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あともう一息です。

21時投稿で、終了です。

最初に22時!としていたのですが、少し早くアップ出来そうなので変更致します。

 ルーベンはどの科目も5番以内の成績を収めなかった場合、弟に王太子の席を譲るべきだと王妃から言い渡されてこの学園に入学した。


 ドミニクは現王妃の実子だ。ルーベンにとっては腹違いの弟であり、王妃は継母に当たる。

 第二王子を産んだツィツェーリア王妃は、前王妃が病没後、側妃から難なく正妃に押し上げられた。


 側妃として10年陰日向で活動していた彼女は強い。

 おっとりと育ったルーベンの母と違い、ツィツェーリアは年齢も陛下より5歳歳上で、幼馴染として陛下を側で支えてきた。

 そして政治に対しても頭が回り幾度も難しい案件を議事堂で皆に呑ませてきた。



 弟のドミニクは父親似の穏やかな性格だが記憶力、語学力に優れており、学園では神童と呼ばれている。

 ツィツェーリア王妃が我が息子の方が王に相応しいでしょう?と無言の圧力をかけてくるのも頷ける。


 ルーベンはそんなプレッシャーの中、学園生活をスタートさせた。



 一学年下のドミニクは幸いルーベンに大きく敵意を向けることは無い。

 おそらく<関心がない>が正しいのだろう。


 いつも多くの教師に囲まれ、小難しい理論や、専門家の出した論文の整合性を取ることを趣味としている。


 生徒達には『青龍の貴公子』と呼ばれ遠目から憧れの眼差しを向けられているが本人はそれすらも小鳥の囀り程度。

 他の生徒の声など気にしていない様子で過ごしている。

 孤高の雰囲気が神秘性を高め、龍の中でも最も気高く、知恵の泉の守り神と例えられる神話と、ドミニクはイメージが被るらしい。


 何とも羨ましい限りだ。


 それに比べて、ルーベンは性格の良い、親しみやすい、公正な精神がウリのちょっと成績の良い王子…と言ったところで……



 ニコニコと人の良い笑みを浮かべながら、第二王子より劣る頭の中身を嘆き、第三王子の顔の良さと明るさを指を咥えて嫉妬する情けない存在であった。


 そんな中でも努力は怠らず頑張ってきたが、二学年に上がった時にルーベンは人生のドン底を味わう。


 選択科目のスーペリア語学が全く分からないのだ。

 数学、歴史学、化学と家庭教師達に後押しされ過不足なくやって来れたというのに、スーペリア語だけは全く理解できない。

 教科書に至ってはそれらに目を通そうとすると字が歪んで見えるほどだ。



『これでは王太子の地位を降ろされてしまう!!』

 真っ青になったルーベンを見て側近の1人ウォルトが助け舟を出してくれた。

 ウォルトは伯爵家の三男として生まれ、本来なら王太子の側近としては少々家格が低い。

 しかし文武両道に長けており何より人心掌握が抜群であった。


『殿下ほど国民の気持ちに寄り添える、王の王たる資質を備えた人間は居ないでしょうね。きっと国民からの支持率は一番高くなること請け合いです』


 事実、ウォルト・パルフェットのフォローによりルーベンは信頼度を学園内で高めていった。


 生徒会で打ち出す施策が総て大当たりするのだ。


 そんな彼の提案をルーベンは無視出来なかった。

 

 絶対にやってはいけない『カンニング』という禁じ手。


 しかしウォルト・パルフェット伯爵令息はこともなげに言う。

「いやいや、家名を背負っている人間は皆してますから。殿下だけがそんなに気に病む必要はありません」


 選択しながら答案を埋めていくテストの時はウォルトが必ず側につくようになり、教師も暗黙の了解で席を不自然な形に作り上げていた。


 スーペリア語学の副専任教師はパルフェット伯爵家の下位の人間で

『殿下の成績を上げることの出来ない無能な教師』

 と言うレッテルから逃れる為に協力的であった。



 中間期のテスト時間にそれは起こった。


 殿下の婚約者候補の1人、オーロラ・レミントンがウォルトのそっと渡したメモ紙を一瞬目で捉えたのだ。


『バレた………』


 ルーベンは冷や汗が止まらなかった。


 レミントン侯爵家のオーロラは良くも悪くも高位貴族の令嬢として完璧な人間である。


 (彼女のことだ。

 教師に真っ先に報告するに違いない)

 そう確信した。


 ルーベンは昔からこの幼馴染のオーロラが苦手で生徒会に本来なら指名すべき時も『性格が合わない』という一点で彼女を外した。


 公正性に欠けるその一件から恨まれているのは感じていた。


 ビスクドールのように美しいが表情に乏しく、王妃の座を狙っているとは思うのだがルーベンを少し馬鹿にしている節があり、王家に招かれている時でも第二王子のドミニクと会話していることの方が多い。


 (頭の出来の差を見せつけているのか?)


 ルーベンはいつも彼女の媚びない姿勢が怖くて堪らなかった。


 そんな中でのカンニング暴露は身の破滅であった。


 幸いオーロラは確信が持てない為か教師達にカンニングの件はバラさないでいてくれた。

 ホッと胸を撫で下ろしたのも束の間ウォルトが深刻な顔をしてこう言った。


「不味いな。これを盾に婚約者を自分にしろと絶対に脅迫してくるぞ」


 都合の良いように解釈していたルーベンが再び顔を青褪めさせる。


「性格の悪いオーロラ嬢がこのまま、このネタを黙っている訳がない。

 最高権力に焦がれている欲深いレミントン侯爵家で育ったんだ。

 絶対に主導権を握るつもりだ。こちらも対策を練るべきだ…」


「それじゃあオーロラを婚約者にして一生見張っていれば良いんじゃないか?」

「ルーベン!飼い殺しにされるぞ?良いのか?あの顔だけ良い女に一生を振りまわされるんだ。第二のツィツェーリア王妃になってもおかしくない。

 俺はそんな殿下を見るのは堪えられない」


 友の言葉にルーベンの心は揺れた。

 そしてウォルトはまた粛々と『殿下の為に』と計画を立て始めた。


 ウォルトは実家の貿易ルートから麻薬草を持ち込み、それをメイベルへと託した。

  自分の知らない所で何かが動いている……そう分かっていてもルーベンは彼を止める勇気が無かった。


 いずれオーロラが自分のことを脅しにくるのだと思うと、どんどん気持ちが塞ぎ込んだ。

 だから絵画の真贋を認める証文書にも王家の鑑定士の目を盗み印を押したし、オーロラの悪評もドンドン流した。



 計画は単純であった。

 オーロラが学園に居座る事が出来なくなるほどの醜聞を作り出すだけだ。


 マグナという麻薬は紅茶と似た味で、数年前この国でも違法と認定された。


 旅の商人が乾燥したものを煙草のように昔は持ち込んでいたようだが今はそれが困難である。

 その昔王宮官吏官がこれで酩酊し大騒ぎとなったのは祖父の代では有名な話だ。

 何でも彼は幻覚症状を訴え池に飛び込んで、翌日にはケロリと全てを忘れていたという。


 一瞬だけ気持ちが昂ったり、幻覚によって気持ちが大きくなる。


 オーロラにもこれを嗅がせたり、食べさせたり、所持しているところを教師に見せれば全て簡単に片付くはずだった。


 しかし、オーロラには番犬マイロが常に張り付いており全く隙が無かった。


 焦ったウォルトは協力者を増やすと言い出し、最終的にはメイベル嬢の派閥を丸め込んでオーロラを堕としにかかった。


 ララ・ウェブスター侯爵令嬢の割った壺の弁償騒ぎでオーロラは完全に居場所を無くすはずであった…………


 なのに…………………




『悪いことはお天道様が見ているって本当なんだな』


 ミランダの夕日のような赤髪を見ながらルーベンはこの数ヶ月の出来事を振り返っていた。


 坂を転がるように自分の全てが無くなっていく感覚に感情がついていかない。


『もう終わりだ』


 書類の束を握り締め、自分たちの悪行が明るみになったことをルーベンはボンヤリと捉えていた。

 (でも、もうこんな苦労の日々からは解放されるんだろうな)

 それだけが唯一の救いであったし、胸のつかえがおりたように楽になった。


 ウォルトは脱力したようにソファーに座り込み背中を丸めている。


 ミランダはそんな2人を尻目に

「お茶淹れても良いかしら?」と、ドカリと座り込み煙草に火を付けた。



「殿下。先ずは貴方は金貨150枚をオーロラに支払いなさい。

 これは慰謝料よ。婚約者のいない貴方ならこのくらいの金額何とか出来るでしょう?どうせ誰にもドレス贈らないんだから。

 そしてウェブスター家に隠密でも使って偽造した証文書を盗ませなさいな。丁度来週に侯爵家でパーティーがあるから、その時にでもね。

 物証は唯一それだけなんだから死に物狂いで何とかなさい」

 『『は?』』


 2人が顔を上げるとミランダはニマリと不敵な笑みを浮かべた。


「そもそもだけど、この嫌がらせは全て勘違いから始まっているって気がついてる?」

 ミランダは紅茶をミルヒから受け取ると

『やっぱりコーヒーにしときゃよかった』と独り言ちた。


「オーロラはね、王太子の貴方との婚約なんて全く興味がないのよ、昔っから」

 (嘘だ……)

 心の声だと思ったが小さく漏れていたらしい。

 ミランダはちゃっかり聞き取りその言葉に返事する。

 

「本当よ。だってオーロラがずっと幼い頃から愛しているのはマイロ・ポールソンただ1人よ」

 

「嘘だ!!!!」

 ウォルトは大声を上げ立ち上がった。

「あんな地味で平凡で目立たない男がオーロラ嬢に愛される訳がない!!嘘をつくな!!」


 ルーベンは動揺した。

 いつも冷静なウォルトが取り乱しているのを初めて見たからだ。しかもこき下ろしてばかりいるオーロラ

に対しての言葉とは思えなかった。


「パルフェット伯爵令息。貴方さぁ、ちょっと気持ち悪いのよ。オーロラ嬢に固執しすぎてて。

 本当にオーロラのことが好きだったみたいだけど、変なところばっかり見てるから気がつかないのよ。マイロとの関係性とか。

 見る人が見ればすぐ分かるわよ?

 人を思い遣る気持ちがわからない。だから貴方の計画は穴だらけで、間抜けだったのよね。

 そもそも最初の違和感は全て<麻薬を使った失態を犯させる>という不自然な計画だって何で皆気がつかないのかしらね?」

 ミランダは一気に喋ると半分の長さになった煙草を固いポーチに放り込み蓋をした。


「私が悪役令嬢を簡単に王太子から遠ざけるなら古典的だけど男を差し向けるわ。夜会で犯させりゃ一発で退場でしょう?侯爵令嬢が非処女なんて何処にも嫁に出せなくなるもの。

 なのにそうしなかった。その理由を突き止めていけば簡単にパルフェット家の貴方が浮かび上がったわ。

 3年前、お見合い断られたんですってね。レミントン侯爵に」

 ミランダは新しい煙草を取り出すと再び火をつける。

 ミルヒにはその行動がミランダがいつもより苛立っている仕草に見えたが敢えて口にはしない。


「ウェブスター家は何にも分かっちゃいないわ。

 あそこの父親は成金で美術品の何たるかを知る様な高尚な趣味も持ち合わせていない。

 だからノア・コッポラの贋作をアッサリ摑まされたのよね。販売元はパルフェット伯爵家。

 これも全部引っくるめて始末しようとしたから事が荒っぽくなったのよ」

 ミランダは捲し立てるように早口でしゃべっていたが再び煙草を吸い込むと少し落ち着いたように、そして馬鹿にしたように2人を睨め付けた。


「何で贋作だってわかったんだ?って思ってる?」


 ルーベンは呆気に取られたままコクリと頷いた。


「ノア……この名前は男性じゃない、女性よ?

 貴方達はずっと勘違いしてたのよ。ノア・コッポラが男性だと。女性の芸術家はスーペリアでも少ないけど存在するわ。勿論男性社会だから表立って『女』とは宣言していなかったでしょうけれど。

 そもそも王国と名前の付け方が違うことに気が付かなかったのだからパルフェット伯爵家も真贋がわからなかったのだわ。

 あの素晴らしい壺を見た?本当に美しい作品。


 贋作ではあるけれど、あれは絶対にノアの弟子が作ったものでしょうね。影響をかなり受けているもの。

 でも、女性の絵付け師は絶対に男性器を直接描いたりしない」

 ウォルトはハッとなったように壺の絵を頭に思い浮かべた。


 龍に神々しい神々の絵。しかし彼らは男神も女神も全員一糸纏わぬ姿であった。


 (あの壺が偽物だということさえバレていたのか…)

 ガクリと項垂れて床を見つめるウォルトにミランダは冷たく言い放つ。


「オーロラを手に入れたかった貴方が立てた計画よね?」


 ウォルトは黙って頷いた。







 <<<<<<<<<<<<


 伯爵家の三男は裕福な商会に入婿できれば万々歳だ!と言われたのは本当に幼く無垢な時からであった。


 男ばかり生まれたパルフェット家でウォルトの居場所は無く、家庭教師も満足に与えられなかった。

 兄達からのお下がりと、教科書のお古。

 幸いであったのは乳母が非常に博識で高位貴族の寡婦であったことだろう。

 彼女は社交界のイロハや勉強を効率良く身につける方法を教えてくれた。

 成績は上位、上の2人の兄と剣術も互角。

 ウォルトは少しでも認めてもらおうと努力を怠らなかった。

 それでも能力の低い兄達を取り立てる父親とは折り合いが悪く、海沿いの田舎伯爵家で三男坊では未来は閉ざされたも同然であった。


 しかし、そんな彼に転機が訪れる。


 王宮主催の子供向けの茶会の日に兄2人が大風邪を引いたのだ。


 パルフェット伯爵は仕方なく三男にお下がりの上着を着せ王宮へと上がった。


 第一王子の側近としては年が上の兄達の方が喜ばれたのだろうが、幼い頃から人の顔色を窺うことに長けていたウォルトは見事王子の信頼を勝ち取ることに成功した。

 そこからはとんとん拍子に物事が進み、ウォルトは王太子に登り詰めたルーベンから『無二の親友だ』と言葉をもらうまでになった。

 公爵家の令息や他の上位貴族の男達はウォルトの立ち回りの旨さに舌を巻き、徐々に学園でも地位を築いていく。


 政権は王妃の交代により少々揺れており、王家では王子達に何とか婚約者を見繕おうと夜会を繰り返し開催する。

 そんな中で王太子に付き添っていたウォルトは妖精に出会った。


 オーロラ・レミントン侯爵令嬢である。

 

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