1番 すべての幕開け
ふと眼を開けたら、私は暗い洞窟の中にいた。
(……え、やだ、また?またこの夢?)
洞窟を照らす唯一の光は、胸に下がる赤色のペンダントだけ。しかしそれも、足元を照らすのもままならない、かよわい輝きしか放っていなかった。
「早く、早く走って!」
私の横から、女の子の声がした。しかし、姿はぼんやりとした影のようだ。声は洞窟との壁に反射して、当たりいっぱいに響き渡った。
それと同時に、後ろからおぞましい笑い声が聞こえた。
「ははは……いつまでにげる?無駄だということが分からないのか」
その声も女の子の声のように響いたが、おぞましいそれはぐオオ……と、まるで魔物の雄たけびのようにに響いた。ひょっとしたら、ほんとに魔物の雄たけびだったのかもしれない。
生ぬるい風が、私たちを吸いこもうとしていた。足が少しずつ、引っ張られていく。
(に、逃げなきゃ……。え、足が……動かない?)
いきなり体が重くなり、思うように足が動かない。焦って動かせば、余計に重くなってきた気もしてくる。
「あ~もう!遅いなあ。毎回のことで、なれちゃったけどね」
いつのまにか、女の子とは反対側に、影っぽい男の子がいた。
足 すくんでるの?そういうと、男の子は笑った。もとい、笑ったような声がした。姿がよく見えないし、ほんとに笑ったのかは分からない。
「しゃーない。俺が助けてやろう!」
そういうと、男の子が何か言葉をつぶやいた。しかしその言葉はなぜか耳に入らずに、すぅっと頭から抜けて行った。……なんか、外国語?いや、違う。あれ?なんでだろう?どこかで聞いたことがあるような……。
「どう?軽くなった?」
男の子からそう言われて、始めて自分の足からあの変な違和感が消えたのを感じた。
ぐオオーという音が、次第に遠ざかっていく。それと同時に、ヒューという風の音がし始めた。
「ちょっと、走るなら言いなさいよ!おいて行かれちゃったじゃない!」
後ろから、さっきの女の子の声がする。
(あれ!?私、走ってるの!)
「今気づいた?走ってるってこと」
男の子が、ニコッと笑って言った……ように感じた。
「もうすぐ『門』に着くはずよ!」
後ろから声が聞こえ、そしていきなり風がやんだ。もう、魔物の雄たけびは聞こえない。どうやら、相当遠くまで来たようだ。
目の前には、見上げないといけないくらい大きな扉があった。女の子も追いつき、三人並んでそれを見上げる。
(いつもはここで、目が覚めるんだけど……?)
目が、覚めなかった。
「ついに、この扉を開く日が来たか」
いつもとは違う、新しい夢の中身だった。
「長かったわ。ついに、ここが半年もかかった、長い長い旅の終着点なのね」
大きな大きな、扉。こう、まじまじと見るのは初めてのような気がする。いつもしっかり見る前に、起きてしまうから。
ぎいい……と音を立てて扉が開く。光が扉からあふれ出す。すると、男の子と女の子の姿が浮かび上がった。一瞬だったのでよくわからなかったが、男の子はすごく身長が高く、赤毛混じりの茶髪だった。女の子は、私と同じくらいの身長だったけど、銀髪の長い髪だった。
風が強く吹く。女の子の髪が、風でひるがえった。光もどんどん増していく。まぶしくって、思わず私は目をギュッとつむり、腕で目を覆った。とじた瞳の中まで、光がさすように入ってくる――――。
1番見ていただき、ありがとうございます。のろのろ更新ですが、2番も見ていただけたらうれしいです(*^_^*)