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【天空のカヴァルリー】 〜若き元空挺軍総帥の憂鬱〜  作者: 瀬道 一加
Section 9. 式典後。
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Scene 47. 閉会と、それぞれ。

ヴァースの祝辞を最後に、着任式は幕を閉じた。艦長に続いて三衛星とヴァースがステージを後にし、グレーの制服の上官に連れられて、少尉達が会場を後にする。最後に初等空士と準空士が、列を崩さないまま会場の出口に向かった。


出口に向かって歩を進めながら、ミィヤはちらりとステージの方を見上げた。ステージの後ろの柱の間に、白い制服が見え隠れしていた。次に、あの姿を見られるのはいつになるのだろう。また会って話せることが出来るなどとは、到底信じることが出来なかった。



祝辞の最中、目が合った気がした。



だが、それも今は自分の陳腐な思い込みでしか無いような気がする。あの場所に立つ様な人が、自分だけを見ることなんてあり得ない。そう思えてしまって、念願の着任式が完了したというのに、ミィヤの気分は沈んだままだった。




着任式が終わりを告げて、観客席と特別席の聴衆達も席を立ち、周りのものと囁きあいながら会場を後にする。誰もが口にしていた話題は勿論、アクレス前艦長の事だった。


まさか彼が帰ってくるなんて。


どうして今になって。


彼のスピーチを聞けて、何と幸運なことか。


結局、退任の理由は何だったんだろう。


着任式だというのに、親類や親しい者の晴れ姿を思い出す者は少ないようだった。



人とざわめきの波は、少しずつ移動して行った。そんな中、ざわめきから一番遠い場所の、観客席の合間にある階段の一番高い所、通路に繋がる柱と柱の間の開口部に、まだひとりの青年が座っていた。ベージュのジャケットを着て、一段下に置いた足の膝の上に片肘を乗せて、その手に端整な作りの顔の顎を乗せて、如何にもつまんなそうな様子だった。


「声かけなくて良いの?」


青年は小さく呟いた。周りに応えるものは誰もいない。


「ふぅーん……呑気だね。」


また呟く。会場のざわめきが、少しずつ遠くなって行く。


「まぁ、だったら良いけど……退屈だなぁ、僕は。」


会場を去って行く人混みを遠くに眺めながら、青年は何処か虚ろな様子でひとり呟き続ける。



「おい君、会場が閉まるぞ。」


後ろから声を掛けられて、青年は振り向いた。青い制服の男がこちらを向いている。会場の見回りを任されている、管理班の技術空士だった。


「何だ?君は一人か?」


背は高いが、随分若く見える青年を見て、青い制服の男は周りを見渡した。会場には、未成年は一人では入れない筈だ。


「保護者の方は……」


はぐれてしまったのか?と聞こうとして男が振り向くと、青年の姿は、もうどこにも見当たらなかった。




ベッドの上で、着任式を映していたスクリーンを閉じて、リディは大きな伸びをした。


「あーあぁー、あしたからあたしたちもおしごとかぁ〜。」


ばふ、と再びベッドに倒れ込む。


「あたしたち明日何時集合だっけぇ〜???」


リディとビーの、港での着任式は明日だ。ベッドにうつ伏せになったままクッションを抱き寄せて、リディは不満気な声でビーに声を掛けた。



返事が無い。



不思議に思ってビーの方を見ると、ビーはまだビールの瓶を持って、壁に寄りかかったまま、ぼうっとしていた。


「ビー?」


また声をかける。返事は無い。


「ねービーってばぁっ。」


多少の苛立ちを露わに、リディは起き上がって四つん這いでビーに詰め寄った。


「んー?んー……」


ビーは返事をしたが、視線は遠くを見たままだった。瓶に口をつけて、また一口煽る。


「さっきからどしたの?酔ったぁ?」


普段は酒を飲んでも、上機嫌で饒舌になる以外はほとんど変わることのないビーだった。流石に様子がおかしいので、リディは心配し始めていた。しかめっ面でビーの顔を覗き込む。


「……別に……。」


目も合わせず、どこか呆けた様子で言うビーに、リディはただ、首を傾げる事しか出来なかった。




「お疲れ様、アクレス准将。」


ステージから柱の後ろの通路に戻ると、同じ方向に歩きながら、正式に任命されたばかりの敬称で、ラピーテンがまた声を掛けてきた。


「そちらこそ。全く、こんな事になるならきちんと用意しておくべきでした。」


ヴァースはわざと、目の前を浮遊椅子で進むフラーに聞こえるように応えた。


「なぁに、元艦長殿ならスピーチの一つや二つ、朝飯前じゃろ?」


フラーはとぼけたように言う。横を歩いていたラッザリーニが笑い始めた。


「はっは!草稿も無しに喋ったのか!流石だな!俺はあれだ、あれが気に入ったぞ。うねる波がどうとかだ。あれは俺も使わせてもらうぞ!」

「光栄ですよ、ラッザリーニ殿。」


存外に熱く語ってしまった言葉を掘り起こされて、ヴァースは少し照れを感じたが、後ろを振り向いて言ったラッザリーニにはさらりと返した。



決まりの悪さを紛らわすつもりで、会場内に目を向けた。空士たちは既に、会場からは居なくなっている。観客席にいた人間が、砂時計の砂のように、ゆっくりと出入り口に吸い込まれて行くのが見えた。


あの中に、自分の敵も、あいつと俺を陥れた奴もいたのだろうか。


目の前の空士達への言葉に夢中になって忘れていた思惑を思い出す。あれで十分、存在のアピールは出来たはずだ。さて、相手はどう出るか。



さぁお前ら、俺は戻ってきたぞ。


俺は、ここに居る。


今度はどうやって、俺を排除する?



「若い子たちは興奮したに違いないでしょうね。英雄から直接言葉を貰えたのだから。」

「全くだ!!これで今年の新人達は五年は頑張れるな!!はっはっ!!」


ラピーテンとラッザリーニの言葉に、ヴァースは我に返った。


新人達。その言葉に、ヴァースは少し考える。



……まぁ、せっかく派手に動いていいって言われたことだし。この後いつ会えるかわからないし。



数秒の後に決断して、ヴァースは足を止めた。


「フラー殿。」


唐突に声を掛けてきたヴァースが後ろで立ち止まっているのに気づいて、フラーは浮遊椅子を止めた。その先を歩いていたグレーの制服の男達と、三衛星も何事かと歩みを止める。


「この後は?」

「……まぁー、皆で揃って中庭で茶じゃろうな。勿論マークに頼むが。」


お気に入りの執事に茶を淹れてもらう事をわざわざ言及して、フラーは髭を撫でた。


「分かりました。では、後程合流致します。」


そう言うと、ヴァースは踵を返して反対方向に歩き出した。


「どちらへ?」


一番後ろを歩いていたデューモに、すれ違いざまに聞かれる。


「なに、元教え子達に、祝いの言葉をかけてくるだけですよ。」


ヴァースは歩みは止めずに、片手を軽く上げて振り向きながら、フラーにまで聞こえるように少し声を張り上げて言った。そして、スタスタと通路を進んで行ってしまった。



「教え子?」


ラッザリーニが怪訝そうに呟く。


「そう言えば、訓練校の引率を引き受けたんですって?」

「なにぃ?あいつがか???……はっは!!元艦長様が、士官候補生でもなくて訓練員の相手をか!そりゃ傑作だ!!はっはっは!!」


ラピーテンの言葉に、信じられないと言うように反応してから、ラッザリーニはまた大笑いして、ひとり先に歩き出した。それにつられるように、フラーが再び前を向いて浮遊椅子を進め始める。やれやれと呆れたように、誰にともなく小さく呟いた。



「全く、ええ顔しとるわい。」

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