(2-03)ペンを作ろう2(ペンの販売計画)
よろしくお願いします。
(2―03)ペンの販売計画
リウットさんは、工房に心当たりは無いようだ。
「えっと、若しかしたらと思っているのは、縫い針を作っている所ならば、加工出来るのではと思っています」
「ほう……縫い針ですか。確かに細かい作業もしてる筈ですね。縫い針は貴族の奥様やお嬢様が刺繍をするので取り扱っています。仕入れ先に聞けば工房も判りますよ。一回この仕様書を持って工房に行ってみるのが良いかも知れませんね」
なかなか、感触は良い感じだ。今日、工房に行く事は無いけど。後はリウットさんがもっと食いついてくれるように具体的なお金のついて話しておこう。商人はお金大好きだからね。
「先ず、開発費として二〇〇万ネィ(二〇〇万円位)用意しています」
「えっとナギさん。この仕様書があれば、工房が自分で作りますし、出来た物を購入すれば大丈夫ですよ」
それはそうだと思う。でもそれだと駄目だ。
「工房に自主開発して貰うのも悪く無いんですが、それだといつ物が出来るか判りません。最悪何年も掛かってしまうでしょう。お金を貰って無い以上、別に作らなくても工房は困らないですから。その間に他の工房が完成させたら、ミグラス家もロテック商会も何も得るものが無くなります。なので開発費を工房に渡します。お金を貰えば結果を出す必要が有りますからね。おまけにミグラス伯爵家の依頼ですから」
「確かにその通りですね。工房は何が何でも全力で開発するでしょう。判りました納得しました」
「開発費の根拠ですが、工房に四人の職人さんが居たとして、四人が一ヶ月全力で開発に取り組んで物が出来るのを期待してます。一人当たり五〇万ネィ(五〇万円位)ですね。一ヶ月働いて同等の収入が無ければ開発して貰えないと思いますので」
この世界の収入については、あまり知識が無いが、この位が妥当かなと思った。一ヶ月が三週で二四日なので少し高いかも知れないけど。
「金額は半分位でも良いとは思いますが、この金額を渡されたらかなりプレッシャーになりますね」
「次に、開発が出来たとしての、販売計画ですが。まあ単なる目論見での計算なので、かなりブレは有るのでそのつもりで聞いてください」
「はい、判りました」
先ず、ロテック商会が販売することになるペンの価格は現状未定だが、工房職人一人がペンを作るのに三日で一本作れると想定した。一ヶ月で八本になるが、休日とかも想定して取り敢えず五本。これで職人が生活する事を考慮すると、工房へは一本当たり、一〇万ネィ(一〇万円位)。
ロテック商会が販売価格は、一本当たり二〇万ネィ(二〇万円位)で、ミグラス伯爵家に一割、王家(国家)に一割を納める。なのでロテック商会は一本当たり六万ネィ(六万円位)の利益になる。現代でも高級ペンはかなり高価なので、少し高いと思うが妥当な金額だと思う。もう少し生産数が増えれば値段も安く出来るが、手作業なのでこの位が妥当かなと思った。リウットさんには言って無いが、ミグラス伯爵家への二万ネィ(二万円位)の更に一割二千ネィ(二千円位)を借金返済に当てる。ペンが千本売れれば借金返済出来る計算。
「ナギさん。ミグラス伯爵家に一割は判るのですが、王家に何故一割も渡す必要が有るのでしょうか?」
まあこれも想定した質問だ。
「このペンの独占販売を認めて貰う為に、王家に、実際には国庫に税金として一割納めて貰いたいと思っています」
「独占販売ですか? そんな事が可能なんですか」
ペンを良く使うのは、陛下、宰相、役人、商人、貴族の当主、家宰。手紙(招待状等)を書く貴族の奥様、お嬢様、教会関係。他にも沢山の人がいる。それだけの需要が有ると想定出来る。
ペンが複数本完成したら、それを陛下と宰相へ献上して、実際に使って貰う。そして販売額、納める税金額を伝える。普通なら税金を納める事はしないのに敢えて納めるのは、陛下に独占販売のお墨付きを貰う為だ。内容は一〇年間他の工房が勝手に真似するのを禁止する事、領主が自領で同様な物を勝手に作って販売しないことを認めて貰う。これが貰えれば、不当にコピーされる事を防ぐ事が出来ると思う。
「なるほど……。でしたら開発費は、ロテック商会で持ちますよ。一〇〇本売れないとミグラス伯爵家は開発費を回収出来ませんが、ウチなら、三四本売れれば回収出来ますから」
すごく有り難い提案だけどこれは断ろう。
理由は、五年経過した時点で、製造販売したい商会や工房には、仕様書を有償で見せる事にするつもりだ。仕様書は持って帰る事はNGだが、其の場で写すのは可として。価格は開発費の二倍である四〇〇万ネィ(四〇〇万円位)。これは国家(王家)への税金とする。仕様書の管理をして貰う必要が有るから。開発費をロテック商会持ちにすると、この金額をロテック商会に回さないと行けなくなる。
五年の根拠は、特許なら二〇年なのかもしれないが、この世界に特許は未だ無いと思っている。特許が有ってもパクるのは自由だしバレなければって考える輩は多い。王家のお墨付きならば、五年位は保証出来ると思う。それに一人で作るとは思えないので工房が四人体勢で作れば、月間二〇本。五年だと一六〇〇本出荷する事になる。それなりに出回るハズだ。それを過ぎれば他の工房が参入して値段が下がってくる事も期待出来るし、更に改良されるのも期待出来る。競争しないと物は良くならないから。どの商会も工房も参入しなければ一〇年は独占販売できる。
陛下と宰相には、お墨付き以外にも、ペンの注文を受けて貰う。陛下または宰相経由でしか受注生産しない事で確実に税金を納入する事が出来るから。まあ実際は、宰相配下の役人が受注管理をする事になると思うけど。
貴族の受注は王城で出来るけど、平民の商会等は王城に行くのは無理なので、これはロテック商会に頼む事になる。受注したら、受注リストを王城の役人に届ける事になるだろう。
「そんな事出来るんですか?」
「まだ陛下、宰相には相談してませんが、ハッシュ様には相談済みです。ペンが出来たら、ハッシュ様に交渉して貰う予定です。ミグラス伯爵家にもメリットが有りますから、その位は働いて貰います」
「判りました。これは相当売れると思います」
当然の想定される事だけど、ロテック商会に貴族の権限を振りかざして強引に購入しようとする貴族が出て来る筈だ。先ずは物が無いって事で追い返して貰って、何処の貴族が来たのかきっちり記録を取って、ミグラス伯爵家へ報告して貰いミグラス伯爵家から宰相へ連絡する事で対処する。ただもう一つの可能性は、嫌な貴族家を陥れる為に、偽名で来る場合。これは判断するのが難しい、同様の対処をするが実際には、大規模な捜査になるだろう。偽名を騙った貴族は、最悪取り潰される事になると思う。
「まだ続きが有るんです。第二段階は……」
「えっ? 第二段階?」
「そうです……」
三年位を目処に、柄の部分を変更します。最初はただの木製だけど、これを彫り物をしたり金銀等で模様を付け漆を塗ったりして高級感を持たせます。人は他人より良い物を自慢したがる傾向にありますから。見た目が高級なのは貴族に人気が出るでしょう。この場合の販売価格は青天井です、職人が作った芸術品ですからね。出来上がったサンプルを陛下、宰相の所に複数本置いて貰って受注します。最初の三年はペン先の工房ばかり利益が行く事になりますが、これで柄を作る工房にもメリットが出てくるでしょう。従来品の柄のバージョンも継続で作って貰いますけど。
「確かに、最初はペンを持ってるだけで自慢出来ると思いますが、より高級なペンを使っているのを知人に見せたくなりますね……。そうしたら知人もより高級なペンを購入すると思います。だとすると客のランクで自慢して見せるペンを変えた方が良いかな」
さすが商会長だ、儲け方を判っている。
当面はこれでなんとかなると思う。インク注入型や、もっと文字が書けるガラスペンはそのうち誰かが開発してくれると思う。もっと文字を書きたいって欲求は必ず出るだろうし、ロテック商会ばかり利益が出るのは許せないって輩もいるだろうから。
とこんな感じの打ち合わせをした。ついでに紙が無くなってしまったので、購入したいと言ったら一〇枚プレゼントされた。これは貰っておこう。
ロテック商会の馬車で送って貰い、ミグラス伯爵邸に向かった。
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