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キツネ転生者と騎士王子が世界を救う冒険物語  作者: 森野魚
第1章「始まりのセファルス大国」
13/16

12 良いマットレスを使えば睡質が上がるらしいよ

 僕がキラキラ輝く町にいた男を連れて、盗賊団の皆がルウモスと戦っている場所に戻った先では、エニスは意識を失っていて、何故か親方は戦闘に復帰していた。


 僕を見つけたイルの表情は安保に溢れ、皆が全滅する前に戻って来れたことに心底安心した。


 それからは早かった。僕が連れてきた男が皆の先頭に立ったと思うと、彼は2体のルウモスを瞬殺した。


 華麗な剣技に皆が言葉もなく立ち尽くしているのが分かった。

 僕が連れてきた男はとんでもなく強かったみたいだ。


 そして、彼は何と、不思議な力を持っていた!

 彼は人差し指を空に向けて立てたと思えば、その指先から光が勢いよく噴出して、上空に黄色に爆発した。


 凄い!こんな危機的な状況じゃなかったらもっと興奮していたのに!


 ルウモスという脅威が去った今、僕はエニスの元に駆けた。彼を抱きしめているフィンの目と鼻は真っ赤に腫れていて、僕が近くに来たことに気づいていないみたいだ。


 エニスの薄い胸は僅かに上下していて、彼が生きていることを証明していた。


 倒れ込んだ親方はまた意識を失ったみたいだが、1度目とは違い、今回は苦しそうに荒い呼吸を繰り返している。彼の眉間には物凄い皺が寄っていて、目を瞑っている重症者なのに顔がとてつもなく凶悪だ。


 そんな親方を背に担いだキラキラ男は、僕に話しかけてきた。さっき通った開けた場所に戻って、この人達をそこで治療したいらしい。


 僕も早く皆が苦しみから解放されて欲しいと思っていたので、身体中の疲れを無視して足を動かし、彼らを再び案内した。


 しかし、開けた場所へ向かう道中にへろへろに疲れているであろう盗賊団の皆が躓いたり何度も転けそうになっていた。それを見兼ねたのであろうキラキラ男が、1度休憩を取ることを提案してくれた。


 キラ男とイルが話し込んでいる間、僕はフィンの元に向かった。昨晩の親方の話から推測するに、フィンは僕が思っていたよりも若いのだろう。エニスよりも身長が高いので分からなかったが、彼がこの盗賊団の最年少なのだ。

 親方は20代後半に見えるし、エニスは10代後半か?そしたら、フィンは10代前半とか?


 …もし僕の推測が正しいのであれば、フィン…お前老けて見えるな。


 そんな子供のフィンをほったらかしにするのは心配で、ついつい様子を見に行ってしまう。鼻を啜る音と鳴り止まないしゃっくりに心が痛む。彼の脚の横に身を寄せるのように座れば、僕に気が付いたフィンの手が躊躇がちに僕の背を撫でた。彼の不安が少しでも取れたらいいなと思いながら、僕は動かずにじっとしていた。


 しかし、説明し難いことが起きた。それは、フィンに撫でられ始めて数分が経った頃だったと思う。背筋に電流が走る感覚がして、僕の耳はピンと立った。耳を澄ませば、遠くの方で人の声とパカパカとリズム良く鳴る足音が聞こえる。段々と近づくそれに、鳥肌が止まらない。頭の中で警報の音が鳴り響く。


 ヤバいぞ。何がヤバいのかは定かではないが、とにかくヤバい。本能が逃げろと叫んでいる。そして、僕は本能に忠実な猛獣だ。


 フィンが困惑の声を上げたが、僕は一目散に濃い茂みの方へと逃げた。その勢いのまま、木の幹に爪を引っ掛けて、枝の上に登ることができた。さすが僕だ。田舎で育った僕にとって、木を登ることなんて朝飯前だ。例え死んで生まれ変わって動物になっても、体は覚えているっていうことだな。


 僕が少し得意げにしている間に、こちらに向かってきていた人達が盗賊団を見つけたみたいだ。僕が登った木は枝が多く、葉が生えまくっているので視界が良好とは言えないが、辛うじて親方達が見える。斜め下にいる彼らは僕のことが見えないと思うけど。


 肩幅の広い男が馬に乗って登場した。デカい声で喋る彼の茶髪の髪は短く刈り上げられていて、イカつい。馬から降りた彼は身長が高く、全体的にゴツくて逞しい。何というか、ギリシア神話に登場してくる英雄ヘラクレスを想起させられる容姿だ。

 そんな男は、不思議な服装をしている。全身黒色なのだが、長袖のジャケットの襟は少し立っていて、金色のボタンが前を閉じている。特に特徴的なのは、男の肩から流れるマントだ。長い布の外側は濃紺色で、内側は真紅色だ。そして、それを黄金に輝くドラゴンの形をしたピンが胸元で留めている。見事な輝きを放つドラゴンの目には、これまた見事な色彩を持った紅玉がキラキラと存在を主張している。

 また、男の背中には黒の鞘に入った大剣が背負われていて、まるでーーまるで騎士みたいだ。


 この男はヤバい。圧が強くて、この人に見つかったら殺されると確信する何かがあった。


 彼の後ろから続いて現れた馬に跨った男達も似たような服を着ている。唯一違う部分はマントの色で、彼らのマントは濃紺色の1色だけだ。


 僕が町で見つけた男は白のフリルスタンドカラーの長袖のシャツと黒のパンツを履いている。耳の下辺りで短く切り揃えられた白に近い金髪は彼が喋る度にサラサラと流れている。こちらから見える横顔は男らしく整っていて、鼻筋が綺麗に通っている。

 彼を森に連れて行くのに必死すぎてちゃんと顔を確認していなかったが、この男、めちゃくちゃイケメンだ。

 しかも、身長が高い上に腕と脚がスラッと伸びていて、スタイルがいい。顔だけイケメンじゃなく、全身イケメンだ!何を着ても似合いそうな貴族のような見た目の男だ。

 僕は動物だから悔しくないもんね…

 そして、何よりも彼の瞳の色だ。氷のような冷たいアイスブルーが表情のあまり変わらない彼をより冷酷に見せている。とても綺麗な色彩で不覚にも見惚れてしまう。


 親しげにデカいマント男とイケメンが話していると、背の低い初老の男が走ってきた。彼のふんわりとした短い髪と長細い髭は同じ白で、顔の皺の数の割には動きが機敏だ。鼻と口が大きめで、彼から発されている荒い口調が似合うような顔をしている。タバコが切れた機嫌の悪いサンタさんみたいな感じだ。


 そんな子供の夢を喜んでぶち壊しそうなサンタは不思議な力を使って親方の傷を治した。イケメンが片手をサンタの背に置いてから少しすれば、サンタの手から淡い緑色の光が出てきて、親方の傷を包んだ。そして、みるみると親方の傷が塞がっていく光景に目を疑わずにはいられなかった。


 ファンタジーゲームでよく見る治癒能力だ!!


 ということは、このサンタとあのイケメンは魔法を使っているということになるのか?


 これは…凄い世界だ。


 なるほど、ファンタジー世界に生まれたのだったら色々と説明が付く。逃亡中の盗賊団や凶暴な魔物、魔法を使える騎士、治癒能力を持つ初老、そして僕の存在。全てファンタジー世界にいても違和感を感じないようなキャラクターラインアップだ。


 そう1人で納得していると、イルの大声によって思考が中断された。何だ何だ?と疑問に思っていると、イルは何と僕のことを庇ってくれているではないか!!


 騎士の人達に僕のことを討伐させないと宣言するイルの背中に思わず感動してしまった。最初に会った時はあれほど邪険な目で僕のことを盗み見ていたのに!今となっては僕のことを守ろうとしてくれるなんて!!


 これが俗に言うツンデレっていうやつか!


 なんか少しあのボサボサ頭が可愛らしく見えてきたぞ!


 意識を取り戻した親方も参戦してくれて、僕は更なる感動にジーンっと心が温まった。


 なんやかんや、あの人達は良い人達だよな〜。盗賊団で罪人でありながら、人間性はちゃんと持っている義理堅い人達だ。僕が今世で初めて会った人間がこの人達だったのは本当に幸運だ。


 威圧感が半端ないデカい騎士が豪快に笑ったことで話がまとまったみたいだ。やっぱり揃いの黒い服を着ている男達はセファルス大国の騎士団だったみたいだ。そして、あのデカいのが団長で、イケメンは副団長みたいだ。団長は親方を騎士団に勧誘して、そのまま彼を自分の馬の後ろに乗せていた。他の盗賊団のメンバーもそれぞれ違う騎士の馬の後ろに乗せられている。あのキラキライケメンは乗り手がいなかった1頭の凛々しい青毛の馬に跨っていた。


 彼らは町に向かうみたいなので、後をついていくことにした。盗賊団の行方も気になったが、なんとなくあのイケメンが引っ掛かった。彼の髪と瞳の色がとても綺麗で、目が惹かれたのだ。そんなアイドルのミーハーファンみたいな理由で、彼のことをもう少し見ていたいと思った僕は彼らと共に町へ向かった。


 今度は誰にも見つからずに立ちはだかるデカい門を通過したいなと願っていれば、本当に誰にも気付かれずに町に入ることが出来た。


 2度目の町を改めて見渡したら、中世ヨーロッパにありそうな全体的にベージュで屋根がオレンジに近い茶色の建物が並んでいる。まだ昼過ぎなのに、結構な数の人が外を歩いていて賑やかな雰囲気の町だ。


 周りの景色に目が奪われていると、前方からドカドカと重たい足音が鳴り響いてきた。音の方向を見れば、赤茶色の短い髪の男が太い眉毛を寄せながら騎士団の方へ足を強く踏み鳴らしながら向かってきている。この男も騎士服を着ている。顔は整っているのだが、全体的にヤンキーっぽい雰囲気がある。片耳に輪っかのピアスでも付けたらヤンキーの完成だ。


 そんな彼が進行方向に立ち止まった所為で、騎士団の皆は馬を止めた。


「おい、この町に魔物が現れたらしいな。ちゃんと討伐してきたんだろうな?」


 うわ、口を開けば益々ヤンキーだ。オラオラしてる。


「いや、していない」

「はぁ??」


 イケメンの返答にヤンキーは顔を思い切り顰めた。


「魔物1匹も討伐できないなんてやっぱり『第1騎士団副団長』の名は飾りだけなんだな」


 鼻で笑った男の言葉に対して団長とイケメン以外が反応を示し、空気がピリッとした。


「どうとでも言え。特定の魔物を討伐しない理由は第1騎士団ではない者には理解できないことだ」


 表情を変えずに淡々と喋るイケメンにヤンキー男は顔を歪めた。


「はんっ!流石、()1()()()()()()()はお気高い。いつまでもそんな態度でいられると思うなよ!」


 イケメンにガンを飛ばしたヤンキーは捨て台詞を吐き捨てながら、くるりと踵を返して去っていった。


「グレイ様を見つけたらいつもこれだ。よく飽きないよね〜」

「ああ、こればかりはどうしようもない」

「ハハッ!家族は大事にしないといけないからな!どんだけ弟が生意気なガキであっても!」


 弟?

 さっきのヤンキーはこのイケメンの弟だったのか。それにしても、髪や瞳の色が全然違ったし、一方的な邪険な態度も相まって一見2人は兄弟に見えなかった。


 まぁ、家族にも様々な形があるから、そんなこともあるか。


 騎士団が動きを再開したので、置いていかれないように身を潜めながら尾行した。彼らは町の大通りのような道を進んでいて、町の人々が結構な頻度で彼らに手を振っている。良いことだ。一般の人々から信用を寄せられている騎士団であれば、盗賊団の面倒をちゃんと見てくれるだろう。


 僕はザラザラしたタイルを足の下に感じながら歩いていれば、段々と人が少なくなってきた。僕達は大きな煉瓦造りの建物に近づいてきた。いかにも要塞らしい頑丈な建物が聳え立っていて、あまりにもファンタジーRPGに出てきそうな外観に僕は悄然と佇んだ。


 僕が呆気に取られている間に中央の閉じられていた門が開き、馬に乗った騎士団が中へと入った。


 流石にこの中に僕が入ったらまずい気がする。特にあの団長が居るのなら近くに寄らないほうが僕の身のためだ。


 盗賊団の人達のことが心配だけど、この町に居ればまた会えるだろう。


 名残惜しい気もするが、僕は門に背を向けた。もう盗賊団の皆は安全な場所に居るのだと考えると、なんだか気が抜けてきた。そして、身体の疲れがドッとのしかかってきた。


 ああ〜、疲れたよ。何時間走ったのだろう?もうクタクタだ。


 まだ外は明るいが、休息が取れそうな場所を探そうかな。


 あの危険が詰まった森に今から戻るのは絶対に嫌だから、この町の中で僕が休憩できる安全な場所はないかな?


 お約束通り、キラキラとした細い線が宙に浮かび上がって、僕に進むべき道を示してくれている。


 僕の不思議な力に感謝をしながら線に従って進めば、町の外れみたいな場所に辿り着いた。ここは森の近くで、周りには古くて崩壊しかけている建物がポツポツとある。辺りは静けさに包まれていて、誰かが最近ここを訪れたような形跡は見当たらない。キラキラした線は廃墟みたいな家の中に繋がっているので、素直に入っていった。建物に入れば線が中で途切れていたので、ここが僕が安全に休憩できる場所なのだろう。少し埃っぽいが、窓が割れているお陰で風通しは良い。奥の廊下を進めば、手前の部屋にベッドを見つけた。意外と状態が良くて、マットレスにカビが生えているようには見えない。他人のベッドに土足で入るのは抵抗を感じたが、僕は今獣だから土足とかクソもないわ!と思い出してジャンプをした。


 前世ぶりに乗ったベッドは最高に柔らかかった。


 ずっと地べたの上で寝てたから忘れていたが、やっぱりベッド3150(最高)!!


 前足で布を掘って、何回かクルクルと回転していれば、下のマットレスが僕の体の形に窪んだ気がした。そこに寝転べば満足のいく寝床が出来上がっていて、鼻がふすーっと鳴った。


 丸まった体のまま静かにしていたら、段々と眠気がしてきた。


 お腹も減ったけれど、今から食べ物を探すのも面倒だし、それは明日にしよう。


 今日はもう寝よう。


 睡眠欲に身を任せた僕は深い深い眠りに落ちた。


 こうして今生で1番走った日が終わった。




第1章12話を読んでいただき、ありがとうございます!

今回は主人公視点の話でした。現生の主人公はまだ名前が付けられていないので、一人称で話を書いていますが、名前が付けられたら三人称でも話を書きたいなと思っています!


この物語がよかったら評価していただけると嬉しいです!

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