ランニング1:スタートライン
新シリーズとなります。
随時更新していきます。初日は5個投稿するので、予備飛ばしに注意。
カクヨムの方にも遅れて掲載予定。
自分の名前は、大地 駆。
物心ついた時には、もう一生の病を受けていました。
筋肉とかが固まっていって歩行とかが困難になっていきました。
学校にはほとんど通えず、十歳を迎える頃には、いろんな合併症も発生して、ほぼ完全に寝たきりな生活。病室の窓から、外を走り回る子供達の姿をうらやましく眺めていたのを覚えています。
名前詐欺になってしまってスマンと親には何度謝られたかわかりません。母親は顔を合わせる度に泣きすぎて、いつからか面会に来てくれなくなってしまいました。
それでも、病院で出来るだけの治療を受けるだけでなくて、眼球やわずかな指の動きだけでインターネットにアクセスできる環境を用意してくれたのは本当に助かりました。
そう。いわゆる転生ものラノベに期待を託すようになって、その類をむさぼるように読み続けました。妄想に過ぎなかったとしても、それしか縋るものが無かったから。
親や医師がわずかな期待をかけて新薬とかの治験を紹介してくれたのは、残らず試しました。最悪の結果は、このままか、これ以上の苦しみが続く事だったから。
ただ、ひたすらに外を走り回りたい。
贅沢なユニークスキルやハーレムの類も必要無い。
そりゃあ、ちょっぴり、必要最低限なくらいは欲しいけれど、この生き地獄が続くよりはマシ。
どこかの異世界の神様、助けてくれませんか?
日夜、そう祈り続けてたおかげか。
どれかの新薬の効果か。
自分はこの世界での臨終の時を迎え、ピーーーッ、という機械音に見送られて、死にました。
死んだ、と思う。
体のあちこちを苛む痛みから解放されました。
ただそれだけでも飛び上がりたいくらいうれしかったです。
真っ暗な空間に、ぼんやりとした白い灯りが浮かび上がって、話しかけてきました。
「死んで喜んでるのは珍しいね」
「えっと、はい、痛くなくなったので」
これはもしかして?!と心が高揚するのを抑えきれませんでした。死んだ直後の面会時間とか、よくあるパターンの一つ。前置きとか抜きでいきなり放り込まれるのも、よくあるパターンだったけど、こちらのが方が助かります。
「うん。君の祈りと、自分の管理してる世界の都合がちょうどいいかなって、君の元の世界の神様から譲り受けたんだ。そういう事ならどうぞって」
「えっと、転生、させてもらえるんですか?それと、都合というのは?」
魔王と戦わせられるんだろうかと思ったら違ったみたいです。
「神様の間では共通の悩みなんだけどね。被造物達が愚か過ぎて、世界をリセットしようか、悩んでてね」
「えっと、だとすると、自分がどうお役に立てるのでしょうか?」
「魔王とかはいないよ。君がたくさん読んでた物語の様に剣や魔法の世界で、異種族もたくさんいるけど、これから行ってもらうのは人間達の領域。そこでまあ、何度目かわからないくらい愚かで痛ましい出来事があってね」
「はあ」
「きっかけを作ってしまった王も、悪意があったわけじゃない。平和を望んでいただけ。善意だけで物事が為せるわけじゃない事も当然分かっていたさ。それでも、ね。
まあ、君には追々伝えていくよ。込み入った事情については」
「よ、よろしくお願いします!」
「うんうん、前向きでよろしい。君には、その悲劇に巻き込まれて、そのままだと死んでしまうだろうお姫様を助けて、そこから逃げ延びて欲しい。承けてもらえるかな?」
「はいっ! でも、いつまでとか、どこまでとかは?」
「それも追々伝えていくけど、とりあえずは悲劇の舞台となってる王都から脱出するまで。最初のチェックポイントはね」
「わかりました。でも、どうやって助け出せばいいんでしょうか? 自分、何の力もない寝たきり病人でしたけど」
「心配しないでいいよ。君が望んでいたユニークスキルもあげるし、その他の特典もいくつかあげるから」
「そ、それってどういう・・・?!」
「ユニークスキル:ランニングさ」
その神様の言葉とともに、足下に白線が引かれ、視野には、いわゆるステータス画面が表示されました。