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この作品には 〔ボーイズラブ要素〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

おっさんとゆうしゃ

作者:



視線を感じる。

山賊が獲物(カモ)を物色している可能性もある。

少し振り向いて確認すると物陰から誰かが飛び出しそのまま_____


「えっ」


「あっ」


「…勇者様?」




衝突。






最後のシャツを洗い終え湖で手を洗い流す。

途中ですれ違った冒険者がチラチラとこちらを見ていたが気にすることはない。慣れた仕事だ。


勇者の後見役として長い旅路を共にし、たった数ヶ月も経っていない。

しかしもう実力では彼に及ばなくなった自分は専ら裏方仕事に徹している。

元々家事のできない勇者の代わりに色々はこなしていたのだが、最近は殆ど戦闘に出ることがなくすっかりこちら専門のような扱いになってしまった。


…別にそれを気にしているわけではないのだが、やはりこういう仕事はキツイものがある。


旅路では水の確保が難しい。

洗濯や風呂のためにいちいち宿を取って小休止するのにも限度があるし、何より面倒くさい。

魔術で水を出そうにも自分の魔力では水鉄砲しか出せないし、勇者に頼んだこともあったが新しく川が生まれそうになり大騒ぎになったのでそれ以降水に関しては諦めた。

運が悪いと何日も街にすら入れない時もあり、その間に溜め込まれた洗濯物は一際禍々しいオーラを放ちだす。

さっき脱いだばかりの服に近づいた猫があんぐりと口を開けて逃げていったときは死ぬ程傷付いたし

流石にこのまま捨て置くわけにもいかないので、とりあえずは偶然見かけた寄れそうな川で軽く手洗いすることにして、今に至る。



ひっくり返った勇者はピクリとも動かない。

当たりどころが悪くそのまま____なんて怖い想像も()ぎったので、近寄って安否を確認する。

足元の石に引っかかり気絶しただけらしい。

軽くはないがしょうがない。色々聞くのは後にして、洗った服と一緒に馬車まで持ち帰ることにする。



「…あ、す、スコーピオさん」

「おはよう。目は覚めたか?」

さっきの出来事がよっぽど恥ずかしかったらしい。

目が合った瞬間勇者は耳まで真っ赤になって、逃げるように毛布にくるまった。


「別に馬鹿にするわけじゃないんだ、話だけでも聞かせてくれないか」

理由によっちゃ説教になっちまうかもしれないが、

なんて言葉は喉から先に出さないようにしておく。

勇者ではあれ、まだ幼い少年なのだ。

一応保護者として置かれている人間の許可なしに出歩くのは危険が伴う。

まだあまり交流を持てている訳ではないが、どうにも彼に対して心配性になっている自分がいるのは確かだった。


「どうして俺に隠れて付いてきてたんだ?気になるなら言ってくれればよかったのに、」

優しく諭すような声に、毛布から覗く瞳がびくりと跳ねる。

正直言って彼はあまりコミュニケーションを取るのが上手くない。

はじめの頃はまともに視線すら合わなかった事を思い出すと、少し感慨深い気分になった。


勇者はしどろもどろになりながらも、絞り出すように口を開く。

「その、あの…大変そうだったから、」

「い、いつも色々やってもらってるし、おれ、お手伝いとかできたらなって思ったんだけど、」

「言い出す勇気でなくて、ずっと後ろ付いてくだけで終わっちゃって、それで…」

「いつもついて来てたのか」

「うん、今日見つかっちゃったけど…」

「そうか…」

気が付かなかった。

裏方が主になったとはいえ、自分も一介の騎士だという自負はある。

気配の察知には気を使っているつもりではあった筈だったんだが…

___今更ながら、勇者という存在の規格外な力に驚きを覚えてしまった。

「…怒ってる?」

不安そうな声色で我に帰る。

怒ってないよ、と毛布越しに微笑みかけると、ホッとしたような吐息が漏れた。


「…ごめんなさい、ずっと黙ってて、」

「いや、いいんだ」

「…」

包まれた勇者はしょんぼりと毛布に縮こまっている。

「…なあ」

「ああいうの、やったことないのか」

「うん、」

「家事とか、洗濯とか、お手伝いさんがいつもやってたから」

「やってみたいなって思って触ってみたことはあるんだけど、すぐばれてすごく怒られちゃって、…勇者はこんなことしなくていいんだって」

たかが洗濯と言っても、勇者にとっては遠い出来事なのだろう。

このまま諌めて今まで通りに戻すのもなんだか悪い気がする。

「…やってみるか?」

「えっ」

毛布から頭が少し出てきた。

「実はまだ汚れた衣服が何着か残っててな、ちょうどまた川で洗っとこうかと思ってたところなんだ」

布団に篭っていたせいで癖っ毛が余計にくるくる跳ねている。暗い青、綺麗な色だ。


「いいの?」

「手伝ってくれるのは嬉しいからな、人手が多いと早く済むし」

「でもやり方わかんないよ」

「やり方くらい何度だって教えてやるさ、勇者様のお願いだしな」


勇者は遂に布団から脱出した。

キラキラと目を輝かせ、期待たっぷりの表情でこちらを見つめている。

まるで小動物だ。なんとも言えない感情が湧き上がり、誤魔化すように息を吐く。





「あとね、その」

「おれのこと名前で呼んでほしいな」

「名前?」

「そう、カレイドって呼んで。そうしてくれると嬉しいから、」

「カレイド」

「へへ、そう、嬉しいな」

何度も名前を呼ぶ度、嬉しそうに笑う。

勇者と呼ぶにはあまりにも幼い、年相応の優しい笑顔、

「…カレイド」

「いい名前でしょ?」

「いい名前だ」

「よろしくね、スコーピオさん」

「ああ、よろしく、カレイド」

裏方のおっさんと主力の少年のコンビが結構好きなので…

もうちょっと勝気な感じでもよかったんですが、人見知りの勇者も可愛いかなと思うとつい

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