ランニング68:二つの訴えと、半神との初の対決
ツカサとドゥヘラナをホピア連合王国の次代に決めてから三年ほどが経ち、最初に生まれた子供のノゾムとヒカリは十歳の誕生日を迎えて、国を挙げて祝ったのは良いのですが、二人の学友達からの婚約アピールが激し過ぎて、二人ともだいぶ疲れて当分婚約者は決めたくないとぼやいてました。
まあ、二人とも特殊な祝福を受けた子供という話は大陸中で知らない人の方が少ないくらいなので、ホピア連合王国内やキゥオラ王国内だけに留まらず、貴族を始めとした富裕層から平民に至るまで、ぼくの倍以上の年の人からまだ五歳くらいの子供まで、幅広い年代から熱心な申し出が数え切れないくらい来たので、当人たちやポーラやリーディアやその家族や家臣とも相談した上で、最終的には本人の希望が重視されるものの、当人達の年から五歳差を年齢の限度とし、二人に婚約を申し出て一度でも断られてもしつこく付き纏う者はホピア連合王国から追放処分とし、その友邦や盟邦の国々からも厳重な処罰が下される沙汰が正式に告知されて、ようやく申し出は百分の一程度には減りました。それでも諦めずに追放されたり罰を受けた人が軽く三桁以上出て、実力行使に及ぼうとした悪質な者には、その執着を断ち切る処置をしたりもしました。
段々と機械知性体の先遣艦隊が到着する日が近づいてきてましたが、二つの訴えがぼくの元にまで届きました。(子供達の婚約者絡みでは無い物です。そういったのは子供自身から話が来ない限りは受け付けないと言明して徹底させてましたので)
訴えの片方は、ダイチ大公領の領都ソユートから大島に支店を開いてくれた宿屋、青髭亭支店の若女将となっていたミレッタと結婚したウルカノスという青年と、その母親で、宿の従業員として働いていたセルシャという女性の出自である、旧ジョーヌ大公領東部に存在していたハシェル子爵領の復活についてでした。
ポーラのお姉さんであるアマリさんの旦那さんのエピラッハさんから相談も受けてたのだけど、子爵家を継げる立場にいる当人達が乗り気でなくて、でもその子爵家に仕えていた人達の生き残りやその親族などから粘り強い説得と協力要請を受けて、子爵家の復活ではなく、当地の代官という身分でならどうかという線で調整に入っていた、のですが。
ちょっと予想外のトラブルに巻き込まれていたことが後から判明して、それが結構な騒ぎにつながったりもしたのですが、少し込み入った話にもなるので詳細については後回しにします。
もう片方の訴えは、四人の宰相の内の唯一の女性宰相であるウルウェイグさんを巡るトラブル?で、ウルウェイグさんが離婚した元旦那がしつこく復縁を求めてきてたのと、四人の宰相の一人で、ウルウェイグさんに仕事の同僚以上の感情を抱いていたキフォサイトさんがウルウェイグさんに正式に求婚したけど断られた事で、元旦那とキフォサイトさんの間に諍い以上の関係性が生まれてしまった件です。
ウルウェイグさんとしては元旦那のメルクワ・ディスターヴという人と復縁するつもりは皆無で、彼が属するドースデン帝国にも適切な対処をお願いしてあったのですが、アイが皇帝ヴィヴラくんに輿入れしてダイチ大公家の発言力が強まり過ぎる事を懸念する貴族一派が、ウルウェイグさんというホピア連合王国宰相の一人とドースデン貴族が縁を結び直せれば、それを影響力の交換条件として要求して話がこじれていってしまいました。
アイとしては、ヴィヴラ君その人に特に不満は無いものの、あまりに状況が悪くなるなら婚約を見直すとまで公言して、婚約者で皇帝のヴィヴラ君だけでなく、母親のピージャや父親のぼくにも重めの相談が上がってくる事になった訳です。先代皇帝だったプロティアさんは、ヴィヴラ君即位の翌年には亡くなられていて、ぼくはヴィヴラ君を支えるよう何度でもプロティアさんからピージャ共々頼み込まれて了承していた立場なので、今更アイとの婚約見直しをするというのも現実的な選択肢ではありませんでした。
さらにそこに、ぼくにあまり良い感情を持ってないデモント教徒達が、執着を切るほどの直接的な害意は抱いてないものの、ぼくやその血統の者達がドースデン帝国をも行く行くは支配するつもりだとか陰謀論をぶち上げて、一部の貴族がそれに乗っかる事で、事態を更に重めにしてくれてました。
とはいえ、ぼくにそんなつもりが無い事は皇帝のヴィヴラ君を始めとした選定侯やドースデン帝国中枢部の皆さんは認識済み(やろうと思えばデモント選定侯領都を滅ぼした後に、帝都でも他の都でも好きに滅せたのですから。いつでも)なので、帝国国内の事に関しては基本的にお任せしました。
ややこしい事態であればあるほど、簡単な事から済ませていくのが大事と、ぼくが愛読してたラノベ主人公達から教わっていたので、ウルウェイグさんとの個別面談から済ませる事にしました。彼女の家族の意見も聞く為に、娘さんのエーミヤちゃんにも同席してもらいました。
「何度も私事で大王様を煩わせてしまい、申し訳ございません」
「いいよ。ウルウェイグさんは連合王国にとって大事な人だし、エーミヤちゃんも身内になるかも知れないしね」
「ありがとうございます、大王様」
エーミヤちゃんも十二歳になり、アザーディアさんとの間の息子、ラルクを将来の相手としてずっと付き合ってきてて、ぼくとアザーディアさんは、ラルク本人がそう望むのであれば反対はしない事になってて、ほぼ婚約が内定してる状態でした。公表はラルクが十歳から十二歳の間に行う事にしてました。当人が望んだタイミングで。
「それで、これまでの面談でも聞いてた通り、別れた旦那さんとの復縁は望んでないって事でいいよね?」
「はい。天地がひっくり返ったとしても、私の意思は変わりません」
隣に座ったエーミヤちゃんも頷いてたので、二人の意思は統一されていて変わらなそうでした。これまでと同じく。
「了解。そちらについては、基本的にホピア連合王国としては、ドースデン帝国内の問題として対処を改めて依頼済みだよ。宰相本人の意思を尊重して、復縁を認めるつもりは無いし、アイの輿入れとの交換条件の様な縁組を受け入れるつもりも無いとも伝えてある」
「ありがとうございます」
「じゃあ復縁に関しては無いという事で良いとして、キフォサイトさんとの話なんだけど」
「彼は良き同僚ではありますが、それ以上の存在ではないし、そうするつもりもありません」
これまでにもちょっと話題に上った事はあったけれど、これまで以上に即答で、キッパリとした断言でした。
が、念の為の確認もしておく必要もありました。
「宰相同士が結婚したら、四人の輪番で回してるバランスが崩れてしまうからとかを気にしてるせいじゃないよね?」
「違います。彼は、もし私と結婚できるのなら、自分が宰相の座を降りるとまで言ってくれてましたが、私にその意思が無い以上、彼がそうする必要も無いので」
ウルウェイグさんの意思は固そうで揺るぎなさそうに見えましたが、もう片方の当事者であるキフォサイトさんから受けていた相談についても伝えておきました。
「キフォサイトさんからは、あなたに振られたら潔く宰相の座を降りるから、他の誰かを探しておいて欲しいとも言われてるんだけど」
「私に気兼ねしての事なら、やはり不要です。これまで通り、同僚として振る舞えるのなら、私はそれ以上を望みませんので。レロンゾがそろそろ歴史家の役割に集中したい意向を示して後継者の選別に入っていますから、時期的にも望ましく無いでしょう」
「立候補してくれてる人はたくさんいるから、また選ぶのが大変そうだけどね。じゃあ、これからキフォサイトと話すから、その間別室で待ってて欲しいんだけど、ウルウェイグさんから何か伝えておきたい事はある?」
「特には・・・・、いえ、彼にも多くの縁談話が持ちかけられていると聞いておりますので、その中から良いお相手をお選び下さいと。これまで何度もそう伝えてはいましたが」
「分かった。伝えておくよ」
それからウルウェイグさんとエーミヤちゃんは席を立って退室し、かけたのだけど、その間際に、ウルウェイグさんが気掛かりなことを言いました。いつも冷静沈着な物腰が崩れないウルウェイグさんが、悩まし気な様子を見せるだけでも、何がそうさせているのか気になりました。
「後、これは世迷いごとの類の話かも知れないのですが」
「ウルウェイグさんが気になった事なら、何でも教えておいて。もし外れてても、その可能性について考えなくて済むようになるかも知れないし」
「・・・キフォサイトは、私に心を寄せながらも、表向きには身を慎んできました。その彼が態度をあからさまにしてくるようになったのは、元夫からの復縁要請や、キフォサイトに寄せられている縁談話をこれ以上引き延ばせなくなってきたせいなどと考えていて、それらは外れてはいなかったものの、それらだけではなかった様です」
「というと?」
「夢を、見るようになったと、彼は言っていました」
「夢って、眠ってる時の?」
「はい。彼が私に改めて告白し、思いを告げてきてくれたのを、はっきりと断った時に、ほろ苦い顔で、やはり夢の様にはいかないかと言っていて、話を聞いてみれば、いつの頃からかははっきりしないものの、私と夫婦となり、エーミヤとも良い関係を築き、私との間にも新たな子に恵まれ、とても幸せな日々を過ごしていたと。夢の中で」
「・・・・なるほど。関係があるかは分からないけど、話してくれてありがとう」
「それでは失礼します」
ウルウェイグ親子が退出してしばらくしてから、係の人がキフォサイトさんを呼んできてくれました。
三十代に達していたキフォサイトさんは、最初に会った二十歳の頃よりもだいぶ大人びて精悍な顔付きになっていたのですが、ここ数ヶ月でだいぶやつれてしまってました。ホピア連合王国の若き宰相の一人としての貫禄が付いてきていた筈が、水に濡れたカラスの様に(比喩ですが)、打ちひしがれて絶望している様に見えました。
そんな心配になる状態では、いきなり重い話題には入れなかったので、取り留めもない雑談を少し挟んでから、遠回しに本題に触れていきました。
「でさ。さっき、ウルウェイグさんとも話してたんだけど」
「は、はい!その件については大王陛下のお手を煩わせてしまい申し訳ございませんでした!彼女に責は一切ありませんので、この私めが潔く辞めて、彼女の前から去る事をお許し下さい!」
「いやいや、ちょっと待って。先ずは落ち着こうか」
まだ連合王国の大王なんて立場に慣れたとか貫禄がついた様な自覚なんてありませんが、テーブルの上に用意されていたお茶に口をつけて、一息挟みました。キフォサイトさんも僕に倣ってくれたので、その間にさっき聞いた事を彼にも伝えました。
「これまで通りの同僚として接してくれるなら、彼女の方は大丈夫だって。ぼくも、キフォサイトさんにはこれからも宰相として働いて欲しいと思っているよ」
「・・・御心は非常に有り難く。しかし、これまで通り振る舞えるのか、私には自信が持てないのです」
「ウルウェイグさんと出会ってからもう十年以上になるんだっけ? すぐには難しいかも知れないけど、時間をかければ、また以前と同じ様に働けないかな?」
やつれたキフォサイトさんは、恋に破れて苦しむ男性として絵になってましたが、当人にとってはそれどころじゃないし、ぼくやウルウェイグさんからの申し出も傷口に塩を塗ってるだけかも知れませんよね。
キフォサイトさんがじっと考え込んだので、ぼくはしばし待ってみてから、無責任かも知れない提案をしてみました。
「キフォサイトさんにも縁談はたくさん持ち込まれてるんだよね?」
「はい。ですが・・・」
「他の誰かと結婚したという体裁を固めた方が、ウルウェイグさんにとっては安心材料になる。けど、その為だけに結婚したり、その相手を利用するのは失礼だからそうしたくもない?」
「おおよそ、その通りでございます」
「ふむ。ぼくも、その為だけにキフォサイトさんに意中に無い誰かと結婚しろなんて無理強い出来ないし、そうするつもりも無いんだけど、そのおおよそ以外の部分を訊いてもいい?」
「他ならぬ大王様のお望みとあらば。とはいえ、そう難しい事ではありません。これほどまでに恋しく、我妻としても望んだ相手を目の前にする日々が続いていけば、諦める事は難しそうだからでございます。だからこそ、未練を残さぬ為には、今頂いている地位を返上し、彼女を目にしないで済む場へと移り住む必要があるのです」
う〜ん。言ってる事自体には筋が通っているし、誰にも、特に恋してしまった相手に迷惑をかけたく無いから、未練を残したく無いから、今の立場から去ろうとしているのは分かる。分かるんだけど、ウルウェイグさんの元旦那さんからの復縁請求とか、キフォサイトさんに来てた縁談とかが絡んでるにせよ、恋心を抱きながらもうまくやってたキフォサイトさんの姿からすると、ちょっと違和感を感じました。
その一押しを与えたのが、ウルウェイグさんから聞いた夢なのかも知れないと思えたので、キフォサイトさんから話を聞いてみることにしました。
「はは、お恥ずかしい。そんな話まで彼女から聞かれたのですね」
「まあ、ほんの触りだけだけどね。もうちょっと詳しく、どんな夢を見る様になったのか、それがいつ頃からだったのか、教えてもらえるかな?」
「見始めた頃ははっきりとはしませんが、おおよそ三年ほど前でしたでしょうか」
「ふむふむ、続けて」
「ええと、詳細については、出来れば、ウルウェイグには伝えないと約束して頂けると嬉しいのですが」
「その必要が出て来たとしても、ぼかして伝えるとは約束するよ」
そして渋々とだけど承諾してくれたキフォサイトさんは話してくれました。
「始まりは、たぶん、私の告白を、彼女が受け入れてくれたところからだったと思います。彼女は、打ち明けてくれるのをずっと待ち望んでいたと。真逆の結果が、現実が突きつけられている今の状況からすれば、妄想が凝り固まっただけだったのでしょうが」
「反省や評価とかは今は要らないから、どんな夢を見て、どんな印象を受けたのかだけを教えて」
「はっ、失礼しました。それで、ええと、私の告白を受け入れてくれた彼女と、その、とても情熱的な夜を過ごす様になり、それがとても生々しく艶やかな感触もある夢でして・・・」
それから、しばし半同棲というか、彼の部屋に彼女が通ってくる日々が続いてから、エーミヤちゃんにも再婚相手として改めて紹介されて、家族ぐるみの交際が始まって、ぼくの結婚の承認も下りて、結婚してからの日々は本当に幸せで、夢が覚める度にどちらが現実の日々か迷うくらい克明で、ウルウェイグさんがキフォサイトさんの子供を孕って、息子が生まれて、赤ちゃんとしての重みも、すくすくと育つ日々と並行して、夢では無い日々ではウルウェイグさんの離婚相手からの復縁請求が来たり、母国キゥオラから親も断りにくい縁談が幾つか持ち込まれて、返事を引き延ばすのにも限界が来ていて、ウルウェイグさんに告白せず、彼女が望まぬ鞘に戻されてしまう悪夢も見るようになってしまい、どうして告白してくれなかったのかと夢の中の彼女からも責められたりもして、とうとう、現実の彼女に告白するまでに至ったとの事でした。
いろいろ言いたい事はあったし、そういうことは起こり得ると元の世界でもネットとかで見かけたりもしてましたが、真っ先にやらないといけない事は決まってました。
ぼくは、キフォサイトさんの腕を掴むと、問答無用で、機械知性体の始祖にしてその宗主国を統治するミ・クレーマ・ディ・ヴィルさんの所へと直接転移しました。彼にも異変があれば伝わるようにお守りサイズのクリスタル・ゴーレムは渡してあったので、目印の座標、ディ・ヴィルさんの目の前へとキフォサイトさんと出現しました。
彼は、おそらく他の特級個体達との会議中だったようで、ぼくら二人は会議室の机の上に現れた格好になり、大変なサプライズをもたらしてしまいましたが、取り急ぎ要件だけは先に伝えさせてもらいました。
「突然お邪魔してすみません!けれど、半神絡みで至急のお願いがあって来ました!」
「承知しました。皆、この会議は一旦順延する。後でまた必要に応じて再招集するからそのつもりで待機してくれ。ただし半神対策チームに所属する者は私達に随行し、必要な部署や担当者へ即時最優先でタスクを割り振るように」
ディ・ヴィルさんは驚きつつも最速で対応を開始してくれたので、別の部屋へと誘導されながら、端的な補足だけ伝えました。
「以前、精神操作とか半神にされたのは後から打ち消せる様な話をされてましたよね?まだ確定はしてないのですが、その疑いが生じたので連れて来ました」
「なるほど。詳細については、専用の施設に移動してからの方が良いでしょう」
という訳で、おそらく転移用の小部屋に到着して、ディ・ヴィルさんが何かを空中に告げると、別の施設の、何に使われるのか想像もつかない機器がみっちりと詰め込まれた一室に転移していました。そこで担当者らしい上級個体達が駆け寄ってくると、ディ・ヴィルさんは厳かに告げました。
「第一級非常事態を宣言する。精神操作系の特質を持つ半神への防御を特に、次いで時空間に干渉する半神への防御も同等に展開。全星系にも予め伝えてあった対策コードに従い備えるよう伝達せよ。これは訓練ではない」
室内の照明が青から赤に変わったりサイレンが鳴り響く様な演出はありませんでしたが、室内に何らかのシールドが張られた様でした。上級個体の皆さんはディ・ヴィルさんに恭しくお辞儀をして、それぞれに任されてるタスクに従い動き始めました。本来なら、わざわざ音声言語化しないでも指示は伝えられたのでしょうけど、ぼくらの為にそうしてくれたのでしょう。
それからタイムスリープに使われてたのに似たカプセルに誘導されて、先ずはキフォサイトさんが入って、検査を受けつつ、記憶も辿られながら、ある意味恥ずかしい場面の全記録も撮られるという羞恥プレイも入りましたが、ディ・ヴィルさんがどんな存在なのかはキフォサイトさんも知っていましたので、お医者さんの質問に答える患者という感じで、淡々と答えるよう努めてました。
さすが億年単位の技術文明の集積なのか、十分にも満たない問診と検査から、結論が告げられました。
その前にぼくにも一つ質問されましたが。
「カケル大王には、探す対象が存在していれば探し出せるスキルも、自らに危険が及ぼうとしていれば察知できるスキルも備わっているのでしたな?」
「はい。前者のスキルは、前回こちらに来てからは条件を変えて毎日の様に、後者の方は受動的な物なので意識して発動は出来ませんが、どちらも、このキフォサイトさんにはヒットしませんでした。半神の影響を受けている者という条件でサーチもしていたのですが」
「なるほど。では、完全では無いにしろ、あなたのスキルを掻い潜る何らかの手段を半神側が得たのでしょう。そのサーチというスキルを、この方に対して再度試してみて頂けますか?」
「はい。こちらに来る前、このキフォサイトさんと面談を始める前にもサーチスキルを試して反応が無い事は確認してあったのですが・・・」
うん、まあ、ここまでの流れから予測された通り、ほんの僅かにですが、何らかの影響を受けている反応が得られました。ついでに、その相手となった半神が今どこにいるかもサーチで探しておきましたが、ホピア星のある方ではありませんでした。まあ、数十億光年以上をひょいひょい転移可能な半神と組んでれば、現在位置なんて大した意味はありませんでしたが。
「反応、僅かですが、感じられる様になりました。この部屋とか建物、あるいは星とかで、その干渉を妨げる様な処置が施されているからでしょうか?」
「それらと、私が側にいるせいもあるかも知れませんが、この方への処置を進めてしまっても構いませんでしょうか?」
「ええと、処置をすると死んでしまったり、廃人になってしまったりしないのであれば」
「問題ありません。もし悪くても、半神からの干渉を受け始める前の人格に戻るだけです」
問題無さそうに聞こえましたが、処置を受ける当人にも訊いておきました。
「という訳だけど、進めてもらっていい?」
「構いませんが、一つだけ、もし可能なら条件を付けられますか?」
「どういう条件?」
「干渉を受けていた間の記憶は、消さないで頂きたいのです。忘れてしまっても、他の人の間に当時の私の記憶は残るのですから、自分だけ忘れていても弊害だけが残ります。反省も前進も出来なくなるので」
それだけでは無いかも知れませんが、ここでは口にせず、ディ・ヴィルさんが頷いてくれたので、処置をそのまま進めてもらいました。技術程度が高いせいか三分もかからず終わりましたが、干渉されていた影響を取り除くだけならほぼ即時に完了したけれど、再度の干渉を受けない様にする予防措置の方がむしろ処置時間の大半を占めていたそうです。
「えーと、何か変わった?」
処置を終えて、カプセルから出されたキフォサイトさんは複数の上級個体や特級個体にしばし囲まれていましたが、処置後の状態に問題が無いと判断されてから、尋ねてみました。
「若干、頭の中がスッキリした様な気もします。状況の変化もあったにしろ、せっかく我慢していたウルウェイグへあの様に無様に迫るなど、本当に、恥ずかしい真似をしてしまいました」
両手で顔を覆って恥じ入るキフォサイトさんの姿はどこかの誰かに需要があるかも知れなくても、ぼくにはありませんでしたので、ぼくのサーチスキルでも改めて問題が感じられないのを確認してから、ディ・ヴィルさんに相談してみました。
「これ、彼に限らず、他のみんなも検査受けておいた方が良いでしょうか?何なら、一人ずつここに連れて来れますけど」
「後日そうする必要性が生じるかも知れませんが、今はカケル大王お一人だけで良いでしょう。それが最優先事項です」
「なるほど、それは確かに」
自分がスキルを使っても気付けなくなっているのなら、いろんな前提がひっくり返ってしまってる緊急事態で、自分自身が半神の干渉と影響を受けているのならその解除以上に優先すべき事なんてのも無い訳で。
幸い、ぼくの検査で異常は検知されませんでしたが、それはそれで幾つかの新たな大きな疑問を明らかにしてくれました。
「ディ・ヴィルさん、もし知ってたら教えて欲しいのですが」
「私が知っている事であれば、何なりと」
「神様って、自身が創造した世界では、絶対的な存在ですよね?」
「基本的にはその筈ですが、時には例外も生じます」
まあ、ぼくの子供として生まれてきて休暇取ってるせいなのかどうかは不明ですが、特殊な状況である事は確かです。
「どんな例外が有り得るんですか?」
「理論的に、世界は無数に存在し得ると証明されていて、あなたはその生き証人でもあります」
「なるほど。神様と神様同士なら、って、でも、それぞれが創造した世界の内側では絶対的な存在なら」
「そうですね。あなたはもうほとんど答えに辿り着きかけていますが、この場でそれを口にしないでおいた方がよろしいでしょう」
世界と世界が隣り合う細胞の様なもので、神様が欠かせない細胞核の様な存在だとしたら、その隙間とか外側も存在する事になるのかな? でも、そんな絶対的な存在がありふれてるのなら、世界なんて生まれたり育まれたりしないよね?天体一つが生まれるまでに数十億年かかったりもするんだし。
大事なヒントはもらえたので、また一つお願いする事にしました。一つで済むかどうかは怪しかったのですが。
「ディ・ヴィルさん、この部屋の装置丸ごとというのは無理でしょうけど、半神やそれ以上の存在から干渉を受けているかどうか、検知できる様な装置とかあったら、お借りする事は可能でしょうか?」
「カケル大王のホピア連合王国の情報は前回訪問時に頂き、いずれこの様な機会もあろうかと準備しておいた物がありますので、そちらをお持ち下さい。使い方などは、そちらの特級個体リロイ殿に必要な情報をお渡しします。対半神に有効かも知れない装備で、そちらの環境でも製造・運用可能な物の情報も含めておきました。また、リロイ殿自身の機能更新や性能更新に必要なデバイスの類も用意してありますのでお持ち下さい」
機械知性体、マジ有能過ぎ。彼らに頼り過ぎるとダメになる将来しか待ってないのが良く判りましたが、今回は緊急時なので、ご厚意に甘えさせてもらう事にして、準備しておいてもらったあれこれを受け取ったら、一旦ホピアへと戻る事にしました。
「お礼はまた後ほど言いに来ます。ちょっと試してみたい事も出来たので」
「あまりご無理はされませんようお気を付け下さい。とは言え、事が上手く運んだのなら結果を教えて頂ければ、それだけでも充分なお礼となります。こちらからもお願いしたい事も出来ましたので」
「分かりました。詳細については、また後ほど」
「はい。神の御意志があなたと共にあらん事を」
「あなたにも、全ての機械知性体の皆さんにも」
そしてディ・ヴィルさんと特級や上級個体さん達に見送られて、ぼくとキフォサイトさんはリロイ本体が常駐している大島の管制室に転移しました。そこには既に、三人の宰相、軍団長シャーガさんと副官、オードリーとドゥヘラナ、ポーラとノゾム、リーディアとヒカリ他、最初の子供十五人とその母親達が控えていました。
「事態の詳細については、ディ・ヴィルさんがまとめてくれてたのをリロイからみんなに伝えて。キフォサイトは聞かれた事に回答。ぼくはこれから切り込みに行ってみる」
ぼくは、ディ・ヴィルさんが準備してくれてたスーツケース二つと携帯端末ぽい物をリロイに渡すと、誰の姿も無い中空に向けて声をかけました。
「ガラーシャさん、行くよ」
返事を待たずに、瞬足を発動。続けてサーチスキルで、キフォサイトさんに干渉した半神、その半神に協力している半神、彼らに助力している外なる神がもし居るのならその所在をサーチしていきました。最初の二つは反応があり、最後の一つは反応が無かったというか、所在不明という結果だったので、それは後回しにする事にしました。
さらに、キフォサイトさんに干渉した半神が次の瞬間に現れる空間と、そこに仕掛けられた罠の有無などを確認したら、非物理世界の、ホピア星からは100億光年以上離れた物理世界の裏側とも言えるどこかへと、『自在移動』を発動。
どこにでも移動出来るスキルとはいえ、半神達の棲まう領域に足を踏み入れるのは初めてでした。それだけの切り札を切らずに温存してきたので。全ての輪郭や色彩や距離感などがあやふやな空間は、全てが不確かで人によっては発狂する危険性すらありましたが、ぼくは『完全耐性』持ちなせいか気持ち悪くもなりませんでした。転生してくる前に見てたアニメとかの異次元空間とかのイメージになんとなく近かったので、こんなものなのかなと受け入れ易かったせいもあるのでしょう。
そんなことをゆったりと考えながらも、どこからともなく姿を現した人影の様な、どことなく機械っぽさを感じないでもない女神像の様な、これが目的の半神だろうという存在へ向けて、剣のダンジョンで対半神用に調整した剣で切り付けていきました。
半神達には認識されない速度で。
どことなく紅色を主体とした、朱色や黄色のグラデーションで彩られた半神は、何が起きたのか認識できないまま切り刻まれ、ガラーシャさん特製の忘却の呪いも受けて消滅していきました。
ぼくは目の前の半神を切り刻みながら、並行して、この半神と協力関係にあった、宇宙蜂の群れを転移させたりもした半神の移動先を捉えて、そちらにも刃を飛ばし、その半神にも切り付けて傷を負わせました。
いつでもどこでも好きな様に転移可能な半神ですから、半神となってからは特に、誰かに捕捉されて待ち構えられて切り付けられたなんて、おそらく初めての体験でしたでしょう。切られたと認識できるかどうかの合間に、この半神の周囲に呪いのダンジョンを展開して、半神としての特質を封じました。
ダンジョンとは何か?
ぼくなりの答えとしては、神様の意思を体現した存在です。どんなダンジョンにするか、ボスをどうするか、入る場所と出る場所、クリア条件などをダンジョンマスターが決められますが、あくまで、神の意思が許した範囲内でしか設定できません。つまり、設定できるのであれば、それは神の意思により許された行為の反映とも言える訳で、どんな半神だろうと、神の意思よりも強力な存在ではありません。
どんなダンジョンボスでも、クリア報酬アイテムでも、半神を倒せるくらいに強力に出来るというよりは、目的を達成させられるよう調整可能というのが要点でした。
そして剣や魔法、呪いのダンジョンのラスボスであった三人は自らの意思でダンジョンを構築した訳でもラスボスになった訳でも無かったというのも大きなヒントでした。
「このダンジョンは、あなたが認識可能などこにも該当しない。だからあなたが転移する為に必要な転移元の空間情報を特定できない」
「このダンジョンは、ダンジョンマスターを倒さない限り、外に出る事はできない」
「このダンジョンで、半神は神気を得る事はできない」
「このダンジョンで、半神はその特質を発揮できない」
まあ、外なる神の助力があればまた違う話になるかも知れませんが、先程の精神操作系の特質を持つ半神はこの呪いのダンジョンを展開するまでも無く倒せましたし、ほぼどこにでも好きなように移動し移動させも出来るこの半神も、認識できない速度で切り刻まれ、逃げられず、抵抗も出来無いまま、その存在を保つ為に絶対必要な記憶も蝕まれて喪いながら、消滅していきました。
サーチスキルを常に発動しながら完全に消滅したか確認しましたが、反応が消えたので、完全に倒せたようです。二体の半神を倒した事で、その存在力の残滓がそれぞれの場に残りました。これらについては予め話し合っておいた通り、ガラーシャさんに吸収しておいてもらいました。彼女の望みは、神の試みの果てを見届ける事だったので、彼女の存在の根本を担っているダンジョン・コアが損壊したり消滅しても消えないで済むようにする為の措置でもありました。
全てが大丈夫そうなことを確認したら、呪いのダンジョンを一旦解除して、出発した大島の管制室へと戻りました。出発してから戻るまでにかかったのは、事後確認も含めて十秒近くですが、二体の半神を倒すまでには一秒もかかっていませんでした。半神に認識できない速さを実現する瞬足のヤバさが分かるエピソードが増えましたが、とりあえず家族や家臣のみんなに説明するには使えないのが残念でしたが、仕方ありません。
(子供達の年齢は後で若干調整入れるかもです)




