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ワダツミの鬼  作者: 松尾 和子
1/7

一話

神無月だというのに蒸し暑い今日この頃。

残暑なんて言葉で表現するより、異常気象というか、気候変動というのか…台風シーズンだというのに、今年はまだ一個も本州に上陸しない。

なのに10月になって。本日高校の制服は、夏制服から冬制服に衣替えだ。


さて、私、栗原奈津美は、今日で18歳になりました。

毎年、自分の誕生日が来ると衣替え。


それはいいとして…いつの頃からか、季節感というものが四季が無くなっている。

秋の紅葉の時期も12月がピークになり、雪も3月に降ることが多くなった。

今年なんて、4月の桜が咲くころに雪が降った。

おかげで桜のシーズンが、例年より長く楽しめたが…気候がおかしい。

と言っても、平凡な一介の女子高生に、その理由も原因もわかるはず等なく、世間では異常気象の原因が、自然破壊にあるとかなんとか言っているらしい。

でも、本当のところはどうなのだろうか。

地球の何億年という長い時間の中で、人間が誕生して数百万年しか経っていないというし、高々ここ百年ぽっちのことで異常気象というのはおかしい気もする。

人間が、この地球を世界を支配しているわけじゃあるまいし、何を言っているんだろうな。

「おこがましいぞ、人間」としか思わない。

そういえば、気候を操る妖っていうと…龍神だろうか。

最近、物の怪が巷で流行っているみたいだけれど、雨を降らせるのも風や雲を操るのも、龍神様の仕業だと昔の人は言ったんだよね。

まあ、人智を超えた現象だからな、人間ごときが気候を操る術を持たない限り、目に見えない世界の影響というのはあるんだと思うよ。



そんな他愛もないことに考えを巡らせていると、電車は自宅のある最寄り駅に着いた。

そう、奈津美は都内にある元男子高に通っていた。

奈津美が受験した年、男子校だった公立高校が、少子化のために共学へと変わったのである。

制服が一新され、ナントカという有名デザイナーが手掛けて、新しい制服にチェンジして、男女ともリニューアルしたのだった。

元々、高校の偏差値は60前後で、中の上レベルだし、女子もそこそこお勉強ができるタイプが多い子が集まっている。

奈津美が住む自宅は、市内から電車で1時間ちょっとかかるド田舎。

さらに最寄駅からバスで小一時間かかる山の中にある。

最近は、宅地造成が進み、住宅が増えているし、最寄り駅は急行や快速が停まる。

だから、毎日片道2時間かけて通っていた。

おかげで、地元から同じ高校に通う女子はいなくて、男子が数人いるだけ。

そもそも奈津美は人ごみが苦手で、他人とつるむのも好きな方ではなく、一人静かに物思いにふけるのが好きなので、誰にも邪魔されずちょうどよかった。

まあ、偏差値もそこそこ高めなので、ちゃらちゃらしたタイプも少なく、騒がしい派手な女子もそんなに多くはない。

奈津美は、チャラいタイプやあまり派手なタイプは苦手だし、適度な距離を保って接したい方だった。

だけど、入学当初はマウンティングをとりたい女子にまとわりつかれ、しばらく鬱陶しい思いに悩まされた。

学校生活なんて、たかが三年だけの付き合いだし、卒業後の進路次第では付き合いもなくなるだろう。

なので、べたべたまとわりつかれるのが鬱陶しくてたまらなく、距離を保った付き合いに徹している。


そんな奈津美が、唯一、足しげく通う場所がある。

それが、自宅から徒歩1時間ほどの場所にある弘原海ワダツミ神社だ。

ここは、山の上にある神社で、眼下に湖が広がる。

その湖に眠るとされる龍神を奉る神社で、湖が御神体であり、湖の中ほどにある小島にある祠だそうだ。

また、奥宮は対岸にある山の奥、小さな滝つぼがある場所と言われている。

この山のふもとの村が、宅地開発で街になり、その町に奈津美は住んでいた。

ふもとから山の上にある神社まで参道があるのだが、バスも山の入り口までしか通っておらず、頂上付近までは歩くしかない。

バス停からは小一時間歩いて上る。

でも、奈津美は神社の境内から見下ろす湖の風景が好きで、よく散歩がてら神社へお参りに来ていた。

子どもの頃から、奈津美にとってはここが遊び場で、一番お気に入りの場所だ。

いつも爽やかな風が凪いでいて、下界が猛暑で暑苦しくても、小一時間山の上にある神社へ登れば、カンカンの日照りでも暑さなんてさほど感じない。

冬はさすがに雪が積もってしまうが、キンキンに冷え切った空気も清々しく、一年中快適な場所だった。

また、高校生になってから、神社で巫女のアルバイトもしている。

最近、巷で神社ブームなので、割と平日でも参拝客がちらほらやってくるので、週末や休日はそこそこ人出がある。

だから、巫女のバイトを頼まれた奈津美は、休み期間中や週末になると手伝いに来ていた。



週末、朝から弁当を手に神社へと向かう。

神社がある山の中腹には駐車場があり、参道には二番目の大きな鳥居があった。

一番目の鳥居は、山の入り口付近にあって、そのそばにバス停がある。

奈津美は、自転車で二番目の鳥居まで登る。

参道の登坂を20分ほど歩いて上れば、三番目の大きな鳥居があって、その先が境内になっていた。


「おはようございまーす」

奈津美は、8時半を少し回ったころ、神社の社務所に着いた。

「おはよう、奈津美ちゃん。今日も暑いね」

そういって出迎えてくれたのは、この弘原海神社の宮司の息子で、長男の侑一郎さんだ。

侑一郎さんは独身で、今年30歳の権禰宜だという。

神職の階級は良く知らないんだけど、袴の色が階級で異なるんだそうだ。

侑一郎さんは、大学を出てから公務員で数年働いていたそうで、公務員をやめて神職に着いたらしい。

だから、侑一郎さんは浅黄色の袴を身に着けている。

お父さんの直之さんは、紫に白の紋付で、かなり階級も上だそう。

また、お爺様もいて、今は引退しているが、手伝いの時は白の紋付き袴を身に着けている。

親子三代で、この神社を守っているのだ。

あと、巫女さんが数人いて、その中の一人が侑一郎さんの妹で、弥生さんという現役の女子大生だ。

普段は大学へ通っていて、講義のない日にシフトで巫女のバイトをしているそう。

その弥生さんと侑一郎さんの間に、もう一人次男で結婚している琢磨さんという人がいるが、海外に留学してあっちで就職して結婚したらしい。

なので子どもの頃、奈津美は中学生だった頃の琢磨さんを見かけたことがあるだけだった。


奈津美は侑一郎に挨拶をして、社務所の裏にある休憩所を通って更衣室に向かった。

「おはよう、なっちゃん」

声をかけてきたのは、巫女さんでバイトの晴香さん、二十歳のフリーターで女優志望だそうだ。

いくつかバイトを掛け持ちしつつ、劇団で女優してるそうなので、ちょっと派手な感じが奈津美は苦手だった。

「巫女の着物って、夏は暑くてイヤよねえ」

先に着替え終わった晴香さんが、そう言って手で仰ぎながら愚痴る。

「はい、そうですね。」

奈津美は、着替えながら適当に相槌を打った。

「だって、化粧は落ちるし、汗染みができちゃって…ホント、嫌になっちゃうわ」

晴香がそう愚痴るが、奈津美はここではそこまで汗をかかないし、そもそも化粧なんてしない。

精々が日焼け止めを塗る程度だ。

「晴香さんは、素顔も綺麗なんですから、薄化粧で大丈夫じゃないですか」

奈津美がお愛想を言うと、晴香がムッとして言い返す。

「ヤダ、女子高生の奈津美ちゃんに言われてもねえ…素直に受け取れないわ」

いやいや、そもそも歳の差つったって、実際に二個しか違わんのだけど。

『これ、マウンティングされてんだよね…たぶん。』

晴香は、奈津美を下に見てるって意味だろう。

地味で平凡な女子高生じゃ、劇団女優の自分とは一緒にしないでと言いたいのか。

「ねえ、ところでさ、侑一郎さんって彼女とかいるの⁉」

いきなり奈津美に、晴香は侑一郎のことを聞いてきた。

「さあ、どうなんでしょう」

奈津美は、あいまいに答えて首を傾げ、その場から去ろうとした。

その時、晴香が奈津美のおでこをジッと見る。

「ねえ、奈津美ちゃんのおでこ…たんこぶがあるの⁉」

仕舞った、油断した。

いつもは前髪で隠しているが、おでこの生え際辺りに小さな突起物がある。

そう、奈津美には、生まれつき角のような小さな突起物が生えている。

でも、触っても痛くもないし、本当に小さくてあまり目立たないため、普段は忘れている。

人に知られると面倒なので、適当に笑って誤魔化した。







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