02 ご飯を食べれば誰しも無敵
ポテポテ。
僕が歩く擬音としてぴったりである。
周りは緑の草が生え揃っていて、僕の体は4足歩行のチビだから必然的に視界が低く、先が全然見えない。とにかく歩いてみて、開けた場所にまで行くのが現在の目的だ。
前世ではクソ痛い死に方をしたから、今世の健康な体で散歩をするのは思いの外楽しい。少しだけ鼻歌を歌いたい気分だ。
華麗なツーステップを踏みながら前を進めば、僕の周りを囲んでいた緑から解放された。長い草が生えていない場所は結構広く、視界が開けた今なら周囲の環境を観察できる。どうやら僕は森のような場所にいるようだ。見渡す限り木が元気に生えているし、足元は薄い雑草に覆われた土のほろほろした感触がする。前世の僕は田舎生まれだったが、今世も同じみたいだ。
「ピョェーー!!」
ビクッとして上を向くとちょうど鳥が頭上を飛んでいるところだった。
おお、初の僕以外の生物だ。遠くてよく見えなかったが、あれは確かに鳥の形をしていたから鳥だと思う。
…食えるかな?
おっと。僕はもう結構動物的なマインドを持ち始めているみたいだ!
僕は肉食動物なのかな?
お肉万歳!!!
ん?あれは!
少し遠くにある木の一部がなんかキラキラと光っている!
絶対ぜっっっっったい見に行かないと!!
行くぞ!!!
走って。もう少し走って。減速して。最後はよろよろと歩いていた。
「ハァッヘッハッ」
空港にある平らなエスカレーターを逆走したわけではないよな?
僕の小さな足では全然前に進めない上にこの体はあまり体力がないみたいだ。まぁ、まだ赤子だから当然っちゃ当然なのかもしれない。
鼻水は出てくるし、顎は唾液でべちょ濡れだ。
だいぶ情けない姿になってしまったと思うが、どうにか根性のみで目的の木の下まで行くことができた。
遠くで光って見えた物は木の実だったみたいだ。木に丸く赤い可愛らしいりんごみたいな物がたくさんなっている。不思議なことにこのりんご達は紫色のオーラのような、妙にキラキラとした光を纏っている。
りんごってこんなに発光するものだったか?
違和感を覚えながらも木の麓に運良く落ちているりんご達のうち1つに近づく。妙なオーラを無視すれば、見た目は立派なりんごだ。とても美味しそうなりんごだ。
かぷ。
シャリ。
…シャクシャク…
りんごだ!うまいりんごだ!!
甘い果実に夢中になりながらむしゃむしゃと貪っていたら、みずみずしい果汁に心も体も満たされる感覚がする。何故りんごが光っているかなんてもう既に些細な問題だ。
前歯にりんごの芯が当たり、気付けば食していた果実が無様な有様になっているではないか。
よし、もう1個だ!
シャクシャク…むぐ…
ふー。
ペロペロと口周りを舐め、果汁でびちょびちょの鼻もしつこいぐらいに舐める。
ごちそうさまでした!
前世では、「男」だとか「女」だとか、性別の枠組みに怯えて生きていたけれど、今世の僕は動物だ!本能のまま、自由に自分がやりたいことをしても誰に怒られようか!
最高だ!
そのように1人で考えていたら、急に体がピタッと止まり、耳がピンと立った。
「キュ?」
遠くから声が聞こえる。
これは人の声か?確かに人が喋っているような音がする。
満腹になり、気分がぶち上がっていたからか気付くのが遅くなったみたいだ。
生まれ変わってから初めての人間の気配だ。ここは1度見に行くべきかもしれない。優しそうな人だったら一時的に飼われるのも悪くないかもと少し思う。今は運よく誰にも邪魔されずにりんごが食べれたけれど、ずっと安全だとは思えない。前世日本人の僕が1人で野生を生き抜く力があるとは思えないし。
そうと決まれば、今世で初めての人間を見に行こう!
この時、僕は美味しいりんごを食べた後で気分が舞い上がっていた。もう少しちゃんと考えてから行動すべきだったと後々後悔することとなることに今はまだ気づいていない。
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