ランニング53:西岸諸国領主会議
会議は、この都市の領主の大広間で懇談会を済ませてから行われました。
というのもそれぞれの随員まで含めたら二百人近くになるので、全員で会議という訳には行かず、会議の進行などによっては雰囲気が最悪になって喧嘩別れになってしまう事も考えられる為、先ず最初に顔合わせをして挨拶もしてお腹も膨らませて落ち着いたら、話し合いを始めましょうという事になりました。
ぼくは、イドルやポーラ、リーディア、その他代官になる予定のみんななどに側についてもらいながら、ただひたすらに挨拶を受け続ける時を過ごしてました。はい。当然だけど、誰がどこのどんな人だったかとか、ほとんど覚えられませんでした。この場では新たなお嫁さん候補の受付はしないと明言してなかったら、めかし込んだ参加者が倍以上には増えていたでしょう。
国主レベルの人達とそれぞれの書記官、ぼくとお嫁さん候補と代官になる予定の、ポーラ、リーディア、イドル、リル、コルフェン、オルガリア、ピージャ、それにアマリさんとエピラッハさん達も特別に参加を認めてもらいました。
会議の進行役は、ここの領主の侯爵さんが担当してくれてたんだけど、ガチガチに緊張してて、側付きの家宰さんが付きっきりでサポートしてました。
一通りの軽い挨拶が終わった後は、最初の議題から重めでした。
「カケル殿が建てられる国の名と、首都の選定。国の体制をどうするのか、お考えを聞かせて頂きたい」
ぼくだけだったらスラスラと答えるのは無理だったでしょうけど、イドルやポーラ達によって、さっきの事前会議で決まった事と継続審議になった事を、さっきはいなかった面々に説明していきました。
「連合王国か。まあそれしかやり様が無いだろうが、首都はどこに置かれるおつもりか?」
「飛び地になりますし、それぞれの代官の所在地がそれぞれの領都になるんじゃダメなのでしょうか?」
「駄目では無いが諸々の不都合が生まれるだろうな。最も、定めた場合でも別の不都合が生じるだろうが」
「例えばどんな不都合でしょう?」
「カケル殿はその妃達の待遇に差を設けないと聞いた。第一夫人、第二夫人といった序列だな。通常であれば、その序列がそのままその夫人から生まれた子供にも反映される。それが将来の継承位争いについても、一つの明確な指針を設ける事にもつながる」
「しかし、連合王国の大王の坐す所が、首都となり、そこに常駐している妃が最も接する頻度が高くなり、周囲からも、側に留め置かれていると見られる。それだけ子も出来やすくなる状況にもなるだろうから」
「でも、ぼくの場合は、距離はほとんど無視して飛び回れますよ?」
「だからこそ平等に扱うという事も可能になるのだろうが、領地を任された代官や女王の座に居る者と、そうでない者との間に差異は生まれるだろう。夫婦間の事にまで我らは口出しするつもりは無いが、首都をどこに定めるかは軽い問題ではない。将来、誰が大王位を継ぐ者になるかという問題と直結すらする」
「ん〜、本来なら、カローザが地理的には向いてるのかも知れませんが、ぼくのお嫁さんや関係者の中にはあそこが忌避される理由もありまして。どうしてもというなら、緑の魔境という別の大陸にぼくやお嫁さん達の為の館というか宮殿を建て始めてますので、そこに定めてもいいかも知れませんね」
「しかし、それではカケル殿に何かあった場合、往来が不可能になってしまうのでは?」
「それもそうですけど、今はゲートという距離を無視した存在を設置できますのでその問題を無視して、将来的にどうするかはまた別の方法を考えます。飛び地間の移動や、目に見える首都があった方が良いというのは、確かにその通りかも知れないので」
何となくですが、ファンタジー世界に良く出てくる浮島とかを見つけて、そこに築けると面白そうだなと思って、こっそりサーチスキルで検索すると使えそうな存在が見つかったので、後で見に行く事に決めました。
緑の魔境は、ぼくやお嫁さんとその生活を支えるくらいの人や、ポーラの眷属といった特殊な立場以外の住民が無制限に増えていってしまう事を、オ・ゴーさんは嫌がるかも知れませんからね。あそこは、家族のみんなだけでくつろぐ土地として取っておくのが良さそうです。虫のダンジョンも一大農作物施設として成長しつつありますが、普段の農作物の世話はほとんどオ・ゴーさんかポーラの眷属の皆さんにお任せしてますし。
首都の問題はいったん棚上げというか、追って決められる事になり、続いて話し合われた税率については、いったん以前の金額で当面据え置きになりました。カローザとかガルソナの軍事予算の多くを削減すれば、それだけ税金も削減できるんじゃ?とも提案してみましたが、軍事というのはすぐに止めたり復活できるものではなくて、ぼくやポーラの没後も子孫の生活を安定させる為にも、浮いたお金はプールしておいて、必要な経費として使った方が良いともアドバイスしてもらいました。
まあ、異常に税金が安い国や領地が出来ると、人が一気に集中して治安が極度に不安定化したり、一国だけの問題では済まなくもなったりするそうです。兵役が無い国というのも人気の理由になるけど、さっきと同じ理由で、後々の世代の事を考えるのなら、それはかなり危うい事態を招くと忠告されました。
ぼくやポーラが出来てる事がまるきり出来なくなってしまうと考えると、確かにぼくやポーラに頼りきりの体制を築いていくのはヤバそうですよね。
そんな感じで、ほんのつい最近まで一人の平民だった子供が、大国の主になってしまうという事態について、色々とアドバイスをもらいつつ、ドースデンとの関係をどう構築していくかについても相談しました。
「イルキハ、キゥオラ、カローザ、ガルソナ、ラグランデの各地域を統べる領主が、ドースデンでもほぼ最大の版図と影響力を持つ選定侯として起用される。しかもドースデンからの配偶者に娘が生まれれば、次代皇帝の妃となり、皇室への直接の発言力も持つ事になる。他の選定侯達との力関係が歪なものになるのは避けられないだろう」
「カケル殿の人となりはこれまで見ていて不安になる要素は無いが、次代以降。カケル殿の持つ能力が継承されていなかった場合、その権勢の揺り戻しは激しいものに成りかねない」
「キゥオラも、マーシナも、カケル殿とその領地を可能な限り支援しようとするでしょう。その代官達と共に。しかし、その次代が来るまでの間に、どれだけの良好な関係が築けているか次第でもありましょう」
「今や、土地枯れが解消するまでの次世代くらいまでの間は問題無いでしょうが、現在の食糧支援が完全に過去の話となり忘れ去られた頃から危うくなり得ます」
喉元過ぎれば何とやらとか言ったりするし、神様や星龍とかも、何度も繰り返される愚行に辟易してたし、自分やその子供達なら大丈夫!とか妄信はしない方が良いですよね。
そう言えば、デモントの大聖堂があった場所に、何があったのか忘れ去られない為の石碑か何かを建てておく事を後回しにして忘れかけてましたから、また忘れるまでの間に、誰か忘れなさそうな人に、相談しておきましょう。ガラーシャさんとか。幽霊だけど。
ちなみに、ガラーシャさんには、この領都全体の監視を依頼してありました。ポーラの眷属達と連携して。この会議の場にはバッシュだけでなく、他の中ボスとかも配置してあったし、宮殿のあちこちには剣や魔法のダンジョンのラスボスを潜ませて巡回してもらってたり、さらに高空には空龍ル・ホライを呼んで監視してもらってました。互いに、ほとんど存在を忘れかけてたのは笑い話です。
あ、もちろん、ラガージャナさんやエフィシェナやワルギリィさん達も護衛として、会議室の片隅に佇んでました。
そんな感じに、ぼくが意識をあちこちに飛ばしてても話し合いは、三人の国主と、ぼくの関係者とかの間で活発に議論されて進んでました。
うん。真面目な話にずっと付き合ってないといけないとか、本当に実務までこなす王様の上の大王とか、書類仕事だけで死ねそうですね。方々を瞬時に移動できるぼくだから連合王国の大王なんてものが務まるのであって、ゲートがぼくの死後維持できないのなら、早めに連合王国は平和裡に解体しておいた方が良いかも知れません。
もちろん、この場でそんな思い付きを口にするとまた影響がすごい事になりそうなので、話を振られる度に曖昧な返事を返したりしておきましたが。
会議は時々休憩を挟みつつ続き、夕食の時間で終了となる間際、ミル・キハ公爵さんから真剣なお願いをされました。
「カケル殿は方々のダンジョンを制覇する事で、人の心の執着を断ち切れる剣を得て、それで旧デモント選定侯領で統治の障害になりそうな民の執着を切って回っていると聞いたが本当か?」
「本当です。今は、エピラッハさん達とも相談しながら進めてますが」
ミル・キハ公爵さんは天を仰いで何かを呟いてから、ぼくに頭を下げてお願いしてきました。
「カケル殿。其方が異界より神に呼ばれ、その力を振るっているというのは真実なのだろう。だからこそ乞い願う。ミル・キハの民には、同じ事をしてくれるな」
「ぼくやぼくのお嫁さんや関係者、それにこれからぼくの所領に悪さとかちょっかい出してこなければ、その対象にならない事はお約束できますが、ただ」
「ただ、何だろうか?」
「イルキハでリーディアやその家族を狙った爆発物テロの主犯であった殉教派に関わっていた者の中には、ミル・キハの民も含まれていました。既にこちらで捕捉していた者については処置済みです」
「それらの者に処遇についてはとやかく言うまい。本来、国の内政について口出しを許される機会など与えられないものだからな。しかし、だからこそ、我が国の教会の信徒達については、その力を振るわないでいて欲しいのだ」
「ぼくの側の条件は簡単です。こちらに何かしようとして来なければ、こちらからも何かしようとはしません。そこだけきっちりと守って頂ければ、問題は生まれませんよね?」
「・・・そうだな。国が、カケル殿の連合王国が成立した後は、正式な条約を、互いの友好と平和の為に取り交わしたいが如何か?」
「お嫁さん達と相談してお返事させて頂きます」
ミル・キハ公爵は苦笑いしてましたが、ぼくの周囲にズラッと揃ってる彼女達を見て、頷いてくれてました。
その後の夕食会まで終わったら、国王や公爵や代官や随員達をそれぞれの国に送り届けました。
ぼく自身は、ポーラ経由で、アザーディアさんからオードリーのことで話があると言われて会いに行ってきましたが、驚きました。彼女を墳墓ダンジョンから引き取ってきてアザーディアさんにお世話を頼んでからまだ二週間くらいしか経っていませんが、既に倍以上の大きさと重さに育っていました。
「ええと、普通じゃないのは分かるんですが、どのくらい普通じゃないか分からないので教えて頂けますか?」
「だいたい、一日で一月分ほどは育っているようです。お預かりしてからまだ二週間ほどですが、それでも一歳半程度には育っているようです」
「食べ過ぎ飲み過ぎとかって問題では無いよね?」
「無いですね」
「やっぱり、ダンジョンで長期間匿われてたとか、大昔の科学技術とかで何か操作されてるとかなのかな」
「カケル様でも原因に心当たりが無い事だけは伝わってきました。それで、この子を今後どうされるおつもりですか?」
「どうって言うのは?」
「今後もこの勢いで成長が続くかどうか分かりませんが、続いたと仮定するなら、ポーラ姫やリーディア女王とご結婚される一月後には四、五歳ほどに。一年が経過する頃には、成人年齢を遥かに通り越して、人間で言えば中年の年齢に達しているかも知れません。最も、長命種族であれば、まだ幼年期に当たるのかも知れませんが」
「ん〜、スフィンクスなら何か知ってるかも。聞いてみるよ」
という訳で、小型端末的にくっついてもらってるミニ・スフィンクスを通じて相談してみました。話し声はそのまま聞こえるので、スピーカーフォン状態です。
「心配する事は無い」と言うのがスフィンクスの回答でした。
「その根拠は?」と尋ねると、
「彼女らの種族は数百年は軽く生きていた。おそらくだが、ずっと成長を止められていた反動が出て、自立して活動できる年齢まで急激に成長させられているのだろう。彼女達の種族の技術は高かったから、そんな所の調整にしくじっている事もあるまい。だから心配する事も無いのだ」
事前に言っておいてくれよ、って感じでしたが、スフィンクスにしても千年以上時を止めていた存在など初めて接したので、その後の成長など予測が出来なかったと言い訳されました。
「まあ、そういう事なら仕方ないのかな。特に心配する事も無くなったみたいだけど」
「数百年を生きる種族の五十歳だと、人間で言うと少年少女の年頃に当たるのでしょうかね。もしそうだとすると、あなたに新たな配偶者候補が誕生することになりますが」
「そうなるかどうかも分からないんだから、今から心配してても仕方ないよ。アザーディアさんには面倒かけちゃいますが、これからもよろしくお願いします」
「・・・なぜか、この子が特大の厄介事を招き寄せるような気がしてならないのですが」
「ポーラのお世話をしていたあなたがそれを言うかな」
「忌み子というような存在ではなく、もっと根本的な何かでそう感じるので詳しい説明はできません」
「将来どうなるかなんて分からないんだし、不安だから見捨てたり殺したりとか、特にこの子に対してするつもりは無いよ」
「そうでしたね。失礼な事を言ってしまいました。申し訳ございません」
「勘とかは馬鹿にできない時もあったりするから、また何か異変とかあったら教えてね」
「はい。その時は、必ず」
その後は、アザーディアさんのお給金とかにボーナスをぼくから出す事をポーラに提案しておいて、彼女もお嫁さん候補にするつもりなのか聞かれたので、オードリーの事情について伝えたら納得してもらえました。
生後二ヶ月に満たない赤子が、一年後には実年齢として四十から五十歳に該当しそうなほど成長するかも知れないとか言われても、普通、想像できませんけどね。
その翌日からは、昨日思い付いてサーチしてみた浮島を探してみる事にしました。




