Scene 34. 親友と、不機嫌。
大慌てで寮の片付けの仕上げをして、ミィヤは何とか、ロブソンとマイクも一緒に乗る連絡船の便に間に合った。着任式の当日の朝である。もちろん、ミィヤは昨晩一睡もしていない。
私物の入ったボックスを既にチェックインして、ミィヤ、ロブソン、マイクの3人は、乗船口の前のカフェで、ビーとリディとの出発前の最後の時間を過ごしていた。3人は訓練校で支給されて使っていた揃いの制服とボストンバッグだが、ビーとリディの2人は私服姿で3人を見送りに来ている。
「ったく、出発の前日に帰ってくるやつがあるかっ。」
訓練校の数年間を過ごした寮の自室の片付けに手が一杯で、昨晩の仲間内だけの送別会に顔を出せなかったミィヤに対して、ビーは不機嫌を露わにしていた。カフェの1人用ソファに身を埋め、投げやりに足を組んでそっぽを向いて、昨晩既に何度か使っている文句でミィヤを責める。
「ごめんってば、ビー……そんなに怒らないで。ね?」
ミィヤは自分との時間を楽しみにしていてくれたらしいビーの気持ちを無下に出来ず、コーヒーテーブルの反対側にいるビーの方に身を乗り出して、必死に許しを請うていた。昨晩は、ここ暫くの間では5人で集まれる最後の時間だったのだ。ミィヤだってもちろん参加したかったのだが、今まで自分の情熱を後押ししてくれた家族に晴れ姿を見せるには制服の到着を待たねばならなかったため、寮への帰宅が遅れてしまい、止むを得ず、である。
「まあまあ、地上に来るのはそう難しいわけじゃないし。ビーもリディも港勤務なんだろう?」
マイクが諌めるように言って、ミィヤに助け舟を出す。諍いごとの仲裁に入って場を取り持ってくれるのは、いつもマイクだ。
「は、初等空士に成り立てがよく言うぜ。そんな簡単に連休が取れるかっつーの。」
ビーはツンと横を向いて、冷たく返した。
ビーは連絡船の整備班への配属になるため、当面は地上側で勤務することになっている。将来的には、母艦側か船内の常駐になる可能性もあるが、暫くは港から離れる事はないだろう。
そして地上の生活管理班への配属になるリディは、まずは港の乗船者対応の受付などを行うはずだ。こちらも移動は暫く見込まれない。
対するミィヤ、ロブソン、マイクの3人は、母艦での防護班への配属だ。最初は実務というより、戦闘も含めた実践的な訓練が続くとされている。
地上と母艦を行き来する連絡船は日に何本か出ていたが、1日だけの休みで往復するのは困難だ。ビーは防護班の休みが他の班と違って不規則であることを知っていて、なかなか5人で集まれるチャンスが来ない事を懸念しているのだ。マイクが続けた。
「訓練が早くに終わる日なら、時期によっては最終便には間に合うさ。そうすれば翌朝の朝ごはんくらい一緒に食べられるよ。歓迎祭もすぐだし。」
「は、朝飯だけ食いにわざわざ地上に来るのかよ。」
「来るさ。ね、2人とも?」
「おう!あたりまえだ。」
「ええ、もちろん!」
マイクの提案に怪訝な物言いのビーを説得しようと、マイクは2人に同意を求めて、ロブソンとミィヤの2人は二つ返事で力強く答えた。それを聞いてビーはまだむくれた表情だったが、少ししてボソリと言った。
「絶対だぞ。」
「おう!」
ロブソンはまた力強く答え、マイクは優しく微笑み、ミィヤは感極まってテーブルの反対側に移動して、ビーをしっかり抱きしめた。
「毎日連絡するからね!」
「あーもー、いいわ毎日なんて。うぜぇよそんなに来たら。」
照れ隠しなのか、抱きかえしもせずつれない態度をとるビーに構わず、ミィヤは抱擁をやめなかった。
いつもクールで男勝りなビーが、実は一番寂しがりやだという事は、4人は誰よりも知っていた。そして、彼女が子供の頃に事故で家族を失って、天涯孤独の身であることもだ。時に気など使わずにはっきり物を言って周りをヒヤヒヤさせる彼女だったが、心を許した仲間の誕生日は忘れた事はなかった。4人のうち誰かを貶すものがいようものなら容赦はなく、その達者な話術で相手を精神的に返り討ちにしてしまう。そんなビーを、4人も同じように大切に思っていた。
「んもーっ、可愛いんだからぁっビーったらぁーー。地上にはあたしがいるじゃなぁーーーーーいっ。」
最近発売されたばかりだという派手な色のラテを美味しそうに啜りながら他の4人のやり取りを見守っていたリディは、隣のソファから身を乗り出して、ビーの頭を豊満なバストに埋めるように勢いよく抱きついた。
「あんたはあんまりからかい甲斐が無いからなぁ。」
「やだぁー、照れるぅーー!」
「褒めてねぇよ。」
コミカルな2人のやり取りを見ながら、ミィヤは微笑んで隣のソファに座りなおした。なんだかんだ言って、リディの底抜けの明るさと元気にはビーも救われているのだ。きっと、リディがそばに居てくれれば、ビーも寂しく思う暇はそうそう無いに違いない。ミィヤは胸を撫で下ろしながら、残りのコーヒーを啜った。
「まぁ、誰かさんは愛しの誰かさんとの時間で忙しいかもしれないけどな。」
ビーが放った遠回しな言葉にミィヤはコーヒーを吹き出しかけて、代わりに激しく咳き込み始めた。すぐには着替えが出来ない今、制服を汚さなかったのは幸いだ。どうやらビーは、完全に不満を吐き出し切ってはいなかったようだ。
「誰かさん?」
普段から勘が絶望的に悪いロブソンが眉を寄せて周りを見回す。ミィヤは心の中でビーやめてぇぇぇぇっ、と叫んでいた。今後も訓練で行動を共にするマイクとロブソンに、上官との忍ぶ恋を今知られてしまうのは、2人が男性だからなのかより一層気まずかった。
「はは、ミィヤは待ちに待った母艦勤務だもんね。」
マイクの言葉にミィヤは一瞬バレていたのかと心臓が止まりそうになったが、そういうわけではなかった。
「マザー・グリーンに乗れるのが嬉しいからって、親友を蔑ろになんてしないよ。ねぇ、ミィヤ。」
「もももももももちろんよ!!」
うまい具合に勘違いしてくれたマイクにホッとしながら、ミィヤは慌てて答えた。
「ふん、どーだか……」
不満げに横目でミィヤを見るビーだったが、暫くしてミィヤの方に向き直って、ぶっきらぼうに言った。
「なんかあったらちゃんと連絡しろよ。ぶん殴りに行ってやるから。」
「ビー……」
ビーの不器用な思いやりの言葉に感動したミィヤは一転、瞳を潤ませて、まだビーに寄りかかったままだったリディごと、再度ビーを抱きしめたのだった。リディとミィヤにぎゅうと挟まれたビーは仏頂面ではあったが、嫌がっている様子では無かった。
「なぁ、」
話について行けていないロブソンが、誰へともなく今更聞いた。
「誰かさんって誰?」
「そろそろ行こう!もう時間じゃ無いかしら!?」
ロブソンに誰かが答える前にミィヤはすっくと立ち上がって言う。これ以上詮索される機会を与えてはいけない。
「そうだね、そろそろ時間だ。行こうか。」
ミィヤの提案にマイクが同意して、一行はカフェを後にし、乗船口に向かったのだった。
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今日も読んでくれてありがとう!
続きはまた明日♪
瀬道 一加
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