04 お姫様について
「サーシャ様、倒られてしまいましたね……」
今はぐっすりと眠りについているサーシャ様。
慌てて倒れてしまったサーシャ様を抱えて、彼女の部屋である寝台へと移動させた私。
見ず知らずの異国人がきたせいで、混乱したのかもしれない――。
眠りについている彼女の顔は年相応のもので、安心する。
神童と名高い彼女も所詮は幼い女の子だから。
「食事も最近あまりとれてなかったからな――はやく良くなるといいが」
一緒にサーシャ様の様子を観察するアルフリード王子。
「そうですね。一刻も早く回復することを祈っています」
「サーシャに何事もなければいいが……」
「心配性のお兄さんですね」
「そうか?兄妹なら普通のことだろう」
「まぁ、たしかにそうですわね」
「ナタリーには、兄弟はいるのか?」
「えぇ、いますわ。年の離れた妹とお兄さまが」
「そうか。それなら、尚のことサーシャの話し相手に適任だな」
「……」
「サーシャは年頃の令嬢の流行にも興味を持たない。スイーツよりも本が好きな七歳児……所謂、変わり者だ」
「スイーツよりも読書……」
「社交の場よりも一人自分の部屋で勉強することを好む」
「パーティーよりも勉強……アル王子、私の幼少期をもってしても考えられません」
「俺も同感だ。俺が昔の頃は――、やんちゃ坊主と呼ばれてたよ」
「アルフリード王子が?」
「信じがたいだろう?よく講義を抜け出して、城の外に出ていたよ。サーシャには内緒だけどね」
穏やかに話すアルフリード王子からは到底考えられない。海色の瞳を細めて彼は、不敵に微笑んだ。
「……あれ、ここは?」
薄っすらと瞳を開けて、寝台の上から辺りを見回す少女。
「おはようございます、サーシャ様」
「サーシャ目が覚めたか。心配したぞ」
私とアルフリード王子がその様子に胸をなでおろす。
「お兄さま……」
サーシャ様は、アルフリード様の様子に呆然としている。
「ナタリーが、倒れたサーシャをベッドまで運んでくれた。看病も率先して行ってくれたんだ」
「扉を勝手に開けてしまい、申し訳ございません……。ですが、サーシャ様の体調が無事に回復されることを願っています」
アルフリード王子が私を見つめて柔らかく微笑む。やや困り顔になりながらも私が思ったままを告げることにする。
「ふふっ。今日は面白いものがみれたわ。ナタリー、是非またいらしてね」
サーシャ様は、とても気配りのできるお方だった。上品に笑った後、私の手を取り握手をかわした。
謎の女性と氷の王子【サーシャ視点】
「本当に珍しいものが見られたわ」
そういって立ち去っていくナタリーと兄を見つめて薄く笑う私。
サーシャ・ラーディス、七歳(精神年齢・十七歳)。
この国の王子、アルフリード・ラーディスは少々接しにくいイメージがある。
妹の私の記憶からしても……だ。
「氷の王子の異名が、崩れてるわね……」
ゲーム内では、凍り付くような無表情さとシビアな対応で、どうやったらこの王子を恋に目覚めさせることができるのよ!?と四苦八苦した記憶がある。それが、あの穏やかな眼差し、物腰柔らかな態度、なにがどうだっているの……と、始めこそ疑問に思ったけれど。
「あの可愛らしい少女が、お兄さまの心を開いてくれるなら歓迎だわ」
人間味の感じない兄が、表情を変えて楽しげに話す姿が目に浮かぶ。
「でも……、ナタリーというキャラはでてこなかったはず。あなた、一体何者なの――?」
サーシャと前世の記憶がひとつになった今、私は謎が深まる新登場の人物に頭を抱えるのだった。




