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ランニング32:第七チェックポイントと、オ・ゴー

「あんな感じで大丈夫だったでしょうか?」

「リーディア達を助けられたし、道中死なずに目的地目前まで到着できたし、ドースデンの様子もある程度掴めたし、まぁまぁじゃ無いかな?チェックポイント更新するかい?」

「不安なんて尽きないでしょうしね。ドースデンの軍隊を潰してそれが正解かどうかもまだ分からないので、ここで区切りを付けておきます」

「了解した。それで、次には何から手を付けるのかな?」

「ポーラ達に情報共有したら、緑の大陸ですかね。そこの支配者とどうにか話をつけないといけないんですよね?」

「つけばいいんだけどねぇ」

「どうせ、倒せばいいってものじゃ無いでしょうし、せっかくセーブポイントも更新したので、出来るだけのことは試してみますよ。手土産が無いと、止まれない人達が大勢いるでしょうから」

「そうか。君を選んで良かったと思っているよ。ぜひ、君は君のままでいてくれ」

「なるべく、ご期待に添えたらとは思っています」

「うんうん。良きかな。このまま、ぼくを楽しませておくれ」


 そして、と何か言いかけてたと思うのだけど、元の空間に戻ってきたので、キゥオラ王城へと向かい、ませんでした。

 マッキーを通じてポーラを呼び出せば、どうせすぐに現れてくれるので。

 せっかく全てのスキルが利用可能な状態で、何度も仕切り直しするかも知れないので、省力化と時短です。


 待ってる間。そういえば、ル・ホラィとかの竜シリーズ?についても聞こうと思ってたのに、忘れてしまってたというか、その前に追い出されちゃいました。聞いても答えてくれない質問だったのかな。


 そして、三分も経たずに現れたのを遅いと見るか早いと見るか。

 きっと、アザーディアさんに身だしなみを整えられた時間がかかっただけで、そうでなければ即時に顔を出していたと思います。

 影の中から姿を現したポーラは、挨拶もそこそこに抱きついてきました。


「カケル!お帰りなさい!」

「ただいま、って、わぷっ!?」

「無事だったの?死んだりはしないで済んだの?」

「うんまぁ。運が良かったんだろうね」

「それで、レベル100になって、向こうからはすぐに戻って来れるスキルを身につけたの?」

「一度行った事のあるどこかならね。一度使用すると、再使用までの制限はキツめだけど」

「ふーん。旅の途中の詳しい話は、みんな揃ってる時に聴かせてもらうとして、私だけをここに呼んだのはなんで?」

「状況が状況だし、チェックポイント直後なら、死んでもやり直しがしやすいからね。必要な事だけ伝えておくよ」


 先ずは、ドースデン帝国の侵攻軍について。三方面に分かれて西岸諸国に進軍してきてる事を伝えました。

 流石のポーラも顔色を悪くして尋ねてきました。


「数は、どれくらいだったの?」

「少なくとも数万ずつくらいはいたかな。南のが一番多かったと思う。蹴散らす事自体は出来ると思うけど、それは根本解決にはならないから、すぐ食料の当てをつけて、ドースデンと交渉できるようにならないといけないんだ」


 旅の途中で空竜ル・ホラィと出会い、勝負して負かして配下にして、次の大陸の主が食料の持ち出しを許してくれそうにないという情報も渡しておきました。

 正直、影の空間繋げて、イドルやリーディアにも声を聴かせてあげたかったけど、どうせ何度かやり直す内に、その機会は生まれるでしょう。


「という訳で行ってくるけど、みんなにも伝えて対策を相談し始めてね」

「分かった!気をつけてね!」

「うん、ありがとう、行ってきます」

「行ってらっしゃい」


 ポーラをギュッと抱きしめて、体を離したら、ワープを起動。イプシロン達を置いてきた小島に戻ると、砂浜にル・ホラィの長い体が横たえられて、イプシロンとダグラスに抑え付けられてました。


「・・・まぁ、細かいことは聞かないでおくよ。二人が大空の支配者(笑)を抑えて置いてくれたことは分かったから」


 二人?二頭の頭とかを撫でてあげて、一旦ル・ホラィの上からのいてもらいました。


「さて。これからこの大陸の主さんに挨拶をしに行こうと思うのだけど、どんな人?竜?なの?」

「人でも、竜でも無いな。巨大な植物が、龍の様な、何とも言えない姿をして動き回っている」

「会話は出来るの?」

「向こうがそうしようと思えばな」

「分かった、それじゃ、会いに行ってみようか」


 何度繰り返す事になるか分からないので、会話は抑えめにします。面倒なので。

 サーチスキルを使えば、会いに行こうとしてる相手のいる方角も距離もすぐに分かるので、迷うこともありません。


 小島のある所から、およそ350kmくらいの場所。そこにずっと居る訳ではなくて、ずっと移動し続けているようです。

 適当な高度まで超加速で登ったら、レベルアップに必要な距離を残して走って近付いて行ってみます。ワープを再度使う為ですね。この大陸の様子も確かめておきたかったし。死に戻りがあれば、次はこの過程はスキップできますしね。


 緑の大陸というだけあって、地表の大半は緑に覆われてました。ジャングルというのが真っ先に浮かびますが、そこまで大きい木に覆われているというよりは、苔とか下草とかに覆われてる面積の方が広そうです。

 木々もいろんな種類が、とてもカラフルな葉っぱや花をつけたのが生い茂ってはいるのですが、それよりも気になったのが、人造の建造物の廃墟みたいのが、そこかしこに埋もれて見えた事です。


「ホラィ、ここって昔は人が住んでいたの?」

「いつ頃までなのか、覚えてないくらいの昔だがな」

「ここの主さんはその頃からここに居たの?」

「その頃にはまだ今の様な巨体では無かったが」

「その主さんが、人を滅ぼしたの?」

「違うな。人を滅ぼすのは、天災の場合もあろうが、人だ」

「・・・・まあ、そんなことがあったって事だね」


 世界は縮まってきたというのであれば、ここはかつて人が住まい、そして見捨てられた地域というか大陸なのでしょう。

 だとしたら、ここの主という存在が何をしているのか、だいたいの推測がつきました。


 レベルアップしてちょっと進んだ頃には、自分が目指してる相手の姿が見えてきました。刺激を与えないよう、通常上限速度で近付いていったのですが、互いの距離が1kmを切った頃、相手が何かを吐き出したようで、ル・ホラィが慌ててかわしていました。


「あいつめ、思い知らせてやる!」

「ホライ、ステイ!攻撃が続くようなら高空に避難してて」

「しかし、やられてばかりでは我の沽券が」

「いいから、相手の攻撃が届かない辺りへ避難!今すぐ!」


 ル・ホラィは渋々と、砲撃を避けながら高空へと上昇していき、彼の姿がだいぶ離れた辺りで攻撃は止んだようです。まあつまり、彼が過去に攻撃対象にされるような何かをやらかしたせいでしょうね。

 改めて、自分が向かってる相手の様子を見ると、あれ生物なの?という印象を受けました。

 植物を組み合わせ撚り合わせた高層マンションというか集合団地の様でもあり。一番高い部分は地上300メートルほどもありそうで、横の広がりも直径で500メートルはありそうです。

 体?のあちこちに巨大な花が咲いていて、一番大きな虹色のが頭頂部?に付いているのだけど、花弁の端から端まで100メートルはありそう。その中央部についてるのは、あれは顔と言って良いのか迷う謎構造物です。

 その足元は大小様々な根っこがうぞうぞと蠢いていて、数え切れないほどの長い蔦が、体の周囲を警戒する様にゆらゆらと揺れてました。


 まあでも、とりあえず攻撃はされなかったので、だんだんとスピードを落としつつ、必要に応じたスキルは使えるように心の準備をした上で、ぼくの背丈の十倍くらいはありそうな顔?の前に立ちました。距離感がバグってるので、数十メートルは離れてるかもだけど。


「こんにちは、初めまして。ぼくはカケルと言います。お名前を伺えますか?」

「・・・・・ヴァァァァアアアア、ゥオオオ、ィイイイイ!」


 数秒の沈黙の後、相手の口が開いたと思ったら、大音響の挨拶というか、発声練習みたいなノイズ?が数十秒以上続きました。両耳を押さえてなかったら、鼓膜が破られていたかも知れません。

 その間、思い付いて、もらったけどまだ使ってなかった鑑定メガネで相手を見てみたら、思ったよりも詳しい情報が表示されてびっくりしました。


オ・ゴー:デュードリアン旧大陸において発展した人類が、損耗させた大地を回復させる為に生み出した人造精霊とも呼べる存在。知能を得て、回復させても回復させても大地を汚し損ない続ける人類を駆逐した後も、大地を癒やし続けている。


 うん。こっちの大陸にある廃墟の幾つかは、元の世界にもありそうなビルみたいな高層建築物ぽかったんだよね。でもまぁ、これで相手さんの動機?心情?みたいのが分かったかもだけど、せっかく育てた食糧?相手にしてみれば大地を癒す為の素材か。それを別大陸とはいえ、人類に分けて、というのは、虫が良すぎるのかな。


「あ“、あ“、あ“〜、聞こえるが。理解できるか。ぞこの小ざいの」

「はい。十分に」


 濁点が混じるのはその内解消されそうだしね。


「ぞれで、ごこに、何じに来た?」

「怒られるかも知れませんが、最初に話を聞いて頂けますか?」

「・・・わ“かっだ。話じて、みろ」


 この人?精霊?どっちでも無いので、オ・ゴーさんには隠し事はしない方が良さそうなので、全部の事情を話してみました。何なら、死んでやり直しまですれば時間を巻き戻せるので。

 自分が異世界から呼ばれた理由。神様との約束?で動いてる事。別の大陸の人類達の動きとその理由。そして自分がここに来たのも、それらが絡んで、食糧の当てをつけに来た事なんかを、包み隠さず。


 見た感じ、話を聞き終えたオ・ゴーさんは、ガックリと項垂れた印象を受けました。大きな花々が花弁を閉じ、あちこちを警戒するようにワキワキと動いてた蔦の数々もしゅんと萎れてしまった感じで。


「土地が、枯れていってる、のか?」

「はい。それが起きなければ、今みたいな争いは起きてなかったかと思います。まあ、人同士ですから、日常的な争いは起きていたと思いますが、その程度で済んでた筈かと」

「土地が枯れていってるのは、神様が、関心を失ってきているから?」

「はい。神様から、そう伺いました」


 ばぁあああああ、っと独特で盛大な溜息をついたオ・ゴーさんは言いました。


「自分も、神様、会った事、あるだ」

「ええっ!?」


 それは流石に驚きの情報です。だって、ル・ホラィみたいのは間違っても会って貰えなさそうだし。


 オ・ゴーさんの話によると、大昔、収穫力が落ちてしまった土地の土壌を回復していく為の人工知性体、元の世界で言うならAIとして生み出されたのが、オ・ゴーさんだった様です。

 目的を達成する為の機能を次々に追加されていき、広範囲をカバーする為に巨大化もされていったそうですが、それでも到底土地が消耗していく速さと広さはカバーし切れず。

 元々が人により生み出された知性体ですから、人に自制を促したそうです。それでも、人類社会を維持する為の経済活動を止める訳にはいかないとかなんとかで聞き入れて貰えず。

 しかしこのままでは人類社会が詰んでしまうことは自明で、オ・ゴーさんは自分なりの抗議活動ストライキみたいなのもしてみたそうですが、人類に反抗したAIとして処分されそうになって。


 その頃に神様に会って、ここの人類は見捨てる事にしたから、好きにしていいと言われたそうです。まだ望みがありそうな一部だけをまた別の大陸に持っていくから、この土地を癒していって欲しいと頼まれて。


 それがいつ頃かは忘れたけれど、少なくとも数千年は前だったそうです。

 神様から力を与えられ、パワーアップしたオ・ゴーさんは人類社会の猛攻に耐えながらその基盤を更地にして癒していき、この大陸から旧人類を根絶できたのは、ほんの千数百年前頃で、それからは隅々を巡りながら土地を癒し、植物を育てることに邁進してきたそうです。

 ごく稀にやってくるル・ホラィみたいな作物泥棒を追い払ったり、どこからかやってきたか隠れてたらしい人類の末裔については、それがかつての文明に達しそうな兆しを見せない限りは見逃したり。


 そんな風に日々を過ごしてたら、自分と出会ったそうです。

 でも、気になることがありました。


「でも、そうすると、この大陸では、土地枯れは起きてないんですか?」

「表面的には、だな。森にまで育ってもおかしくない場所でも林やそれ以下に留まったり、種や実の類も、だんだんとその数や大きさを減らしてきていた。神がこの世界全体を見限ろうとされているのであれば、さもあらん」


 んー。まぁ、ぶっちゃけて聞いてみるしか無いよね。迷ったところで、言わなきゃいけないことは言うしか無いんだし。


「それでは、この大陸にある、食糧になりそうな作物を、先ほどお話しした大陸の方へ頂いてもよろしいでしょうか?」

「ああ、いいぞ。神がこの世界全体を閉じようとされているのなら、もうこの大陸を癒して回る事の意味も無くなったからな」


 承諾は貰えたものの、ものすごく後ろ向きな理由で、あまり嬉しくはありませんでした。ついでなので、望み薄なもう一つの質問もしてみました。


「あのー、実際閉じられるかどうかは、ぼくが今後どうしていくかにも関わるみたいで、ぼくが諦めないうちは閉じられないみたいなので、厚かましいお願いではあるのですが、その大陸の枯れた土地を癒せるかどうか、試して頂くことはできますか?」


 オ・ゴーさんはしばし体全体をゆらゆらと揺らして、たぶん悩んだ後に、断ってきました。自身が直接行く事に関しては。


「移動する事に関しては、カケルに頼めば何とでもなるのだろうが、自分はもうここで最後まで穏やかに暮らしていきたい。だが、自分の若い株達であれば、新天地で動いてみたいと思ってる連中もいるだろう。そ奴らが望めば、連れて行っても構わない」

「ありがとうございますっ!」


 いやー、頼んでみるものだね!コミュニケーションてやっぱり大事だね!


「お願いばかりで申し訳ないのですが、人が食料としてた作物がたくさん実ってるのがどの辺りになるか、教えてもらえますか?」


 オ・ゴーさんは快く教えてくれたので、ワールドマップ上でこの大陸を拡大して、だいたいの分布を把握できました。


「そしたら、こちらで作物?の収穫を行う者達を紹介しておきますから、見かけても襲わないであげて下さいね」

「収穫しても、運搬はどうするのだ?カケル一人で運ぶには限界があるだろう?」

「そこは頼りになる相方がいるので。まず、ポーラ」


 マッキーを飛ばして本人を呼びつけてみました。どうせ盗み聞きしてるだろうと思ったら、その通り、ほんの十秒も待たずに出てきました。

 ぼくももう面倒なので、いちいち突っ込むのは辞めました。


「こちら、オ・ゴーさん。この大陸の土地や植生を癒して回ってたお方です。こちらは、ポーラ。キゥオラ王国の王女の一人で、ぼくの奥さんになる予定の一人でもあります。彼女が闇魔法で、眷属同士の間を影空間で繋ぎ、物資の運搬までする予定です。

 ポーラ、こちらで動かす予定の全員をここに召喚して挨拶させて。イドルやリーディアみたいな要人警護についてたり、監視とかで外せないのは除いて」


 ポーラは、オ・ゴーさんの威容にしばし圧倒されていましたが、なんとか持ち直すと王女らしい挨拶をして、地表に二千以上にもなった眷属を召喚しました。だいたいはイルキハの兵や、ガルソナの傭兵や兵だったアンデッドですが、その指揮系統は、ドロヌーブたちが握っているようで、ビシッと整列した兵がオ・ゴーの前で敬礼する姿は壮観でした。

 オ・ゴーさんは、数千の兵とかの一人一人の顔や姿をスキャンする様に、目の様な感覚器がついてるらしい蔦を何本も整列した兵達の前にかざしてたので、彼らもビビってはいましたが。

 そんなオ・ゴーさんによる登録作業?の後は、案内用の株(小型オ・ゴーさんで端末みたいな感じなのかな?背の高さは数メートルくらいの、ざっくり言うとエントみたいな感じだったけど、木?って感じの外見なので微妙。

 それはともかく、列車ごっこで、採集候補ポイントを近場のから巡っていきました。要注意な生き物(草食獣や肉食獣みたいのも生息してるので)についても教えてもらい、それらの狩猟も、根絶しない程度と制限はかけられましたが、許可をもらえました。

 ル・ホライが緑の魔境と呼んでいたこの大陸の正式名称は、ミ・グレーン・シャンク。長いのでシャンクと略しますが、キゥオラとかがある大陸の数倍の広さがありそうです。レベル上げの為にも瞬足はなるべく使わずに、大陸のあちこちに、ポーラの眷属の部隊を配置していきました。彼らは生活拠点を設営する必要も無いので、害獣の類は狩り倒した後は、早速採集を開始して、収穫した作物はいったん影空間に放り込み、そこで時間経過しないか遅くなるマジックバッグやマジックボックスの類に保管していくとのことでした。

 

 ジャガイモとニンジンの中間みたいなのとか、キャベツとかぼちゃの中間みたいのとか、それなりの大きさのが、見渡す限りの地面に生えてました。

 収穫時期によりまた別なのが採れる様なので、種芋になる様なのは残すようにしつつ、収穫に励み。


「イドルやマーシナ王国にも動いてもらってるけど、すでにそれなりの人数の数週間分以上は採れたみたいよ」

「まあ、この大陸だけで全部賄えるかどうかわからないし、この若株さんに枯れた土地を診てもらって、癒せそうかどうかも試してもらわないといけないし。癒せても当人が消耗してしまうのなら、癒せる範囲は限られてくるしね」

「じゃあ、他の候補も回ってくるのね?」

「うん。いくつかは、既に見当つけてあるし。という訳でこっちは任せたよ」


 ポーラはまだ一緒にいたがりましたが、ポーラだけを優先し続ける訳にもいかないので、軽くハグしてチュッとしたら、元の大陸で枯れた土地を癒せるか試すのに名乗りを上げてくれた若株さんとマーシナへとワープ。さっきドースデンの様子見てきた時には夜中でしたが、11時間近く走り回ってたおかげで(レベルも124に上がり)、マーシナの辺りはお昼頃の様でした。

 ポーラを通じて連絡を受けてたイドル達と王宮の中庭にて合流。若株さんを連れていく事も伝えてもらってはいましたが、それでもその姿を見て驚かれました。でっかい木とも人ともつかない姿を見ればね。だけど、農業大国の一大懸念事項を打ち消せるかも知れない存在という事で、国王陛下その他大臣級が何人も会いに来てました。

 イドルとの再会のイチャイチャはそこそこに切り上げて昼食を一緒して食べ終えたら、若株さん、名前が無いと不便なので、オ・キーフさんと付けさせてもらって、当人?にもOKしてもらい、マーシナでの試験会場となる枯れた土地へとイドルその他要人とオ・キーフさんを連れて移動。土地を癒せそうか試してもらう事に。


 何も生えておらず、表面は灰まみれみたいな状態の土地を、その根で移動しつつ見分というか、根を伸ばして地中も探ったらしいオ・キーフさんは戻ってくると言いました。


「やれば、表層は癒せるだろうが、その状態はもって一年か二年か。そしてそこまで癒せば、自分は数日動けなくなる程度には消耗するだろう。回数を重ねるほどに癒しの効果も薄くなる。

 自分の他の若株も、出来る事はそう変わらない。つまり、この大陸の東半分に広がりつつある土地枯れを全て癒そうと言うのは、自分達だけでは難しいだろう」

「わかりました。では、だいたい100m四方のこの畑を癒してみて頂けますか?それで今後の目処を立ててみたいので」

「わかった。やってみよう」

「たぶん、他のところでも試してみてもらうことになるので、ここではあまり無理されないで大丈夫です」

「では、ほどほどにしておくが、その間守っておいてもらえるか?」

「イドル、頼める?マッキー、ポーラの眷属の一部もここに回してもらって」


 そうして、畑の周りに厳重な警戒体制が敷かれたのを見てとったオ・キーフさんは、畑の中心に根を据えると、ただそこにじっと佇みました。しばらくすると、緑色の淡い光がじわじわと広がっていって、オ・キーフさんの周囲の土地が灰色から土色というか、濃い茶色に変わっていきました。

 そんな様な作業を、場所を変えながら何度も行っていくと、確かに表面上は、健康を取り戻した様に見えましたが、ちょっとふらついた様子のオ・キーフさんが言うには、これでも収穫できて一年か、その次はわからないそうで。抑えてこの消耗具合なら、根本治療は確かに厳しそうです。

 ただし、何をしても効果が無かった土地枯れを限定的とはいえ癒せたという慶事に、マーシナの皆さんは沸き返っていて、イドルは彼らを抑えるのに大変そうでした。


 今後に関しては、動員可能な若株さんの数にも拠るでしょうけど、やっぱり、他の手段も探さないといけませんね。

 ちなみにオ・キーフさんの静養は、深い森の中を希望されたので近場でご希望に叶う場所を選んで運んでおきました。大変喜ばれてたので何よりです。

 そこで一日は完全休養するそうなので、自分はイドル達の元に戻って報告相談したら、次の行き先へと出発です。


「もう少しはゆっくりできませんの?、とは言えない状況が恨めしいですね」

「そうだね。ドースデンを止められるだけの何かには、まだ足りないだろうから」

「ご無事で。私に出来ることは限られておりますが、あなたを癒す事くらいなら」


 まあ本当のお楽しみは結婚してからになるんでしょうけど、それでも十分に癒して貰ったら、出発です。


 サーチで、食糧難をどうにか出来る存在でヒットした場所の片方。

 それは先の長旅の途上にほど近い、海上というか、おそらく海中か海底にでもある筈で、そこを次に当たってみることにしました。


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