(1-12)戦争
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(1―12)戦争
団長達が物騒な作戦会議をしている頃、ナギは河の上流の比較的河幅が狭く、深さが無さそうな場所まで来て、夜だけど隠れるように潜んでいた。
深夜になるまで潜んでいた。晩秋に近いのでかなり冷える。王都よりも北(温かい方向)よりで盆地を出た所であるが、南風(寒い風)が吹いてかなり寒い。かと言って暖を取る為に火を起こす訳にはいかない。二つの月が出ている為、暗くても歩くのに困らない程度には明るい。
かなり離れた所の両陣営は篝火を焚いて、歩哨を立てて夜襲を警戒している。
『今日は両陣営とも、夜襲はしないんだろうな……そろそろ日付も変わる頃だろう。河を渡ってグランデルグ王国に向かうか……。河を超えたら朝まで何処かに隠れて夜が明けたら街を探しに行こう』
月明かりの中、河を渡り始める。
『うぉぉ! 冷てえ! マジで冷てえ!』
膝付近まで河につかりながら渡河して行く。晩秋の山間の河なんだから冷たいのは当たり前。って判っていてもかなり冷え過ぎ。転んでずぶ濡れになったら不味いので、我慢して慎重に進んで行く。
なんとか河を超えるが、ブーツの中がビチャビチャになってる。
『これ絶対に朝までには乾かないよなぁ……。街に行ったら靴を買わなきゃな。だけど服以上に高いんだよな……』
無茶苦茶不快感が有るが、何処かで隠れて靴を脱いで乾かそうと思った。
『んん、何だ?』
離れた所の渡河して来た河原の方向が急に騒がしくなって来た。
『カッセルブラッド王国軍が夜襲を仕掛けたのか?』
かなり激しい戦闘が始まったみたいだ。
『やべぇ。巻き込まれないうちに逃げよう』
河原から離れるように動き出すが、争っている方向から子供の声が聞こえた。
「なんで子供が居るんだよ! グランデルグ王国は子供を戦争に駆り出しているのか?」
流石に、これは自分の性格上放おっておけない。争ってる方へ向かって駆け出して行く。そんなに大人数では無いようだが、双方の陣営が乱戦模様になっている。仕掛けられたグランデルグ王国の方は暗いけど統一された格好をしていたが、カッセルブラッド王国側は全然バラバラな服装である。
『アイツ等、傭兵達か?』
手柄を取りに来たのか、団長達が言ってたように貴族の指揮官を、夜陰に乗じて捕虜にしに来たのかも知れない。現時点で押しているのはカッセルブラッド王国側だ。流石に戦い慣れている。だが敵側でも子供をイジメるのは許せない。と言うのも有るが街中で迷惑だった傭兵達が嫌いだ。
「殿下! 逃げて下さい!」
『馬鹿! こんな所で殿下なんて呼ぶな! 益々傭兵達が殺到するだろ! って言うか、殿下だぁ? 総大将がこんな所に居るのか? おまけに子供だし! 何考えてるんだグランデルグ王国は! もっと後方で戦局を見てろよ!』
「大当たりだ! あのガキを捕まえろ!」
般若刀を抜いて、殿下だと思われる銀の鎧を装備した子供と、傭兵の間に割り込み傭兵の膝を般若刀の峰で砕いた。
「うっ!」
「逃げろ、ガキ!」
「う、うん……でも何処へ……」
『コイツ……撤退する場所も決めてないのか?』
更に、向かって来た傭兵の膝を砕く。これはお袋に言われた事なんだけど、剣を持ってる奴は足を切り飛ばせ、銃なら腕を切り飛ばせって言われてたしそう言う訓練をしていた。
『あの馬鹿の所為で、コイツ等が殿下を集中的に狙ってきやがった!』
ふと背後から悲鳴が聞こえた。
『後ろには敵はいない筈……』
ちらっとと見ると殿下の護衛達が、俺が倒した傭兵を剣でぶっ刺していた。
『チッ、俺が甘かったんだ、戦争だってのに……畜生!』
相手の戦闘力を奪えば大丈夫だと思っていた。これが甘かった。二度手間になってしまった。そう言えば親父にも言われてた事を思い出す。指揮官が〝戦闘力を奪えば、怪我人の回収、治療で余計に時間が取られて総合的に戦力ダウンになる〟とか言うらしいが、現場にそんな事を求められても無理だって。死物狂いで命を懸けて戦っている最中にそんな余裕は無い、出来るなら止めを刺しておけって。
俺が手を抜いた事で、護衛達に余計な手間をかけさせてしまったし、若しかしたらその所為で殿下に危険が及んだかも知れない。
気持ちを切り替え、般若刀の峰を返し傭兵達に向かって行った。既に迷いは捨てた。サクッと相手の足を切り飛ばし、倒れる前に首も撥ねる。
「誰か判らないが助かる!」
「そう言うのは、終わってからにしろ!」
コイツがさっき〝殿下〟って叫んで余計に敵を引き寄せた張本人だ。だが、やたらと腕の立つ騎士だ。相手の剣ごとふっとばして切り捨てて行っている。俺もそいつと連携するように傭兵達に向かう。連携が出来ると余裕が出来、焦らずに敵を切って行けた。
「被害が馬鹿にならねぇ、引くぞ!」
傭兵が一斉に逃げ出す。それを追いかけて殿下の護衛達が追いかけて切って行った。最終的に何人が逃げれたのか判らないが、なんとか撃退する事が出来た。
「なんとか終わったな」
「ああ。だけどお前が〝殿下〟なんて叫ぶから、アイツ等が〝殿下〟の方に余計に向かって行ったんだぞ!」
「俺、そんな事叫んでたか?」
『コイツ馬鹿だ……』
「ハッシュ! 負傷者を運んで陣に戻るぞ。それと誰だか判らないが助力感謝する、名はなんと言う?」
「ナギと申します、東方から来ました」
「そうか、ナギ、後ほど、今回の助力の礼を渡そう」
「はっ、有難う御座います」
子供だけど、しっかりしてる感じがする。やっぱ総大将は違うな。
無事な者達で負傷者を助けながら、一緒に天幕の有る陣地に戻って行った。鎧を着ていたのが幸いしてたようだ。
火を熾して暖をとる。ブーツの中がビチャビチャで気持ち悪いので、脱いで中に溜まっていた水を出し、火の側で乾かし始めた。湯気が出て来たけど、朝までに乾くかは不明。
『俺なんで此処にいるんだっけ? 何方かと言えば敵なんだよな……。グランデルグ王国に行くのは良いんだけどさ、団長達と敵対するつもりなんて無いんだけど……』
「ハッシュ! 兄上の所に行く! 奇襲失敗の報告に。付いて来い!」
「ハッ。判りました」
『ん? 兄上? って事は、あの子供は殿下だけど、王太子じゃ無いのか? にしてもなんで戦争に来てるんだよ、初陣なのか? 初陣だとしてももっと楽そうな所で安全に戦わせた方が良いだろ!』
考えても判らないので、放置する事に。無事な護衛さん達がお湯を沸かしてくれたので、背嚢から器を出して頂いた。只の白湯だけどホッとした。
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