ランニング58:オードリーから語られた、この星に逃げてきた人々の歴史
そろそろストックが尽きてきました・・・。
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オードリーは、リロイにいろんな情報を表示するようリクエストするだけでなく、何も無い空間に表示される仮想キーボードや、リロイしか使い方が分からないと思ってた操作パネルや、モニターに表示された情報まで指先で操作しながら、説明してくれました。
「では、改めての自己紹介から始めましょうか。私の名は、オードリー・ヌナ・エフェンデ。カケル様の制覇された墳墓ダンジョンに千数百年の間、存在と成長を封じられた状態で隠匿されてきました。
カケル様から、この星の人々が、宇宙そのものを滅ぼしかけていた者達の間から、まだ望みが残っているごく一部の者達が神や星龍によって救い出されてきた人々である事も、あなた達が緑の魔境と呼んでいる大陸でもまた大規模な戦争を起こし、人工精霊とも言えるオ・ゴーとその眷属によって、戦争を起こした者達の大半はその文明ごと滅ぼされ、またごく一部の望みが残されていると判断された者達が、星龍がその礎となる事で誕生した新たな大陸に避難させられました。これが、キゥオラ他、今ここにいる皆さんの多くが生まれた人の祖先が来たのかのあらましで、大まかにはカケル様からも伝えられていたでしょう。
私がこれから語るのは、この星に隔離された人々が、この星の大地に根を下ろし、新たな生命を育みながら、再び大きな過ちを犯し、緑の魔境とあなた達が呼んでいる大陸がどうして滅びるに至ったかについての補足説明です。その中で、ニャウノやワーナが言った『選良』や改良種族がどういった存在なのか、そして私自身についても説明を付け足す事になるでしょう」
話された内容をそのまま書き記すと何時間分にもなる長さの説明を要約すると。
オードリーが宇宙全体図で立体的に表示しながら解説してくれましたが、人類系種族と、非人類系種族との大きな抗争が長い長い間続いて、互いの科学技術の高さから銀河どころか銀河団まで消滅させてしまう兵器まで使われる様になって、流石に宇宙全体を滅ぼす一歩手前で神様が介入して両勢力の大半を滅ぼしたそうです。
それから、幾つかの恒星系に避難させられた人々の間でもやはり争いは起こってしまい、この星に避難させられてきたのは、最盛期の人類系種族の1/1000兆ほどの規模まで減ってしまったそうです。とんでもない量の人口ですね・・・。
でも、だからこそ、彼らは最後まで見捨てられずに済んだ自分達を、神に選ばれた『選良』と誇りに思ってしまいました。その誇りを、滅びに至る選択肢を選ばなかった人々が心の中にのみ抱き続けていたのであれば社会は歪まなかったかも知れないけれど、その『選良』の中心に居たのが、人種改良を重ね続けた、人類種族の頂点ともされた長命種、エフェンデだったそうです。
「あれ、じゃあ、オードリーの名前って」
「皆さんの様に、家族としての名前を受け継いで付けられた名前ではありません。私という存在に望みを託した者から、最後のエフェンデとして、後の世に望みを繋いで欲しいという願いが込められていた様です」
「なるほど。ごめんね、話の腰を折っちゃって」
「いえ。私についての説明はまた後で触れますので」
そんなやりとりも挟んだりしながら、説明は続きました。
エフェンデと呼ばれる人達は、避難させられてきた中でもごく一部の少人数でしたが、誰よりも美しく、賢く、そして長い時を生きる、他の人類系種族からしても憧れでもあり、畏敬の対象でもあり、目指すべき象徴でもあったそうです。
そして自らの種族も改良を重ねて、最善の種族に近付くべし、というのが、科学技術を手にしている他の大多数の普通の人類の悲願でもあって。しかしエフェンデという種族が生まれるまでには避難民達では到底実現できないほどの科学力と時間が必要だったものの、エフェンデ達は自らの特権階級としての立場を守る為に、必要な技術を提供しないのだ、とエフェンデとそれ以外の人類との間で断絶が生まれていったそうです。
とはいえ、避難民となった人々を導いたのもそのエフェンデ達であったのですから、恩義も感じていたものの、世代を重ねるごとに恩は薄れ羨望が積み重なり、断絶は深くなっていき。避難時に使った移民船団のインフラは失われアクセス不能になっても、数百年から千年もかければ、再現できる様になった技術や文明も少なくなく。
千年ほどをかけて、この星の大陸全てに進出。そこで再び宇宙を目指すべきだという進出派と、神が命じた様に大地に根ざして生きていくべきだという堅守派に、人々は分裂。堅守派の中心がエフェンデの人々だったので、彼らは進出派に敵視される様になっていって。
異なる大陸に分散していった人々は、自らを『品種改良』しつつ、他に抜け駆けて宇宙に進出する事を目指し、堅守派は星に残された資源の確保に躍起となったそうで。宇宙に進出するにしても資源は必要となるので獲得競争が激しくなり、保守的なエフェンデの人達は争いを止めようとしたけど止まらなかったそうです。
「えっと、話の流れからすると、争いに加担したエフェンデ達もいたの?」
「恥ずかしながら、そうですね。空白地となった宇宙の覇権を奪取する事こそが使命と信じ込んでしまった愚か者達もいましたし、堅守派に加担して先鋭化した者達もいました。そちらは、品種改良をずっと続けていけば、いずれ自分達と同等とまでいかずとも、近似した何かにまでは到達される事を恐れ、意図的に科学技術の発達を妨げようともしていましたが」
「でも、資源獲得競争になっちゃったら、競争相手を滅ぼすまでは止まらなくなっちゃったんじゃ?」
「そうですね。進出派と堅守派の争いを止めようと呼びかけていたエフェンデ達が双方から狙われる事になりました。あの墳墓のダンジョンの大陸が、エフェンデと、その教えに従っていた人々が攻撃を受け、ここにいる皆さんの国々と同程度の文明生活で技術力を留めていたせいもあり、滅ぼされていきました」
「エフェンデ達は、防ごうと思えば防げたんじゃないの?」
「幾度かならば。ずっと完全に防げる様な技術力の産物は移民船団にしか残されていませんでしたからね。当時のエフェンデの指導者であった者は、私の遺伝子的な母と言えない事もありませんが、私はエフェンデの遺伝子と記憶を伝える者として隠し遺されました。
ニャウノやワーナ達の様な獣人は、品種改良の過程で生まれてきた種族です。彼女達の種族を開発した者達は自らを『選良』と称し、改良種族を自認していました。エフェンデの外見だけを真似ることはたいして難しくは無いので。カケル様がオ・ゴーと呼んでいる人工精霊、今は神霊に近付いていますが、オ・ゴーとその眷属と戦い滅ぼされたのと私はだから、根本的に異なる種族です」
かなり長い話でしたが、今度はニャウノもワーナも何とか関心を失わずについてこれた様でした。
「じゃあ、オードリーは、長老達が言ってた本物にゃ!」
「『選良』と言ってる連中の大半は偽物で、みーんな緑神様達に滅ぼされたって言ってたわん!」
「まあ、滅ぼされた中には本物のエフェンデも混じっていたかも知れませんけれどね」
「えっと、でもさ、私達の生まれた大陸に避難させられてきた中には、エフェンデは含まれてなかったの?彼らを守ろうとしてた人達こそ避難させられるべきだったんじゃ?」とポーラ。
「エフェンデは、異質で、目立ち過ぎて、人々の羨望を掻き立て過ぎてしまうのです。移された先でまた長い年月が経てば、同じ事が繰り返されてしまうかも知れない。だから、残されたエフェンデの人々は、自分達が表舞台に立つ事を辞めたのです。カケル様が私を他の誰かに見せびらかそうとしていないのはだから、とても助かっています」
「生後一年も経たずに成人してしまうような誰かをおいそれと自慢するような事は出来ないよ。ただでさえ、オードリーは、綺麗過ぎるというか、違い過ぎるからね」
「私の急激な成長は、最後のエフェンデとしての役割を持たされていたからです。可能な限り早く外界の情報を把握し、自立可能になるようプログラムされていた。普通のエフェンデならもっとずっと時間がかかります。
例えそうプログラムされていなくても目立ち過ぎるというのも事実ですから、私も、あなたとの間の子供も、基本的にはこの大島や緑の魔境の離宮でひっそりと生きていこうと思っています」
「でも、身内の間なら、どこでも行って大丈夫だからね。ずっと引きこもってないといけないとか、そんなの辛いでしょ」
「ふふふ。あなたのそういう優しいところが、あなたと番うことを選んで正解だったと思わせてくれます」
ぼくの前の席に腰掛けていたオードリーが手を伸ばして、ぼくの手を優しく包んでくれました。まだ生後一年経ってないのに、人間の外見的には二十歳くらいにまで成長してました。ぼくと初めてした時も、ぼくより少し年上くらいにはなってましたし。虹色に輝く瞳も、淡く緑と青の光彩を湛える長い髪も、いわゆるラノベや漫画やアニメの異世界ものとかで例えるなら、女神様と形容するのが一番近いのかも知れません。そんな陳腐な例えだと表現し切れてないのですが、そこはぼくの語彙力の敗北です。彫刻の様に完璧な造形と表現する作者さんは少なくありませんでしたが、それはオードリーを形容するにはとても不向きでした。淡い光彩が光の粒子となって体の周囲で弾け続けているのですから。
ぼくとオードリーが見つめあって、ちょっと良い雰囲気になっていたところに、ビーッ、ビーッ、ビーッと警報音が鳴り、話には加わっていなかったリロイが慌ただしくパネルなどを操作し、幾つかのモニターに表示される内容が目まぐるしく切り替わっていきました。
「何かあったの、リロイ?」
「まだ確認中だが、かなり離れた星域から、走査手段を受けた様だ」
「スキャンって、誰が、何の為に?」
「この船団の最も古い記録に依れば、先ほどの話にも出てきていた、非人類系種族の使っていた物に類似している。つまり、この船団のほんの一部でも眠りから覚めた事が、何らかの手段であちらに伝わってしまったのだろう」
「あちゃー。だとすると、向こうはずっと探し回っていたのかもね」
「かも知れんな。それで、どうする?」
「最悪、ワープみたいな手段で接近されたり、何光年もの彼方から攻撃されちゃうかも知れないけど、相手を刺激過ぎない程度に、警戒体制を敷いておいて」
「相手の位置を特定し次第、先制攻撃などはしないで良いのだな?」
「えーとね。これはぼくの勝手な思い込みかも知れないんだけど、好戦的な連中は、非人類系も、人類系も、両方とも神様に滅ぼされたと思うんだ。で、彼らも唯一神に創造された種族である事は変わらないのなら、彼らの中でも避難させられた者達がいて当然だと思うし、もしかしたら、彼らも警戒する意味で、人類系種族の生き残りを探していたのかも知れない。それこそ、先制攻撃を受けて、今度こそ根絶されない様にね」
「ふむ、一理あるな。だとしたら、停戦と和平を呼びかけるシグナルでも発信しておくか?」
「そうだね。彼らの中でも、好戦的なグループとそうでないグループが混在しててもおかしくないから、どちらに転んでも対応できるように準備しておいて」
「了解した」
「私も手伝いましょう。子供が産まれるまでと産まれた後の平和な日々を確保するのは、親の務めでしょうから」
「よろしくね、オードリー。ぼくも、出来る限りレベルを上げて、何が起きても対応出来るようにしていくよ」
ということで。
その後も、お嫁さんや候補達だけでなく、代官や臣下のみんなも呼び集めて、平和な日常を勝ち取る為の準備を始めたのでした。
とはいえ、それからの日々でも、ニャウノやワーナやピージャとかと、する事はしてましたが。
こちらを最初から滅ぼす気なら、スキャンなんて手順は飛ばすか、その直後にでも星ごと吹き飛ばす攻撃を仕掛けてきていてもおかしくなかったけど、それは来ませんでした。という事は、それが一年か数年か十年以上かは分かりませんが、少なくとも数ヶ月以上の猶予はあると、リロイもオードリーもぼくも考えていました。
何故かというと、ぼくがこの浮島諸島に見えた移民船団を訪問して、リロイが一部の船の隠蔽状態を解除してから、スキャンされるまで半年以上は経過していたからです。
これまでゆったりしていたようで忙しかった日々は、さらに忙しさをちょっと増して、そうこうしてる内に、ポーラとリーディアの出産予定日が近付いてきたのでした。