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猿も木から落ちる

ピピピピピ ピピピピピ


カチッ


「.......やべえ!」


 現在朝の5時51分。本来ならばこの時間、すでに会社に到着しなければならない時間帯である。昔から寝相が悪いため枕も布団もあちらこちらに散らかっている。しかしゆっくりと片付けている暇も無く、足早に支度を始めるのであった。


「あ〜もう!いっつも俺こんなんじゃん!」


 急いで洗面所へ駆け込み、20秒半ほどでシャワーを終えスキンケア等をしてやっとスーツに着替える。


「あれ?マジかよ.......ネクタイ!ネクタイどこ行ったぁ〜!お〜い!俺のネクタイ〜!」


 



「ふぅ....今日も駅、人多いなぁ」


 秋葉原の人混みは尋常じゃない。まだ朝の5時だというのに、魚の群れみたいに広がって、なんだか変な光景。いつも私が働いているコンセプトカフェは駅から徒歩10分。

人を避けながら歩くだけでも相当疲れるから困っちゃうけど、でもこうして歩きながら人間観察をしているととてもワクワクする。


「あ....!このフィギュアもう発売してる。帰りに買って行こうかしら...」


 私はいかにも「ヲタクです!」という感じではないけれど、小さな頃からロボットアニメが好きでその影響もあってか、今でもこうしてフィギュアだったりグッズだったりを集めている。


 あ、でもそれもヲタクになるのか...無意識...。

ということは私は''隠れヲタク''なのかしら?


「電子からっと!のエレナちゃんのぬいぐるみ可愛いな〜欲しいけど、まだ我慢よ...!私」


 拳をグッと堪え歩行者天国を渡る。何故だかよくわからないけれど、

この渡る瞬間が好き。スッキリするというか、「今日も頑張るぞ」って気持ちにさせられるから。


「ふんふふふふーん」


チリン チリン


「あ!おはようございます!あおいちゃん」


 扉を開けると、そこにはひなちゃんが清掃をしていた。


「あら、皆より先に来てたの?ひなちゃん。朝早くからありがとうね」


「いえいえ!あくまで私は''メイド''ですから!キャラはしっかり守んないと♪」


「あ、あはは.....ひなちゃん、それは言わない方が.....」


 今日はいつにも増してひなちゃんの出勤が早い。

「どうしてだろう」と思ったら、今日はサービスデイの日だった。


「すっかり忘れてた」


 そうだった。今日はいつもより2倍ご主人様、お嬢様にご奉仕する日だった。

しっかり、私。


「ん〜?どしたの?あおいちゃん」


「なんでもないよ、大丈夫。ありがとう」


「そっか!でもあおいちゃん笑った方が可愛いからあんまり悲しそうな表情しないで〜何かあったら、私に言ってよ!」


 とひなちゃんが私に微笑みかけてくれる。

ああ、本当に可愛い。少しぽっちゃりしていて童顔だけど、目が大きくてキラキラしていて、それに引き締まっている所はしっかり引き締まっている。


「かわいいな...」


「へ?今なんて?」


「ふふ、なんでもないよ〜」


「で、出た!あおいちゃんの悪戯笑い!」


「な、何よそれ〜」


 やっぱり、私この仕事が大好き。メイドが好き。

生まれ変わってもこの仕事に就きたい。こうしてひなちゃんとずっと笑っていたい。


「よし、今日も頑張るぞ」


 今日は直樹さん来るかな?







「ふぅ〜なんとか間に合った〜」


「ったく間に合ってねぇよ。毎度毎度、直樹の野郎はお寝坊さんで羨ましいですなぁ」


「げっ....宮先輩.....。」


げっそりした顔をドアップで近づけてきたのは、先輩の宮崎斗真。

通称宮先輩である。


「まぁ...社長には言わないでおいてやるから、その代わり今日の昼飯お前の奢りな〜」


「は、はぁ...?!.......はぁ、わかりました.....次から気をつけます。これでいいですか?」


「.......てめぇさっきから聞いてりゃあ、舐めてんのか?なんだよ「これでいいですか?」ってのはよ。いいか?何度も言うがそんなこと言ってっとまた社長に怒鳴られっぞ。そんで、マジで今度こそグビにさせられっぞ。まぁ俺は人生で一度も切れたことねぇし、お前に興味ないから別にどうでもいいけどよ〜」


「って、さっきキレてたじゃないすか!」


「うっせぇさっきのは注意だよ。ち・ゅ・う・い。じゃあな」


「もう、遅刻は懲り懲りだ.....」


 また宮先輩にやられた〜。あんな性格だけど、俺より身長高くて、顔も良くて、女からモテて......。しかも、仕事もうまく行ってて。到底敵わない相手だ。


「クソぉ〜......なんとしてでも追い抜いてやる」



ー昼休憩ー



 会社の屋上は何気に好きだ。

内定貰って、地元から上京するってなった時はすげぇ不安だったけど今となってはこの少し高いビルから一望できるアキバとか、夏なのにちょっぴり涼しい風とか。


 悩みは絶えないけれど、コンカフェっていう最高の趣味もできた。

まぁ、俺は相変わらずクズでのろまで何をやっても中途半端な人間には変わりないんだけどさ〜。にしても....


「チョコサンドうんめぇ〜!」


「もらいまぁ〜す」


「んあ''?!」


 上から手が伸びてきたと思ったら宮先輩だった。


「あぁ〜俺のチョコサンドがぁ〜......」


「へへ〜ん口止め料だ。堪忍しやがれ」


「ク、クソぉ......し、仕方ない、か.....」


「まぁまぁ、そう落ち込むなや。今回は遅刻したお前が悪いんだし。」


「そうですね、もちろん僕が悪いです」


「よろしい」


 宮先輩が俺の隣に座る。


「最近調子どうだ?私生活うまくやってるか?」


「急っすね〜まぁ充実してるっちゃあ、してるんじゃないすかね。上京してもう一年経ちますし」


「そうかぁ〜」


パチッ


「ふぅ〜タバコ最高ぉ〜」


「うわ、くせぇ」


「うるせぇ」


 タバコを吸われている全世界の皆様ごめんなさい。

俺はタバコが超苦手。なんでこんなに苦手なのかは分からん。

そんなことは置いといて、あ〜もう昨日の夜の出来事、宮先輩なんかに話してもわかってくれるかな。多分無理だろうな〜.....。


「はぁ.....」


「おう、どうした」


「いやぁ別になんもないすけど、なんもないわけじゃないんすよ」


「ふぅ〜.....相変わらずややこしい答え方すんな〜....で、なんかあったん?」


 あ〜もう!話せる相手ろくにいないし、もう全部話しちゃえ!


 「いやぁ〜それがですねぇ....」







「......っていうことが昨日起こったんですよ」


「はぇ〜.....なんか興味深いなぁ」


「すんげぇ怖かったです」


「因みにさ、その名刺?っつーのはどこにあるわけ?」


「名刺なら......あ、あった。これです」


「ふーん.....なるほどねぇ.....俺にはようわからん」


 だろうな。この人には一生何言っても取り合ってくれねぇから仕事はできだとしても、誰からも、期待なんかされねぇんだ。


「ですよねぇ〜そう言うと思いました。って事なんでこの話はどうぞ忘れてください」


「んー......無理!」


「はぃ?」


「いやだから無理!」


 意味がわからん。この人は何を言っているのだ。


「理由は?なんなんです?」


「そうだな、特にないけどなんか悪い予感するから」


「は?いやいやいやいや.....何言ってるんですか」


「よくわからんが、俺の感は女の感と同じくらい当たるんだよ」


 いや、そんなところでカッコつけられても.....


「あ、あはは.....そうなんですね」


 「おうよ」


「......ちょっとトイレ行ってきます」


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