(1-04)入団試験
よろしくお願いします。
(1―04)入団試験
「坊主! 此処に来たら、もう判るだろう、こっちの二人と対戦して貰う。木剣はあっちに有るから好きに選べ!」
「はい。判りました」
超怖そうなオジサンが指差した所には、傘立てみたいな所に木剣が沢山立てられている。そこに行き自分に合いそうなモノを選んで行く。適当に立てている訳では無く、長さ順で並んでいて、且つ同じ長さでも重さが少しずつ異なっていた。立ててある剣は全て直刀で両刃の所謂西洋剣だ。
『使った事無いんだよなぁ西洋剣は……。まあ、使えない事も無いとは思うけど……なんとかやってみるか……』
長さ、重さでしっくりする剣を複数選び、その中で鍔元付近が訓練時の鍔迫り合によって結構ボロボロになった剣を態々選んだ。切るわけでも無いのと、この方が自分に合っているからだ。
相手の二人も其れぞれ選んでいる。迷わずに選んでいたのを見ると木剣は何時も使うのが決まっているんだろう。
「坊主! 準備は良いか?」
「ハイっ!」
「ドゥレッグス! 先にやれっ!」
「ウィッす!」
ドゥレッグスさんは、俺よりも少し背は低いけど、ガッチリした体型をしている。かなりパワーが有りそうだ。相手の剣筋や身体の動きをじっくり見たい所だけど、さっきから腹が減ってお腹が鳴りっぱなしなので、長く打ち合いをやってたら先に空腹で倒れてしまいそうだ。オーディナルさんが次に控えているので早めに終わらせたい。当然入団試験なので負ける訳にはいかない。
動いても大丈夫なように広場の真ん中の方まで歩いて行く。
『ん!』
背後からいきなり、仕掛けて来た。
『足音殺した方が良いんじゃないかなぁ……。折角奇襲仕掛けてるんだからさぁ』
と思ってしまう。こう言う時は、仕掛ける側は大体上段からの打ち下ろしだってパターンは決まってるんだよね。相当な捻くれ者だと横薙ぎするんだろうけど。当然、俺は捻くれるようにお袋に指導されたので不意打ちの時は相手の右側を横薙ぎする。右側は防御するのが難しいから。
サクッと振り向き、相手の上段打ち下ろしに対応出来るように、右横向きに剣を構え待つ。相手の踏み込みタイミングを見て、合わせる。
『ヨッシャ!』
自分の木剣の鍔元付近でドゥレッグスさんの木剣の切っ先受けた。向こうは腕が伸びているのでこれ以上力を入れるのが難しい状態だ。こっちは鍔元なので未だ余裕がある。おまけに態々ボロボロの木剣を選んでいるので、木剣が滑らない。実剣だと刃こぼれしていても、こう上手くはいかないけど。
ドゥレッグスさんは、このままパワーで押すか、一旦木剣を引くしかないと思う。実戦でも鍔迫り合い自体は経験してるだろう。
と思っていると、ドゥレッグスさんはパワーで押す選択をして来た。多分俺の体型を見て押せるって思ったんじゃないかな。
ここで俺が引いて避けても、速攻で横薙ぎしてくると思う。俺の方は右横向きに剣を構えているので、相手の横薙ぎを木剣で受けるのは難しい。だけどここで木剣を思いっきり左方向に引いた。押すより引く方が力強いから敢えて右横向きに構えていた。
相手の木剣が食い込んでいるので、自分が引く事でドゥレッグスさんの木剣が捻られる事になる。手首の稼働範囲は外向きよりも内向きの方が厳しい。
「!? ウォっ」
ドゥレッグスさんは右手が捻りに耐えられなくなり、右手を木剣から離した、すかさずサクッと力を抜いてズバッとドゥレッグスさんの木剣を上から叩く。
こっちは両手のパワーなので、片手持ちそれも多分利き腕では無い左手のみでは耐えられなくなったようで木剣を落とした。そのまま頸元に木剣を突き付ける。
超本気なら左腕を叩くんだけど木剣でも簡単に腕が折れちゃうので止めておいた。だってドゥレッグスさん手甲つけて無いんだもんな。
「野獣テンサゲ流、峰返し!」
ヤバっ。中二病が出てしった……恥ずかしい!!! って言っても技が決まったら技名をでっち上げても叫べってお袋に教わったんだよなぁ……。お袋が言うには〝野獣テンサゲ流〟だって事らしいから。なんか相手の気分をテンサゲさせる流派らしいけど。こんな流派なんて実質俺とお袋の二人だけだと思うんだよな……。お袋は軍で教官してるけど絶対に習っている訓練生達は〝野獣テンサゲ流〟なんて恥ずかしくて言わないだろうし。
「そこまで! ドゥレッグス! お前の負けだ。何で負けたのか良く考えて次に活かせ!」
こっ恥ずかしい技名を言った直後、試合を終わらせてくれた。
『ふぅ、良かった……このまま続けてたら絶対に負ける』
倒れる迄とか、ギブアップするまでとかなら、このまま無手の戦いになって続くんだけど。取り敢えずは良かった。続けてたら先に倒れるのは自分だと思える。
「オーディナル! 行け!」
休憩も挟まずに、次の試験が始まった。超実戦的だ。疲れるまで、ギリギリまで追い込む訓練をいつもしているように感じる。全くお袋と同じで鬼教官だな、あの超怖そうなオジサンは。
オーディナルさんがゆっくり歩いて近付いて来る。今度は俺もしっかり見てるので奇襲は無い。オーディナルさんの体型はほっそりとしていてパワーよりもテクニックを使いそうに見える。合って無いかもだけど。
『さて、どうするかな……。時間だけは掛けたくない』
「ドゥレッグスを倒した技は、俺も良く判んねぇから、慎重に行かせて貰うぞ!」
オーディナルさんは距離を開けて構えている。
『後の先を狙っているのか? でもこのままだと先に不味くなるのは俺の方だな……。先に仕掛けるか?』
ジワジワとすり足で近付いて行く。多分、お互いの木剣の間合いは同じ位だろう。本当にあと僅かで間合いに入る……。
『フェイントに乗ってくれるか?』
木剣を一瞬振り上げるようにして身体を前に出す体勢を取るが、足位置はそのままにしておく。僅かに右足(前)に体重を掛けた状態だ。
オーディナルさんがピクッと反応して、仕掛けて来た。
『よし引っかかった!』
狙うのは右足。速攻で相手の振り込みよりも早く屈み、木剣を垂直に立てるように握り直す。
踏み込んで来ているオーディナルさんの右足が着地する寸前のタイミングで、その足を払うように木剣の腹(横)で足払いを掛ける。このタイミングで足を払えば確実にバランスを崩して転ぶ。柔道の出足払いみたいな感じだ。
剣の腹(横)を使うなんて普段なら絶対にやらない。そんな事をするよりスパッと切る方が確実だから。それと実戦なら膝を狙うんだけど、今は脛の横を払う。やっぱり木剣でも足がポキっと折れる可能性があるからね。オーディナルさんはブーツ履いているから足を負傷する事は無いだろう。
「うわッ!」
オーディナルさんがバランスを崩して倒れた。直ぐに木剣を踏みつけて使えないようにして頸元に切っ先を向けた。
「野獣テンサゲ流、横薙ぎ出足払い……」
またやっちまった。なんか恥ずいけどもう癖になってるんだよなぁ。
「そこまでだ! オーディナル! お前も負けた理由を考えろ!」
取り敢えず、二人と戦って一応勝ったので、試験は合格だよね?
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