01 ラーディス王国
船旅は、思ったよりも長く、思ったよりも短く終わりを迎える。夜の景色から、明るい空になるほどに時間は経過していた。日が昇り、晴れ渡った空。
「着きましたよ――!」
船を操縦する者が、到着を告げる。
海の中にある国・ラーディス。
貿易が栄えており、特産物も豊富。
港は、人々の活気で賑わっているとのことだ。
「アメリア様、どうかお元気で――」
「ありがとう、爺も長生きしてね」
「うっうっ、ありがとうございます、何か困ったことがあったらこの家へと行ってください。爺と古くから付き合いのある方達です」
爺は、胸ポケットから折り畳んである一枚のメモをそっと渡してくれた。
「ありがとう、では――行ってきます」
「お嬢様、お気をつけて――」
普段と変わらない挨拶で締め括る。
さよならって言ってしまったら、私までなんだか泣いてしまいそうで……。
港の中心から少し離れた場所で、執事である爺に手を振る。
「さて、これからどうしよう……?」
予め、お金は今日のために貯金して持ってきたけれど――、この国の通貨ってなにかしら?
ずぶ濡れになったドレスは、出立する前に簡素な仕立てのワンピースへと着替えを済ませていた。目立たない町娘の格好を選んだ。
行くあてもなく港を彷徨っていると、右手を取られて人気のない路地裏へと連れ込まれる。
「お嬢ちゃん、可愛いね――」
「この辺じゃ見ないべっぴんさんだねぇ」
ニタニタと気持ちの悪い笑みを浮かべる男達。
「……(気色悪い!」
アメリアは、嫌悪感を表して顔を顰める。
しかし、その態度すら男達には喜びの声をあげる。
「お嬢ちゃん、おじさんたちと遊ばないかい?」
「お酒のもうよ――この先に、いいお店が……グハァッ」
初めての出来事に困惑していると、男の一人が地面に平伏していた。一瞬の出来事に頭が追いつかない。
「黙れ、下衆が。赤ん坊からやり直してこい」
男を殴ったと思われる男性が、軽蔑の眼差しで彼らを見遣る。私より年上だろうか……?背が高く、素人目に見ても上質な服を着ていることがわかる。金色の髪は、光に照らされて輝いている。
私を背後に庇う姿にも好感を持てる。
「ありがとうございました」
深々と頭を下げて、目の前の謎の金髪の青年にお礼を述べる。
「お嬢さん、ここの国の人じゃないね?」
咄嗟に彼の口から出てきたのは、自国の言葉――。まずい!私の存在が……。
「まぁ、いいよ。俺も好きでしてることだし。ラーディス王国へようこそ、歓迎するよ」
にこやかに微笑む彼は、眩しかった。