それでもオレはキモくない
「ただいま〜って誰もいねぇけどな〜」
いつも家に帰ると誰もいないのについ「ただいま」を言いたくなる。俺なんか周りから見たら、さぞかし「ぼっちで頭のおかしなヤツ」とでも見られるんだろうな。まぁ俺には一生ひなとあおいがついてるからいいけど。その自信もいつまで続くことやら。
そんな呑気な独り言を言いながら手を洗い、鏡越しに俺の死んだ目を見て「お、今日も死んでるねぇ」と言うのが日課である。そして、その後にひとっ風呂浴びる前に1、2缶ビールを開けそれをガブ飲みし、翌朝自分の体臭のキツさに目を覚まし急いでシャワーを浴び出勤するというなんとも不健康な生活を送っているのである。
因みにこの習慣は大学生の頃から一切変わっていない。
「まったく俺ってやつは、ほんと罪な男だな〜なんっつって!ガハハハ」
黒い机に乗っかる缶ビール。訳のわからん鼻歌を歌いつつ「プシュッ」と我ながらいい音が鳴る。喉に効く、最高だ。
因みに酒のつまみはない。なぜって、それは今日撮ったチェキの戦利品が''つまみ''だからである。
「今日もたくさん撮ったなぁ〜ひなは''ねこさんポーズ''ってのが定番だけど、今日はあおいと3人で撮ったから何気にクールだなぁ。はぁ〜かわいい....」
2人とも可愛すぎて、チェキを眺めながら床に寝そべってしまう。
10秒ほどそのまま眠りそうになったが、なんとか目を覚まし今日撮ったチェキを本棚にある
アルバムに挟んだ。
「今日はもう寝ますかぁ〜」
そう呟きあくびをしながら寝室に移動し、ベッドにダイブしたその瞬間。
ポトッ
玄関先から音がした。
俺は怖くなり、身体が硬直して動けなかった。その感覚はまるで....そう、金縛りのようだった。
「え?なになに?」
この状態から5分くらいしてやっと言葉が出た。
とにかく怖いという以外の感情を持つことができず、エロいことを考えたくても考えられない。
いや、考えさせない。だけど、こんなところで突っ立ってても「男らしくない」そう思った俺は左脚を引きずるようにして玄関へ向かった。
「あ〜もう....おしっこ漏れそう....」
情けないことを言っているのは自覚している。でも、わかってて言ってんだ俺は。
玄関の電気をつけ靴を履き、ごくりと唾液を飲み込み覗き穴を観る。
「はぁ....?誰もいないじゃん....なんだよ....」
安堵した俺はつい気を抜いてしまい体に身を任せたままドアを開けてしまった。よくわからないがこの瞬間不意に「まずい」そう思ったが、束の間。ドアが開いた瞬間俺の勢いつき過ぎてしまった靴の音がアパートの廊下に鳴り響き、両腕と両脚を横に広げていた俺はまさにヨガポーズのような体制になっていた。
「はぁ...はぁ...はぁ...はぁ...」
人気はなかった。が、しかしまだ眼を開けることは出来なかった。
「そ、そろそろ目ぇ.....開けんぞ......」
ゆっくり少しずつ目を開け、身体の力を抜き始めた。そして、目を開けたその瞬間。
「ん?なんだこりゃ」
名刺のような四角形の紙に「招待状」と書いてある厚紙を拾った。
「なーにが招待状だよ。くだんね。騒いだ俺が馬鹿だったぁ」
ドアを閉め、玄関の電気を消し寝室に戻って「今度こそ寝るぞ」と電気をつけっぱにしてベッドに入ったもののこの「招待状」とやらが気になってまぁ眠れん。
「なんかうぜーな....ってあれ?」
さっきまで気付かなかったが招待状を電気に当て、よく観ると何やら小さく文字が書いてあった。
「@すうぃ〜と♡ほーむ.....?どっかのコンカフェか?」
何故か鳥肌が立った。まず、俺はこのコンカフェのことはまったく知らないし、ましてやこんな深夜に一体誰が届けるのだ、と。
「あ〜もういいや明日仕事帰りにあいつらのとこ寄るし。なんか教えてくれるだろ。てか、疲れた〜.....」
不気味な出来事だったが、今日はもう疲れた。
「おやすみなさい♡」