」呼びとか失礼じゃないか?!

 それと僕は魔物じゃない!

 …はず!!


「随分と大人しいな」

「そうだな。これほど穏やかな魔物は珍しい…もしかして、」


 イルと呼ばれたボサ男はハッと何かを思いついたかのように一瞬目を見開いたが、すぐにまた顰めっ面に戻った。


「なんか思い出したか?」

「…もしかしたら誰かの使い魔かもしれない。人と魔力契約を結んでいる魔物は人に慣れていて、穏やかな性格のものが多いと聞いたことがある」

「使い魔か…」

「それって魔女の黒猫みでいのか?」

「それは御伽話だろ…でも、使い魔契約の成功率はとんでもなく低いらしい。もしもこいつが本当に使い魔だったら…」

「主人は貴族か…」

「その可能性が高いな」


 思案顔になった2人を置いて、僕についての話に興味がなくなったのか大男は戻っていった。そして、彼と入れ替わるかのようにヒョロい男が興味津々にやってきた。


「使い魔?!僕初めて見ますよ!」

「まだ本当に使い魔かどうかはわからねぇけどな」

「そういえば、昔話とかで使い魔は主人と感覚や考えを共通することができるって聞いたことあるんすけど、どうなんすかね?」

「それは…どうなんだろうな」


 じーっと僕を上から見つめてくる目が6個。凄く居心地が悪い。


 ずっとひっくり返ったままではあまりにも情けないから起き上がりたいな。


 僕が横にコロリと寝転がった瞬間、前の3人が面白いぐらいにビクッと反応をした。でも、誰も僕に対して攻撃をしようとしないので気にせずに起き上がることにした。僕は恐らく哺乳類だ。そして、哺乳類代表の犬やイルカは可愛い顔をしている。それなら、僕も可愛いはずだ!


 ここはいっちょ営業スマイルを発揮して無害アピールをしてやる!


 ニコッ!


「やっぱなんかマヌケな顔だよな」

「ああ。変わった顔だ」

「コイツ本当に魔物なんすかね?」


 失礼だな?!僕は可愛くないのか?!誰か早く鏡を持ってきてくれ!!


「コン!!」


「お」

「鳴いたぞ」

「鳴いたな」


 そんな奇妙な物を観察するような目で見るなよ!!


 なんか…前世で人気だった猫カフェやら動物カフェの動物達は本当に偉いよな。あの子達はプロのホスト・ホステスだよ。


「…攻撃してこないな」

()ろうと思って剣を振ったらひっくり返ったんだぞ」

「普通魔物は目が合っただけですぐ攻撃してくるっすもんね」

「やっぱり使い魔なのか?」

「コイツが使い魔なんだったら、」

「あ、おい!」


 親方が1歩僕に近づいてきた。


 ビビるな僕!僕は人間よりも強い動物に生まれ変わった!と思いたい!本気を出せばコイツら全員瞬殺だぜ!


 親方が片膝を立ててしゃがみ込んだ。


 こ、怖い。コイツ顔が怖いんだよ!!


 本能だ。怖い顔が近づいてきたら顔を背けるのは。


「なあ」


 見ないぞ!別に見れないわけじゃなくて、「見ない」という選択を取っただけだ!


「おい。お前に喋ってんだよ」

「…」


「…親方。そいつ人語わからないんじゃないか?」

「あ?じゃあ本当にただの変わった魔物のチビってことか?」


 僕はチビの魔物じゃない!!魔物でもないし、チビでもない!お前の方が顔が怖いから僕よりもよっぽど魔物だろ!!このチビ!!!


「お、反応したぞ」

「これは…」

「怒ってるんすかね」

「やっぱり人語がわかるんじゃねぇか」

「本当に使い魔なんかが存在するなんて…」

「俺今日まで生きててよかったっす」

「は?」


 黒髪の男が僕にもう少し近づいてきた。彼の後ろでは2人の男が言い合っているが、僕は目の前の狼男に警戒をしすぎて彼らの会話の内容が頭に入ってこない。


「お前が何者かはわからねぇが、もしお前が本当に使い魔なんだったら、俺たちを助けてはくれねぇか?」


 彼の声を初めて聞いた時の怒鳴り声とは全く違って、低く掠れて、大きな声ではないのに、彼が発した言葉1つ1つがとても聞き取りやすいと思った。そして同時に、動物の僕の前に膝をついて合わせてきた灰汁色の目がとても真剣で、この人はどんな時でも人を導こうとする者だと思った。


 そう理解した瞬間、彼の怖い顔が気にならなくなり、彼の鍛え抜かれた隙のない身体の周りに綺麗な水色のオーラが見えるようになった気がする。


 気がする、ではないな。オーラが出てるわ。

 てか、なんだこれ?!なんでコイツ急に光り出してんだ?!蛍かよ!まだ夜じゃねえし!


「コンコン!!」

「ははっ、助けてくれるのか?」

「(違う!お前光ってるよ!気づけよ!)」

「…ありがとう」

「親方、何話してるんすか?」

「ああ、コイツが俺たちを助けてくれるってよ」

「はあ?!コイツの主人がどんな奴かわかんねえのに何頼んでんだ!」

「落ち着け。フィンは怪我をして歩けねぇし、俺たちは水も食い物ももうなくなる。こんな状況で魔物だらけの大森林からどうやって出るっていうんだよ」

「それは…」

「そうっすよ、イルさん。俺たちが生きたままここから出るのが1番大事っすよ。出た後のことは未来の俺たちに任せましょうよ!」

「…それもそうだな。すまないな、ロウル。ただ…」

「ああ、知ってるよ」

「…すまない」


 何勝手にしんみりした雰囲気になってんだよ!!

 誰もお前達を助けるなんて約束してないし、そもそも僕産まれてからこの森から出たことないんですけど??


「エニス、あっちに置いてきた荷物を取りに行け。それとついでにドリスにフィンを抱えてこっちに来いって言ってきてくれねぇか?」

「あい!」

「俺も手伝う」


 親方の指示を受けた2人はすぐさま歩いて行き、僕の前には親方だけが残った。


「よし。まず最初に、水場に案内してくれねぇか?」


 案内できるかよ!僕だって知らないよ!!


 ツンとした顔でそっぽを向いてやると親方が不思議そうな声を漏らした。


「ん?案内してくれねぇのか?」

「…」

「あれか。使い魔も現金なんだな」

「(は?)」

「いや、違うな。すまない、俺達が助けてもらう立場なのに。ちょっと待ってろ」


 親方がそう言い、自身のズボンのポケットに手を突っ込んだ。そして、暫く大きな手が窮屈そうにポケット内で動き回っているのを布越しに眺めていると、「あった」と親方が呟いた。ポケットから抜いた手は丸まっていて、何かを持っているようだ。


「ほれ。今はこんぐれぇしか持ってねぇけど、ウマイぞ」


 広げた手の真ん中に赤黒い正方形が乗っている。くんくんと匂いを嗅いでみると、なんと!旨そうな匂いがするではないか!


 これは…ビーフジャーキーなのでは?


 肉だ!肉!


 自分が思っているよりも肉が恋しかったみたいだ。そうでなければ、ビーフジャーキーがこんなにキラキラ光っている説明がつかない。


 おま、最高じゃないか、親方!一生ついていきます!


 今世初のお肉をいただきますーー!!


「いい食いっぷりだな」


 親方が苦笑しているような気がするけど、僕は口の中にあるビーフジャーキーに夢中だ。


 うまい!!美味すぎる!!


 ビーフジャーキーってこんな美味しかったか?


 やばい。今世初のお肉の威力が半端じゃない。


「親方ー!荷物持ってきましたよ!」

「…何か食べさせたのか?」

「ああ、クロニダルの干し肉を少し持っていたからあげてやった」

「は?!」「え!!!」


 大声にビクッと反応し、上を向いたら、凄い顔をしたイルと両手いっぱいに荷物を持ったエニスがしゃがんでいる親方に詰め寄っていた。


「そんな高級な肉をこんな魔物に食わすなんて何考えてんだ!」

「そうっすよ!クロニダルなんてちょー高く売れる魔物じゃないっすか!!」


 ぶっ!!!


 これ魔物の肉なの?!なんてもん食わせてんだ!!


 いや、でも、、美味かったな、、、


 いやいや。魔物って?!!?!


「おいおい、高ぇんだから吐いてくれるなよ?」

「…やっぱりコイツ、」

「俺たちの言葉わかってるっすね」

「こりゃ正しく使い魔だろ?俺達の命を助けてもらうんだ、対価としてクロニダルの干し肉はむしろ安すぎるだろ」

「親方…」

「フィン連れできでよ」

「すみません、お待たせしました」


 フィンを背負ったドリスが親方達と合流したのを確認した親方は1つ頷き、僕に視線を戻した。


「さあ、俺達を水場に案内をしてくれないか?」


 ぐぬぬぬ。


 水場なんかどこにあるかわからないけれど、美味しいお肉をくれたから僕も一緒に探してあげるよ!!


 僕は親方達に背を向けて、1歩踏み出した。


 ごめん、今から適当に歩かせてもらうよ!





第1章4話を読んでいただき、ありがとうございます!

我らがキツネくんの異世界旅は始まったばかりで、これからどのようなことが起きるのかが楽しみです!

次の話は、親方こと『ロウル』視点で書きたいと思います。


この物語がよかったら評価していただけると嬉しいです!


また、この作品に対してのご意見やご感想をお待ちしております!

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