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キツネ転生者と騎士王子が世界を救う冒険物語  作者: 森野魚
第1章「始まりのセファルス大国」
14/16

13 不衛生だと指摘する奴ほど、実は祭りを1番楽しみにしている

 眩しい…


 目を細めながら開けたら、明るい日差しが窓から僕に直撃していた。


 今何時だ?


 外の明るさを見ると今は丁度昼かもしれない。

 僕はどれぐらい寝ていたのだろう?


 僕は大きなあくびをしながら体を伸ばした。


 体中の筋肉がピリピリする。昨日あれほど走っていれば、翌日筋肉痛になることは確定していたと言えど、やはり実際になると想像以上に体がだるい。


 体が痛くても、僕はそろそろ起きて外に出ないといけない。

 何故なら、お腹が凄く空いているからだ。


 よくこの空腹感を無視しながら寝ていたなと自分に感心するほど腹が減っている。


 今から町の市場に行けば、丁度昼の時間なので何か食べる物を見つけることが出来そうだ。この世界に生まれてから食べた人工物は親方がくれた高級魔物ジャーキーだけだ。昨日は急いでいたので確認できなかったが、あのイケメン騎士を見つけた場所がこの町の市場なんだと思う。あそこに行けば、この世界独自の料理や食材が沢山あるに違いない!

 そう考えるとワクワクしてきた。


 さて、ファンタジー世界の料理を食べに行くぞ!


 僕はウキウキしながら小走りで家を出た。廃墟エリアから抜け出し、昨日騎士達が馬に乗りながら進んでいた大通りに着けば、静かな空間から一変してガヤガヤとした生活の音が彼方此方から聞こえる。

 大通りを人々が歩いていて、今からお昼ご飯にでも食べに行くような雰囲気の人が多い気がする。


 昨日と同様に誰にも見つからずに歩き回りたいなと念じていれば、誰も僕の存在を気にも止めずに横を通り過ぎていく。


 僕を見つけて叫ぶ人がいないのを良いことに、僕も皆と一緒に大通りを進んでみた。左右を見渡すと様々な店が並んでいる。色々な花を売っているお花屋さんはカラフルで美しく、若い男女が店内に並ぶ服を窓越しに仲良さそうに眺め、店の外の道路に並ぶテーブルでお茶を飲みながら談笑する女性達、常にドアが開いていて中から大きな笑い声と美味しそうな匂いが風により道路に運ばれて行くような飲食店。本当に沢山の店がある。


 最後のレストランが気になったけれど、流石に店内に入るのはリスキーすぎるので残念ながら断念した。

 ああ、本当に美味しそうな匂いだ。

 洋食屋さんのようないい感じに焦げたデミグラスソースと上質な肉の油の匂いが鼻から離れない。

 お腹が空いた、ハンバーグが食べたいよ。


 僕は気持ち急ぎ目で市場に向かった。

 市場の入り口は相変わらず人で溢れていた。ここには食べ物を売っている屋台やバザーで見かけそうな日用品を売っている露店もある。屋台は何処も人だかりが出来ていて、店の人達は忙しそうに手を動かしている。


 周りの人に踏まれないように歩いていたが、店に近づくにつれ何を売っているのかが見えなくなる。そう、僕は身長があまりにも低いのだ。低過ぎて、僕からは人間の身長に合わせた台の上に置かれた商品が何も見えない。


 悲しい!こうなったら嗅覚だけが頼りだ!


 僕は鼻に全神経を集中させて、様々な匂いが混じる空気から情報を得ようとした。うん、美味しそうなお肉の匂いもするし、甘い匂いもする。後は人間の汗臭い匂いも…うへえ…


 僕は今猛烈にお肉が食べたいので、とにかく肉の匂いがする方に行ってみた。


 ここだ!と見上げてもやはり見えないが、多分ここが肉を焼いている屋台なのだろう。近くには串に刺さった大きな肉を手にした客がいる。そして、この店からは炭火焼きされた牛肉のような匂いがする。

 屋台の後ろに回り込めばそこは開いていて、タオルを頭に巻いたおじさんの背が見える。彼は団扇を片手で火を煽ぎなからもう片方の手で器用にくるくると串を網の上で裏返している。時折腕を持ち上げグイッと顔を拭っている。このおじさんが誤って焼いている肉を落とすのを待ってみるのもいいかもしれない。


 僕はそれから数分ジーっと狙いを済ませたパンサーのようにおじさんの背中を睨んでいた。


 このおっさん全然落とさねえじゃねえか!!プロかよ!プロだわ!


 違う店に行こうか本気で悩み始めたその時、運は僕の味方をしてくれた。おっさんが急に「アチッ!」と声を上げ、1本の串に指を当ててしまった。宙を舞う串がやけに遅く見えて、僕の足は勝手に動いていた。


 チャンスだ!!!


 落ちてくる串に向かってピョンと飛び付いた。ガシッとワニワニパニックの如し噛み付けば、歯が弾力のある物体に沈んだ。


 よっしゃああああ!お肉ゲットだぜ!!


 僕はおじさんの反応も待たずに肉を口にトンズラをこいた。


 ダッシュで人がいない市場の端っこの方に走り、壁と置物の間に潜り込んだ。丁度影になっていて、誰にも見つからずに食べられそうな場所だ。


 地面に食べ物を置くのは不衛生だけど、僕は動物(魔物?)になったので人間よりも菌に対する免疫力があると思いたい。そして、僕の手足は人のように動かすことはできない。これはしょうがないのだ!!


 ポトっと床に落とした肉に齧り付いた。シンプルに塩だけで味付けされた肉は柔らか過ぎず、ブチブチと繊維を引き千切れば濃厚な肉汁が溢れ出てきた。咀嚼しながらスモーキーな香りを吸い込めば、次の一口が待ち遠しくなる。


 バクガフッと鼻息荒く肉を貪っていたら、あっという間に目の前には木の棒だけが残った。催眠から強引に起こされたかのように、現実を認識しようと目を瞬かせる。


 もう食べ終わってしまった!なんで楽しい時間はこうも一瞬で終わってしまうのだろう?


 僕が世界の真理を問うて、哲学者になってしまう前に次の屋台を覗いてみよう。


 そこから僕はお腹が膨れるまで焼き鳥のような物、葉っぱに包まれたマッシュドポテトのような物、そしてよく分からない甘い物を食べた。もちろん、全て拾い食いだ。


 ああ、美味しかった!ご馳走様です!


 この世界の料理の材料は僕の前世の物と一緒かは分からないが、郷に入っては郷に従えってやつだ。全部美味しくて良かった。もしこの世界の料理が激マズだったら僕は絶望して森に戻っていたかもしれない。


 腹が膨れたところだし、暇を潰すために市場を見て回ろうかなー。


 食べ物以外にも様々な物を売っている露店がある。あまり近づき過ぎると商品が見えなくなる店もあるが、地面にシートを敷いてその上に販売品を乗せている店もある。ハンドメイド感満載な小物や謎の素材で作られたサンダル、色とりどりの布などが並んでいる。


 お。


 僕が思わず足を止めた先には、地面に置かれた籠に眠るピカピカと光を反射している沢山のガラスのような物で出来た球体。ここの店はアクセサリーや宝石などを売っているみたいだ。店の天井からは羽が付いたチャームがゆらゆらと揺れている。地面に敷かれた布の上には奇妙な形をした小さな置物なども置いてある。


 籠の中を覗き込んでみると、多彩なガラスのように透明な球がゴロゴロと入っている。決して高そうではないが、何処か惹かれる魅力を持つビー玉のようだ。山ほどあるビー玉の中から1つ、ラムネのような爽快感ある涼しげな青色が一際目を引いた。


 …こんなに沢山あるんだから、1つ減っても気付かないよな?


 …うん、絶対気付かない。


 窃盗は犯罪だ!でも、僕は動物だから人が作った法は僕には関係ない!


 店主さん、いつかお返しを持ってくるのでこのビー玉1つ貰います!


 僕は青のビー玉を咥えて、飲み込まないように気を付けながら廃墟の家に戻った。数時間前に寝るのに使ったベッドに飛び乗り、ポトっと口からビー玉をマットレスの上に落とした。


 キラキラ光る青は海のような深みではなく、寒い雪山の山頂から一望する空のような冷たさがある。氷を切り取って固めたようにも見えるビー玉に心が躍る。


 前足でコロコロと転ばせて、色んなアングルから光が当たる様を観察するのは本当に楽しくて、もう一度人生を送れることに感謝の気持ちが湧き出てきた。


 この町に来て良かった。森の中ではこんなに綺麗な人工物には出会えないだろう。


 折角この町に来たのだ、これからは町中の美しいものを見に行くとしよう!僕がいつ死ぬのかなんて分からないのだから、生きているうちにやりたいことをしよう!


 そう強く決意した僕はそれから似たような生活を太陽が5回落ちる間繰り返した。



 5日目の夜、深夜かもしれない。町は静まり返っていて、灯りを宿った建物が少ない時間帯だ。昼間に比べて少し気温が低く、快適に過ごせる時間帯だ。


 そんな夜に僕は町の外れにある池の中を覗き込んでいた。僕の住処にしている廃墟エリアからちょっと西に行った所で見つけた場所だ。とても静かで、1本の大きな木と池以外には周りに何もない。


 動かない水面をぼーっと眺めていると、小さな魚達が泳いでいるのを見つけた。


 魚と言えば、盗賊団の皆は無事だろうか?

 元気になっていたらいいな。まぁ、あの人達はちょっとやそっとでは死ななさそうな気もするけど。特に親方は。


 前足を池に差し込んでみたら、魚達が慌てて泳ぎ去って行った。ひんやりと冷たい水が気持ち良くて、パシャパシャと水を飛ばした。


 そんな僕のことをじっと見つめている人がいるとは知らずに、僕は呑気に深夜の池で遊んだのだった。




第1章13話を読んでいただき、ありがとうございます!

これから第1章の起承転結の「承」部分に入っていきます!


この物語がよかったら評価していただけると嬉しいです!

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