仇花〜鏡花
真夏の怪談夜話
ホラーを書いて見ました。
少しでも涼しくなれば幸いです。
「鏡花?! どこ?! 」
僕は怖くなって、古い社から飛び出した。
小さな階段を飛ぶように走り降りて行く自分が、自分で無い様な気がして来る。さっきまで背後に居た筈の鏡花を探しても見当たらない。まだ通りまで遠い。なにか得体のしれないモノに追われている気分だ。
自分の影に追われ、
足音に追われ、
森の気配に追い立てられて、
麓の通りが見えたとき、安堵を覚えた。
でもまだ背後に気配を感じる。だけど振り返っても誰も居ない。
「?! 何?! 鏡花なの?!! ふざけないで出て来いよ! 」
どうせ鏡花が僕を怖がらせる為にわざと古い社に誘ったんだ。お社に祀られた神様みたいなモノに、お供えまでさせて。そっと居なくなって、僕を怖がらせる目的で、
「もう知らないよ! そうやって隠れてばかりいて、もう帰るからな! 」
細い通りを走り抜け、国道が見えて来た。
やっと少し落ち着いて来たので、ふっと自分の足元に視線をやると、赤黒い泥の様なモノが靴にべっとりと付いている。
「何だよ!! 」
母さんに買って貰ったばかりの靴なのに、あんな場所に行ったから汚れてしまった。ハンカチも何も無いから、右手で泥を落として行くけど、中々落ちない。段々と手も赤黒く汚れてしまう。汚れた手と同じ様に自分の心も汚れた気がして来る。
いつもの四辻を曲がってすぐ家だと言うのに、あまりにも遠く感じる。
「ただいま! 」
僕は廊下が汚れない様に、靴と靴下を脱いで、お風呂場で足を洗った。ふっとあまりにも静かだと思った。
「母さん? 」
リビングのソファに母さんは居たけど、うたた寝しているから、このままだと風邪を引くだろう。
「駄目だよ、こんな所で寝ちゃ」
母さんはゆすっても起きない。
よく見ると母さんのワンピースにも赤黒い泥がついている。
「次はお父様ね」
急に鏡花の声が聞こえて、ビックリしたけど、いつもの事だと受け流した。
「父さんも? 」
鏡花と話しをしていると、ちょうど父さんが帰って来た。
「ヒロト?! お前、これは何だ?! 」
赤黒くそまったラグの上で、父さんが何か言っているけど、声が聞こえない。
「そうよお父様もお供えしなきゃ、先にお社にお供えされたお母様が寂しいわ」
鏡花は憐れむ様な、悲しむ様な、そんな声で語りかけてくる。
「ヒロト、何を言ってるんだ?! それは、かか母さんか??! 」
父さんが膝を床について、何だか哀しそうな顔をしている。やはり母さんのそばに行かないと、父さんも可哀想だろう。
「それに、お前の左手に持っている血塗れのは、鉈か?! 」
父さんって、こんなに悲しい眼をするんだと思ったら、愛おしくなってきた。父さんをお供えしたら、さぞ喜んでくれるだろう。
「よよよせ!! ヒロト!! どうする気だ! それに母さんは!? 母さんの首は何処にあるんだ!?!? 」
さあ、早く、お社にお供えしましょう。
初めて書いたホラーです。
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