ランニング66:機械知性体統合個体との出会いと協議
ワープアウトした先にあったのは、人工建造物に表面が覆い尽くされた星ではなく、どちらかと言えば自然と調和した環境を保った星に見えました。陸地と海の割合は半々くらいで、陸地の半分未満くらいしか人工建造物は建てられてないようでした。
ぼくとかが機械知性体宗主国イギライダの本星ヒッキータ・ホルを見下ろしてる間に、随伴してもらった連絡船の船長である上級個体シン・サイクラb84さんが本星への着陸と統合個体への面会手続き、人類系種族捜索艦隊の指揮官である特級個体のお二人がまとめてくれた資料の送信なんかも済ませておいてくれました。
「本星への着陸、統合個体及び特級個体による統治会議への特別招致等の許可が下りました。カケル大王」
シン・サイクラさんがそう声をかけてくれたのは、ワープアウトしてからまだ五分も経ってない頃でした。
惑星地表への移動は、大型の軌道エレベーター的な転移装置の側に移動するだけで、自動的に宇宙空港っぽい施設にまで転移していました。ちなみに惑星の引力圏外に出る時も同じ転移装置の機能だけでいけるとの事でした。
この星系にワープアウトしてきてから本星表面到達まで十分未満という手際の良さには感嘆するしか無かったのですが、そこから五分以内に出迎えの車列っぽい一団が近づいて来たのには驚きました。いくら情報処理能力に長けた存在が社会を動かしているのだとしても、受け入れ速度が尋常ではありません。
先に高速連絡船から降りたシン・サイクラさんが出迎えの一団に接触して手短な情報連携か何かを済ませた後は、およそ50人ほどの歓迎団を代表する様に、おそらく三人の特級個体というか、外見や雰囲気が一人だけ違くてがこれ統合個体なのかな?という存在が先頭を切って御座船ジスールのタラップ付近に近付いて来たので、ぼくはリロイとオードリーを両脇に、すぐ後ろにはシャーガさん、その後ろにはナージさんとシャブリラさんという様な順番で、出迎えの一団の前に降り立ちました。
「ようこそ、機械知性体の国、イギライダへ。私が統合個体、ミ・クレーマ・ディ・ヴィルです」
ぱっと見は、体の一部を機械化してるエフェンデにしか見えませんでした。目の前に立っている人(?)はとても有名人なので、事前にリロイ他から基礎情報は教えてもらっていたにせよ、おそらく神を除いた普通(?)の生命体としては最古の存在、およそ数億歳にならんという雰囲気は伝わって来なかったので少し戸惑いましたが、挨拶は返せました。
「お出迎えありがとうございます、ミ・クレーマ・ディ・ヴィルさん。初めまして。人類系種族の最終避難地となった星、テ・ラピア・ホピアに現存する幾つかの王国を束ねたホピア連合王国の大王を務めているカケル・ダイチです。この世界を創造した唯一神に異世界から召喚され、異能を与えられ、その力もあって今日この日、この星を訪れる事が出来ました」
半神という厄介者への協力関係を構築しないといけないので、隠し事は基本的に無しにしました。ぼくが神様に呼ばれてからどういう動きをして来たかについては、リロイ作成の資料に過不足無くまとめられてましたが、それでも当人の口から聞くのは別のインパクトがあったのか、ディ・ヴィルさんを除いた歓迎団の皆さんの間には驚きというか衝撃が伝播していきました。
「あなたが神から特別な能力を与えられたというのは、神自身により禁じられた筈の億光年単位のワープを一生体だけで可能にしている事実からも明白です。我々の捜索艦隊への救援措置も真に感謝致します。あなた方が求めているだろう半神という存在についてと、その対抗策について、我々が持つ情報その他全ての協力は惜しみません」
「お申し出、誠に有り難く思います。ぼくも出来る範囲で、機械知性体の皆さんとは協力関係を結び維持していきたいと思っています」
にっこりと笑ってくれたディ・ヴィルさんは、他の機械知性体とはとても同類の存在には見えませんでした。一部は機械の体に換装しているのは見て取れるのに、どちらかと言えばエフェンデの方に印象はとても近く見えました。元々はエフェンデだったというだけでは無さそうですが。
ちなみに、機械知性体のアイデンティティ的に、生体的に見える外装はあまり好まれないそうで、やろうと思えばやれるけどやらない類の事だそうです。その例外を自他ともに認めているのが、この統合個体であるディ・ヴィルさんなのでしょう。
「私や他の機械知性体達についての提供可能な情報については、すでにそちらの特級個体へと送信済みです。それから差し出がましい申し出かも知れませんが、我々の技術水準からすれば数世代遅れた性能に留まっているようですので、もしよろしければ機能のアップデートをこちらでお手伝いできますが?」
「そう言ってくれてるけどどうする、リロイ?」
「移民船団でさえごく一部しか運用していない現状が今後数十年から数百年は続くと仮定するなら、現在の性能でさえ実行必須タスクに対してかなりのオーバースペックを確保している。どうしても必要になったら、カケル大王が私をまたここに連れてきてくれれば良い」
「じゃあ、リロイのアップデートについてはまた今度でお願いします」
「承知しました。それでは、歓待の場に皆様をご招待してもよろしいでしょうか?」
「はい、是非」
まあ、これがナーロッパ的世界技術水準なら、歓迎の馬車の列に乗せられて移動とかになるのでしょうけど、ウン億年以上蓄積された技術レベル格差ですからね。こちらが招待を承諾した次の瞬間には、その場に居た全員が立体会議室的な空間へと集団転移を終えていました。
ぼくの周囲の人達は、ぼくのユニークスキルで慣れてるからちょっとの驚きで済んでましたが、普通ならパニックに陥っててもおかしくないですよね。宇宙空間の超長距離移動とはまたちょっと違う感じでしたから。
それはすり鉢状の広いスペースで、底の部分に自分達と統合個体と特級個体さん達の為の歓待スペース、一段上が上級個体、更にその上が中級個体の為のスペースで、中級以下に対してはモニター越しに映像や音声を届けるそうです。
歓待の席は、あえて言うなら立食パーティーが近いでしょうか。エフェンデ様式のお茶や軽食の類がテーブルに準備されるまでの間に、リロイが用意した資料のダイジェスト版が主に中級以下の個体への説明用として副音声的に流されてました。
上級個体の間にも製造年代などにより性能幅があって、特級個体の数十分の一のもあれば数百分の一程度のも存在してるそうで、それは大容量の情報を高速に処理したくなる今みたいな状況では大きな優越感なり劣等感などを機械知性体の間にもたらすそうです。
ぼくや随行者達が、統合個体や特級個体の皆さんと自己紹介しあってる歓談の30分ほどの時間はだから、上級個体の間でも一通りの情報に目を通し終えるまでの猶予時間でもあったそうです。ナージさんやシャブリラさんは少なくない知古と再会を果たして思い出話を交わしていました。それでもぼくとオードリー、それからリロイが一番人気で、ずっと十人から二十人の特級個体に取り囲まれて、統合個体さんが交通整理的な事まで果たしてくれてました。一人当たり二分くらいまでとかって感じで。
特級個体さん達との挨拶が終わったら、資料に目を通し終えた上級個体の間でも最上の部類に該当するのだろう個体達が文字通り互いを押し除けあいながらこちらに向かって来てたのは微笑ましい姿でした。個性とかエゴが存在するのだなぁと。
それでも上級個体代表と副代表という、個体の外見にも色々気を遣ってそうな二人とそれ以外はほぼ同着だった三人までと本当に挨拶だけを交わしたら、すり鉢状の一番底の円卓にディ・ヴィルさんと特級個体代表と副代表という機械知性体統治会議を統括してるらしい三人と、ぼくとオードリーとリロイ、それからナージさんとシャブリラさんが対面に座りました。互いの表情などの映像と音声は、会議場内外や機械知性体が治める銀河系各星系に向けてリアルタイムで発信されるそうです。
「さて、カケル大王。我々機械知性体を代表して、あなた方をこの場にお迎え出来た事を大変光栄に思っている。宇宙蜂と遭遇した捜索艦隊を救援して下さった事、その事態を引き起こしたであろう半神への対処は我々にとっても死活的重要事項に該当するので、あなた方への情報開示を兼ねてここで我々が知る情報をおさらいしていこうと思うがよろしいか?」
「はい、そうして下さると大変助かります」
データとしてはリロイに連携済みと言っても、それをぼくとかに説明するのに何時間かかるか分かりませんからね。
「半神。それは飽くなき種族進化を目指していたエフェンデ達の一つの究極形態と言って良い。物理世界に生命体として留まる様々な制約から解放された彼らは、自らを最高の存在の神とその創造物たるあらゆる生物の中間に属す格別な存在として位置付けた」
「つまり、創造神を除けば、他の全ての存在は自分達より劣る下位の存在と?」
「そうです。そして彼らは、正に神の領域に手を出し始めた。死を乗り越える技術。未来や過去に渡航し時間に干渉する技術。更には新たな宇宙を創造する技術や、神を殺す技術などなど」
「それは、聞くからに神様の怒りを買いそうな物ばかりですね」
「神はある程度の猶予を下さいました。なぜその技術を禁止しなければいけないのか、自ら学ばなければ、その理由を納得できない者達もいるからです。死を乗り越える技術はいったん数千万年程度は広まり利用されていた時期もありましたが、その限界や弊害を学んだ者達によってやがて禁じられ封印されました。
未来や過去に渡航し時間に干渉する技術を追い求めていた者達は部分的な成功を収めた者もいましたが、全体としてはその大半が帰らぬ者となり、研究を主導していたとされる半神達もいつの間にか消滅していた様です」
「宇宙を創造しようとしたり、神を殺す研究しようとしてた人達はどうなったのでしょうか?」
「宇宙を創造しようとしたのは、エネルギーなどの資源の問題を、別宇宙を創りそこから得れば解決できるだろうという思惑があって進めていたのですが、宇宙最外縁で研究を進めていた彼らの宙域ごと無に帰して終わりました。彼らの研究データなども、主導していた半神の消失と主に失われました。それ以来、これもまた禁止された研究テーマの一つになっています。その消失事故は、大きめな銀河団くらいの広範囲を巻き込んで起こりましたので。
神を殺す研究は、まあこれもとても分かりやすい末路を辿りましたね。どれだけ慎重に進めようと、その意図を持って研究に関わろうとした者は、それが半神であろうと無かろうと、消滅させられていきました。公衆の面前でもその様な出来事が続いていけば、その研究に関わろうとする者もいなくなるのが道理ですな」
エフェンデでも数千年から万年を超える個体もいたみたいだけど、それ以上の億年単位を生きるとか想像がつかないよね。て事で、分かりやすそうなところから質問していくことにしました。
「でも、大崩壊に関わった半神もいて、そいつらはみんな消されたと聞いてますが、関わらずに生き延びて、ぼくや機械知性体の皆さん達にちょっかい出してきてる半神もいるんですよね」
「我々でも、その半神がどの個体かは情報を持ち合わせていませんが、彼らが全能な存在でない事は確かです。むしろ、全能なる神を最も恐れている者達とも言えるでしょう」
「その割にはイタズラ好きというか、そうか、どこまでなら許されるのか、出来てしまうのか、確かめようとしている?」
「その可能性はあるでしょうな」
時期的にも、神様がこの世界の事を諦めかけたり、その後ノゾムやヒカリとかに宿って生まれて来てたりとか、ものすごく例外的な状況にある訳で、ある程度の異変を察知できる能力があるなら、これまでなら出来なかった事が今なら出来るようになってるか、試したくなる心境は何となく察せました。傍迷惑なので受け入れたくはありませんが。
「それで、核心のお話になるんですが、機械知性体が持ち合わせている半神への抵抗手段というのはどんな物で、どの程度の効果を望める物なのでしょうか?」
「半神への抵抗手段について説明するには、半神がどの様な存在なのかをお話ししておいた方が理解しやすいでしょうから、先にそちらを済ませておきます」
という訳で、ぼくらの前に、ぼくでも読める言語でいろんな映像やテキストや年表みたいのがずらりと表示されてきて、ディ・ヴィルさんから半神についての講義が始まったのでした。




