09 生きていなければ、問いへの答えは得られない
イル視点です。
小さな魔物の後ろ姿を見ながら歩くのは何とも言い難い気持ちにさせられる。
何故かと言うと、コイツの主人は貴族なんだろうなと思いながらも今の俺達は頼る他ないと分かっているからだ。
俺は貴族が嫌いだ。ロウルはお頭が奴らに殺されたからだと思っているが、俺はあの事件よりも前から貴族が嫌いだ。俺の貴族嫌いには様々な理由があるが、1番は貴族はいつも口だけだからだ。
アイツらはいつも「民のため」だと言いながら、心の中ではその「民」を見下している。貴族は他の貴族にしか興味がなく、アイツらは俺達の生きる世界から自ら己を切り離している。金はいっぱい持っているのに全て自分達の名誉や尊厳を守るためだけに使い、民のために使う奴なんていねえ。アイツらが1人でも俺達が住んでいた裏町のために金を使っていたら…
民のために何もしない貴族なんて国に必要ない。
いつもいつも言うことだけは立派で俺達を期待させるだけさせて、約束を守ろうと努力もせずに悪びれもなく約束をしたこと自体を忘れる奴らだ。
そんな嫌いな貴族だが、アイツらは国によって特色が違うらしい。テムテ小国の貴族共は金に縋り付く醜い奴らだけれど、俺達が今いるセファルス大国はその正反対だと言われている。
セファルス大国はこの大森林があるため、民が住まう街などでの魔物被害が他のどこの国よりも多い。そのため、昔セファルス大国には魔物を討伐しに強者が集まり、その中には強い兵士を育てるために力を尽くした者もいたらしい。
そんなことがあったためか、セファルス大国の貴族達は金よりも武力を優先する傾向がある。
そして、セファルス大国には魔術師を保護・育成する高度な施設がある。セファルス大国では、素質ある者が「魔術師」として名乗り国内で活動するためには、その施設で数年学び、訓練をして免許を取得しないといけないのだと噂で聞いたことがある。もちろん施設にいる間、国から手厚い支援とサポートを受けるらしい。そんな充実した制度が存在するためか、現在セファルス大国には魔術師が7人いる。
セファルス大国の現国王が魔術師であることが有名であるように、7人の魔術師の大半は貴族だ。
だから、俺はこの『魔の巣』で出会った魔物の主人は貴族だと考えている。使い魔契約は魔法による魔物と人の間で結ぶ縛りだ。恐らく魔術師でなければ使い魔を得ることはできないのだろう。セファルス大国の7人の魔術師の1人が主人なんだと思うが、現国王でないことを切実に願っている。
まあ、もしセファルス大国の王に使い魔がいれば直ちに世界中に知らせが行くのが容易く想像できるので、恐らく違うだろう。
それにしても、本当にコイツは何ものだ?
尻尾がついた小さな赤色の毛玉が歩いているようにしか見えない魔物を見つめる。
昨夜、ロウルが寝ているチビを抱え上げたがソイツは目を覚まさなかった。
普通の魔物は警戒心がひどく強く、人の気配に敏感だ。人が近くにいるだけで逃げるか攻撃をしてくる奴らだ。そう知っているから尚更コイツの異質さが際立つ。
コイツは警戒心のかけらもない。俺達と初めて会ってから1日しか経っていないのに、もうロウルには気を許しているみたいだ。昨日はロウルの膝の上に乗せられて大人しく撫でられいたし、今もロウルの姿を確認しながら彼の少し前を歩いている。
使い魔と言えど、魔物がこんなにも人間慣れするものか?
公表していないだけで、セファルス大国には魔物を服従させる技術があるのかもしれない。魔物に関しては1番情報を持っている国だ。それに合わさって国内に魔術師が7人もいれば、魔物を飼い慣らす方法を見つけていてもおかしくはないかもな。
そんなことが本当にあれば、世紀の大発見だけどな。
そして、何よりもコイツの主人は一体何処で何をしてるんだ?
この大森林の中にいるのか?
近くに俺達以外の人がいる気配はないし、誰かに見られている感覚もしない。もしも近くにいないのなら、使い魔を自由に行動させても大丈夫だと思うほどコイツを信頼しているのか?
確かに、人の言葉を何故か理解できているし、俺達と意思疎通ができる。こんな魔物に会ったのは初めてだ。見たことがない魔物の種類である上に、人間並みに知能が高い。
本当に奇妙な存在だ。
考えれば考えるほど答えの分からない疑問が湧き出てくる。それに対して不安を感じるものの、早くこの森から出てセファルス大国の謎について知りたいとも思う。
俺の思考は「コン!!コンコン!!」という騒がしい鳴き声によって邪魔された。前を歩いていたはずの魔物がロウルの足の間に隠れ縮こまっており、何かに怯えているかのように1箇所に向かって吠え続けている。
嫌な予感がする。
「魔物か?!」
「武器を取れ!!」
ロウルが指示を出した直後、森の空気が変わった。
肌が粟立ち、足が竦む。
「チッ、囲まれてる」
「いつの間に…!」
俺は自分の剣を鞘から抜き、前に構える。
俺達の進行方向にある茂みが揺れ、皆が息を呑みながら待ち構える。
灰色の毛並みの長い牙が生えている魔物の頭がヌッと茂みの間から現れた。
ルウモスだ。
ソイツの目が俺達を捉えた瞬間、俺達に殺意を剥き出しながら唸ってきた。
すると、俺達の左右から1匹ずつ、後ろにも1匹のルウモスが現れた。
「もしかして、昨日殺った奴に仲間がいたのか?」
「クソッ!最悪だ!」
「多いでい」
「どうするんすか、親方!」
「殺られる前に殺るしかねぇだろ」
剣を構えながら横に立つロウルの顔を見る。
くそっ、本当に最悪だ。
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