美しい謎の少女【別視点】
それは、いつもと変わらない退屈な日のはずだった。港町へとお忍びで視察に来たものの、これと言って目的もない。そろそろ帰るか――そう、町を後にしようとした時のことだ。
「これからどうしよう……?」
この地方では聞かないであろう、独特な発音で凛とした声が聞こえた。普段なら気にもかけないような、ほんの一瞬の出来事だ。言葉を発したであろう少女は辺りをキョロキョロと見回して、肩を落とす。風に飛ばされそうになる帽子を慌てて抑える少女。帽子から覗く手入れが行き届いている、銀糸の髪が美しい。少しして、少女は目の前から忽然と消える。心配になり、立ち止まって少女の姿を探す。
この短時間に一体なにが?
「お嬢ちゃん、おじさんたちと遊ばないかい?」
「お酒のもうよ――この先に、いいお店が……グハァッ」
少女は一人、怯えていた。
目の前の怪しい男達が、少女を薄暗い路地裏へと引っ張っていったようだ。
男の一人を問答無用で殴る。
「黙れ、下衆が。赤ん坊からやり直してこい」
軽蔑の眼差しで彼らを見る。恐怖に駆られて、彼らは慌てて逃げ去った。
改めて少女に目を向ける。俺よりも年下だろうか……?華奢で美しい、庇護欲を掻き立てられる身なりをしている。じっと見つめてくる彼女のアイスブルーの瞳は、神秘的で、引き込まれそうになる。
「ありがとうございました」
深々と頭を下げて、お礼を述べる少女。
「お嬢さん、ここの国の人じゃないね?」
彼女の口から出てきたのは、他国の言葉――。
「まぁ、いいよ。俺も好きでしてることだし。ラーディス王国へようこそ、歓迎するよ」
にこやかに微笑んで、この国への訪問を歓迎する。