間章7:カケル達との会合の後の商人達の会話
より多くの皆さんに読んでいただけてるようなのでうれしいのですが、ブクマ評価感想など、まだの方はお待ちしておりますー!(そろそろストックも少なくなってきてるので・・・)
皆、歴戦の強者と言って良い商人たちが顔を揃えていた筈だった。
抜け駆けや、誹謗中傷など他の誰かの印象操作、縁談については控えると合意は予め取ってあったにしろ、皆が皆、それぞれの領域で顔役となれる者が代表とされていたが、それでも、カケルという存在が実際どういう人物で、何を欲し、これから何をしようとしているのか。その情報を探るのは、規模の大小の差こそあれ、商人であれば誰にとっても死活問題と言えるほどに重要視されていた。
会合を終え、商人同士での夕食会も終え(カケルとその関係者は皇帝や帝国中枢との会食)、また8人だけで酒とつまみを楽しんでいる場で、ぽつりぽつりと感想を交わし合った。
「若い。が、それだけでも無い」
「神から与えられたユニークスキル。その力をもって世界を支配下に置く事も出来るだろうが、それが労苦に見合わない作業である事も、あの年で理解している。空恐ろしい素養だ」
「大勢の美姫達に囲まれて鼻の下を伸ばしているだけの若造なら扱いやすかったのだろうが、とても良い意味で、期待は裏切られた」
「あれは、買収が無理な類だな」
「いかなる脅迫も効かない」
「だから、素直に協力をするしか無い」
「対価は有形無形になるだろうが、最大の対価が世界の存続とはな。ははは」
「笑えない話も多かった。本当に」
「デモントの大聖堂を空から投げ落とし、その領都を滅したエピソードなど、まさに天誅だろう」
「カケル様の物語は、巷の吟遊詩人も募集して旅歩いてるらしいが」
「ご当人から直接詳しい話を聞けるとなれば、誰もが名乗りを上げるだろうよ」
「玉の輿を狙う者も多く出るだろうが」
「あれだけの美姫達に囲まれてやっていけると自惚れられる者がいるかどうか」
「当家でも当然、血縁者を含め選りすぐりの美女などを用意していたが、どうやら出番は無さそうだ」
「だが、これから連合王国を成立させ、首都を築き、空白地帯となった旧デモント教国領で誰も住めなくなっていた土地への入植も進められていくのであれば、その周辺に足場を築いていく事は出来そうではないか?」
「皆、同じ事を考えておるよ。ただ、村も街も都市も、商人だけで築ける訳も無い。領主となる貴族階級や役人達の数も限られている。だからこそ、農民や職工といった、領民の斡旋などについても、我々は自主的に協力を申し出られるのではないかね?」
「奥方となられる予定の皆様もそれなりの教育を受け見識もお持ちだろうが、彼女達が直接一人一人を面通ししていくのも現実的では無いしな」
「彼女達の手足となり得る人材を提供する。それだけでも覚えは目出度くなろうな」
「カケル様の奥方や代官の方々から求められる人材を提供する窓口となるだけで、巨大な利権だろうな」
「そんな利権で儲けようとする者は、遅かれ早かれ排除されるだろうよ」
「同感だ」
「しかし、カケル様の心持ちについては、平民出というのも大きいのだろう」
「今後、誰よりも尊重される存在になるのは間違い無いが、それでもあの人柄が捻じ曲がる事はおそらく無いだろう」
「ここにいる皆様方は大丈夫そうだが、それぞれの領域に戻った時、手綱を握るのが大変そうだな」
「そこは役得と相殺するしかあるまい」
「それは確かに」
それからも話題は方々に飛んだが、ラグランデ商人を代表して来ているアイニードが、イルキハ商人を代表して来ているガンドックに尋ねた。
「それで、カケル様が取り出した鉱物の玉に反応されていたが、特別な何かだったのか?ガンドック殿」
尋ねられたガンドックは、その灰色の短髪をぐしゃぐしゃとかき乱してから答えた。
「本来なら、商売敵に情報を漏らすべきではないと思うが、カケル様から今後提供され得る利益は、一商会の手に余るのは確実。今後の誼を見込んで話すが、あれらは全て混じり気無しに見えた。純度100%だ。それがどれだけ異常な事か分かるか?」
ゴクリ、と生唾を飲む音がいくつも響いた。何組かの雑談が続いていた筈が、どれも中断されていた。
「あれらはどれも歪みも無く、全く同一のサイズで、滑らかに転がり、僅かな魔力さえ感じた。つまりはダンジョン産なのだろう」
「やれやれ。我々を前にして、何の誇張も無く、金には困っていないと言う訳だ」
「キゥオラ、マーシナ、イルキハの各王家はもちろん、ドースデン帝国全体でさえ、勘定の出来ぬ負債を負っている様な状態だ。その債権の回収を銅貨一枚ですら求めない余裕を持ち合わせている。恐ろしい事だ」
「あの若さで、自分が死んだ後の事まで気が回っている。周囲にも恵まれているのだろうな」
「伊達に唯一神様に呼ばれた存在では無いという事だな」
「とはいえ、過度に畏れ崇め奉る必要も無かろう。本人もその様な扱いを望んでいる様にも見えぬ」
「そこが悩ましくもある。歌にしろ劇にしろ、カケル様の活躍をなるべく正確に伝える必要があるが、匙加減がな」
「大筋さえ歪めていなければ、個々の演出や芝居くらいは大目に見てもらえるだろうよ」
「ポーラ姫の眷属の眼耳がついて回ると警告しておけば、それで十分だろうね」
「違いない」
その場は和やかな笑い声に包まれたが、それぞれの腹の内では、この中の誰もが、地元の商人たちを含め、他の誰をも穏便な手段で出し抜く手段を考察していた。
キゥオラ商人を代表して来たドン・マクレーンは、そんな商人達の言動や表情から探りを入れ、それをキゥオラ国王やポーラやカケルに報告することで、表面上には見えない利を取ろうとしていた。この場はポーラの監視が付けられていると皆に周知されているが、それでも、話し合いの当事者として参加していた自分の受けた印象や考察はそれなりに評価される筈と自負していた。
マーシナ商人を代表して来たメロディオ・サリスは、この場に後継者となる息子を連れて来れなかった事を後悔していたが、これだけの面々と会するにはまだまだ経験が足りないと痛感した。今後、カケルの配偶者としては出遅れるが、それでも軽くは扱われないだろうイドルと連携して、メロディオや他のマーシナ商人はカケルの領地運営にも深く関わる算段を立てていた。
カケルが賢明にもダンジョン産食糧資源の配給を比較的短期間で打ち切る方針を示した事で、今後もマーシナの農産物の存在感が失われない事が確定したのだから、メロディオに焦りは無かった。
そんなマクレーンやサリスの余裕のある態度を横に見て、自らも同じ様に余裕を感じさせようとしてうまくいかず諦めているのが、イルキハ商人を代表して来ていたガンドック・ダンだった。イルキハ前王室とはそれなりの付き合いがあったが、イルキハの持つ鉱脈が細っていけば、商いも細っていくのは摂理でしかなかった。
カケルの見つけたダンジョンが鉱物資源を産出するとしたら、そこに食い込む事こそが至上命題となる。だが、カケルの懸念が、ダンジョンが枯れた後を考慮した物である事も理解していた。一国の経済を下支えするほどに採掘しようとすれば、ダンジョンの寿命もそれだけ縮める事になる。その塩梅をどう調整するのか、イルキハの代官として据えられたリーディアの一族との交渉をどうするのか、ガンドックはその手立てについて考え込んだ。
カローザ商人を代表して参加したニージナ・テムスは、降ってわいた幸運に内心震えていた。カローザの大商人はどこもカローザ王家と太いパイプを持ち、それぞれの春を謳歌していたのだが、その王家がカケルの怒りを買って滅ぼされたのだ。その属国のガルソナ領主も次期領主も詰め腹を切らされた。
その後もカケルの活躍の話は積み重なり、ドースデンでも最大の領主に収まる事が内定する話が伝わると、カローザの大商人達は皆絶望した。自分達にはどのような罰が待ち受けているのだろうかと。
カローザ王家の大半がその王城ごと滅せられ、第二王子が代官として立てられる事が領内に告知された後、カローザの大商人たちは、寄り集まって会合を重ね、カケルに対して詫びるべき事は特に無いのに、王家の非礼を詫びるという名目でそれぞれの格に見合った金を拠出した。まあ、金を差し出すからこれからも商売をさせてくれという、賄賂みたいなものだ。
それを持ってカケルがどの様な反応をするのかも、今後を占う材料とするつもりであったが、その半分は政変を起こされたキゥオラ王家に。もう半分は愛娘を悲惨な目に遭わされたマーシナ王家に詫び金として、カローザ王家の王城跡から回収された財宝などと共に献上されたと聞き、逃げ出した商人達もいた程だった。そうと聞いていればもっと増額をとか、家宝をも持ち出したのにとか、そんな連中もいたが。
だが、マーシナ王家は、イドル王女を救い出し、ガルソナから侵入した兵力を撃滅した謝礼と相殺という形で、その金を全額カケル個人に返金した。キゥオラ王家も、ポーラ姫を救出し、アミアン一族の領地を救い、イルキハ王家の目論見を砕き、キゥオラで完遂された筈の政変劇を覆した謝礼として、送られた金額や財宝を倍にして返そうとしたという。
どんな王侯貴族でさえ軽視できない総額となった金銀財宝の内、約1/3をカローザの領地経営の為に第二王子に管轄を依頼。さらに1/3はガルソナやラグランデの領地経営の為に留保し、残る1/3を自身と家族となる身内の為に留保したという。
本来なら、ここにドースデン帝国からの謝礼の金額が加算されていく筈がされず、新たな選定侯として立てられた後の経営資金が足りなくなってもおかしくないのだが、ドースデン皇室や貴族達に振る舞ったと言うダンジョン産の食肉が人気で、それらはドースデン貴族の間で骨肉の争いを起こすほどに騒動の元にもなりかけ、皇室による厳密な抽選と入札により管理される事になり、どれほど金を積もうと平民にはほとんど味わう機会がもたらされていなかった。
だが、先ほどの夕食会では振る舞われたのだ。自分達商人をまとめる顔役にも、初めて。
涙した者もいた。咆哮を上げた者もいた。言葉を失い、黙々と胃袋の限界を超えてお代わりを要求し続けた者もいた。それを見た他の者達も、とにかくこの機会に食べられるだけ食べるしかないと、限界を超えて食し続けた。家族にも味わわせたいと皆が懇願したが、それは今後の協力への報酬としてお裾分けしますと言われれば、もう、皆に選択肢は残されていなかった。
策士め、と皆が言葉にせずとも意志を統一させた瞬間だった。
トイレで吐いてでもまた食べ続けて限界まで膨らませた腹を摩っているニージナ・テムスの姿に生暖かい視線を向けていたラグランデのアイニード・ビートの腹もまた似たり寄ったりなほどに膨張していた。
ただ、ビートはリルを通じて僅かに味わわせてもらう機会があった分、今日にかける期待は大きく、その期待は裏切られなかった。ラグランデにもいずれゲートは設置されるか、他の何らかの独自サービスを配置することで差別化するとリルは言っており、カケルとの交渉も悪い反応では無いそうで、ビートもまた焦る必要を感じていない一人だった。
ラグランデは劇場なども複数ある文化的にも進んだ都市の一つで、カケルのお願いに応える立場としても遅れを取る事は無いと自負していた。
ドースデン全体の商人を代表して参加していたミキシマ・オル・カールは、旧ラルクロッハ帝国で最大の商家であり続けたヴェッガのドーグラと、そしてジョーヌ大公領で最大の御用商人として引き立てられ続けていたザンギー家のトッキートと、ゲートの設置時期と活用方法について入念に相談し続けた。
「ドースデン帝国内では、帝都がやはり中心として在り続けるだろう。だが、今後もその地位が維持されるかは不明だ」
「左様。デモント教団の影響力が急激に削がれ、治安に不安が無くなり、土地枯れが解決していくと知れれば、ジョーヌこそが新たな核となり得る」
「そしてその隣の、カケル様曰く呪われた土地を回復させている広大な空白地。ここも膨大な商機が埋まっている。そこへの入り口としてもそのゲートは機能するだろうさ」
「もう一つの核は、カケル様がカローザに築かれるゲートと、その対岸との往来を容易にするという何らかの手段だ。それによって、昨日までは考えられなかった商流と商機が生まれるのは間違い無い」
「キゥオラに設けられるゲートもまた、相応に活用される筈だ。ふふっ、私は戦乱やデモント教団の横暴が蔓延るこの世を儚んでもいたが、カケル様が召喚され活躍されているこの時代に生きている事を、神に感謝を捧げて止まない。デモントの坊主どもにではなく」
「同感しか無い」
「全くだ」
はっはっは、と互いの見識を交わしながら談笑を続けつつも、ミキシマは狡猾にドーグラを出し抜く策を練っていた。それにはジョーヌを任されるというトッキートと、現皇帝の養女としてカケルの妻になる予定のピージャ、そして実務を任される予定のエピラッハとその妻となる予定のアマリ姫。ポーラ姫の姉であり、キゥオラ王国の第一王女、特にその四人を攻略する必要があった。
その四人にどう食い込むかが、ドースデン帝国で最大のライバルと言えるヴェッガ商会に差を付ける近道だとも見ていたが、同時にそれは実現が困難な道だとも見ていた。ヴェッガ商会こそが、ラルクロッハ帝国で随一の商家とされ、皇室の覚えも目出度く、ラルクロッハ帝国を含む数多くの国が滅びた動乱の時を生き延びただけでなく、最後の末裔となったピージャ姫の母を匿い、幼いピージャ姫を守りながら、最終的な勝者となったドースデン王国を支援し、ピージャ姫を引き渡すという、ピージャ姫にとって最大の恩を受けた相手だった。
ヴェッガ商会は現ドースデン皇帝直轄領でこそ最大だが、各選定侯領まで含めれば、最も手広く深めに商いをしているのがミキシマのカール商会だった。だからこそ、ドースデン帝国から二人、皇帝直轄領とそれ以外を代表するような立場としてミキシマとドーグラが選ばれ、カケルに最も関わりが深くなる旧ジョーヌ大公領の代表商家であるザンギーのトッキートも呼ばれたのだから。
不和の種をばら撒いて、今の立場を失う様な事はあってはならない。しかしこのままではおそらくドーグラには勝てない。だとしたらやはり、回り道な様でも、カケルの要望に誰よりも応えて信頼を勝ち取っていく以上の近道は無いと、脳内で計算していた。
ドーグラは、三人で組もうという様な話をやんわりと持ちかけてきたミキシマの誘いを、無碍に断るような事はもちろんしなかったが、乗るような迂闊な真似ももちろんしなかった。この場では皆が聞き耳を立てているのだから、本気で言ってない事は明らかだったのだし、ミキシマとドーグラの両名が呼ばれたという事は、ドースデン帝国から協調して事に当たる事を何よりも要請されていると二人とも理解できていたからだ。
商売は綺麗事では済まない。どれだけ金に余裕があっても、満腹以上に普通は食べられないし、髪を切ってあれば散髪は不要になり、全ての商機を独占する事は出来ない。全ての富を独占した時、その富は無価値になるという諺が象徴している通りだ。商人になろうと志した者が先輩商人から叩き込まれる商売の基本だ。
決して、相手が贖えない何かを売りつけてはならない。高価な買い物をする事も、分割で支払いする事もあるだろう。だが、自分を養えない者が家族を持つ事は困難だし、身の丈に過ぎた買い物をさせても、結局は売りつけた側が債権を回収できずに取りはぐれるリスクは、特別の理由が無い限り取るべきでは無いとも教えられる。
だが、カケルは商人ではない。だからこそ、対価を無視した行動を続け、それ故に誰よりも高みに登り詰めようとしている。損して得取れという、商人にとって実践が難しい道を突き進み、神より与えられたユニークスキルがあってこそではあるが、最大限に活かしているし、この大陸に住まう者全体にその恩恵を遍く与えている。
ミキシマが自分の目の前でトッキートを口説いてるのをドーグラは余裕を持って眺めていられた。ピージャの母とピージャに対して売った恩が返されるのはこれからだろうが、回収を急いではいけない。むしろ、証文を破り捨てるくらいで丁度良いだろう。
カケルが広めようとしているのはそういった類の恩恵であり、一見して一銭の稼ぎにもつながりそうにない徳を優先する事で、ヴェッガ商会は動乱の時を生き延びることが出来た。焦る必要は無い。時間をかけて関係を構築し、揺るぎない物にしていくのだ。
カケルの妻になろうとしている女性達も、互いを敵視して出し抜こうとしている様子は窺えなかった。つまり、ライバル心を焦るような贈り物などは敬遠されるという事でもあり、彼女らもカケルの持つ危機感を共有してもいるのだ。皆年若いというのに、大した物だと思わずにはいられなかった。
自分の子供や孫の世代を、彼らの知人友人として馴染ませるところから始めても良いかも知れぬなとドーグラは思い至り、膨大な数に及ぶ親戚や従業員の一覧を脳裏に浮かべて目的に沿うだろう人選を脳裏で始めた。
トッキートは、この場にいる商人の中で最も若く、そして資格を持たない一人であるかも知れない事を自覚していた。確かにジョーヌ大公領においては最も名声と歴史のある商会かも知れないが、デモント教団に旨みのある利権や商売をあの手この手で搾り取られたり奪われ、動乱の時も重なり、最大の隆盛を誇っていた時と比べれば規模はだいぶ縮んでいた。カールやヴェッガという名だたる商会と比肩し得るとはとても自分の口から言えなかった。
それでも、旧知の仲でもあるエピラッハから説得され、その妻となる予定のアマリ姫からドースデン皇帝に口利きしてもらい、カケル様にも了承をもらっての特別参加だった。そして会議の場でゲートを設置される地として選ばれ、ミキシマにはあからさまに、ドーグラにはやんわりと、組むことを打診されていた。
ミキシマの甘言が途切れたタイミングで、トッキートは二人に丁寧な断りを入れた。
「お誘い、真にありがたく。しかし、カケル様が目指しているのは富の蓄積ではありません。これから任される領地を如何に安穏に不安無く暮らせる土地に出来るか。呪いのダンジョンがあったという場所の周囲200kmという広大な土地の開拓を進め、人も誘致し、生活の基盤も整えていかねばなりません。
カケル様から協力要請のあった伝承の流布も、デモント教徒の多い土地を任されるからこそ思い付かれた妙策でもありましょう。地方を巡る旅芸人や吟遊詩人の安全も確保せねばなりません。デモント教団の様に、星龍や神の期待を裏切る事があってはなりません。次に怒りを買った時には、この世界は終わりを迎えているかも知れないのですから」
優先順位の問題だとトッキートは捉えていた。戦争が終わり、土地枯れが解決されたとしても、まだ危機は回避されていないのだ。それを、カケル様は忘れていない。美姫達に囲まれ、この世のどんな財宝でも贖えるだろう立場にいても、そこに放蕩しようとはしていない。
「ジョーヌの地に置かれるだろうゲートの活用については、お二方の商会の協力は絶対に欠かせないでしょう。それは確かです。しかし我々は、カケル様の領土を安定させつつ富ませ、そして再び転ばぬよう最大限の配慮を払う。その為に出来る事は何でも推し進めていく。商売人として稼がなくてはならない財は、その後を勝手についてくるでしょう。間違い無く」
ミキシマは苦笑いで、ドーグラは称賛する様に微笑みながら、良く出来ましたと褒める様に頷いてくれた。
「お三方、楽しげな話をされているではありませんが、仲間外れはつれないですぞ」
「そうそう。カローザとイヴィ・ゾヌの間に築かれる何かの利用については、東岸西岸両方の商人達の協力が必要となりましょう」
「ゲートの利用についても、キゥオラとカローザとジョーヌの間で足並みを揃えなければなりませぬ。利用者の選別や、ゲートの警備については領主様方が主体となって行われるだろうが、利用する主体は間違い無く商人達となる。そこで互いに身分照会を済ませ、各々の商いの規模に応じた現実的な利用料の設定も提言しなければなりません」
「将来的にゲートの数が増えていくとしても、ゲートを通じた商取引や法令などの基準は、先行したその三箇所で定められ調整されていくでしょうからな」
「そうか。カケル様も、増やさないとは一言も言ってなかったな」
「ふふ、これから楽しい時が始まりますぞ。永遠にでは無いでしょうが、我々の一生でも忘れられないような、楽しい時が。願わくば、なるべく多くがその恩恵を授かり、なるべく長くその時を享受できるよう、皆で協力していこうではありませんか?」
そうして、皆が時折うたた寝したりしながらも、ほとんど全員が徹夜して、翌日の朝食を帝国中枢の方々とカケルの関係者と一緒に済ませた後は、カケルの連続ワープでそれぞれの故郷に送り届けられたのだが、そこで大勢に待ち構えられていた彼らは、短時間の仮眠は許されたものの、中には一睡もせずに地元の有力商人達に情報伝達を済ませ、然るべき協力体制の構築に向けて調整を開始した者もいたのだった。