嫌がらせの代償5 ( 完結 )
このお話はこちらで最終話となります。
彼女はとにかく美しく賢かった。
ララ嬢も可愛らしく花が舞い散るような明るさがあったが、オーロラの百合のように凛とした佇まいにウォルトは只管焦がれた。
直ぐにでも侯爵に取り次いで欲しい!と陛下の力も借りた。
しかしレミントン侯爵が野心溢れる当主のせいで、王太子の側近という肩書きを以てしても、見合いは正面から断られた。
兄達はそんなウォルトを嘲笑い、『これ以上の高望みはするな』とアドバイスを送った。
学園で頻繁に彼女を見るたびに胸は高鳴り、自分ではいられなくなった。
(嫌だ。ルーベン殿下のものになんてならないでくれ)
淡い恋心は3年の月日の中で随分と歪な形に変化を遂げていた。
そんな時である。
次兄が真っ青な顔で王都に相談にやって来た。
「知恵を貸してくれないか。贋作を売ってしまったんだ」
数年前からパルフェット伯爵家は長期航海に耐える丈夫な船と港の開港に伴い財を築きつつあった。
スーペリア国へ船を出すことが出来るようになり貿易の幅も広がった矢先の失態であった。
販売先はウェブスター侯爵家。
大きな船で陶器類も運搬が可能となり、この国にも多くの作品が持ち込まれるようになった。
次兄は慎重なタチではあったが『ノア・コッポラの作品』と聞いて、逃してはならない!と慌てて手付け金を支払ってしまったという。
美術品には必ず付きまとう問題ではあったがよりによって侯爵家に売ってしまうとは………
パルフェット伯爵達は頭を抱えた。
丁度その頃オーロラを視界から消したいと願うルーベン殿下の要望にも応えなければならなかったウォルトは閃いた。
壺をなかったことにし、オーロラを女性としての過失は少なく、王太子から遠ざける方法を。
壺は始めから割るつもりであった。
サリンジャー子爵家に仕込んだメイドが意識の混濁したオーロラと壺を倒す予定にしていたのだ。
だから一本脚のラウンドテーブルに壺を設置したし、大凡は計画通りにことは運んだ。
計算外だったのはメイベルが反抗的であったことと、金銭面で必ず頼ってくれるはずだと考えていたウォルトの元にオーロラは一度も『助けて』と言わなかったことだ。
金策に走り回っていると聞いて多くの生徒は嘲り、手を貸そうとしなかった。
だからウォルトは直ぐ様レミントン侯爵家に手紙を送った。
「お力になりたいのです」と。
しかしいつまで経っても彼女から返信は来ず、今日生徒会室に行けば赤毛の女が窓辺で堂々と煙草を吸っており呆気に取られた。
噂に聞いていた学生。
ミランダ・ポルトゥナート令嬢であった。
バイデロン公の落とし胤と言われているだけあり、赤髪は淡く夕焼けのよう。
そしてマンダリンガーネットの瞳は女性にしては鋭すぎた。
ルーベン殿下は放心したようにミランダに対して言い訳をしなかった。
始めは色々考えていたのかもしれない。
だが態度を繕おうとはしなかったし、ウォルトも纏められた証文分を読みながら、自分たちが裁かれるのだと腹を括った。
ルーベンとウォルトはこの細身な女1人にすっかりやり込められたのだと認めざるを得ない。
「あのね。オーロラには全て話したわ。その上で彼女が出した結論は
『このままで終わりましょ』
だそうよ」
ウォルトは耳を疑った。
賢く王妃に相応しいオーロラがその地位を諦めて学園から去るというのか?!と激しく動揺した。
結果その方向に導こうとしていたのにも関わらず、実際に聞けば、恋焦がれた女性が転落した人生を、歩むことに少なからず動揺したのだ。
「勘違いしないで。贋作の可能性はある……という形で壺は弁済してもらうわ。オーロラは壺をララと一緒に偶々アクシデントで割った。慈悲深いオーロラは『お気の毒に』と半額負担するの。
勿論お金の出所は殿下だけど、そこはオーロラの手柄にするの。
ララはあの日麻薬を口に入れたわよね?メイドやサリンジャー派閥の子達がバクバククッキーを食べるところを見ていたもの。その事実を知ったらウェブスター侯爵はどうするかしら?
娘を修道院に入れる???いいえ。溺愛してる彼には出来ないわ。だから上手に伝えなさい。『学園に紛れ込んだ蔦薔薇の葉は麻薬でした。それを知らずに王家の料理人がサリンジャー子爵家に試食品として渡していたようです。勿論ララ様に過失はなかったのですが、麻薬を食した令嬢に対して皆が何と思うか、よくよくお考えくださいね』って。
ララ嬢が暴れたり暴言を吐いたことは明白なのだから、後は親に認めさせて壺の値段を限界まで下げさせたらいいわ。
もし証文が残っていたら王家まで押しかけて話が大きくなるから、ウェブスター侯爵が踏みとどまれるように上手くやりなさい。パルフェット伯爵家は販売側としてララ嬢の分を支払えばいい。『上顧客様ですから』とでも何とか言ってね。
それかちゃんとしたノアの作品を一つ渡すのもいいんじゃ無い?
パルフェット伯爵家は丸く収まれば少々の出費は目を瞑るでしょ。
あぁ、サリンジャー家を説得して既に証言は取ってるから貴方達逃げられないわよ」
ミランダは、フフンと鼻を鳴らすと再び紅茶に口をつける。
実際はメイベル嬢が相談に来て洗いざらい喋ってくれたため、裏取はずっと簡単に行えただけだがそれを教える必要はない。
「ルーベン殿下は本当はオーロラ嬢がどんな人間か知ろうともしなかったでしょ?見た目はあんな感じの冷たそうな人形風だけど、彼女めちゃくちゃ面白い子なのよ?」
ルーベンは驚いて目を見開く。
「だが、いつも王宮の夜会ではダンスの列に並んでいたし、スーペリア語学だって選択科目なのに同じように選んだ。私に選ばれたかったからじゃないのか?」
勘違い男ね!と言われたことに対し多少の腹を立てながらルーベンは反論する。
だがミランダは肩をすくめると宥めるように話し始めた。
「親に言われて皆仕方なくあなたのご機嫌を伺っているのをそろそろ気がついた方が良いわ。
それにね、いっつも夜会とかで第二王子とオーロラが何を話しているか知ってる?
他国の下ネタの話集について喋っているのよ。
見た目はあんなんだけど、2人とも下品で可愛い人だわ。
そして、第二王子も澄ました顔でそんな事ばっかり考えてるムッツリすけべ野郎よ。そう聞くと今までのことが馬鹿馬鹿しくならない?」
ミランダはスーペリア語の分厚い本を取り出すとドンと机に置く。
「昔の人間てやる事ないから、下世話なことばかりで書物を作っていたのよ。
真面目過ぎる貴方からしたら驚いちゃうでしょう?オーロラはね、奔放的なスーペリアの書物で将来マイロとの閨をリードしたくて、あの言語学を学んでいるの。
貴方と同じクラスになりたい〜とかそういうのじゃないわ」
男2人は開いた口を塞ぐことも出来ずにポカンとミランダを見つめた。
「見た目が美人だからって中身もそのまんまってわけじゃないわ。初心ね」
そういうとミルヒに向かってニヤリと笑いかけた。
ミルヒはオーロラとミランダの下品なトークを思い出し身震いする。
(淑女って幻だな)
ミルヒは三十路手前にして2人の少女に目眩を覚えた日のことを思い出した。
「壺の違和感だって男性器をマジマジ見ていたからオーロラは偽物じゃないかって気がついたのよ、
淑女が皆絵画の裸で赤面しちゃうなんて幻想だから。早々にその考えは捨てた方が良いわね」
ウォルトの中で美しかったオーロラの像が崩れていく音が聞こえた。ガラガラとビスクドールに、ヒビが入るような衝撃。
そんなバカなと、否定したいのに出来ない自分がいる。
そしてルーベンも同じ思いを抱いていた。
孤高の淑女……
そう信じていた彼女は、悪評を流されても我関せずで飄々としていた。
王家では悪役令嬢と噂が流れていることに賛否両論ではあったが、折れない姿勢のオーロラに対しての評価は高かった。
「王妃の器だ」と年老いた管理職が言葉にするたびにその強いメンタルに怯えていたが、冷静になれば、彼女は自分と結婚したくないのだから至極当たり前。
外野が『ワアワア』騒いだところで全く興味が、無いのである。
落ち着いて今までを思い返せば、地味で存在感のないマイロという伯爵家の男はずっと彼女の背後に控えていた。
オーロラ嬢は安心していたのだ。
愛する男に背後を守られ、信頼していたからこそ羽虫達の騒動にも怯えなかった。
「オーロラ様はね。この騒動を利用して父親からマイロとの結婚をもぎ取るつもりらしいわ。
醜聞が一度でも出回った自分は王妃にはなれないと宣言するつもりみたい。でも、ちゃんとウェブスター侯爵家とはお金で解決して、自分の子供に肩身の狭い思いをさせるつもりはないそうよ」
子ども……オーロラの子供??
ルーベンはオーロラの先の見据え方に衝撃を受ける。
直ぐ足元の難問にばかり気を取られ、ウォルトと対策を練っていた自分と違い、オーロラは子どものことまで考えていた。
それは自分の今までを情け無く感じるには十分な一言である。
「完敗だ。お金も払う。
オーロラ嬢の名誉も回復できるよう全力を尽くす。王太子の座も退こう」
「あ、それはしないで!
オーロラからの伝言よ。『自分の幸せに対してもっと貪欲になって良いのでは無いでしょうか?恵まれた環境をもっと謳歌しましょう』ですって。ルーベン殿下は卑屈な面もあるけど、それは他者の気持ちが分かるからよ。努力する王は私は悪くないって思う。
自分を支えてくれている人々にちゃんと敬意を払えているならね?彼らの力を認めてあげている貴方は未来の王に相応しいわ。ね?ウォルト様」
そうミランダが話を振るとウォルトは顔を赤らめてルーベンの側に膝を突いた。
「如何様な処分も受けます。私が全て仕組んだこと。ルーベン殿下はこのまま王位に向かって突き進んでください」
「そういうところが気持ち悪いのよ」
ミランダは鼻に皺を寄せてベッと舌を出した。
「人のために、家のために、殿下の為って言い続けてるから自分の為に行動した時におかしくなるんじゃ無いの?」
ウォルトが驚いて目を見開く。
「普通に私たち学生だから!
だから最初にやることは『貴方が好きになりました』ってオーロラに手紙出したり告白したりするべきだったんじゃないの。遠慮なんて要らないじゃ無い。殿下はどうせオーロラのこと好きじゃ無いんだから」
(そうだ……何で俺はこんな遠回しなことをしてたんだろ……)
ウォルトは愕然とした。
オーロラを初めて見た時
<彼女程王妃に相応しい素晴らしい人間はいない>
と思った。
自分が真正面から行っても断られたし、王家の官僚達が話す内容ばかり鵜呑みにして条件ばかり高くて『難攻不落の高飛車な女性』だと思っていた。
しかし生身のオーロラはミランダの話によると大分違うらしい。
この三年、彼女のどこを見ていたのだろうか?
ルーベン殿下がオーロラを嫌うように仕向けたり、嫌なイメージを定着させることばかりに執心して、一度も『貴方が好き』と伝えていなかった。
(当たり前のことを当たり前にしていなかったのは自分?)
その結論に震えが止まらない。
ミランダは呆れたようにため息を吐く。
「あのねぇ、貴方達がしたことは立派な犯罪。
だけどオーロラはマイロと結婚出来たら他はどうでもいいらしいから、名誉回復出来る為のお金とか諸々は回収するけど、他は見逃してあげるって。あ、でもララを婚約者にはなるべく選ばないで欲しいそうよ。ウェブスター侯爵とパワーバランスが崩れたら父親が発狂しちゃいそうだから!って」
ルーベンは思わず声を立てて笑った。
何故始めから幼馴染の彼女ともっと会話しなかったのか……
いや、出来なかったのか。
父親達の柵に囚われすぎて、勝手にイメージを作り上げて……本当に情け無い。
オーロラは真っ直ぐマイロだけを見て生きている。
そしてマイロもオーロラだけの幸せを願って支え合っている。
婚約者選びをツィツェーリア王妃に負けない相手にしなければと肩肘張っていたのは自分一人で、周囲はそこまで考えていなかったのかもしれない。
「好きな相手と一緒だから頑張れているのだろうな。オーロラ嬢は」
そう言うとミランダはやっと気がついたの?と言わんばかりに口角を上げた。
「愛する人間に愛されると、人はいつも以上に力が出るし、勇気も得られるの」
そう言うと煙草の吸い殻を再び固いポーチに入れ密封する。
「教師のミルヒが殿下にひとつだけアドバイスがあるそうよ」
ミランダは自分が話したかった内容は終わった!と興味を失ったかのように菓子器の中のキャラメルを剥き始めた。
今まで気配を無くしていたヒョロリとした生物学教師はヨッコラショと立ち上がると二人の前に立ち、穏やかに微笑んだ。
「我が国ではまだ研究もされていないことなのですが、実は『ディスレクシア』という病があると、近年研究が始まっています」
「ディスレクシア?」
「はい、これはスーペリア語に限らず、他の言語でも偶にあるのですが、その病の人間がその言語を目にすると字が歪んで見えたり、文章が纏まらなかったりとにかく文字になっている部分が全て通常通りの状態で脳に正しく送られない……そのような病があるのです。
もしかして殿下はスーペリア語の文が歪んで見えたり、字が小さいものは更に読み辛かったりされているのでは無いですか?」
ルーベンは誰にも明かせなかった隠し続けていたそのことを指摘され吃驚して教師の顔を見つめる。
「殿下。あれは学習障害と言って、決して頭が悪いからや、幻覚などでは無いのです。病なんです」
穏やかに微笑むその男の細い眼差しでルーベンは再び脱力した。
「私は……病気だったのか………」
「しかも軽度の学習障害です。
スーペリア語学は大して必要ないですから気に病むことはありません。その証拠に殿下は口頭ではスーペリア語はお話しできるでしょう?
ウォルト君が今後も書面などの分はきっとカバーしてくれるでしょう」
ね??そうだろ??とミルヒは首を傾げてウォルトに言葉を促す。
「私は今後も殿下のそばで働けるのですか?」
ミランダはキャラメルを堪能しながらクスリと笑う。
「子供の悪戯に大人は寛容よ。オーロラが許すって言ってくれてるんだからいいんじゃない?」
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こうして、ルーベンとウォルトの悪行はミランダ達の計らいによって『金銭で解決』を見せた………
「って!子供の悪戯って言ってあんな大金よくせしめたなぁ!!」
ミルヒは朝食のパンを鉄箸で炙りながら二日酔いのミランダに態と大声で話しかけた。
「アタタタタ…
仕方ないわよ。皆貴族なんだから動くお金が大きいのは当然だわ。
まあ、今回は大物に恩も売れたし私としちゃ満足だわね」
白い指先で器用に煙草を摘み上げるとミランダはシガレットケースに朝日を当てる。
この美しいシガレットケースはオーロラがミランダに友情の証として贈ったものだ。
表面が陶器で仕上げられたそれは確実に美術品だと推測されるが二人はその事には何も触れない。
蓋に描かれているその美しい女神像は下半身に薄衣を纏い、左手にはグラスを掲げている。
「なあ………もしかしてソレってノア・コッポラ「邪推してはダメよ。
これはレミントン侯爵家の倉の中から出てきた不用品なんだって。綺麗だけど作者名も無いし、木箱から出された形跡も無かったそうだから。ありがたく貰っておくのが筋ってモノよ。ね?この赤髪の女神が私っぽいってオーロラが言うの」
ウフフフと微笑めばミランダは年相応の女生徒に見えた。
ミルヒは合点がいった。
ミランダは幼い頃から公爵家に足を運んでいたため恐らくノア・コッポラの画集を見たことがあったのであろう。そして、オーロラはレミントン家の倉庫に入り浸り美術品の鑑定力に自信があった。
パルフェット伯爵家の人間は所詮は海沿いの田舎貴族である。美術品に幼少期から触れている彼女たちとは素地が違ったのだ。
そしてウェブスター侯爵達も。
ミランダは最初にサリンジャー子爵家から割れた壺全てを回収し、その真贋を見極めるところから始めていた。
彼女曰く
『オーロラを貶める人間?そんなの高位貴族以外に無理なんだから後回しで十分、すぐ分かるわ』だそうである。
メイベルが協力的であったことからミランダはずっと『王宮の相関図がいるわ』とボヤいていた。
その発言から推察すると随分早くからルーベン殿下を疑っていたのは間違いない。
マグナの自生していた学園の庭園は高位貴族の馬場に程近く、ミルヒもそんな予感はしていたのでそこは誰でもわかる事だったのだろう。
ララは自分が麻薬のせいでハイテンションになったことを未だに忘れたままだが、侯爵はすぐさまこの事実の揉み消しに掛かった。
ウォルトがどのように話を進めたのかは分からないが侯爵はマグナの葉の件については彼に一任したようだ。
勿論『弁償金を払え!!』と怒鳴っていたことなど無かったかのように、オーロラに手のひらを返して友好な条件を出してきたのは言うまでもない。
娘の失態を言い触らされては堪らない!と慌てる男の姿はオーロラには微笑ましく感じたと言う。
「ウェブスター侯爵。私はララ様が羨ましい。
我が父は私のことをきっと倉庫にある絵画の一枚より低く見ているでしょうから。
私がララ様と同じ目に遭っても、父は家の為に簡単に切り捨てる頭の人間です。
私はララ様のことが大好きなのですよ。こんなに素直で無邪気な性格なのはお父上達が優しくのびのびと慈しんでこられたからでしょう?」
それを聞いたウェブスター侯爵はそれ以降オーロラを目の敵にすることは無かったという。
表情が少し乏しい美しい少女の言葉に嘘はなく、瞳だけが優しく真実を語っていた。
その後、夜会では侯爵はキチンと挨拶を交わし、ララとの友人関係も認めてくれたそうだ。
ウェブスター家は『割れた壺は惜しいが子供のしたことだから……』とお咎めなしにしようとしたことで、社交界で『太っ腹で男気がある』と高評価を得られた。
それに対しパルフェット伯爵は『せっかくの美術品がこのような形で最後を迎えてはあまりに寂しい』とウェブスター家に『本物のノア・コッポラ作であるカップアンドソーサー』を贈った。
オーロラは『それでは私の気が済みませんから』と申し入れ、レミントン侯爵家の伝手を使って『セフェリノ・サリの風景画』金貨80枚程の作品をララにプレゼントした。
悪役令嬢は気が強く、冷淡ではあるが、金払いも良く、サバサバした、カッコ良い女性だ。人の気持ちを惹きつける要素を充分に持っているのだな…と周囲の人間は感心したとかしないとか。
オーロラは学園卒業まで相変わらず誰にも媚びず、あまり笑わず、成績だけは上位のままに卒業を迎えた。
大聖堂で行われた結婚式の日、マイロに口付けされるオーロラは見たこともないほど輝くような笑顔であったと後にルーベン殿下は語った。
ウォルトはその後伯爵家の父達と和解することができたがそれは贋作の壺を始末したことが切っ掛けである。
次兄も長男も「ウォルトってやっぱり頭がいいんだな!!」と180度見方を変えてきたそうだ。
ウォルトは苦い失恋のせいか人に優しくなり、前より尊大な態度は形を潜めた。
「で、なんであの壺の欠片をミランダは修復に出したわけ?めちゃくちゃ金がかかっただろ?えっとなんだっけ?金継ぎ?とかいう手法だろ」
ミランダはフゥ〜〜と煙を吐き出しながらミルヒを小馬鹿にしたように睨め付けた。
「美術品はね、私にとって心地よい作品かどうかが重要なの。それに対してお金のことばかりを言うなんてセンスが無さすぎる。
おじさん達は夢がないのよ。あの描かれた男神の下半身見た?!生きてる生身の男みたいじゃない!ワクワクするわ。だからそれにお金を払うことは全く気にならないわ」
(やっぱりこの女の頭はおかしい……)
ミルヒはパンを齧りながらミランダの行末を案じるのであった。
余談だが…………
後に修復した壺はノア・コッポラの唯一の弟子、オーケン・バーグマンの作品だと認められる。
50年後のその作品の値段は既に付けられるような額面ではなく、王立博物館に飾られている。
割れた壺を金継ぎという素晴らしい手法で蘇らせたとしてスーペリア国の大使たちもその作品には賞賛の手紙を幾つも送ったそうだ。
何故ミランダがその壺を手放したのかは不明だが、陛下からの強い要望に応えた結果であると推測される。
王位を継いだルーベン殿下が、誰を婚約者に選んだのかはまた別のお話で。
伏線がまだあるんじゃないの?!
と気になることがあるかもしれませんが、次回相談が来ましたらこちらのお話は更新となります。
『え?、あれどうなったわけ』の回収は、再度練り直して投稿させてくださいね。