(1-08)対弓戦
よろしくお願いします。
(1―08)対弓戦
マーリン団長が話し掛けて来る。
「ナギ、準備は良いか?」
良くねえよ! って言いたい。だけど仕方無く、木剣を借りて広場の向こう側に行く。こっちにいると運が悪いと見学者達に矢が当たるかも知れないから。まあ当たったとしても俺の所為では無いんだけど。
親父との訓練で矢を避けて来たけど……。あの時は、コンパウンドボウと管矢の二パターンでやったんだよなぁ。初速は時速三〇〇キロメートル以上は出ていたはず。それに比べれば、速度は半分位だとは思うけど。木剣で弾く事は出来るかな?
広場の奥で木剣を構える。取り敢えず五〇メートル以上は離れた。この位離れれば命中精度も下がるし、見切って避ける事もなんとかなると思う。
「じゃあ行くぞ!」
シュパッと矢が飛んで来た。
『ワっ、速っ!』とは言え避ける事に成功する。この位ならば親父の強烈な矢の方が早かったしな。
「ほう……避けるのか……」
当たり前でしょ、そりゃ避けますよ!
「じゃあもっと近付いても平気だな」
「そんなん聞いてませんよ!」
「言ってねえからな!」
走りながら、矢を放って来た。距離が近くなったので、むっちゃ怖い。二本目、三本目、四本目と避けて行く。だが段々避けるのが難しくなって来た。
「ナギ! 良いぞ! これで大銀貨四枚だ!」
『アンタは銀貨の枚数より、俺の心配をしろよ!』
思ってる間にも、近付きつつ矢を放ってくる。なんとか一〇本目までは避ける事が出来た。だが少しずつ矢の速度が速くなって来ている。少しずつ本気を出し始めて来たんだろう。
『不味いな、このまま行ったら避けるのは無理そうだな』
十一本目からは剣で捌いて行く。これもかなり厳しい。十三本目になったら、ほぼ二本同時に連続で矢を放って来た。
『どんな技だよ! それ!』
一本目は剣で捌けたが、二本目は無理だと判断した。木剣を捨て、手甲で弾く。これも親父との訓練で身に付けた技だ。
「此処まで当たんねえのか、ナギ! お前すげぇな! 俺の練習要員に此処に入れ!」
「そんな事言われても、今は考えらんねえよ!」
十七本目迄、手甲を使って矢を弾いて行く。
「ナギ! あと三本で、大金貨(百万円位)一枚だぞ! どうだマーリン! 凄いだろ! こいつは昨日俺に勝ってるんだ。だから多分避けれるって思っていたんだ!」
『オッサン! 金の事しか考えられねぇのか?』
「モーレイに勝ってもな……。だが確かに良い動きをしているな、残り三本本気で避けろよ!」
ラスト三本は、更に近い所から三連射して来た。マジでどんな放ち方してんのか不明だ。一八、一九と手甲で弾くが、ラスト二〇本目は間に合わない。一九本目を弾いた直後其の場でひっくり返って避けた。
「野獣テンサゲ流、矢数廃壊……」
また出てしまった。まあいっか。でも死ぬかと思った……超怖ぇ……。二一本目が有ったら終わってたな。
「よっしゃ大金貨(百万円位)一枚ゲットだぜぇ! ナギ良くやった!」
無茶苦茶怒りが湧いて来た。すくっと立ち上がる。
「モーレイさん、駄目です。矢を避けたのは俺であって、モーレイさんじゃ無いです。大金貨(百万円位)一枚貰える立場に有るのは俺です。どうしても欲しいなら、モーレイさんが二〇本矢を避ければ良いんですよ!」
「ナギ。お前良い事言うな、その通りだ。モーレイ、大金貨(百万円位)が欲しいなら二〇本避けて見せろ!」
「無理だぁ……」
なんか逃げて行った。何処に行くんだ? この後、俺はどうすりゃ良いんだ?
取り敢えず後ろに散らばった矢を回収してマーリンさんの所へ戻って行く。
「あのバカ、何処に行ったんだ?」
「さぁ……」
本当にモーレイさんは何処に行ったんだろう。暫く待っても戻って来なかった。
「おい、ナギ。お前何しに来たんだって言うかこの後はどうするつもりなんだ?」
「えっと、昨日、マッカレル団長にモーレイさんと一緒に、此処と、トラウト団長の所に挨拶に行けって言われてるんですけど……。でもモーレイさんがいないと……」
「そうか。判った。トラウトの所は今日は行かなくて良いぞ。うんそうしよう。お前、マッカレルの所では一人部屋か?」
なんでそんな事聞くんだ? 良く判んないけどドゥレッグスさんと同室だと答えておく。
「判った。ちょっと手紙を用意するから待ってろ」
ん? 手紙? なんの? 疑問に思ったが、そのまま、マーリンさんの団長室に連れられて行く。マーリンさんは、机で何か書いている。
「よし出来た。ちょっと来い」
部屋を出て、ロビーに向かった。
「スプラット!」
「ハイ! 何でしょうか?」
「この手紙を持って、トラウトの所の受付に渡して来い。俺からトラウトへの手紙だって言ってな」
「判りました!」
「スクイドゥ!」
「ハイ! 何でしょうか団長」
「この手紙をマッカレルの所の受付姉ちゃんに見せて、ドゥレッグスの部屋から、コイツの荷物を全部引き取って来い」
「判りましたけど、勝手に荷物持ち出して問題起きませんか?」
「大丈夫だ。モーレイが全部責任を取るからな」
ん? なんで俺の荷物を持って来させるんだ?
「えっと、どう言う事ですか? マーリン団長」
「さっき言ったろ。お前は今日から此処の団員だ、あっそうだ、そのドッグタグも返した方が良いな。外せ」
なんてこった。入団一日で競合他社に転職するはめになった。だけどこれで、トラウトさんの所には行かなくて済むんだよな。多分流れからして絶対に戦わされる事になるだろうし……。
槍相手の訓練もしたけど、お袋は槍は本職じゃないもんな、達人とやったら絶対に刺されるって思う。それに、鬼のマッカレル団長とも手合わせしなくて済むと思えば良いのかも……。弓も練習しても良いかもしれない。でもマーレイ団長の練習相手は避けるようにしよう。
スプラットさん、スクイドゥさんが手紙を持って出て行った。無茶苦茶遠い訳でも無いので、一時間位で戻って来るだろう。
再度、マーレイ団長の部屋に向かう。
「ナギ。これをやるよ」
ポイッと。何かを投げて来た。受け取った物を見ると……大金貨(だと思う)だった。
「えっと、なんでですか?」
「それは、さっきお前が言ってたろ。二〇本避けて大金貨を貰うのは自分だって。約束だからな」
此処は取り敢えず貰っておこう。あんましお金持って無いからね。
「えっと……この大金貨って、街で使えます?」
「無理だな。使えないぞ。使える所は貴族相手の商人がやってる商会位だな」
「普通に使えるように細かくしてください」
「お前、結構ワガママだなあ」
「使えないお金持っていても、意味がありませんから」
小金貨九枚と、大銀貨十枚にして貰った。大銀貨ならば使えるとの事。
「じゃあ金も渡したし、また今度殺ろうぜ」
「お金を返します!」
「なんでだよ!」
「だってマーレイ団長って未だ余裕有ったでしょ? もう一段か二段速く放てそうでしたもん。それに最後のが四本で放たれていたら、こっちは終わってましたからね」
「良く判ってるな。あと二段は速く出来る。だけどそれを見た奴は生きていないぞ。お前と同様に避けた奴は、マッカレルとトラウトだけだ。そう言う意味では、お前はかなりなもんだな。モーレイはバカだけど、かなり剣は使える方だが、鈍いんだよアイツは」
『モーレイさんは鈍く無かったけどなぁ……。でもマーリンさんからすると鈍いんだろうな』
「あの、マーリンさん」
「何だ?」
「何で、二、三本と矢を放つ時は全部同じ速さで放っていたんですか?」
「そりゃぁ〝速きこと風のごとく〟、〝速撃ちは三ネィの得〟だからな。それがどうした?」
ちょっと何言ってるのか判んない。
「えっと最初の矢を少し遅くして、二本目三本目を相手が避けそうな場所に、ほぼ同時に届くように放てば、確実に射抜けるって思うんで、それをヤラれてたら、かなりと言うか厳しかったって思うので」
「おおっ! そ、そうだな! お前良い事言うなぁ。よし今度それを試してみよう。ナギ! 練習に付き合え!」
「嫌ですよ。死にたくないし」
「じゃあ、甲冑装備すりゃ良いよな!」
「重いですよね。避けれなくなりそうだなぁ……でもそれなら我慢出来るかも」
「ナギとの練習はそのうちで良いけど、今日の夜早速訓練しておこう」
好きにして下さいだけど、そんなに避けられるのが嫌なのか? まあ嫌なんだろうな。
と会話をしている最中に、さっきの二人が戻って来た。スプラットさんは報告だけ。スクイドゥさんは僕の私物を持って来ている。と言っても私服だけだけど。
今日は、そのままこっちで夕食を取り、泊まる部屋を与えられた。同室はスクイドゥさん。色々あった一日だった。
名前はいい加減です。
スプラット ー> ニシン
スクイドゥ ー> イカ
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