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3

サブタイトル間違えてましたーー!

公爵令嬢×

侯爵令嬢○

でした。お優しい読者様…………。ご指摘ありがとうございます涙


毎回恥ずかしい誤字脱字を、乱発する私ですがどうか宜しくお願いします。


 メイベルはお茶会の日からずっと頭痛に悩まされていた。

 いや、正確にはその前から体調不良である。


 遡る事4か月前。

 生徒会役員の1人、パルフェット伯爵の三男ウォルトに『ルーベン殿下が育ててくれって言う植物を貰ったけど、我が家の庭に根付かないんだ。もうニ株も枯らしてしまって参ってるよ。メイベル嬢は草木や花に詳しかったよね?どうしたら育つと思う?』と相談された。

 メイベルは嬉しくて舞い上がる。

 サリンジャー家の庭師は非常に優秀で国内指折りの人材である。

 経験値も高く他国の難しい植物を育てることも難なく熟してきたからだ。

 思わず張り切った声を上げた。

 「私でよければお力になります!」

 目を輝かせウォルトに自分の家の庭師の腕がいかに良いかを力強く語った時は、その後起こることなど全く予想出来なかった。

 只々、憧れのルーベン殿下の視界に留まりたい一心であったのだ。


 

 ウォルトはメイベルの申し出を好意的に受け止め、3株の蔦バラを翌日には彼女に渡した。

 そして王太子が持ち込んだその蔦バラを庭師に預けて一月後、家の様子がどんどんおかしくなっていった。

 


『お嬢様、あの蔦バラは普通の薔薇じゃありませんよ、何か怪しいです』

 体格の良い壮年の庭師はすぐにメイベルへ告げたがメイベルは素直にその意見を受け入れることが出来なかった。


 王太子ルーベンに密かに好意を寄せている彼女としては、間接的とはいえ頼ってもらえた事実が何よりも重要なことなのだ。

 それに王太子であるルーベン殿下の期待に沿うことが出来ればメイベルは今より更に重用されると……いや、麗しの殿下に喜んで貰えるのならそれがバラだろうが蘭だろうが何でも良かった。


 乗り気ではないと言いながらも庭師は優秀で、あっという間に花を開かせること成功した。

 しかしその花が漂わせる、癖のある甘い匂いが庭に広がっていくと家人たちの態度に変化が起こり始めた。


 ある晩、サリンジャー家の父と母が、その食事の席で激しく罵り合いを始めた。

 気性穏やかな二人は今まで喧嘩らしい喧嘩など一度もしたことがなかったというのに、『貴方に決断力がないからメイベルの婚約者が決まらないのよ』と妻が詰り始めた。

 

 メイベルは王太子に憧れていた為父の持ってくる縁談に首を縦に振ったことがなかった。

 

 生徒会に抜擢されたのもオーロラ・レミントン侯爵令嬢が、王太子殿下から好かれていない故の棚ぼたであると自覚している。

 しかし直近で好きな人と空間を共有出来る喜びを捨てきれなかったのだ。

 結ばれることのない相手を思い続ける不毛な恋を、母には知られていたと思う。

 しかしその母が夕食の席でその話題を口にし、父と大きな声を上げ喧嘩を始めた。

 翌朝母は父に謝罪していたようではあるが、二人とも普段では考えられないほど興奮していたことに周囲も首を傾げていた。


 そして使用人たちにも変化が目に見えて起こるようになる。


 小さなことで言い争ったり、興奮して大声を出したりとサリンジャー家に騒がしいことが増えた。


 そして庭師の責任者が、堪えきれず子爵本人にある日進言してきたのだ。


『お嬢様が持ち帰られた苗はやはりおかしい植物ではないか?』と。



 父親に問いただされメイベルは王太子殿下の名前を言うことができなかった。


 皆あの花の匂いを嗅ぐとおかしな程興奮したり気持ちが落ち着かなくなるのだから。

 

(殿下にご迷惑をかける訳にはいかない)

 

 だからウォルト・パルフェット伯爵令息に蕾をつけた株をコッソリと渡した。

「あの花は薔薇ではないようなのですが…その…あれはどの様な経緯で殿下は手に入れられたのですか?」

 痩せ細った苗木だったそれは、今では鉢の中で見事な葉を生い茂らせ、花は一度落ちたのに、緑が濃く、生命力に溢れてきている。

 それを見るとメイベルは言いようのない胸騒ぎがしてならなかった。

 

 実家での出来事により子爵(ちち)はその植物を根こそぎ抜くように庭師に命じたが、メイベルは若手の庭師に小銭を握らせ、秘密裏に鉢への植え替えを頼んだ。

「お嬢様、こりゃかなり元気な花がまた咲きますよ。前より蕾をつける数も増えてら」

 力強く根を張っていると聞けば(殿下の喜ぶ顔が見られる)と期待に胸が温まるものの、使用人や両親が揉めた一件が脳裏を掠め、心が騒つく。


 そんな不安そうな表情のメイベルに向かってウォルト・パルフェットは嬉しそうに鉢を受け取った。


「ありがとう!さすがはサリンジャー家の庭師だね。殿下はお喜びになるよ。

 計画がまた一歩進んだんだから」


 (???)え?と返事をする間もなくウォルトは恐ろしい計画を話し出した。


「君も、あの傲慢なオーロラ・レミントンは大嫌いだろ?

 この植物はあの女に恥をかかせるために仕入れた貴重な幻覚作用のある花なんだ!助かったよ。君が協力を、買って出てくれて」


「な、何を仰るの?」

 幻覚作用と聞いて思わず顔を青くしたメイベルの様子を気にも止めずウォルトは更に話を続ける。


「これは麻薬の一種さ。花の匂いを嗅ぐと凄く気持ちが昂るし、葉っぱは紅茶と同じ味だからお菓子に混ぜて食べても興奮するんだ。隣国の兵士たちの士気を上げる時に使う薬草なんだよ」

 曇りのない笑顔をウォルトは浮かべ、心酔したように葉を人差し指で摘んでみせる。

「勿論この国ではあまり認識されていない。でも戦争の時はこの葉っぱで皆お茶を飲んで恐怖を乗り越えたって代物さ!

これをオーロラ・レミントン嬢に嗅がせればみんなの前で吃驚するような失態を冒すに違いないよ。

 君も散々彼女から嫌がらせ受けてるんだろ?ひと泡噴かせるチャンスが来たんだ」


 (嫌がらせなんて受けていない)


 オーロラ・レミントン令嬢から冷めた視線は送られたことはあるが、特に嫌がらせなど受けたことがメイベルには無かった。


 試験結果が張り出された廊下ですれ違った時も

「貴女も大変ね」と声を掛けられただけである。



 メイベルが三十番以内にやっと食い込んだその試験でオーロラは3位の成績を収めていた。

 周囲の友人がメイベルに声をかけている姿を見て

『まぁ!貴女を馬鹿にしてるわ!」と憤慨してプリプリと怒り始めたが、事実は違うと感じている。

 実力が伴わない自分を彼女は決して貶めたわけではない。

 単純に

『生徒会に居るだけで他の生徒から成績をチェックされてお気の毒にね』と言う意味合いであったとメイベルは認識していた。見下す人間の瞳の奥には嫌な色が混ざることくらい分かっている。

 なのに周囲がいつも騒ぐのだ。


「私は別に嫌がらせなんてされてません!」


 メイベルはやっと理解できた。

 この不可解な植物はとんでも無い作戦に使われるのだ。

 彼らがオーロラ嬢を嵌めようと画策している事は確実である。

 何とかその考えを変えさせようと焦って色々とウォルトに言葉を投げかけるが全て躱されてしまう。

 ウォルトは最初からメイベルを下に見ているし、自分の信念は小物であるメイベルが騒いだところで揺るがない…という風なのだ。

 彼らにとって小さな駒であるメイベルがいくら騒いだところで痛くも痒くも無いのであろう。



 散々ウォルトに反論したのにも関わらず彼は平然と言った。

「君が僕たちに協力的なのは周知の事実さ。今更抜けようったって無理な話だよ。

 取り敢えずお茶会の時に君の悪事がバレないように精々信頼の置ける子を協力者として揃えておきなよ。失敗は命取りだよ」


 全身からザッと血の気が引いた瞬間であった。




 -----お茶会当日-----



 ウォルトの従姉妹が持参したクッキーはオーロラ・レミントンとララ・ウェブスターたちのテーブルへと運ばれた。

 


 メイベルは多くのことを胸に仕舞っておけず、かと言って対処も出来ず親友の令嬢に打ち明けた。

 だが彼女も所詮は子爵家と弱い立場で単に愚痴を聞いてもらうだけに終わってしまう。


「兎に角私たちが関わっていないように偽装するしかございませんわ。正直侯爵家以上の方達は天の人という認識ですもの。関わらないに越したことはなくってよ」

 親友の出した結論にメイベルは頷くしかなかった。


 貴族は高位の者が下位の者に全ての責任を負わせるのが常套手段であると子供の時から身に染みて理解している。


 二人は自分の派閥の令嬢たちがそのクッキーを口にしないように、普通の紅茶クッキーとすり替えること。

 その後の混乱になるべく関わらなくて済むように取り計らうことしか対策は無かった。


 (罵り合いの喧嘩でもしてくれたら、それだけで十分。どうか大きな事件が起こりませんように……)


 メイベルは毎晩星を見上げては祈りを捧げた。


 しかし神は無情にも事件を大きくしてしまう。


 オーロラはクッキーを一口たりとも口にせず、ララ達が大量に食べてしまったのだ。

 

「皆様良かったら召し上がってね」

 そう言ってパティシエの作った珍しい細工のチョコレートを手土産としたオーロラ。彼女のテーブルは皆それを口にしてしまい腹を膨らませてしまった。


 対してララ・ウェブスターのテーブルはオーロラの持参した食べ物などさして興味は無いのだと言わんばかりに葉の混ぜられたクッキーをパクパクと摘む。


 メイベルの顔色はどんどん悪くなった。


 そして遂には諍いが勃発しララの持ち込んだ花瓶が割れてしまった……



 メイベルの友人たちは確り見届けていた。

 ーーーーーオーロラが悪くないことをーーーーー

 明らかに一人で大騒ぎしたララの一人相撲の結果、花瓶は割れたのだ。


 令嬢たちの迎えが来るまで、落ち着くようにと家令が各派閥ごとで部屋を別々に分ける。

 ララの部屋からは金切り声が上がり、オーロラたちの部屋からは低い声で相談するようなざわつきが聞こえた。

 

 混乱が冷めやらぬ中メイベルが額の汗を拭っているとウォルトがいつの間にか子爵家の集まった一室に入り込んできた。


「良くやったね!君たち!殿下はきっとこの結果をお喜びになる。想像以上に上出来だ!」

 メイベルと友人たちはそのウォルトの表情に再び顔を青くする。

 この発言は王太子殿下が発せられたものと同じだ……と。

 レミントン侯爵家を陥れる為にウォルトが……いや殿下が行動なさったのだ、とメイベルの友人たちは突きつけられたのだ。

「オーロラ様はどうなってしまわれるのでしょう?」

 メイベルが振り絞るように掠れた声で問いかける。

「さぁねぇ。120枚の金貨を用意できなきゃレミントン侯爵家は社交界で叩かれるだろうし、壺を割ったようなジャジャ馬な令嬢は縁談も今後難しいだろうね。まぁ、資産家の誰かか、条件の悪い次男三男が婿としてとれるだろう。選ぶことは難しくなるのは確実だね。まぁまあの美人だから修道院ってことはないんじゃないか?」


 女の一生を嘲笑うウォルトに鳥肌が立つ。

 そして無性に腹が立った。


「貴方の思い通りになるかしら?」

「なるさ。だって事件は起きたのだから」


 サリンジャー子爵は地位的にウォルトの実家には決して意見出来ないだろうし、その後ろ盾にはもっと逆らえない。


 メイベルは目の前が真っ暗になった……



 (許せない……そんな酷い目にオーロラ様を遭わせることはできない)

 恐怖で言うなりになっていた自分を奮い立たせ、メイベルは覚悟を決めた。

『テーラーオコスに行こう。私の話を信じてもらえるかわからないけど』


 親友から教えてもらった秘密の扉の話。


 それはどんな無理難題な相談にでも乗ってくれる人が現れるという学園の怪奇談である。


『紳士物のハンカチをテーラー『オコス』で買うこと。買ったハンカチに<M>のイニシャルを入れて下さいとお店の人に伝えるの。

『どのような方に差し上げるのでしょうか?』と聞かれるから『研究棟に住んでいる妖精に差し上げるのよ』と答えなさい。

そのハンカチのラッピングを取りに行くときに日にちと時間をお店の人が伝言してくるわ。』


 どんな人間が現れるかわからない。

 だが親にも相談できないこの件を解決するにはもうこの藁に縋るしか無かった。

 

 


>>>>>>>>>>>


 その日、生徒達は翌日の課外授業の為早々に学校から帰って行った。

 ウォルトとルーベンは『生徒会室にて待つ』と書かれた手紙を握り締め、奥まった場所のドアを開けた。


 そこに佇む女生徒の姿に2人は息を呑む。

 ふんわりとした淡い赤髪が窓辺で風に靡いて、室内にはタバコの匂い。


 手足が細く小さな顔をした彼女の指には似つかわしくない煙草が一本挟まっていた。


 2人の姿を認めると、その女生徒はハッキリした口調で喋り始めた。

 

「ララ・ウェブスター侯爵家の壺は偽物だったわ」

 王太子ルーベンは生徒会室で赤髪の少女からマンダリンガーネットの瞳に睨みつけられると、たくさん用意していた言葉が一つも出てこなかった。

 

 (やはり自分は王になる器ではないのだな…)と寧ろ笑いが出そうになる。


 そして全てを観念して目の前のミランダ・ポルトゥナートに吐き出したくなった。


 その自爆的な感情は前バイデロン公爵とそっくりな空気を纏った人間を目の前にしているからであろう。

 祖父の隣に立つ大柄な年寄りのことが子供の頃から苦手だった。

 嘘をついても見破られ、鼻で笑われ……王太子となった今でも『殿下は陛下に似ておられますな』と馬鹿にされる。


 いつまで経っても<凡人に毛が生えた程度ですね>と、認めてもらえない歯痒さを感じながら生きてきた。


 そして本人よりずっとずっと若い少女ミニチュアが今目の前で腕を組んで仁王立ちでこちらを見つめている。

 可愛らしい顔立ちなのに、ルーベンを悪戯が過ぎた子供を叱りつける大人のようにキツく睨むと、胸のどこかがヒヤリとするくらいだ。


「なんの証拠があるって?」

 王太子としてルーベンは事実を認めるわけにはいかない。

 虚勢だと見破られているのにやっと出てきた言葉は小物感満載の情けないものであった。


 ミランダはハァ〜と呆れたような溜息を溢すと宥めるような口調に変わった。

「寧ろ何処の足跡を消したのか教えて欲しいくらいですよ。ルーベン殿下。

 私に叱られたくてこのような真似をなさったのかしら?そう勘ぐりたくなります」


 理化学教師のミルヒが苦笑いをしながら紙束をルーベンに手渡す。


「まだ陛下や校長たちには話していません。

 ミランダは公表することが最善とは思っていませんから。

 殿下…何故こんな馬鹿げた計画を立てられたのです?貴方がやったことは美術品の真贋書偽造。いわゆる公文書偽造、犯罪です。

 そして違法植物の栽培、これも法に触れます。

 そして虚偽による侯爵家令嬢の名誉毀損罪、侮辱罪。これらは揉み消すには余りに量が多すぎます。

 殿下。やりすぎましたね」


 ルーベンは渡された紙束を丁寧に捲りながら自分が追い詰められたことを実感した。

 

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