SF作家のアキバ事件簿199 蒸気飛行船SOS
ある日、聖都アキバに発生した"リアルの裂け目"!
異次元人、時空海賊、科学ギャングの侵略が始まる!
秋葉原の危機に立ち上がる美アラサーのスーパーヒロイン。
ヲタクの聖地、秋葉原を逝くスーパーヒロイン達の叙事詩。
ヲトナのジュブナイル第199話「蒸気飛行船SOS」。さて、今回は秋葉原を空襲したステルス飛行船が墜落、パイロットが死亡します。
捜査線上に浮かぶ謎の"ゼロスチーム"とは?究極蒸気を狙う大国間の駆け引き、苦悩するスタートアップCEO、愛憎渦巻く争奪戦の果てに待つのは…
お楽しみいただければ幸いです。
第1章 アキバ初空襲
空襲だ!
「10分間で22件の目撃情報です。秋葉原上空にUFOが侵入。第1級非常体制!」
「SATO司令部より"死海ダイバー"へ。"死海1"直ちに発進!」
「し、しかし…コンピューター衛星"シドレ"や市ヶ谷の宇宙作戦群レーダーには何の反応もありません!」
南秋葉原条約機構はアキバに開いた"リアルの裂け目"由来の全事象に対応スル防衛組織だ。
"シドレ"は量子コンピューター衛星。宇宙から異変を探知するや直ちにSATO全ステーションに急報。
"死海ダイバー"。ソレはSATOの海底部隊。その前部には"死海1"と呼ばれるロケット機が装備され、空中を超スピードで進み敵を撃破スル…
因みに "死海ダイバー"の艦体はU-boat 7C で前部に Me-163 をドッキングした我が国初の原潜だ。
「半島から特殊部隊を乗せた小型機かしら?既に秋葉原への侵攻が始まってるとか?」
「半島を出ょ?日本全土への同時飽和攻撃かしら?三沢、百里は萌えているか?」
「王道の火星人襲来の線もお忘れなく!」
膨らむ妄想←
「とにかく!目撃証言から秋葉原への侵入コースを予測、結果を報告して」
「司令官、どちらへ?」
「屋上。目視で確認スル」
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
沈着冷静なレイカ司令官は、派手なコスモルックに身を包む。ゲーセン店員にカモフラージュしたコスプレだが、意外に似合ってるw
「こちら"死海1"。エアルートE449を降下中」
暗視ゴーグル付きのデジタル双眼鏡で星空を見回すレイカ司令官。
傍らの前線航空管制官が見上げる方向から微かな爆音が聞こえる。
「サイドワインダーから"死海1"。全速でターゲットを迎撃せょ」
「了解。武器システム、オン!」
「言問橋上空より118方向へ接近せょ」
レイカとFACの双眼鏡が同時に東南東を向く。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
隅田川ヒルズ67Fにある入居者専用のパーティルームではホームパーティの真っ最中だ。
水を満たしたビニールプールで子供達が水鉄砲で遊んでいると窓の外を黒いモノが通過w
「アレは何?」
スマホ動画が次々とSNSにUPされるw
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
「こちら"死海1"。目標未確認。繰り返す、
目標を視認出来ません」
「何やってるの?秋葉原が空襲されてるのょ!」
「…"死海1"は目標、視認出来ズwターゲットをロスト!繰り返す。ターゲットをロスト!」
第2章 セーラー戦士と飛行船
翌朝、隅田川沿いのタワマンにヲタッキーズ出動。
在宅勤務中だったオジサマ族が何ゴトかと集まるw
「コチラの67Fで乱交パーティ中にUFOを目撃したのは貴方達?」
「乱パ?娘のお誕生パーティだったのだが…しかし、君達はモノホンのヲタッキーズなのか?マジでソンなセクシーコスチュームで悪と闘ってるの?秋葉原スゲェ」
「で、黒い何かが通過した時間は?」
「5〜10秒かな。ねぇねぇセーラー戦士のコスプレとかもOKなのかな」
「え。何逝ってんの?高度は?」
「67階ぐらい。ねぇねぇ魔法少女だと…」
「もぉウルサイな。外見は?」
「黒い飛行船。画像をSNSにUPしてアルから、トモダチ申請してょ。"MY TUBE"のチャンネル登録もよろしく」
「オリジナルをお借り出来ますか」
「もちろん。でも、先ず食事してお互いを良く知り合ってからだ」←
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
1時間後のSATO司令部。全員が息を呑む中、画面の右から左へと黒い影が現れて移動スルw
「いたわ!UAPょ!フリーズ!」
「UAP?」
「未確認空中現象。今時、業界じゃ誰もUFOナンて言わないの…あら?ムーンライトセレナーダーは?エアリ、相棒は?」
レイカ司令官が突っ込む。
「あ。マリレは…この画像を借りる交換条件でオジサマ達と朝マックを食べてます。ミユリ姉様は…今、お楽しみ中」←
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
確かにミユリさんは"お楽しみ中"だw
「あぁソコです!ソコょもっと腰を落として…」
「え。ミユリさん、こんな感じ?」
「ブラボー!テリィ様、大好き!」
ミユリさんが僕の首っ玉にかじりつく←
「また空振りだ!eゴルフもロクに出来ないナンて!スポーツ全般が憎い!」
「まぁまぁ落ち着いて。ボールの行く先に目をやっちゃダメです…ほーら、良くなりました!」
「やっぱりダメだな…あ、ミユリさん。スマホが鳴ってるょ」
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
SATO司令部。車椅子にゴスロリの超天才ルイナの下に、またまた難題が飛び込む。
「ルイナ。コレが昨夜の秋葉原上空のレーダーチャート。三角が旅客機。残りは小型機。だけど…例のUAPが映っていない。どう思う?」
「レーダーって実はノイズばっかり。私には、ランダムなエネルギーが奏でる雑音の交響曲に聞こえる。この中から有意な旋律を"squash"で拾ってみるわ」
「カボチャ?」
「いいえ。弱いシグナルを拾い、そのデータを圧縮してエネルギーの速度や方向を割り出すアプリ。"シドレ"を借りて良い?」
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
"シドレ"は、アキバ上空3万6000kmの静止軌道に位置する、SATOの量子コンピューター衛星だ。
「"シドレ"を使いたいと聞いて期待してたのに。"リアルの裂け目"を探知スル重力波分布の理論モデルでも作ってくれるのかなって」
「ごめんね、レイカ」
「なけなしのSATO予算で "リアルの裂け目"とは無関係な UFO 探しかトホホ」
レイカ司令官は常に何かを嘆いてるw
「飛んで来たのは、気象観測気球やヘリでないコトは、既に確認済み。小型飛行機の低空侵攻の線もナシ」
「人類文明と無関係な次元を超えた現象カモ…きっと別の世界の乗り物で我々の想像を超えた推進力で飛ンでるとか」
「え。ソッチ系?妄想ならテリィ様もお呼びしましょう。御専門だから」←
はしゃぐムーンライトセレナーダー。
「no thank you。キャバじゃ無いンだから"同伴"はヤメてね」
「待って!さすが量子コンピューターだわ。もう"squash"がコースを割り出したみたい」
「ココが消失点?シグナルが限界値以下に弱くなってる。蒸発したみたいに」
レイカがモニターの1点を指す。
「東京臨海副都心だわ」
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
早速SATO司令部で作戦会議。
「ルイナ科学顧問のおかげでUAP の出発地点が限定されました。東京港埋立地10号地および13号地からなる東京臨海副都心から飛び立ったモノと思われます」
「固定翼機だとすれば滑走路が必要だわ。エリア内に飛行場は?」
「対岸の羽田空港以外ありません。ただ、屋上ヘリポートなら摩天楼の本数だけアリますが」
作戦スタッフ全員で頭をヒネる。
「固定翼機なら滑走路って…その仮定こそ疑うべきだわ。そもそも飛行機だと断定出来ナイし」
「どーゆーコト?」
「コースよりも、飛行物体そのモノを調べなきゃ。データは多ければ多いほど歓迎。例えば、気象庁の気象観測レーダーとか電力会社の雷レーダーのデータとか…」
スタッフが総出でスマホをかけまくるw
「スゴい!合計7つのレーダーのデータが集まった。コレを合成すれば、飛行物体の3次元形状まで見えて来るカモ」
「解析終了。"シドレ"から画像、来ました」
「メインスクリーンに回して!」
正面のスクリーンに合成画像が出る。空飛ぶ鯨?
「コ、コレって…飛行船?」
「結論を急がず慎重に考えましょう…でも!やっぱりコレは飛行船だわ!」
「もはや UAP とは呼べない。コレは、絶対にツェッペリン型の飛行船よっ!」
頭を抱える…時間ナヂスのマリレw
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
マリレは1945年、陥落寸前のベルリンからタイムマシンで脱出した"時間ナヂス"の末裔だ。
「確かに…何となくウチの葉巻型タイムマシンに似てますねw」
「何となくって…マリレ、貴女はコレに乗って現代に逃げて来たンでしょ?」
「でも、タイムマシン自体は"時間ナヂス"の管轄で、私は国防軍です。因みに、このデザインは"円盤母艦"に採用され"ニューヨーク侵攻艦隊"に引き継がれたと聞いています」
あの有名な"月面ナチス"だ。
「…確かに、飛行船なら滑走路は要らないわ。でも、レーダーには映るハズょ」
「何かステルスな素材を使ってるとか。ソレにしても、簡単に作れるモノじゃナイか」
「何年も軍事研究しないと無理だわ。しかも、研究者の数は限られる。AMC に聞いてみる?」
"Akihabara Militaly Cluster"は旧軍の軍事技術を秋葉原で継承する軍事スタートアップの集合体。
「タイムトンネルや、殺人光線や、空飛ぶ円盤とかを実用化してる起業家グループね?」
「先ずは、飛行船界隈を当たってみましょう。ダークウェブに何か出てない?」
「あらら?"新発想の飛行船設計者には5億円の懸賞金"ですって!」
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
"AMC 飛行船部門"の責任者は明快に答える。
「飛行船は、安全性が難関です。しかし、ブレークスルーがあれば自家用飛行船も夢ではありません」
「このドローン全盛時代に自家用飛行船?そんなゲームチェンジャーがいたら紹介して欲しいわ」
「私もです」←
肩をスボめる責任者。
「AMCに心当たりの研究者はいませんか?」
「ボーズとクラフ」
「僧侶?ご夫婦ですか?」
責任者は、さらに肩をスボめる。
「かつては。今、離婚調停中」
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
万世橋の取調室。"僧侶"は明快に答える。
「秋葉原上空に謎の飛行船?マジか?」
「高度数100mの低空で秋葉原を"空襲"したと思われます。ボーズさん」
「この写真はクラフからゲットしたのか?彼女の飛行船ナンだろう?」
詰め寄られる。
「コレは…実は俺から盗んだデザインなんだ」
「お2人はデザインで対立されてたようですね」
「デザインじゃない。彼女の性格だ。取り憑かれてた。人類の航空史に自分の名を残すためなら手段を選ばなかった。テストパイロットを危険に、投資家を破産に追い込やろうがお構いナシさ」
吐き捨てるように逝う。
「クラフさんの勤務先は?」
「飛行船系スタートアップの"ラトブ"だ。あ、もし"ラトブ"にいたら、俺の弁護士に連絡するよう伝えてくれ」
「ご自分でどうぞ」
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
SATO司令部。報告を受けるレイカ司令官。
「ボーズ氏は、どーやら航空業界では"変人"で通ってるらしいです。市ヶ谷上空の飛行禁止区域に2度グライダーで侵入、危うく対空ミサイルの餌食になりかけてる…ソマリア派兵への抗議が目的らしいですが」
「ソンな人が野放しになってるの?」
「裁判所命令で3週間のセラピーを受けるよう指導されてますが、結局、姿を見せずに消えた」
溜め息をつくレイカ。
「そのセラピー、私が受けたいわ」
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
"ラトブ"は、神田花籠町の雑居ビルの地下室にアル。装甲ドアをノックすると、メイドが顔を出す。
「先に申し上げておきますが、社名は"空飛ぶ"の短縮形であり、福島県いわき市の駅ビルとは関係ありません…CEOである母は、仕事で留守にしています。私は、クラフの1人娘で秘書のユフォ」
「何で1人娘が秘書でメイド?お母様と最後にお話しされたのは?」
「数日前です」
メイド越しに狭い地下室に目をやると、使い込まれた製図台が書類に埋もれてるw
「この設計図の"飛行船"はお母様が?」
「あ、はい。ただ、その設計図は your eyes only で。弊社の知的財産です」
「SATOは、秋葉原D.A.大統領から"包括的権限"を与えられており、あらゆる証拠物件へのアクセスが許可されています」
鼻で笑うヴィクトリアン・メイド。
「海外ドラマ"KAWAII 50" の水着、じゃなかった、見過ぎね」
「とにかく!その極秘知的財産の飛行船は、フライトプランも出さず、航空無線も封鎖し、ついでにレーダー電波も吸収して、東京臨海副都心から低空飛行で侵入し"秋葉原マンハッタン"でブレイクした。空襲に関して何かを隠せば、貴女も罪に問われるけど」
「…実は、臨海部に弊社の"秘密基地"がアリます。みなさんの"包括的権限"トヤラで、様子を見に行かれては?」
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
目の前の大看板に"ラトブ秘密基地"とアル。四方をタワービルに囲まれた、草ボウボウの空き地だ。
「パパ、いるの?!」
隅に建てられた倉庫のシャッターをガンガン叩くユフォ。SATOの戦闘工兵がバーベルで破錠し突入。
「誰かいますか?」
中はガランドウだ。
「デスクの上に飛行船の設計図がありました」
「ココでモックアップを制作してた?」
「でも、今は何も無い…というコトは?!」
飛び出すヴィクトリアン・メイドのユフォ。囲んで走るSATO特殊部隊…まるでサバゲーの1シーンだw
「ココです!この黒焦げた跡を見てください!コレは、母が"ゼロスチーム"で離陸した痕に違いありません」
「"ゼロスチーム"?何ソレ?美味しいの?」
「YES。母の飛行船は、無重力を生み出す蒸気"ゼロスチーム"により飛行スル"蒸気飛行船"なのです。しかし、蒸気飛行船は、未だ方向舵がテスト中だったのに…」
無重力を生む蒸気?レーダー波も吸収スルのか?
「飛行プランは?」
「聞いてません…母は、人類の航空史に名を残そうと必死でした。無重力蒸気の発明者、蒸気の錬金術師。そのタメなら、どんなコトでもした。誰とでも手を組んだわ。例え、国を売ってでも」
「国を売る?」
ドン引きスル僕達。何を逝い出すのか。
「とにかく"蒸気の錬金術"には、莫大な資金が必要だった。海外からの援助は不可欠でした。そのために、母は設計の権利を売りました」
「誰に?」
「キンペ投資」
一斉に頭を抱える僕達。
「キンペ?アソコは、巧みに偽装されてるが、中華な国が世界の先進的技術を買い漁るために立ち上げたベンチャーキャピタルだ。社名を1字ズラせばワカルだろ?」
「キンペが欲しがったのは技術。母が欲しがったのは名声。だから…」
「両者の利害は完全に一致したのかw」
第3章 航空史に名を残したい
コトは国際的な経済事件へと発展スル。キンペ投資には、万世橋警察署の敏腕ラギィ警部が乗り込む。
「貴方の投資会社は、クラフの"ゼロスチーム"研究に2000万ドルを出資してますね?」
「YES。ベンチャーキャピタルとしての社会的使命を果たしたまでだ。蒸気飛行船の大量生産はビジネスモデルとして大いに期待出来る」
「だが、御社のリスク評価は必ずしも十分とは言えなかった」
キンペ投資の代表を名乗る男は薄笑い。
「ベンチャーキャピタルは、早期投資にこそ意味がある。しかも、本件は、AMCからの懸賞金も期待出来る。あとは蒸気飛行船の初飛行を待つばかりだ」
「あら?先日、秋葉原に飛来した未確認飛行物体が、お待ちかねの蒸気飛行船ょ」
「何だと?既に飛んでるのか…実は、クラフCEOから"秘密基地"には来るなと言われ、既に3ヶ月になるのだ」
出禁かょ何てトロい投資家だw
「でも、秘密基地の存在は御存知なのね?」
「モチロンだ。新交通システム"造反有理カモメ"の車窓から"秘密基地"と大描きした看板が見えるからな」
「…御社の出資者は中華な国だそうだけど、投資目的は"ゼロスチーム"の技術を盗むコト?」
男は、顔色ひとつ変えない。
「いいや。メインはスチームパンクの研究だ」
「秋葉原D.A.の法律では、あの飛行船が事故って被害が出れば、投資会社の貴方も罪に問われるけど」
「…実は、飛行船の試作機は、既に完成しているが、クラフが秘匿しているとの"噂"を耳にした。"ゼロスチーム"は完成しているのか?アンタ、見たのか?」
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
その頃"潜り酒場では…
「テリィ様、素晴らしいショットでした!やはり、目のつけドコロがヲタクですね」
「かな?散々悩んで、正面玄関ではなく窓から攻めるコトにしたのさ」
「何をおっしゃってるのか皆目わかりませんが、テリィ様のコト、ますます大好きです」
おぉ"あんなのゴルフ"のおかげでミユリさんとも大接近だブラボー!
…と、ヌカ喜んだ矢先に、ラギィ警部がエラい勢いで飛び込んで来るw
「タイヘンよっ…ア、アラ。お邪魔だった?」
「かなりな…何か進展でも?」
「入口と容疑者はわかったけれど、肝心の飛行船が行方不明。しかも、背後に国家レベルの思惑が見え隠れ。当然、単独犯じゃない可能性も出て来た」
つまり、事件の焦点は絶賛ボヤケ中だ。ラギィは、カウンターにレーダーチャートの写真を並べる。
「コレは?」
「気象レーダーのデータょ」
「気象レーダー?」
うーんソレは見慣れたウチの会社の雷雲用レーダーチャートではないか。
僕はヲタクの傍ら"第3新東京電力"でサラリーマンもやり、先日卒業w
「例のUAPだけど、通常のレーダーに映らなかったのは"ゼロスチーム"の影響だと思うの。ほら、レーダーって普通は金属なら反応するでしょ。"ゼロスチーム"も潜水艦のマスカーみたいに…」
僕の出番だ。
「ソレはともかく、ラギィ。気象レーダー、就中、雷レーダーの場合は少し違う。電力会社は、落雷による停電事故を予測するため、常時レーダーで雷雲を追ってるけど、モチロン雷雲は金属ではナイ。だから、特殊な電磁波を送って雷雲、すなわち水蒸気を追いかけてるのさ」
「じゃ…その特殊な電磁波の走査結果からノイズを取れば"ゼロスチーム"の飛来コースがワカルかしら。テリィたん、アンタはエラい!」
「だろ?」
来た時と同様、エラい勢いで飛び出して逝くラギィ。
僕とミユリさんはカウンターを挟んでニッコリ笑う。
さて、何か起きるかな?
第4章 このヲタクなアキバでは
神田佐久間河岸の一角に昭和の頃からのスクラップ処分場がアル。登録名義は"ロズウェル処分場"。
「よっし。万世橋警察署、1列横隊!全員1m間隔で散らばって」
「ラギィ警部、準備完了!」
「さぁ警察オハコの人海戦術よっ。血痕1つ見落とすなっ!捜査開始!」
膨大なスクラップの山を前に、警官隊が薄くて長い1本線になって、ノロノロと動き出す。
「このスクラップの山の中に蒸気飛行船が墜落してる。どこかに潜んでいる可能性もアルわ…」
「潜んでる?あの姿を消した地下アイドルみたいに?1年以上もライブハウスの隣のファミレスでバイトしてた。近くにいたのに周りに紛れて姿が見えなくなってたのね」
「なるほど。例えばココ?墜落してもスクラップの山に埋もれてしまう…」
その時"上空"からエアリ&マリレが叫ぶ。
「飛行船らしきモノを発見!正面のスクラップ山の反対側!」
「急いで!人が乗ってます!でも、ピクリとも動かないわ」
「何?パワーシャベルを持って来て!山を崩して前進よっ!」
スクラップの山を突き崩し、警官隊が突き進むと中腹に飛行船らしきモノがw
ゴンドラの操縦席にはうつ伏せの人影。呼んでもピクリとも動かズ。まさか…
スクラップの山をヨジ登り、やっと飛行船に取り付いた警官が脈を取って…首を横に振り叫ぶ。
「死んでます!」
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
検視は、万世橋で行われる。
「警部、飛行船の方向舵が制御不能な状態に壊されてました」
「破壊工作の痕跡?」
「YES。制御ボックスのシールが破れています。誰かが墜落を仕組んだ可能性があります」
1人娘のユフォが駆けつける。
「ホントにママなの?…苦しんだ?」
「いいえ。恐らく即死ね」
「そんな…」
泣き崩れるユフォ。
ラギィが肩を抱く。
「実は、事故ではなさそうなの。方向舵に破壊工作の痕が見つかった」
「破壊工作?!」
「お気の毒だけど、お母様は何者かに殺された疑いがアルわ」
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
全員でSATO司令部に戻って作戦会議だ。
「警部。フライトデータの分析結果が出ました。蒸気飛行船は、臨海部を離陸後、機体制御に失敗、ダッチロールの末、神田佐久間河岸に墜落した模様。データは速度、高度、加速度のみで、目的地は不明です」
「電気街に突っ込むつもりだったのかしら」
「インバウンド狙い?ただ、方向舵が正常に機能してない状態でカミカゼは不可能です」
考えあぐねるラギィ。
「なら、クラフの飛行目的はナンなの?人類の航空史に名を残したいなら、意味なく飛んでダッチロールとかしないわ。誰かに暗殺されたとか?」
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
ランチ営業中の"潜り酒場"。合同捜査となり、SATO司令部に出入りスル関係で、ミニスカポリス姿のラギィがやって来る。
「あら。テリィたん、お一人様?」
「うん。流行りの独り焼肉ならぬ独り御屋敷。今度の事件、大詰めみたいだね?」
「うーん警察も余り知らされてナイの。手伝わされてばかりょ。隣、空いてる?」
空いてるけど座るとパンツが見えちゃうょw
「ところで、eゴルフにハマってルンだって?運動音痴のテリィたんがねぇwコレもパリオリンピックの波及効果?」
「うーんソレが…素質がなさそうで」
「なさそう?全くナイの間違いでしょ?でもね、ミユリ姉様は喜んでる」
ミユリさんが?
「テリィたんの面倒を見るコトが、姉様にとっては最高の御給仕なの。テリィたんにメイドとして認められる大事な機会なのょ…あ、電話だわ。ラギィだけど…えっ?"秘密基地"から"僧侶"の指紋が出た?!」
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
万世橋。ラギィ自らボーズの取調べ。
「俺は殺してない!し、しかし!何でアンタ、ミニスカポリスなんだょ?俺の大好物と知っててコスプレしたのか?で、でも。素敵だ…」
「知らないわwところで、アンタは、奥さんのクラフを恨んでたわょね?この10年間ズッと」
「何だソレ?お前は無茶な奴だと言い続けて来ただけだ。夫としての義務でもアル」
単刀直入に突っ込むミニスカポリ…じゃなかった、ラギィ警部。
「だから、蒸気飛行船のフライバイワイヤーに細工したの?」
「何の話だ?」
「クラフの"秘密基地"からアンタの指紋がベタベタ出てンのょ。どーして?!」
別の意味で慌てるボーズ。
「わっ!マジで座るな、パンツが丸見え…わかった、話す!実は、百里の航空ショーで娘と会い、蒸気飛行船が完成間近と聞いた。だから、どーしても自分の目で見たかった。だって、俺がデザインしたんだぞ。ソレなのにクラフは手柄を独り占めした。蒸気飛行船には10年もかけたのに」
「ソレで破壊工作を?」
「俺が殺したと思ってるのか?あり得ない!妻はともかく、アレは俺にとっちゃ命より大事な飛行船だ。俺の飛行船ナンだ!」
行き詰まるラギィ。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆⭐︎
同時刻の"潜り酒場"。カウンターの中でミユリさんが考えゴトをしてるとマリレが御帰宅。
「男はみんな、ミニスカの前では真実を語る。きっとボーズはシロだわ…あら。マリレ、ソレは何?ジャイロ?」
「いいえ。蒸気飛行船のサーボだってルイナが言ってました」
「仕組みは?」
答えは、モニター画面の中からルイナ自身が語る。
「ミユリ姉様。サーボは、僅かな力で巨大なパワーを制御する自動装置です。パイロットが出す指示を増幅させて方向舵に伝えます」
「フライバイワイヤーみたいな?今回は何処に破壊工作を?」
「3箇所です。増幅器と作動器とフィードバック」
3箇所ってひっかかるな。
「破壊工作なら1カ所で充分だ。ねぇもしかしたら、犯人は破壊工作ではなく、蒸気飛行船を改良したかったンじゃナイかな?あくまで、技術的な改良をエンジニアとして施したかったンだ」
「なるほど。では、テリィ様。破壊工作ではなく、エンジニアとして改良を加えた結果、墜落事故を招いたとお考えですね。(eスポーツより遥かに)冴えてます!」
「だろ?あくまで、サーボの改良が目的だったのさ。でも、クラフは何も知らズにテストフライトに臨んだ。そして、事故に遭ったンだ」
妄想の結論はミユリさんから。
「つまり、フライバイワイヤーに改良の手を加えた犯人は、クラフ以外の誰かってコトですね」
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
"ラトブ"の地下オフィス。
みんなでユフォを取り囲む。
「みなさん、お揃いで。捜査の状況は?何か進展がありましたか?犯人は誰でしょう?」
「指紋の照合中だけど…ユフォ、貴女は蒸気飛行船が消息を絶ったのを知り焦った。墜落現場では、母親の最後を案じていた。ソレは、墜落の理由を知っていたからょね?いずれにせよ、指紋が出ればわかるコトだけど」
「そ、そんな…」
ガックリと首を垂れるユフォ。
「…私は、エンジニアとして改良したかった。ただソレだけなの」
「なぜお母さんに話さなかったの?」
「ママに話しても無駄よっ!何を言っても無視。私をエンジニアとしては認めてくれなかった。でも、私はどーしてもママに認めてもらいたかったの」
ワッと泣き出すユフォ。
「貴女のママは、人類の航空史に名前が残すコトに飢えていた」
「YES。ママにとって大切なのは、娘の私ではなくて、自分の名声だった。あの夜、"ゼロスチーム"で船が夜空に浮いた瞬間、思ったかしら。この感動を娘と分かち合いたいって…ソレだけを知りたいわ」
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
冗談みたいだけど
コレが私の人生
私の夢を踏みつけ
小躍りするママ
でも私は挫けない
絶望もしないわ
このヲタクなアキバでは
おしまい
今回は、海外ドラマによく登場する"飛行船"をテーマに、飛行船デザイナー、飛行船CEO、その秘書、究極蒸気"ゼロスチーム"の謎を追う超天才や相棒のハッカー、ヲタッキーズ、敏腕警部などが登場しました。
さらに、主人公とヒロインの睦まじい姿もサイドストーリー的に描いてみました。
海外ドラマでよく舞台となるニューヨークの街並みを、NYタイムズスクエア並の国際的観光地と化した秋葉原に当てはめて展開してみました。
秋葉原を訪れる全ての人類が幸せになりますように。