(1-13)再就職
1章ラストです。
よろしくお願いします。
(1―13)再就職
焚き火の所でマッタリしてると話し掛けられる。
「お前、すげぇ腕してるな。俺達もマーヴェイ殿下も助かったよ!」
えっマーヴェイ殿下? ラビッシュ王太子殿下じゃ無いの! じゃあさっき言ってた兄上ってのがラビッシュ王太子殿下って事か……。って言うか、あんな子供を指揮官にして奇襲するつもりだったのか? 若しかしてラビッシュ王太子殿下ってマーヴェイ殿下の事を嫌ってるんじゃ無いか? 良く有る兄弟による王位争い的な……。
「えっと、ナギって言います。グランデルグ王国に行こうと思ってたら、橋が封鎖されていたんで、河を渡ってこっちに来たら、戦闘に出くわしました。布陣してる所から離れてる所を渡ったつもりだったんですけど」
嘘だけど、まあバレないだろう。取り敢えず他愛も無い話しをしておく。暫くしたらマーヴェイ殿下とハッシュ様が戻って来た。
「奇襲失敗の報告をして、兄上から王城での謹慎を命じられた。明日……既に今日か……。朝食後に王都へ戻る。そなた達にはなんの責任も無いから安心するように」
「ハッ。判りました」
なんで謹慎なんだ? 確かに、この程度の人数が減っても影響は無いとは思うけど、殿下って肩書は、士気を上げるのに役立つんじゃないか? 若しかしてラビッシュ王太子殿下って馬鹿なのか? でも、やっぱマーヴェイ殿下の事を嫌ってるんだろうな。
「ナギ。そなたに礼がしたいが、生憎持ち合わせが無い。コレで良いだろうか?」
マーヴェイ殿下が、腰に佩いていた剣を渡して来た。
『こんなん貰っても、使い道ねえよ! 柄周りに宝石が付いてる剣って儀式用じゃねえの? 戦争に持って来る剣じゃねえだろ? 武器屋に行けば売れるかもだけど、売りに行っただけで出処を疑われて捕まるかも知れねえだろ! やっぱ王家の子供は平民の常識を知らねえみたいだ』
「殿下! その剣は渡しては駄目です! 絶対! こう言う時はお金を渡せば良いんですよ!」
ハッシュ様。それは正しい。意外と常識知ってるじゃん。
「ハッシュに言われても、俺はお金なんて見た事無いから……」
ですよねぇ……王子ですもんね。取り敢えずチャンスかも知れないので頼んでみよう。言うのはタダだし。
「恐れながら、マーヴェイ殿下にお願いしたき儀が御座います」
「ん。構わん、申してみよ。叶えられるかは判らぬが」
言葉使いってこんな感じで良いのか? 王族なんて近くに住んで居ないから判んねえよ。
「私、グランデルグ王国に向かっていた所だったのですが、実はグランデルグ王国に知り合いがいる訳でも、住む所が有る訳でも有りません。出来ればマーヴェイ殿下に雇って頂けければと思います。一応、見て頂いた通り剣は多少は使えます」
「ふむ……。その腕で多少とは謙遜だな。ハッシュに伍するのでは無いか?」
「殿下、私は負けませんよ」
「ハッシュ、お前の方が弱いとは言っておらん」
「ハッ、失礼しました」
「そうだな……。ナギ判った。そなたを私の従者として雇おう、これで良いか?」
「ハッ、有難き」
「殿下! 駄目です、マジ駄目絶対! こんな何処の輩だか判らない者を、王宮に入れる訳には行きません!」
ハッシュ様正しいですよ。でも殿下が雇ってくれるって言ったしね。なんか世間知らずのチョロ殿下だなぁ。決断する前にハッシュ様に相談しなよ。
「と言われても、既に約束してしまったぞ。王族が言った事を、直ぐに違えるなと教わっている」
「判りました、ナギは、王都のミグラス伯爵邸で預かります。一応名目上はマーヴェイ殿下の従者です。必要に応じて、王城から外出する時は同行させれば良いでしょう」
「ん判った。ハッシュ手間をかけさせてスマぬ」
取り敢えず、働き口と住む所をゲット出来た。その日はそのまま、その場で休む事になった。
その頃、カッセルブラッド王国側の、団長達は……。
「何処かのバカが、夜襲を仕掛けたらしいぞ」
「何処のバカ部隊だ? 今日は夜襲はしないって通達が出てただろう? バカ領主の部隊か?」
「調べて来る」
そう言って、トラウト団長が天幕から出ていく。暫くして戻って来た。
「トラウト、何か判ったか?」
「ああ、傭兵で来ていた一つが、勝手に夜襲を仕掛けた。それで反撃に有って、撤退して来たぞ。色々面白い情報も聞けたし、戻って来たのは三人だけだ。そいつらは縛って拘束してある。どうする? プチっと処分するか?」
「処分するかは、話しを聞いてからだな。奴等、五〇人は居た筈だろ? なんで三人しか戻って来て無いんだ? 俺達程では無いが、そこそこ使える連中だろ?」
「まあ聞けよ、奴等は、上流の方から渡河して、夜襲を仕掛けて貴族の指揮官を捕まえて来ようとしてたらしい。どうも逆に返り討ちに有ったらしいがな。それで話しを聞くと、もう一人の王子が居たようだな。多分、第二王子のマーヴェイ殿下だろう」
「二人も王族が来てたのか? 随分気合が入ってるなグランデルグ王国は」
「マーヴェイ殿下は子供だから、見学みたいなもんだろうな」
「だけど、傭兵達を撃退したんだろ、まあ王族だから手練の護衛連中が居たんだろうけどよ」
「でだ、面白い情報ってのはな、どうもマーヴェイ殿下の護衛達はそんなに強くも無かったらしい、途中で乱入者が来て、それでぶち殺されていったみたいだそ。加勢したのは東方の剣を持った奴だそうだ」
「ほう」「確かに面白いな」
「だろっ」
「で、どうする?」
「マーヴェイ殿下を人質にして来たら、それはそれで良かったけど、邪魔な傭兵が減ったのも良かった事にしておくか」
「良い事を思いついたぞ」
「なんだマーリン」
「領主軍の隊服って入手出来るか?」
「まあ出来ると思うが、何に使うんだ?」
「えっとだな、先ず戻って来た傭兵に着せる。そして領主軍に紛れ込ませる。そいつ等には、領主の首を持ってグランデルグ王国に行けば多額の報酬を得られると教える」
「裏切らせるのか? 後でバレるかも知れねえぞ」
「ちゃんと監視しておくさ。バカ領主を本当に討ち取ったなら、俺が弓で射って殺すよ。なんと言っても、ナギが弓を改良してくれたんだぜ、管矢とか言うらしいんだけど、俺もなんで威力と射程が伸びるのか判らねえが実際威力は上がったからな。狙うのは難しくなったし、連射は出来ねえけど、訓練したから大丈夫だ」
「なる程、じゃあそうするか。上手く行けば手っ取り早く一人殺せるな」
「って言うか、何でマーリンだけ、ナギに武器を改良して貰ってるんだよ!」
「そうだ、ズルいぞ!」
「モーレイはナギの変わった剣を見せて貰っている筈だぞ、相当ヤバい作りになってるみたいだ」
「俺の槍はどうすりゃ良いんだよ!」
「知らね」
と言う物騒な会話をしていた。
夜が明けた。仮眠程度の時間だったが横になれたのは体力回復に繋がって良かった。
起きて直ぐに、昨夜の戦闘現場に向かった。
『何しに行くんだろう? 現場検証かな?』
と思う。現場に着くと、護衛の兵達が襲撃して来た者達の死体を漁り武器やお金を集めていた。武器とかは、戦争に付いて来ている商人が買い取ってくれるとの事。確かにカッセルブラッド王国の方も商人が付いて来ていたが、何か緊急で欲しい物(食料等)を売りに来ているのかなと思っていた。
集めた武器(主に剣)は、商人に売っても良いが、自分用にする事も出来るらしい。流石に戦いをメインにしていた傭兵達の武器は商売道具だけ有って、かなり良いものらしく、売るよりも自分で使う選択をしている兵達が多かった。
戦争で給料も貰えるのだろうが、こう言った臨時収入が無ければ士気は上がらないだろうって思った。その後は死体を集めて、油をかけて焼いた。疫病の防止だと思う。
朝食を摂った後、王都に向かう。負傷者は荷馬車に乗せて、マーヴェイ殿下とハッシュ様は馬に乗っているが、他は全員歩きである。
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