ランニング62:見習いパパ?
ストックがちょっぴりできたので投下。
崩壊した星系から、ロンド夫妻達がタイムスリープしていた研究施設がある小惑星を引っ張ってきてから、三ヶ月ほどが経ちました。通信か移動に時間がかかっているのか、まだ彼らからの反応はありません。
こちらからのメッセージは単純です。
『こちらは、人類系種族の最後の生き残りの末裔です。星龍に導かれた地で平和に暮らしていきたいと思っています。かつての大戦を再現するつもりはありません。こちらを放っておくか、放って置けないのなら、平和的に接触してもらえないでしょうか? 互いを滅ぼし合わずに共存は可能な筈です。もし違うというなら、今度こそ神はこの世界を閉じられ、終わりを迎えるでしょう。争いは無意味です』
相変わらずレベルは毎日少しずつでも上げてます。だんだんと連合王国も人が増えて大王としての仕事も増えてきてますが、それらとは別に、生まれてきた子ども達と接する時間も毎日確保していました。
ぼくは、自分自身がまだガキだとは思ってますが、ここだと15歳以上は大人扱いなところも多いし、自分と、愛するお嫁さんたちの間に出来た子どもですしね。王族は特に、直接子育てに関わる機会はそう多くないのが普通だそうなのですが、ぼくも、子ども達も、普通じゃないですから気にしませんでした。
今日は、エフィシェナと、ぼくとの間の子、アヤと一緒に過ごす日でした。
エフィシェナは、初めて出会った頃より少しふっくらとして、大人びていました。その胸に抱かれた娘のアヤは、すやすやと穏やかな寝息を立てていました。
「や。エフィシェナもアヤも元気そうだね」
「カケル様のお陰です。何不自由無く、不安も無く過ごせていますからね」
「まあ、それくらいはね。アヤはもうすぐ六ヶ月だよね」
「はい。ポーラ様のノゾムも、リーディア様のヒカリもですが、病気一つに罹る事も無く、あまりむずかる事も無く、スクスクと健やかに育っております。抱かれますか?」
「いやあ、せっかくぐっすり眠ってるのを起こしちゃ悪いよ。でもかなり大きくなったよね」
「ふふ、カケル様の妻となった者の食生活は充実していますから、それが赤子にも影響したのでしょう。アヤもそろそろ離乳食を試す頃合いですが」
「ノゾムもヒカリも特に問題無かったから、アヤも大丈夫じゃないかな」
ぼくは、浮島の一つの縁の近くに設えたベンチに腰掛けました。アヤを真ん中に挟むようにして、エフィシェナの肩に腕を回して、アヤの頭越しにキスをしました。
雲海は頭上ではなく眼下に広がり、穏やかに流れていました。日差しもちょうど良い暖かさに保たれています。
高度2500メートルくらいに浮いていても、そよ風が気持ち良いくらいで。
うとうとしかけて、頭を振って眠気を払いましたが、エフィシェナは優しく問いかけてきました。
「お疲れですか?」
「ん〜、やらないといけないことは増えてきちゃってるかな」
「ホピア連合王国も、だんだんと人が増えて、実体が出来てきてますしね」
「そうなんだよねぇ・・・」
呪いのダンジョンがあった領域には、すでに十万人以上が入植してるし、大島の人口も一万人を超えました。
ジョーヌとカローザとキゥオラに設置したゲートは毎日利用者が絶えません。
リルに約束したラグランデの特色は、空の周回バスにしました。ラグランデの領都を朝に出発。マーシナ、イルキハ、ミル・キハ、ジョーヌ、ハシャール、ドースデン旧王都、コ・チョー、ドースデン帝都、イヴィ・ゾヌ、ナンブと、それぞれの都を巡って、夜にはラグランデに戻ってきます。
人が一人と、自分一人で運べる程度の荷物だけを乗船可能にして、馬車とかはNGにしてます。マジックバッグは禁止にしてませんから、そこは大手商会が有利になってますが、一般の流通業者や行商人への配慮は忘れないようにお願いしてあります。
今は一隻の中型船だけでやってますが、ジョーヌからもう一隻の船を出せばそれだけ儲かるので是非!と大手商会の皆さんからはアピールされてるものの、あまり巡回バスを便利にし過ぎると、ゲートの利用者が減ってしまったり、利用するメリットが無くなってしまうかも知れないので様子見にしてます。
ただ、日帰りの大陸上空集覧旅行便として人気が出過ぎてて、予約は数ヶ月先まで埋まってるので、ジョーヌ方向からも一隻回すなりして、増発させる流れは不可避になりそうです。
ダンジョンでの食料確保は、周囲のみんなに任せるようになってました。
クラーケンのダンジョンには、ニャウノと猫人族にクラーケンのドロップアイテムである水中呼吸と毒無効のアイテムを渡して、何ヶ月かかけてレベルアップを重ね、端から端まで自分達だけでラスボスまで安定して倒せるようになりました。食肉系ダンジョンはワーナと犬人族のみんなに任せました。小ボスや中ボスのドロップ品でもそれなりに有能なのが多いし、各国の貴族から注文を受けたお肉を揃えるだけでもかなり美味しい稼ぎになってました。全部のボスを無理して倒す必要は無いし、なんなら最初にラスボスを出現させて倒した時のドロップ肉はまだ食べ切れてませんでした。
そういうのは概ね順調に進んでますし、特に困ってはいないのです。
困るというよりは気がかりなままな事が消えてくれないのは、モヤモヤします。
「どうしてもぼくが見て採決しないといけない書類が増えてきてるのは良いとして、やっぱり、宇宙の彼方にいる誰かさん達が、いつ、どうやって接触してくるかが気になったままっていうのがね」
「こちらから、あちらの本星とやらに接触するのはダメなのですか?」
「ダメというか、選択肢として無くは無いんだけどね。1000万光年離れた星系に突如と現れるだけでなく、10億光年離れたところまでも瞬時に移動可能って分かったら、相手の危機感を高め過ぎてしまうかも知れないって言われててね」
「いざという時に、どこまで出来るのか、秘匿しておければそれだけ有利な立場に立てるかも知れませんしね」
「こっちは、別に相手を殲滅したい訳じゃないし、オードリーやピージャやニャウノやワーナの子供達が産まれるまではぼくも派手に動けないし、イドルが妊娠すればその分また延びるしね」
「神は、あなたやあなたの周囲の者達に、なるたけ殺して欲しくは無いのでしょうね」
「そうなんだろうねぇ・・・」
今更ではあるんだけどね。それでも、という事なのでしょう。
特に、非人類系所属だからといって、自動的に敵を意味しないし、存在を滅消しないといけないわけでも無いし。そっちに踏み切ったら、最低でもやり直し必至な選択肢になるとしか思えませんでした。
「まあ、今こうして、愛しい奥さんと子どもとのんびり過ごせる時間が持ててる訳で。悪くないかな」
「悪くないどころか、私には夢のような日々です。ここまま時間が止まってしまえば良いのにと思えてしまえるくらいには」
ぼくはエフィシェナの肩を強めに抱き寄せて、その柔らかな髪にキスをしてから言いました。
「気持ちは分かるけどね。生まれたばかりの子も多いし、これから生まれてくる子も多い。みんながちゃんと育っていけたら、きっと、今よりも幸せで、もっと夢みたいな幸せな日々が待ってるかもよ」
「わかっていますけど、カケル様と出会うまでの年月と出会ってからの年月の差を比べるとどうしても。
でも、あなたの言う通りですね。子は産んであげたら仕舞いではありません。むしろ産まれてきてからが本番で、育ててあげるのが親の義務。神様の祝福も賜ったのですから、責任は重大です」
ちょうど、そんなタイミングで、ふぎゃあふぎゃあとアヤが泣き出しました。
「おお、よしよし。お腹が空いたのかな。それとも」
「おしめの方みたいだね。任せて」
「もう慣れたものですね」
「ズルもさせてもらってるしね」
元の世界でベビーカーを押してるママさん達と似たようなバッグの中身を、ぼくもマジックバックの中に常備してました。この世界というか大陸の文明基準からはちょーっとばかり逸脱してますが、一般に広めなければOKと星龍さんやオ・ゴーさん達にも確認してありました。
ベンチにおしめ交換用のシートを広げてそこにアヤを寝かしたら、元の世界程度のおしめを脱がせ、やはり同水準くらいのお尻拭きで綺麗にしました。汚れたおしめは専用のバッグに納めて、新しいおしめを履かせたら完了です!
ぼくらの背後の離れたところには侍女や護衛達も待機してて、メイドの人達からすれば出番を奪われてる感じでもあるのでしょうけど、少しばかりはパパ的なこともしたいと我儘を通させてもらってました。
おしめを交換してもらってご機嫌になったアヤをしばし抱いてあやしてあげたりもしました。
「日に日に大きくなっていく体が、生きて、育ってるんだなぁって、実感させてくれるね」
「そうですね。このまま幸せな日々が続いてくれれば・・・」
「ぼくが、守るよ。周りのみんなも心強いしね。その中にはもちろんエフィシェナも含まれてるよ」
エフィシェナは、瞳を潤ませ、ぼくの横から抱きついてきました。
「はい。私も、守ります。もう、幼い頃の無力な私ではありませんから」
エフィシェナは、戦乱の世に翻弄され、戦乱が鎮まった後もその余波に炙られ生き地獄を耐え抜いてきた一人でした。だからこそ、他のお嫁さん達よりも、何気ない日々を重く大切に受け止めているのでしょう。
しばしぼくを抱きしめていたエフィシェナは、おっぱいを要求して泣き始めたアヤを引き取ってお乳をあげて、彼女が満足してまた眠ったら、彼女を侍女達に少し任せて、二人でピクニック的なランチを楽しみました。ダンジョン産の野菜やお肉を材料にしたサンドイッチは、二人で拵えてきたものです。
お昼を食べ終わった後は、アヤと一緒に三人で日なたぼっこなお昼寝してから緑離宮へと戻りました。
通称託児所には、他のお嫁さんと子供達の大半が揃っていました。
「ただいま、みんな元気そうで何よりだね」
産まれて10ヶ月ほどになったノゾムとヒカリが抱っこをせがんできたので、二人をそれぞれのママのポーラとリーディアから引き取りました。顔立ちは結構はっきりとしてきていて、ノゾムはぼくとポーラの両方の特徴を継いでるというか、ぼく似でしたし、ヒカリはリーディアに激似の美人さんになりそうでしたが、二人はとても仲が良く、二人の異母弟と異母妹達の面倒も見てくれてました。
「今日はどうだった?」と聞いたところ、ポーラもリーディアも苦笑いして教えてくれました。
「ノゾムは影潜りも影渡りも好きな様に出来ちゃうから、リーディアの光魔法の結界の範囲内なら好きにさせてたんだけど」
「ヒカリの光魔法のレベルが上がってきたのか、結界に干渉してすり抜けようとすると言うか、すり抜けてしまえるようになってしまったというか」
「えっ?! それ、大丈夫なの?」
「二人の影には私の眷属を潜ませてあるし」
「カケルにつけてもらってるクリスタル・ゴーレムの分体もありますからね。危ない事にはならないのは分かってるのですが、それを当人達が理解し始めてしまっているみたいで・・・」
「うーん、困ったねぇ。二人とも、ママ達を困らせるというか、心配させちゃダメだよ?」
「あうあう!」
「だーっ!」
二人とも元気に返事してくれて、こちらが言ってくれてる事も理解してくれてそうでしたが、それでも言いつけを守ってくれそうには見えませんでした。
「二人だけで遠くのどこかへ行ったり、ケガするような危ない事しないって約束できる?」
二人ともコクコクと頷いてくれたので、また苦笑いしてるポーラとリーディアにノゾムとヒカリを一旦返しました。
続いて進み出てきたのは、息子のマモルを抱いてるワルギリィさんでした。
「マモルも元気そうだね。そろそろ五ヶ月くらい?」
「はい。私が母親になると想像できてなかったと未だに私の母には言われてますが、さすがに」
マモルは、ぼく似の黒の瞳と、ママ似の銀髪の男の子で、抱っこをせがんできたので、抱っこしてから少しだけ高い高いをしてあげたら喜んでくれました。
その時にぼくの体ごと地面から少し浮いてたのは、いつもの事でした。
マモルから手を離しても宙に浮いたままで、ワルギリィさんも苦笑いしてました。
マモルをワルギリィさんに返したら、二人とも浮いてたのは、マモルの引き継いだサブスキル:重力操作の発露です。
「今のところ、ベビーベッドが浮いたり、抱っこした人と一緒に浮いたりするくらい?」
「地面より高いところをはいはいで進むのはヒヤヒヤさせられますが、いい加減慣れてきました。神様の祝福由来ですからね。滅多な事にはならないだろうと」
自力だと、床から50センチくらいの高さが限度なので、もし落ちてしまっても大怪我はしないくらいなのですが、心配にはなりますよね。なので、リロイに頼んで、万が一高いところから落ちても平気な様に、移動式クッションみたいなのがマモルには追随するようになっていました。
続いて進み出てきたのは、ラルルと娘のヒビキです。ラルルの亜麻色の髪と瞳とはっきりした顔立ちを受け継いだ美人さんに育ちそうです。今はママの腕の中でお休み中でした。
「ヒビキはどう? まだ変わった事は無い?」
「ええ。あなたから継いだのがサーチというスキルですからね。まだ、私が離れている時に、私がいる方を的確に捉えてるみたいだと侍女達から報告を受けているくらい?」
「まあ、育つに連れて、探し物絡みでは誰よりも頼りにされるだろうね」
「違いないわ」
ラルルとはちゅっと軽いキスを交わしてから、最近ヒビキを連れて、首都大島に建築された劇場での弾き語りの様子を聞かせてもらいました。五百席の劇場は毎回満員御礼だそうで、大陸の歴史やぼくの活躍譚のどちらも好評だそうです。首都以外の場所での公演依頼も殺到してるらしいのですが、ヒビキが育つまでの間は首都の劇場だけを活動場所に限定してました。主に保安上の理由で。
その代わり、彼女の歌曲をオリジナルに、それぞれにアレンジしたのを各地の吟遊詩人や劇団の皆さんが巡業して広めてくれてました。一種の布教活動ですね。
続いては、アザーディアさんと息子のラルクです。ラルクはまだ産まれて二ヶ月なのでふにゃふにゃの赤ちゃんが少しずつしっかりしてくる頃でした。今はアザーディアさんのおっぱいに戯れついて、ママにお小言をもらってました。
ラルクというのはこちらの言葉で「忠義」を意味するそうで、アザーディアさんの希望で決まりました。子供に一字ずつあげてる漢字は「忠」にしてます。漢字の読み的にはタダシとかになるのかも知れませんが、それよりはラルクの方が響きが良いし格好良いので、アザーディアさんの希望通りにしました。
「ラルクも元気そう?」
「はい。健康状態などは問題無いのですが、無意識かどうかわかりませんが、スキルが発動する機会が増えてきてます」
「ラルクにあげたのは調整だったよね。ママが離れようとするのを引き止めてくる感じ?」
「そうですね。幸い、今はまだ少し体が重く感じるくらいで拘束される程ではありませんが、躾けを厳しくしていかないといけなそうです」
ビクッ、とラルクが怯えた感じがしたので、少しだけフォローしてあげることにしました。
「赤ちゃんなんて、ママが一番大事で、一緒にいないと不安に感じて当たり前だろうから、少しは大目に見てあげてね」
「お心はありがたいのですが、私は侍従頭としてのお役目も頂いております。今は育児休暇という事で、日に何時間か首都の大王城や後宮の様子などを代役の者と確認して回るくらいで済ませてますが、育つに連れて服務する時間は増やしていきたいので」
「ん〜・・・」
アザーディアさんが職務に忠実というのは美徳なのでしょうけど、もうちょっと柔軟でもいいのかなと思えたので、提案してみました。
「確か、女王教育を受けてるポーラも、代官としての仕事をしてるリーディアも、ノゾムやヒカリを側に置いた状態でやってるよね?」
「まあ、そうね。場所は一応選んでるけど」
「両親もその方が喜んだりしますしね。それで仕事がおろそかになり気味な事もありますが」
「ああ、あるある!私より子供の方に構いたがったり!」
「ありますねぇ」
「二人ともありがと。という訳で、やり様はアザーディアさんがやりやすい様にしてくれていいけど、背負ってとか、自動的に追尾してきてくれるベビーベッドみたいのとか、リロイや、職場の人とかとも相談してみて。他の子持ちの人にも似たような事を出来るとなったら、結婚や出産・育児で職場を一時的に離れても戻りやすくなるでしょう?」
「それは助かりますが・・・、職場の長たる者の立場というか」
「上の人がやってくれてた方が、下の人もやりやすくなると思うよ。上の人が我慢してたら、下の人も我慢して当然みたいな空気になるんじゃないかな」
「・・・・わかりました。リロイや、同僚達と相談してみます」
「うん。どうなったかも教えてね」
アザーディアさんがぺこりと頭を下げてるその胸に抱かれてるラルクがサムズアップした様にも見えましたが、きっと気のせいでしょう。
あと、そのおっぱいの優先権は確かに赤ちゃんであるラルクにあるけど、ぼくにも・・・。って止めましょう。調子に乗っておっぱいを揉んでたラルクのほっぺたをアザーディアさんがキリリとつねり、悲鳴を上げて助けを求める視線を投げかけてきてましたが、息子よ。学ぶのだ。許される時と許されない時がある事を。
そんな戯言を脳内で放念してから、だいぶお腹が大きくなってきてたピージャやニャウノやワーナ達とも日々のコミュニケーションを取りました。獣人の妊娠期間は人間のより短めみたいで、ピージャの出産と近めになるみたいです。その三人と比べると、アザーディアさんと同時期に妊娠したオードリーはピージャ達の半分くらいの膨らみですが、寿命が長い分妊娠期間も長いということで、こちらはこちらで順調みたいです。
こんな風に、晩御飯前はみんなで接する機会と時間を持って、可能な限り晩御飯はみんなで一緒するようにしてました。家族が増えて、大きく、大切になっていく時間をみんなで共有できる日々が、本当に愛おしくて。
年齢的にはまだ16歳で17歳にも届いていませんが、ぼくも少しずつですが、大人に、パパになっていってるみたいです。
評価ブクマ等まだの方は、ぜひお願いします!




