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ランニング55:大商人達との会合

 まあ、ぼくの活躍とか噂話が広まるに連れて、嘘か真か悩む内に、もっととんでもない話が拡散され、ってのが繰り返された結果。ドースデン帝国が広め始めて食料配給をぼくとポーラが手配したとか、数百キロを一時間で駆け抜けるとか、いや千里や万里であろうと距離を無視し、世界に散在するダンジョンを全て制覇してその財を独占しているとか、嘘では無いかも知れないけど、語弊がある噂も流れるようになって、いろんな領主や国王レベルとも付き合いのある商会の主レベルから面会を強く求められる様になってたので、どうせならまとめて会ってしまう事にしました。

 というのも、誰と一番最初に会うかとか、その順番とかでも揉めそうだったので、ある程度の領主レベルで、その領地で一番の商人を代表として選んでもらい、その人達とまとめて会う事にしました。その場では誰からも縁談を受け付けないし、その先で誰を贔屓するもしないも話し合いの結果で決める事を了承してもらった上で。


 場所は、ドースデンの帝城の一角をお借りしました。ぼくのお嫁さん候補や代官になってもらう人達や、皇帝であるプロティアさんが立ち会い人です。

 お近づきの印という手土産も見栄の張り合いも不要としてあったので、最初の自己紹介も淡々と進みました。


「キゥオラの商人を代表して罷り越しましたドン・マクレーンでございます。以後、お見知り置きを」

「マーシナの商人を代表して参りましたメロディオ・サリスです。主な取り扱い品は農作物となります」

「イルキハから、ガンドック・ダンで。鉱石や木材などを主に取り扱っています」

「カローザから参加する事を許して頂いたミキシナ・テムスです。主な商いは、東西諸国産物の交易です」

「ラグランデから参りましたアイニード・ビートと申します。私どもも東西両岸の交易が主な商いですが、マーシナからの農作物の輸出がここ数年最大の取引額となっておりました」

「ドースデン全域で随一の規模を持つカール商会の第十二代会長、ミキシマ・オル・カールです。皆様にお会いし実りある話し合いを出来る今日という日を心待ちにしておりました」

「旧ラルクロッハ帝国を長く支え、現在のドースデン帝国皇帝直轄領においては最大を自認するヴェーガ商会の会頭ドーグラです。カケル様の新たな活躍を耳にする度に、一日も早くお会いする事を願い出ておりました。今日はその機会を設けて頂いた事を深く感謝致します」

「旧ジョーヌ大公の御用商人を長年任せて頂き、これからカケル様の所領での商いのお手伝いもさせて頂く心積りでいるトッキート・ザンギーです。皆様、これからよろしくお付き合いさせて下さい」


 外見とか話し方もそれぞれに特徴があるんだけど、それについては一旦後回しで。

 各自の事情や優先したい話なんかも当然違うだろうから、商人の代表は商人の代表同士で先に運び、互いに話し合ってもらいました。それが午前中で、お昼休憩を挟んだ後の、ぼく達との会合開始でした。

 ポーラの実家キゥオラでは商業や金融業などが盛んという事で、こちらの勝手で、進行はドン・マクレーンさんに、補佐をドースデン代表のカールさんにお願いしてありました。8人が8人とも話したい事を話し始めたら、まとまる物もまとまらないのは目に見えてたので。


「さて。本日の会議本番までに、ポーラ姫様が書状の交換に助力頂いた事で、かなり論点の整理を事前に進められました。この場をお借りして、商人達を代表してお礼を述べさせて頂きます。

 午前中の商人代表同士の話し合いで、今日皆様と話し合うべき課題を三つに絞り、優先順位を付けました。

 最初に、カケル様を通じて供給される予定の大量の食糧の配給について。

 次に、カケル様やポーラ様が実現されている物資輸送について。特に、離れた遠隔地同士を繋げてしまう手段についてですな。

 最後に、食糧以外の、ダンジョン産物の取り扱いの要望についてです。

 では、最初の議題については、ドースデン帝国内で最も関わり合いを持つだろう、ミキシマ殿、ドーグラ殿、そしてトッキート殿、よろしくお願いします」

「ありがとう存じます、マクレーン殿。これまでの経緯をおさらいしておきますと、ドースデン帝国の中心地でありながら、最も食糧不足に喘いでいた帝都は、カケル殿の援助により一息つくことが出来ました。皇帝陛下や選定侯の方々から、カケル様やポーラ姫様を通じて、途方も無い量の食糧がもたらされている事を聞きましたが、これらはダンジョン産の物もあれば、そうでない物もあるそうですが、正しい理解でしょうか?」

「そうだね。クラーケンフライの元になるクラーケンの触腕はダンジョン産だけど、帝城の食糧庫に補充され続けてるのは、別の大陸で育てられてた物だよ」

「それら以外にも、食肉を得られるダンジョンもあるとか?」

「あるね。そっちの方もそれなりに量を得られると思う」

「推測にはなってしまうでしょうが、それらの食糧供給は、あと何年続けられそうでしょうか?それにより、市場への影響もだいぶ変わってきます」

「そうだよね。ダンジョン産の食糧はある程度増産も可能だろうけど、長くて五年くらいにしておいた方が良いかな。それまでには土地枯れが癒された土地の方が増えてて、作物を育てて収穫まで出来るようになってるだろうし、ダンジョンの資源も無限じゃなくて、より多く収穫すればより早く枯れてしまうだろうから」

「ダンジョン以外から得られているという糧食の方は、長期間の収穫が可能なのでしょうか?」

「可能と言えば可能だけど、それら全てを供給に回したとしたら農家とかやっていけなくなっちゃうだろうから、ドースデン全体でも一年くらいを基本に、延長しても二年。土地枯れが特に酷かった旧デモント選定侯領は三年とかそれ以上になるかもしれないけど、そこら辺はドースデン帝国や、現地で実務をお任せする予定のエピラッハさん達と調整していくことになると思います」


 ミキシマさんは商機は逃さないという気迫というかぎらつきをその眼差しから感じるけど、議事は落ち着いた物腰で進めてくれました。おさらい的なやり取りが済むと、ミキシマさんから視線でバトンを受け取ったらしいドーグラさんが発言しました。こっちは、とてもどっしりした感じの商人さんでした。葉巻とか似合いそう。この世界にあるのか知らないけど。


「値段を高くすれば、飢えた貧しい民には手が届かなくなる。安くし過ぎれば、生産者の生活を破壊してしまう。ですので、これは帝国中枢の皆様から諮問があった際にもお答えした通り、国がその生産者の生活を支援するしか無いでしょう」

「補助金とかで?」

「それが直接的な支援方法として有力ですが、皇室も選定侯もそこまで余裕をお持ちではありません。従って、農民達にも分け隔てなく食糧援助の対象とする事、枯れた土地は帝国や選定侯が無償で回復する事、再び収穫を得られるまでの間は税を免除する事。その組み合わせで何とか凌ぐしかありますまい」


 続いて、旧ジョーヌ大公領で一番の老舗という商家のトッキートさんが発言しました。この人は紫色の髪と髭がチャームポイントのお爺さんですが、滑舌はとても溌剌としていました。


「カケル様の申された通り、無限の援助は人を腐らせてしまうだろう。だが、ジョーヌの地は土地枯れにも、デモント教にも苦しめられてきた。土地枯れが癒やされていくとしても、二年から三年の援助は必要になると思う。先ほどミキシマ殿が言及された公的補助だが、デモント教団から強制徴収しない限り、その財源は現地に存在しない。おそらくは、援助する当人であるカケル様の持ち出しになってしまうのではないだろうか?」

「別にお金に困ってないので、そこは大丈夫ですよ」


 ぼくの言葉に商人代表の皆さんは揃って苦笑いを浮かべてました。プロティアさんは似たような表情を浮かべながらも、補足しました。


「そこはドースデン帝国としても大きな問題として捉えています。補填措置として、カケル殿の代か、選定侯就任から百年の間は、皇室への納税を免除する特例措置を考えております。土地枯れを解決して頂いた対価もその中に含まれてしまいますが」


 ピージャが何か言いたげでしたが、目配せをして、今は堪えておいてもらいました。


「戦争を乗り切った数年後には土地枯れによる食糧難という二重の難題に苦しめられてきたのがドースデン帝国ですからな。その内情の苦しさは、我々商人であれば程度の差こそあれ皆把握しております」


 という感じで話は進み、公的援助を農家にする事で生活を保護しつつ、安価な食料を市場に供給していく方向に決まっていき、市場価格は各選定侯や帝国官僚たちに商人たちが協力する事で調整していき、西岸諸国への転売は禁止してもらうことにしました。行商人が自分で運べる範囲内の物量を都市から農村部などへ転売する分には見逃される事も決まりました。これらは行政文書化されて、各地の商業ギルドにも告知されていくそうです。


 次の、遠隔地同士を結ぶ物資輸送手段の提供について。これは商人の皆さんにとっては、やはり喉から手が出るほどに欲しい物だそうで、ぼくやお嫁さん候補や代官になる皆さんとも話し合って、妥協点を探ってみました。


「物資の輸送を生業にして、交易や物流にたずさわる人達もまたそれなりに存在するでしょうから、その人達への配慮をするとなると、全面的に提供というのはしません。ただ、相応の対価を頂く事でこちらの現金収入手段としつつ、既存の業者の皆さんの生活を脅かさないほどに価格設定する事で競合を避け、また提供場所を限定する事で、影響範囲もまた限定できるのでは無いかと考えました」


 おお、と商人代表の皆さんが歓声を上げました。ダメもとで頼んでみた感じだったのでしょう。

 詳細については商売に一番詳しいリルから話してもらいましたが、提供想定地は、旧ジョーヌ大公領の領都、カローザの大河沿いの土地、そしてキゥオラ王都の三箇所。リルはラグランデにも欲しがりましたが、後回しにしてもらいました。


「その三箇所を選定した理由をお聞かせ願えますか?」

「ドースデン帝都に置くと、そこに人と物と商機の流れがさらに集中してしまうので当面は避ける事にしてみました。旧ジョーヌの領都であれば、わざわざ他の選定侯の土地からジョーヌへ運んだ方が早いところは限定されます。

 それからカローザは、東西交易の中心地として、向いているだろうからです。イヴィ・ゾヌ選定侯にも話を通して、両岸を便利に行き来できる手段も将来的には提供する方向で検討しています」

「その手段についてはまだ教えてもらえないのですか?」

「先に知ってしまった方が有利になり過ぎてしまいますからね。今日ここで知った情報は、それぞれ代表してきた土地の他の商人の皆さんにもお伝え下さいね。ポーラの眷属が見張っているので、お気をつけ下さい」

「キゥオラについては、キゥオラとイルキハとマーシナ向けですか?」

「そうですね。それから値付けについてですが、ゲート一つを利用で通常の運送料金の十倍、二つ利用で二十倍で考えています。基本的には、設置されている領地の領主や商業ギルドなどから身元を保証された商人か個人の利用のみを許可。軍隊の移動などには基本的に使わせません。戦争の火種にしかなりませんからね」

「しかし、もっと安価にして門戸を広げれば広げるほど、あなたも儲かる筈でしょうに。本当にお金に困っておられないのですな」

「幸い、そうみたいです」


 ゲートの設置場所や時期の詳細については、各地の領主の皆さん(旧ジョーヌのに関してはぼくかピージャ)から告知する事になりました。


「さて、それでは三つ目の議題。カケル様がこれまでに攻略されてきたというダンジョン産物の販売や流通などについて。その一部だけでもお任せ頂く検討の余地はあるのでしょうか?」

「あると言えばあるのですが、農作物や食肉などはすでにその対象になってるか検討されてますし、それ以外で商売になりそうな物があるかと言えばやはりありそうなのですが、それらを流通させる事で影響を受ける人達のことを考えれば、やはり一般の市場には流さない方が良さそうなんです」


 ぼくはアイテムボックスから、直径3センチのゴーレム玉を取り出して会議室の机の上で転がし、すぐにまた収納しました。銅、鉄、銀、金、クリスタル、大きさからすれば全く騒がれるものは無いでしょうけど、見る人が見れば、ね。イルキハ商人を代表して来てるガンドックさんがガタッと立ち上がりましたが、玉が収納されるとまた着席してくれました。イルキハのテコ入れにはあそこのダンジョン活かしたいんだけど、難しいのよね。完全にダンジョン頼りになってしまって、ダンジョンが生きてる内はいいけど、枯れたらまた元の木阿弥ってね。


「商売向けではないダンジョンもまた多いですし、普通の人なら立ち入るだけでほぼ即死するようなのも多いです。ただ、皆さんとは今後も良い関係を維持できればそれに越したことは無いので、ぼくからのお願いを聞いて頂けるのであれば、可能な範囲で協力できる事を考えてみますが、いかがでしょうか?」


 それからは8人が一斉に、多分さっき立ち上がったガンドックさんがぎりぎり一番早かったかも知れないけど、ほぼみんな同時に、同じ様な台詞を返してくれました。協力は惜しまない。ぼくの願いを聞かせて欲しいと。


 ぼくはにっこりと微笑んで(鏡の前で何度か練習してみましたが、なぜかお嫁さん候補のみんなにはあまり評判が良くありませんでした。ピージャには大笑いされ、プーテにはなぜか気に入られてしまいましたが)、話し始めました。


「少し、長い話になりますが、ご了承下さい」と断りを入れ、「ぼくは、ここの世界では無い別の世界から、ここの神様に呼ばれて来ました」と切り出し、ぼくがどうやってこの世界に来て、どんな事をしてきて、これからどんな事をしようとしているのかを説明していきました。

 巷にもある程度噂話で流れてはいますが、当人から正しい話を伝えておく意味は小さくないと思ったので。

 その締めくくりで、ぼくはお願いしました。


「神様は裏切られてきました。ぼくがデモントの大聖堂を空から投げ落とし、その領都を滅ぼしたのも、彼らが神の使徒を私欲から滅ぼし、土地枯れの原因を作っておいて、自らはぬくぬくと過ごしていたからです」

 ガラーシャさんにも登場してもらって、補足説明もしてもらいました。

「デモント領都があった所には、今ぼくが語った様な歴史を綴った碑を建てようと思っています。それはぼく一人で出来るでしょうけれど、皆さんに頼みたいのは、劇団や旅芸人や吟遊詩人などに劇や歌などを通じて、伝承を流布させて行って欲しいのです。

 時代の移り変わりなどで掠れたり捻じ曲がって行ってしまう部分もあるでしょうけど、ぼくがまだ生きていて、生き証人というか正確な情報を伝えられる存在がいる内に、伝承を広め、後援・保護していって欲しいのです」


 商人の皆さんは視線を交わし合うと、代表する様にトッキートさんが聞いてきました。


「お話、大変興味深く感じました。しかし、デモントの教団や教徒が黙っていないのでは?」

「これはまだ一般に広く知らせてはいませんでしたが、旧デモント選定侯領を与えられることになって、ぼくの関係者が狙われることは目に見えていましたから、予防措置を講じ始めています」


 で、ドースデン帝国やエピラッハさん達と進めている措置の経過や現状についても説明したら、ドン引きされてしまいました。予想の範囲内でしたが。


「まあ、そんな事を可能にしてしまう物がダンジョンからは取得できてしまったりするので、やはり一般に広めるのは危険過ぎると思います。

 それでも、協力頂けると皆さん名乗りを上げて頂いた訳ですから、ぼくから協力できる事の一端をお見せしておきますね」


 アイテムボックスから取り出したタブレットを操作して、先日大島で撮影した光景や、小島と仮称を付けられた宇宙船の姿や、空から見下ろした緑化途中の旧呪いのダンジョン周辺の土地の様子などを、壁の一面をプロジェクタースクリーンとして使って映し出しました。

 反応は上々。ただまあだからこそ、念入りに釘は刺しておきました。


「進んだ技術の産物は、おそらく、流通させる対象にはしません。魔道具で代替できる様なのもそれなりにあるみたいですしね。進み過ぎた技術が何をもたらしてきたかについて、皆さんにもお伝えしました。ぼくは、その過ちを繰り返す存在になるつもりはありません。

 先ほど映像でお見せした大島に首都を築き、小島を足代わりにするでしょうけど、それらで地上を支配しようとはしません。ぼくの子孫の誰かが受け継ぐことになるでしょうけど、かつての人類と同様の過ちを犯そうとすれば、星龍によって瞬時に大島も小島も消滅させられます。その時には、この世界そのものが終わっているかも知れません。

 皆さんに協力をお願いしたのは、そんな未来を防げるかも知れないささやかな抵抗です。ぜひ、お力を貸して下さい」


 そこでぼくや、お嫁さん候補達が揃って立ち上がり、頭を下げると、商人代表の皆さんが叩頭や敬礼とか床に跪いたりとかしながら、次々に協力の具体策を具申してくれました。

 お抱えの芸術家や劇作家や詩人、吟遊詩人や歌手などを紹介してくれたり、劇団や劇場のオーナーやパトロンになっていたり知り合いだったりする人も少なからずいて、それぞれに出来る形で協力してもらう事になりました。


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