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サンタクロース・エイトオー  作者: 津多 時ロウ
mission4. サンタ・インフィニティ

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24/28

4.1 予告状?

「うわああああ、助けてくれええええ!」


 表通りの光も届かぬ陰鬱な路地裏で、惨めに泣き叫ぶ中年男性が一人。

 何に怯えているのかと思えば、男の傍らには拳を固く握りしめた、筋骨隆々たる大男がいるではないか。

 白いファーのついた赤い服を頑丈なベルトで留め、頭には服と同じデザインのナイトキャップをかぶる。何よりも目を惹くのは立派な白いヒゲ。

 そのような偉丈夫(いじょうふ)から、鬼のような形相で睨まれてしまえば、並の男などひとたまりもない。

 うっすらと涙を浮かべ、鼻水さえ垂らしている中年男性の頭を掴み、偉丈夫は地鳴りのような声でこう言った。


「耳をよくかっぽじって聞け、クソ野郎。安全基準を満たさないおもちゃを売るんじゃねえぞ、クソ野郎。子どもが怪我したらどうするんだ、クソ野郎」


 男はその間、何度も何度も小刻みに頭を縦に振るばかり。もはや恐怖からくる震えか、肯定の意味なのかも分からない。


「分かったんならとっとと消えろ、クソ野郎」


 そうして何度もクソ野郎と呼ばれた男は、這うようにして表通りに逃げていった。


「けっ、胸くそ悪い。酒でも飲むか」


 偉丈夫、否、このサンタクロース装束の男の名はエイトオー。

 ラヴクラフト財団に所属する、エリート専業サンタクロースである。



  *  *  *



【ラヴクラフト財団】(以下、財団と呼称)

 世界最大のおもちゃメーカー七天堂(しちてんどう)の創業者一族・ラヴクラフト家が創設した、子どもたちの幸せのために存在する歴史ある慈善団体である。

 野生のサンタクロースが絶滅し、子どもたちへのクリスマスプレゼント配布事業が危ぶまれたとき、財団は事業を引き継ぐ大英断を行なった。今日(こんにち)では世界中の町に財団が常時雇用している専業サンタクロースと、財団から委託を受けた季節サンタクロースが存在している。

 しかし、それはあくまでも財団の表の顔だった。何事も表があれば裏がある。

 財団は密かに、専業サンタクロースの中から適性のある者を選抜し、過酷な訓練を課していたのだ。


 ――何故、財団がそんなことをしているのか。

 粗悪なおもちゃで子どもたちを傷つけ、あるいは子どもたちを狙う、卑劣な犯罪者たちを駆除するためだ。


 そう、全ては子どもたちの笑顔のために。



  *  *  *



 ここは仕事を終えた男たちが憩う場所、BARチャーリー。

 カウンターの内側では、もの静かなチャーリーのマスターがグラスを磨きながら、エイトオーと会話をしていた。

 マスターが(まと)うのは、ノリの効いた白いワイシャツに蝶ネクタイ、その上には仕立ての良い黒のベスト。ズボンも同じテーラーで(あつら)えたものだろう。ベストと全く同じ生地で作られた、上品な黒である。

 年齢は五十を少し過ぎたくらいだろうか。顔に刻まれたシワと白の混ざる髪の毛が、時代を感じさせていた。

 そして|Miles Davisマイルス・デイビスが流れる店内もマスターと同様に、いや、マスター以上に年季が入っていて、壁紙、机、椅子、調度品に至るまで、全体的に深く落ち着きのある色合いのもので統一されている。

 この店内で違和感があるとすれば、一つは薄暗い店の端でネオン管を輝かせる、やはり年代物のジュークボックスだろう。しかし、個で見れば違和感のあるそれも、全体で見れば、洒落たインテリアとしての役割を十二分に果たしているとも言える。

 ところで違和感は、あと二つある。

 一つはレトロなピンボール台であるが、これもジュークボックス同様、遊ぶ者がいれば少々騒がしいくらいで、何もしていなければBARチャーリーを象徴するアイテムの一つとして、当然の顔をして店内に溶け込んでいるものだ。

 本当の違和感は最後の一つだ。

 しかし、こればかりは如何(いかん)ともし(がた)い。

 なぜなら客だから。

 客に違和感があるから。

 常連客だから。

 まずは、ピンボール台周辺で「ひゃっはー」とか「うぇーい」などと奇声を上げている六人の若い男たちを見てみよう。

 いずれも揃いのブラウン系の迷彩柄のツナギを着ている。

 一人は長髪で、左頬を中心に大きな十字の傷がある。

 一人は短髪のオールバックで無精ひげを生やしている。

 一人は極限まで短く剃られた坊主頭。

 一人は長髪のオールバック。

 一人はドレッド。

 一人はアフロ。

 揃いも揃って、子供が見たらすぐに泣き出しそうないかつい顔で、筋肉も発達著しい。つまり強面(こわもて)マッチョである。

 だが、カウンター席に座り、静かにアーリーのバーボンを飲むエイトオーは、そんな強面(こわもて)マッチョどもより、さらに一回りは体が大きかった。

 白いファーのついた、赤いナイトキャップに赤いジャケットと赤いズボンというサンタスーツ。ジャケットは丈夫なベルトで締められているが、しかし、その内に潜む筋肉までは隠しきれていない。

 そこに乗せられた顔は、豊かな白ひげにいかついサングラス。そして左の頬の深い切り傷が、彼の生き様を主張していた。


 ――セクシー(Sexy)アンド(&)バイオレンス(Violence)


 彼には、そんな言葉が実にお似合いだ。


「エイトオー、新しいおもちゃはいかがですか」


 マスターがそう言えば、エイトオーは不敵な笑みを浮かべ、いつものようにこう返す。


「もらおうか」

「かしこまりました」


 マスターがカウンターの裏で何やら操作をすると、エイトオーの高機能サングラス――通称〝エントツ〟にメッセージが表示された。


【オーダー】

★ヘヴンズコールの町で、小さな子どもがいる家庭に、以下の予告状が次々と送りつけられている。

『やあ、よい子のみんな。サンタだよ。クリスマスにはまだ早いけど、とっておきのネコちゃんのおもちゃを用意したんだ。特別に手渡しでプレゼントしたいから、今からクリスマスまで、夜更かしして待っててくれたら嬉しいな。パパやママには内緒だよ?』


 直ちに調査し、犯人を捕らえよ。


 発令 ラヴクラフト財団

 執行 イマジナリーアームズ



 エイトオーは苦虫をかみつぶしたような顔で、強面マッチョたちにこう言った。


「トナカイども、お遊びはそこまでだ」


 エイトオーがカウンターに金を置いて立ち上がると、トナカイたちも「うっす」だの「おす」だの言いながら、彼に続いてBARチャーリーを後にした。


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