(1-07)挨拶回り
よろしくお願いします。
(1―07)挨拶回り
街中に鐘の音が聞こえた。午後になったようだ。朝起きた時にも鳴っていたし、朝一の訓練終わりにも聞こえた。どうも約三時間毎(一刻)に鳴っている。夜中は爆睡していたので鳴っていたかどうかは判らないけどね。
「ん、鐘が鳴ったな、ナギ。じゃあ挨拶回りに行くか」
「はい」
モーレイさんと一緒に他の傭兵団の団長様に挨拶回りに行く。通りを街の中心方向に歩いて行くと、大分離れた(一キロ位)所に、弓の絵の看板の建物が有った。傭兵団が固まって有るよりは分散していた方が都合が良いと思われる。街内で有事の際に最寄りの傭兵団に早く行けるハズだから。
「此処が、街に三つ有る傭兵団のうちの一つだ。もう一つは、もっと向こうに行った所にある。ここの挨拶が終わったら行くからな。それと此処の団長はマーリンだ」
「はい、判りました」
弓の絵の看板からすると多分弓使いの集団なんだろうな。とするとトラウトさんの所は槍使いなんだろう。どっちも相手したくないよなぁ。そんな風に思っているけど、知ったコッチャ無いモーレイさんは、そのまま建屋に入って行く。ここまで来たら仕方無いので自分も後から付いて入って行った。
「マーリンは、居るか?」
モーレイさんが受付にいた女性に、慣れた感じで話しかけた。
「モーレイさん。久しぶりですね。団長は執務室の方に居ますよ。お呼びしましょうか?」
「来客中じゃ無ければ、勝手に行かせてもらうよ」
「お客様は来て居ませんけど、一応確認して来ますね」
受付の女性が、タタタッと奥の方に駆けて行った。ここの傭兵団の事も良く知っているんだろうけど、アポも無しでいきなり部屋に押しかけるのは良くないよね。それよりモーレイさんって、他の団の団長さんのマーリンさんを呼び捨てなのか? 相当親しいんだろうけど……。それって良いのかなぁ。やっぱり礼儀は必要だと思うんだよね。
受付の女性が戻って来た。
「マーリン団長は団長室に居ます。特に問題無いようですので……」
「おう、判った」
モーレイさんがズカズカと奥に向かって行くので、後に付いて行く。団長室の前に来たけど、ノックもせずにいきなりドアを開けた。
『うわっ、危なっ!』
いきなり矢が飛んで来て開けたドアの反対側の壁に刺さった。壁には何度も矢が刺さった跡が残っている。
「マーリン! いつもいつも、危ねえだろ!」
「ノックしない奴が悪い! 族だと思うだろ!」
「さっき受付の姉ちゃんが来ただろ! 判れよ!」
これは何方かと言えば、モーレイさんが悪いような気がするけど、なんかいつものやり取りに見えるな。そのままズカズカと団長室に入って行った。一応自分も挨拶に来たので後ろに付いて入る。
「モーレイ、何の用だ? また金を借りに来たのか? お前も良い年なんだから、無駄遣いしないで、真っ当な仕事に付いてちゃんと貯金しないと駄目だぞ。それで幾ら必要なんだ? 利息はトイチだぞ」
「違うわ! 今日は兄貴に金を借りに来たんじゃねえよ! まあ貸してくれるなら借りない事もないけどよ」
『へっ? 兄貴? 兄弟? 全然似てねぇ……って言うか真っ当な仕事って、お兄さんも同じ仕事してるんじゃ無いのかなぁ?』
「じゃあ、どう言う用件だ? まあどうせ大した用事じゃ無いんだろ、ちょいと身体が鈍って来たから久しぶりに、模擬戦やろうぜ! こっちは矢を十本にしておくからよ、一本避ける毎に、大銀貨一枚(一万円位)貸してやる。どうだ?」
「やんねぇよ! いや、やっても良いかな……。コイツが、俺の代わりに兄貴の相手するから。矢は二〇本で良いぞ! 全部、避けたりクリティカルじゃ無ければ大金貨(百万円位)一枚くれ! 貸すんじゃ無くてくれ!」
おいっ! 採用係主任! 勝手に決めんな! と言いたい。それに俺の取り分は無いんか?
「誰だ、そのガキ? お前の代わりにやったら、死ぬぞ? お前、このガキに恨みでも有るのか?」
『若しかしたら恨みが有るのかも……。昨日、勝ってしまったし……』
「こいつは、昨日ウチに入った新人のナギって言う奴だ」
「ナギって言います。宜しくお願いします。マーリン団長」
ちゃんと挨拶はしておかないとね。
「ナギ。なんでマッカレルの所に行ったんだ? 此処に来れば良いだろ。マッカレルの所は剣だけだぞ、此処なら弓が使えるんだ。弓は良いぞぅ。遠距離からズバッと相手を撃ち抜けるんだ。離れてるから安全だしな。弓は最高だぞ。まあ俺達は剣も使えるけどな。俺は剣を使ってもモーレイより強いから、剣だって教えてやれるぞ!」
「えっと……。街の入口から近い所に有ったのが、マッカレル団長の傭兵団だったんで、取り敢えずそこに行ったんです……。それで入団しました」
腹も減ってたし。歩きたく無かったんだ。
「だったら、今からでも此処に入れ! マッカレルには俺から言っておくからよ! でもまあ使えねぇ奴は要らないけどな。お前、弓は使えるのか?」
「えっと、殆ど使えません」
まあ洋弓はやった事が有るけど、全然狙えてなかったしね。
「それでも……。まあ今は良いや。取り敢えず使えるかどうか見てやる! モーレイ、矢は二〇本だな、それで良いんだよな!」
モーレイさん。なんで俺を見るんですか? 断って下さいよ!
「そ、それで良い。ナギが負けても、借金は増えないからな」
『おい!』
昨日と同様に、ドナドナされて行く。建屋の裏の広場に行くと、弓の練習をしている団員さん達がいた。
『嘘でしょ?』
団員さん達は、障害物を乗り越えたり、走ったりしながら、弓を放って的を射抜いていた。はっきり言って常識ハズレだって思う。流鏑馬ってのも有るけど、的は流鏑馬よりも離れている。それでも的を射抜くってのは飛んでもなく凄い事だ。人間業じゃ無いって思える。
「どうだ、驚いたか? 俺達は、街中で怪しいヤツを追いかけながら射抜かないといけないからな。街の民衆に当てる訳にはいかないんだよ。だからその為の訓練をしてるんだ。モーレイなんか足が遅いから、怪しいヤツを捕まえる事も出来ねぇんだぞ。弓なら足が遅くても大丈夫なんだぜ! どうだウチに入りたくなっただろ?」
そう言われると、かなり気になってしまう。でももうマッカレル団長の所に入っちゃったし、俺は剣しか使えないもんな。弓も気になるけど。
「おい、お前ら場所を空けろ!」
返事はノーだけど伝える前に、マーリン団長が団員さん達に命令して訓練場を空けさせた。
「あっ、モーレイさんが来てるぞ」
「また、金を借りに来たんじゃないか?」
「副団長で結構高い給料貰っている筈だよな? なんでだ?」
「何か、怪しいエッチな店で使ってるらしいぞ」
「俺は子連れの未亡人に入れ込んでいて、子供に貢いで未亡人の心証を良くして口説こうとしてるって聞いたぞ」
団員達が、違ってるのか当たってるのか判らない噂話しをしている。
「お前ら、煩い!」
図星なのかな? 全部本当なのかも知れない。まあ何にお金を使っても良いけど、借金は良くないよな。
「約束通り二〇本でやってやるよ、恨むんならモーレイを恨めよ!」
「ナギ。鏃の代わりに丸い木が矢の先に付いているが、マトモに当たれば骨が折れるから気をつけろよ。全部避けろとは言わねえが、クリティカルは避けろよ」
モーレイさんが教えてくれるが全然安心出来ない。超怖えよ! それと怪我したら本気で恨むからな!
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