14 大人になっても探偵ごっこには心が躍るものだ
グレイ・アルダインバーグ視点です。
この町の人達の朝は早く、鳥のさえずりと共に市場の店は開店する。
朝食を食べに来た者や仕事道具を買いに来た者、様々な要望を満たしに多くの人々が市場に集まっている。
俺もそんな人達の1人だ。
先日、「森の中に1人だけで入るな」という団長からの命令を無視した罰として、俺は今騎士団の買い出しに市場に来ている。
あの日、テムテ小国から逃げてきたと告げた盗賊団を医務室に送り届けた後、俺は団長とアイダンを連れて会議室に移動した。そこで、あの奇妙な魔物の詳細について話した。実際起こったことと俺の憶測。そして、あの魔物の重要性。
全てを話し終えるまで口を開かなった団長は腕組みを解いて、俺に質問を1つだけした。
「お前はその魔物を討伐するべきだと思うか?」
ただそれだけの問いなのに、酷く重みを持っていた。あの盗賊団の頼みを別に、あの魔物が魔法を発動していた可能性、それが森からの加護である可能性、そして何よりもあの比類なき高知能。総合的に判断すれば、結果は明白だ。それでも、団長があの魔物を討伐したい理由を知っている俺は無情にも決断を下した。
「…あの魔物は討伐するべきではない。特別注意魔物に指定するべきだと思う」
俺の言葉に「そうか」と頷いた団長はあの赤色の魔物を特別注意指定に認定すると告げて、直ぐに全ての団員に通達できるように絵師を呼びに行くと立ち上がった。
「そうだ、グレイ。」
「何だ?」
「お前の公正な決断に感謝する」
俺を見下ろす団長は笑っていて、横でアイダンがホッと息を漏らしたのが聞こえた。しかし、一変して団長の表情が厳しいものになったことに俺は「来るぞ」と身構えた。
「だが、お前が俺の命令を無視して1人で森に入ったことは評価できないな。罰として、今週の買い出し当番はお前1人でやれ」
「待て、それは流石に、」
「何だ?俺の命令はそれほど軽いのか?」
「いや、」
「そうか、己の過ちに気付いているのか。なら、ちゃんと処罰を受けてくれるよな?」
「…分かった」
「よし、頼んだぞ。俺は絵師を呼んで来るからお前達はここで待っててくれ」
俺がため息を吐く様に手を叩きながら笑うアイダンを残して団長が会議室を去ったのが4日前の話だ。
いつもは見習いや新団員達が買い出しを担当しているのだが、今週の分は俺1人でやらないといけない。苦笑する財務の者に渡された買い出しリストは俺の身長と同じ程長くて、疑問に思っていたら「団長が普段買わない物もリストに入れても良いと仰いまして」と言われ、俺は嵌められたのだと知った。こうなったら1日を費やして、ゆっくりと買い出しをしてやろう。
第1騎士団副団長はこれでもやる事が多い。それらを嘆くアイダンに押し付けて基地から出てきてやった。俺は効率を重視しただけだ。断じて八つ当たりではない。
食品を最初に買う作戦で食材を売っている店を回った。俺のことを見て負けてくれる店が多くて、団長の長いリストの理由はこれなのではと思い始めた。
最後に顔馴染みの保存食屋のデンの店に行けば、彼はいつもの明るい笑顔で俺を歓迎してくれた。俺はリストに載っている食品を無事に全て購入する事が出来たので一度基地に戻るかと考えながらデンに代金を渡していたところ、彼の話が俺の興味を引いた。
「そういえば、ここ最近市場で盗みが増えていて、皆困ってるんだよ!」
「そうなのか。第2に通報したのか?」
「もうしてるさ!でもまだ盗人を捕まえられていないらしいんだ。ほら、今日は第2の奴らが多いだろ?」
確かに、今日は第2の者達がやけに外を巡回しているなとは思っていたが、もう直ぐある花祭りに向けて警備を強めているのだと気に留めていなかった。
「来週に花祭りをやるだろう?その前に盗人を捕まえておきたいみたいなんだよ」
「確かにそれは捕まえておきたいな」
「クソッ!またやられた!!」
若い男の大声が少し離れた店から響いた。
「あ〜、アントの奴またやられたみたいだな」
「何かを盗まれたということか」
「ああ、盗人は食べ物と何故かアントのとこのガラスしか盗らないんだ」
「そうなのか」
頷いた俺を見たデンは急に笑い出した。
「副団長殿、お前さんは本当に好奇心を隠せないな!気になるんだったらアントのとこにも行ってきてくれ!そんで、第2の奴らよりも早く盗人を捕まえてくれよ!」
「それは状況を見てから判断する」
「ハァハッハッ、それでこそ我らがセファルスが誇る副団長殿だ!」
上機嫌のデンに送り出されて俺は訪れたことがない宝石屋に向かえば、露店の外で小さい籠の中を漁りながら地面にしゃがみ込んでいる男がいた。ブツブツと独り言を漏らしている男の肌はこの町では見かけない褐色で彼が『砂漠の民』である可能性が頭をよぎった。
「お客さん、何か用かい?申し訳ないけど、今は少し忙しくてね」
「別に何か買いたいものがある訳ではない」
訝しむ顔で見上げてきた店主だったが俺の服を見て表情を変え立ち上がった。
「あんた第1騎士団の者か」
「そうだ」
「さっきの無礼は流してくれ。あんたに話したいことがあるんだけど、今時間はあるかい?」
「ああ、俺も貴方に聞きたいことがあってここに来た」
「なら丁度良かった!」
ニッと人好きのする笑みを浮かべた男は己の身に最近立て続けで起きている事件について話し始めた。
俺が触っていた籠があるだろう?この中にはガラスで作られた球が60個入ってるんだけど、4日前から1日に1個ずつ無くなっているんだ。最初は気のせいかもと流していたんだけど、3個無くなれば流石にこれは誰かが盗んでいるんだと気付くよ。俺以外の店でも物が盗まれているらしいしね。
俺が取り扱っている商品は貴石と呼べない物ばかりだから、まさか盗む人がいるなんて思わなかったよ。しかも、この籠の中に入っているガラス球は店の商品の中でも安い方だ。これを4個盗んだところで1食分にもならないはずだ。
俺は犯人を捕まえて何でガラス玉を盗んだのか問い詰めたくて籠の位置を変えずに怪しい人が現れるのをずっと待っていたんだ。でも、怪しい人は1人もいなかった。なのに、気付いたらガラス球が1つ無くなっているんだよ。おかしいと思わないかい?
俺は昨日の昼に第2騎士団に通報したんだけど、俺よりも早く通報していた店もある。それでもさっき籠の中を数えていたらやっぱり1個減っていた。正直な話、第2の奴らよりもあんたらに頼んだ方が早く盗人を捕まえてくれそうだ。
来週には花祭りがあるし、それに向けて俺達も準備をしなくちゃいけないのに、盗人に怯えていたら中々気が収まらない訳よ。だから、1秒でも早く盗人を捕まえて欲しいんだよね。
「どう?俺の話はあんたが聞きたい内容だったかい?」
「ああ、俺も個人的にその盗人の事が気になる」
「へぇ〜、何か心当たりでもあるのかい?」
「ない。でも今少し暇でな、暇潰しに犯人探しをしてみるのも楽しそうだ」
「ハハ!第1騎士団の人は言うことが違うね!じゃあ、俺達の市場で起きている窃盗事件を解決してみてよ!」
「ああ、一度基地に戻って荷物を預けてくるから戻ってきたらこの店で張り込んでもいいか?」
「いいよ!寧ろ大歓迎だ!」
「待ってるよ!」という弾んだ声を背に俺は基地に戻る前に他の店にも色々と話を聞いて回った。デンの言っていた通り、あの宝石屋以外で被害に遭っている店は食べ物を売っている。しかも、皆の発言には妙な共通点があった。それは、落とした商品や廃棄しようとしていた物が盗まれているということだった。モウモウ焼きの店の男性が頭にタオルを結びながら、「串を落としたと思ったのに床を見ればそこには何も無いんだよ。怖いだろう?」と容姿に似合わずに声を震わしていた。
食べ物を売っている店の証言を比べてみると、店によって商品を盗まれた回数に違いがあった。店主が気付いていないだけなのか、それとも単純に犯人も毎日同じ物を食べ続けるのは嫌なのかは定かでは無いが、唯一連日訪れて1個のガラス球を宝石屋から盗み続けていることが分かっているのならそこで張るのが1番犯人を見つけるためには確実だろう。
ガラス球なんて大した金にならないだろうから、単純に犯人の趣味か?
犯人が子供である可能性が今の所高い気がする。
基地の門に到着すると、タイミング良く居た新団員達が俺に気付いてこちらへ走って来た。彼らが俺の荷物を代わりに中に運んでくれると申し出てくれたので、俺は彼らにパンパンに詰まった4つの袋を渡して市場に戻った。
俺のことを待っていたのであろうアントが店の裏から椅子を持って来てくれたがそれを断って、市場の全体が見えるが客からは死角になる店の影になっている位置を見つけてそこで暫し様子を見ることにした。今日はもう食材を買い込んだので急ぎの用は他にないだろうと考えて、俺は気長にこの市場で起きている事件の新たな手がかりを得てみようと軽い遊びの気持ちで張り込みを開始した。
俺が時間を掛けて買い物をした後に様々の店で聞き込み調査をしていたせいでもう昼時だ。朝よりも人が多く集まっていて、様々な食べ物の匂いが辺りを満たしている。この時間帯に宝石屋に来る人はあまり居ないみたいで、店の前に立ち止まる人が居れば直ぐに分かるだろうなと考えていた。
1時間程待っていたかもしれない。市場から人は減っていて、昼のピーク時を終えて多くの客は仕事に戻ったようだ。この調査を始める前に腹に何か入れておけば良かったなと今更ながら後悔していると、宝石屋の籠に違和感を感じた。先程とは何が違うのかと聞かれてもハッキリと答えることは出来ないほどの微々たる違和感。目を凝らしても何も分からないので魔力で目を強化してみると、そこには薄い魔素の残跡があった。いつだ?この店の前で立ち止まった者は1人も居なかったはずだ。
俺が籠に近づいて魔素の残跡を観察しているとアントが店の中から箱を手に出てきた。俺の横にしゃがんだ彼は籠の中身を箱に移し替えながらガラス球を数え始めた。
「53、54、55…やられた…5個目だ」
「ずっと見ていたが誰かが籠に近づいた様子は確認できなかった」
「そうなんだよ!!はぁー、あんたが見えなかったって言うんだったら第2の奴らが盗人を捕まえるのは絶対無理だよ」
「俺は犯行の瞬間には気付けなかったが、犯人が残したのだろう魔素が見える」
「魔素…?あんた『魔術師』かい?」
「そうだ」
「セファルスの第1騎士団には魔術師が3人…団長と副団長と治療師…団長はトウモウよりもデカい、治療師は口が悪い爺さん、そして副団長は金髪氷眼の第2王子…」
俺の髪と目を交互に見たアントの口元がワナワナと震え始めたのに、最近森の中で似たような光景を見たなと考えながら団長とマイロの悪口にも聞こえる独特な覚え方を聞かなかっとことにした。
「俺は第1騎士団の副団長を務めているこの国の第2王子、グレイ・アルダインバーグだ」
「…俺これ終わった?殺される?」
青ざめたアントが1人で何か呟き続けているが、俺にとっては彼の反応が意外だった。
「貴方は『砂漠の民』なのか?」
「そうだよ…え、俺のことをこの町から追い出すつもりなのか?ま、待ってくれ、先程の無礼を謝るから追い出さないでくれ!」
「いや、追い出すつもりはない。無礼についても気にしていないので安心してくれ。それよりも、貴方のような人がこの町にいるのが珍しいと思ったのだが…」
「そうだね…俺は前の種蒔期、えっとこの国では3ヶ月前になるのかな?それぐらいからこの町に来てこの店を開いたんだ。元々はエシメナに住んでいたんだけどセファルスが見てみたくて出て来たんだよ!」
俺は怪しくない、無罪だ!と主張するように声を張り上げるアントは盗人を探している側だったのに、今は自分が犯人として疑われて弁解しようとしているように見える。全く悪いことをしていない彼を落ち着かせるためにも俺はここを離れて、魔素の残跡が消える前に犯人を追いかけることにした。それにしても、アントほどセファルス大国に対して険悪感を持っていない『砂漠の民』には初めて会ったかもしれない。
「そうだったのか。ここで何か不便でもあったら俺に遠慮なく言ってくれ。俺はそろそろ犯人の後を追う」
「あ!そうか、あんたには見えてるんだったね!気を付けて!後、ありがとう!」
歩き去る俺に声を掛けてくるアントに手を上げ、魔力で強化した目でもギリギリ見えるような薄い魔素の後を追った。この盗人は故意なのか無意識なのかはまだ分からないが、魔力を使っているのかもしれない。
全ての生き物の体内には魔素が存在するため、魔素の残跡は誰しもが残すものだ。しかし、魔力を粘ることができないものの魔素は多くの場合無色に近い白で、魔力を使えるものには色が付いている。先程から追っている魔素の残跡は赤黄色だ。
もしも、犯人が魔力を使っているのなら、窃盗で捕まえるには惜しい人材だ。魔術師の素質があるのなら、犯罪を理由に無理矢理魔法学校に入れれば良いかもしれない。セファルスでは魔術師は多いことに越したことはないのだから。
そんなことを考えながら着実と魔素の後に向かって進んでいると、町の中でも森に近い静かな場所に入っていた。ここの建物はどれも崩壊寸前で、中には燃えた跡の家もある。ここは、約3年前に飛行する魔物に攻撃された住居エリアだった場所だ。今は廃墟になっていて、まだ復興作業は開始されていない。
こんな所に人が住んでいるとでも言うのか?
…もしや、親を亡くした子供がいるのか?いや、盗みはここ最近始まったことだ。もしも3年前から子供が1人でここで暮らしていたのなら、最近になって盗みが摘発されるのはおかしい。
じゃあ、何だ?
魔素の残跡は廃墟の中でも屋根があって頑丈そうな家の中に繋がっている。ドアは半分ほど開いていて、窓はほとんど割れている。
この中に犯人がいる可能性が高い。
俺は細心の注意を払って足音を消しながら、1つの窓から中を覗き込める位置に動いた。誰も居ない。この部屋はハズレみたいだ。
その隣の窓に移動をしようとして、中が少し見えたところで急いで隠姿魔法を発動した。
居た。
割れた窓の横にあるベッドの上に見覚えのある赤い毛玉が居る。息を呑んで数分注視していたのだが、全く動かない様子からして寝ているのだろう。つい4日前にこの魔物を特別注意指定したばかりなのに、まさか町に入って来ていたなんて…待てよ、4日前?ガラス球が盗まれ始めたのが4日前だとアントが言っていた。
丸まった赤い魔物の中心を見れば、尖った長い鼻の先には5つのそれぞれ色が異なるガラス球が転がっていた。これは…思いも寄らなかったものが犯人の正体だったみたいだ。
どうしたものか。この魔物は恐らく魔法が使える上に知能も極めて高い。捕獲するにも厄介な強敵になることが予想される。この魔物と対話を試みて、「もう盗みはするな、森に戻れ」と注意してみるか?
…正直に聞いてくれないだろう。俺が魔物だったら見ず知らずの人間に命令されても聞く気にはならないだろう。
最悪だ。どうやって団長や市場の人達に説明をしよう。
…これはもう少し様子を見て、この魔物をどうするべきかじっくりと考えよう。
俺は一先ず音を立てないように注意をしながら廃墟エリアの入り口に戻ってきた。発動し続けていた隠姿魔法を解除して、食欲をそそられる匂いが漂う大通りに行けば完全に忘れていた空き腹が唸った。
大きな問題は一旦置いて、まずは腹を満たそう。
まだ夕食にしては早い時間だが、俺は近くにあった肉が旨い店に入り、ガッツリと肉を食ってやった。腹が減っていただけだ。断じてやけ食いではない。
喜ぶ店員を後に俺は基地に戻り、これからの作戦を粘ることにした。俺は特に誰にも止められずに自室に入り、上着を脱いで椅子に座れば溜息しか出てこない。
完全に自分で蒔いた種の結果だ。あの魔物は恐らく気配を消しながら俺達がテムテの盗賊団を連れて町に戻った時に一緒に着いて来たのだろう。そして、町の中には食べ物がないので市場の廃棄される物を盗んだ。ガラス球はあの魔物の好みなのか?
どうやって町の門を通過したのかも疑問だが、それは一先ず置いといてだ。
やはりあの魔物の行動の節々から知能の高さが伺える。全く人に見つかっていないところやわざわざ廃棄物を盗む選択をしていること。俺が窃盗犯は子供だと思った程にこの魔物は賢い。
ああ、頭が痛む。団長に伝えたら、何が何でもあの魔物を捕獲するためにこの基地にいる団員総員で出動するのが想像できる。
総員が出動すれば、今回の騒動の原因は俺であることが皆にバレてしまう。それだけはどうにか避けたい。
不意に見上げた窓の外は暗くなっていて、町の灯りはほとんど消えていた。俺は自分で思っていたよりも長い間、頭を抱えながら悩んでいたみたいだ。
その割には俺が抱えている大問題に対する解決策は何1つ思い浮かんでいない。
これ以上考えても無駄だ。もう一度あの廃墟に行ってみよう。
俺が上着を着て、扉を開ければ丁度アイダンがノックをしようとしていたところだったみたいだ。「うわっ」と上擦った声を漏らしたアイダンは俺の顔を見て眉を器用に片方だけ上げた。
「随分と疲れた顔をしていますけど、今日は何をしていたのですか?」
「買い出しだが?」
「そうですか〜。先程団長から報告がありまして、グレイ様が買い出しを終わらせていないので様子を見て来て欲しいと言われたのですが?」
「…今から買い出しの続きをしに行くところだ」
「もう深夜の2時ですよ〜?こんな時間に店に行っても閉まってるでしょ」
「…」
「で、グレイ様。今日は1日何をしていたんですか?」
「俺に自分の仕事を押し付けておいて」という副音声が聞こえた気がしたが、俺を不審に見てくる茶色の瞳に屈してここで全てバラすわけにはいかない。
「…色々と町の人達の悩みを聞いていた」
「へぇ〜、あのグレイ様がお悩み相談をしていたなんてにわかに信じがたいですね〜。ではこれからどこへ向かわれるおつもりで?」
「少し外の空気を吸いに行こうと思っている」
「そうですか〜。この時間帯は普段寝ているのに今日は起きているんですね、珍しい〜。しかも着替えてもいない」
「外の空気を吸ったら、直ぐに風呂に入りに行くつもりだ」
「ふ〜ん、そうですか。では、早く戻って来てくださいね〜」
何とか誤魔化せたぞ、と質問攻めから解放された安心感に浸って歩き始めたら、後ろからアイダンの間延びした声が廊下に広がった。
「グレイ様、明日も財務に行って新しいリストを貰って来てくださいね〜。続きの買い出しをして欲しいと団長が頼んでましたよ〜」
「チッ」
「あ〜!グレイ様、今舌打ちしましたね?!俺聞こえましたよ!」
ギャーギャー喚くアイダンから逃れるように早歩きをしていたらいつの間にか撒くことに成功していたみたいだ。
俺はそのまま基地を出て、後ろを気にしながら廃墟エリアに向かった。そこで昼間と同様に隠姿魔法を使い、ゆっくりとあの魔物が寝ていた家に忍び寄った。
しかし、中を見てみれば、魔物はベッドの上にはいなかった。念の為に他の窓からも違う部屋の中を覗いたが、今はこの家の中に居ないようだ。では、どこに行ったんだ?
再び目を魔力で強化して、魔素の残跡を探せば、やはり少量の魔素が扉から今度は家の裏に繋がっている。慎重に残跡を辿れば、町の人々があまり訪れない池が見えてきた。
俺もこの池の存在を今の今まで忘れていた。
手入れをされていないはずなのに、池の周りの草は綺麗に生え揃っていて、1本だけある木も元気に立っている。
そして、池の淵には深夜の暗闇の中でも目立つ毛色をした魔物が前足を伸ばして水で遊んでいるみたいだ。パシャパシャと無邪気に水滴を宙に飛ばしている様子を眺めていると、あの魔物は本当にまだまだ幼体なのだろうなと思った。
まだ幼く、己の欲望に忠実だ。知能が高い割には行動に伴うリスクをあまり理解できていない。どこか子供らしい性格で、キラキラと光る小物を好んでいる。
…良い案を思い付いたかもしれない。
無邪気に遊んでいる魔物を見つめながら、俺は作戦を練ったのだった。
第1章14話を読んでいただき、ありがとうございます!
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