Scene 63. 親睦と、提案。
ロブソンは一目散にヴァースに駆け寄って、勢いよく敬礼をして見せた。
「お久しぶりです!先輩!!」
「ああ、訓練以来だな。」
久しぶり、と言っても二週間程度である。しかし他の二人には着任式で顔を合わせているのだから、それよりは確かに久しぶりなのかもしれない。
「他の二人にはよく会うみたいだがな。」
「あ!そうっすよ先輩!あいつらだけずりぃっすよ!!」
ロブソンの後ろについて小走りでやって来るミィヤとマイクに視線をやりながら言ったヴァースに、ロブソンは食ってかかった。着任式直後に会場の出入り口に顔を出した時、ロブソンはそこにいなかったのだ。ヴァースは苦笑しながら、自分を慕う年若い空士に謝った。
「はは、悪いな。あの時は時間が無かったんだ。」
マイクと共にロブソンを追って、ミィヤはテニスコート横に向かう。ヴァースの姿を認めた事と周囲の注目を浴びた事で高鳴ってしまった心拍は、駆け出した事で少し楽になった気がしたのに、早く近づきたくて胸が苦しい。
目が合った。また心臓が強く跳ねる。あともう少しで声の届く距離に……
そこで、ミィヤは一瞬意識を奪われてしまった。少し前を行くマイクが、ギョッとしたように急に軽く仰け反ったからだ。その視線を追えば、すれ違って歩いて行く女性。
ちょっと引くほど綺麗だった。ミィヤもかなりの衝撃を受けて、思わず見入ってしまう。
ミィヤより背は高く、歳も少し上かと思われた。真っ直ぐな金色の長い髪をお団子にして首の後ろでまとめている。白磁の肌に眉がなだらかな稜線を描き、その下には繊細なデザインのメガネの向こう、けぶるまつげの奥に輝く茶色の目が覗いている。すっくと伸びた背は驚くほど細い腰に支えられているのに、胸と腰の膨らみは制服を内側から力強く押し上げてはちきれそうだ。素っ気ないデザインのスカートからすらりと伸びる足は、これで役目を果たせるのかと心配するほど華奢で優雅だ。
思わず惚けて見送ってしまったが、女性は気にも止めずに歩いて行ってしまった。その後をスポーツウェア姿の男性が追い、更にコートの周りにいたギャラリーの熱い視線が彼女を追いかけていた。
とっくにヴァースと会話を始めていたロブソンの周りを憚らない声で、ミィヤは我に帰る。
「そうだ!!先輩、俺らと対戦しましょうよ!」
(……はいぃぃぃいっ!?)
ロブソンの提案にミィヤが再三の衝撃を受けて振り向くと、ヴァースが訝しげに聞き返したところだった。
「対戦?」
「HAPCOっすよ!!先輩知りません?ここに最新型あるらしいっす!!」
HAPCOというのは、ホログラム技術を応用した対人戦闘シュミレーター(Holographic Against-person Combat Simulator)のことだ。
無数のセンサーが埋め込まれた装身具を身につけて専用の空間に入ると、ホログラムで映し出された相手と対戦できる。攻撃は与えても受けてもある程度の振動しか感じないが、ダメージはポイントで加算され、通常は一定のダメージを受けたら負け、という仕組みだ。
対戦相手としてはプログラムされたシュミレーションを使うこともできるし、やはり同じように装身具をつけた相手と繋いで対戦することもできる。つまりは本当のダメージを身体には受けずに、全力でやり合える。遠隔で繋いで、全国大会なんかも行われているのだ。種目もいくつかあって、一対一の対戦のほか、複数の擬似戦闘員相手に、何人まで、もしくはどのくらいの時間生き残れるか、なんて競い方もあったりする。
全身を使って行えるゲームとあって、トレーニングジムには大きなサイズのものが用意されていることも少なくなかった。先日ジムを訪れたミィヤが見つけたのは、まさしくそれだったのだ。
憧れの上官と親睦を深めたいのはロブソンもミィヤも同じなのかもしれなかったが、ミィヤは心の中で全力で叫んでいた。
ロブソンやめてぇぇぇええええっ!!!!
訓練校にいた時から、ロブソンとマイクとは何度もHAPCOで対戦して来た。それはいい。友達なんだから。だけど想いを寄せる男性相手に、何が悲しくて女子らしからぬ、ともすれば野蛮だと思われてしまいかねないような姿を晒さなければならないのだ。絶対に嫌だ!!
HAPCOでの健闘ぶりを見た男子に、過去「おっかねー……」とか呟かれたことはしっかり覚えている。その時は別に気にしていなかったが、もし同じことを先輩に言われたらと想像して、ミィヤは血の気が引いた。絶対に、絶対に嫌だ。この人だけには。
「ああ、あれか……」
頼むから断ってくれ、と祈りながら青い顔で黙っているミィヤと、その隣でやれやれ、と呆れたように親友と上官のやり取りを見守っているマイクを一瞥して、ヴァースは口をつぐんだ。ロブソンは目をキラキラさせながら、上官の返事を待った。
ヴァースは腕にはめられているシルバーのバンドに視線を落とすと、それを何度か振り、別の手で何やら操作し始めた。暫くそうすると、三人に向き直って言った。
「お前ら、それより面白い物があるぞ。」
その顔には、楽しそうな笑みが浮かんでいた。




