Scene 17. 帰途と、寒い。
日はまだ明るかった。しかしジェットに乗った身体をバタバタと撫でていく風は、確かに冷たくなっていた。
『うー、流石に冷えるな。』
ジャケットを着ていないヴァースは、ハンドルを持ったまま肩をすくめて言った。
『寒いか?』
『はい、少し……』
ヘルメットの通信越しに聞かれ、ミィヤは素直に答えた。貸してもらったジャケットのお陰で上半身は問題なかったが、足は冷える一方だ。専用のスーツであれば良いのだろうが、残念ながら準備はしていない。恥ずかしさも忘れて、ミィヤはヴァースに身体をぴったりとつけてしがみついていた。
『ごめんな。先に伝えておくべきだった。宇宙船に慣れると、気温の変化に疎くなっていけないな。悪いが一旦俺の家に寄ろう。ジェットは置いて、車で送る。』
俺の家。
その言葉を聞いて、ミィヤは固まってしまった。
(色々教えてもらえるよー?)
忘れていた、ビーの言葉が蘇る。
うそ。
どうしよう。
さっきまでの時間はその一瞬一瞬に集中し過ぎて、そんな事は頭の片隅にもなかった。心の準備は勿論全く出来ていない。そりゃ言われた通り新しいの付けてるけど。
しかしその硬直と沈黙の意味を察したのか、ヴァースは笑って言った。
『安心しろよ?取って食いやしないから。』
ああ、もう、ほんとに。
わたしどうしようもないな、という思いと、それとは裏腹に、小指の先ほど微かにがっかりしている自分を認識しながら、またミィヤはヴァースの背中にヘルメットを埋める。穴があったら入りたい。
ジャケットの無い今、ヴァースはシャツ一枚だった。どんなにか寒いだろう。自分に上着を貸してそんな状態なのだから、もちろんミィヤは断る気など無かった。
『大丈夫か?』
何も言わなかったミィヤの意を丁寧に確認してくれるヴァースに、ミィヤは少し感動しながら答えた。
『はい、行きましょう。』




