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第5話

 フォックスバードがあばら屋と謙遜する家は、村から数十分ほど歩いた森のさらに奥にあった。

 こんな場所に1人で住んで危険ではないのかと康大は思ったが、おそらく知恵者らしい素晴らしい防犯設備があるのだろう。村人達の一目置いている態度からそれは容易に推測できる。

 そして何より――。

『――』

「ぎゃぁああああああ!!!」

 モンスターの断末魔よりも大きなハイアサースの絶叫が、また森に木霊した。

 その度にフォックスバードは苦笑し、康大はうんざりする。

 2人だけの時と違い、フォックスバードがいると普通に彼らもモンスターに襲われる。

 ただ、フォックスバードは知識だけでなく魔法使いとしての才能も飛び抜けているようで、詠唱などもなく指を鳴らしただけで、モンスター達は一瞬で火柱になった。それどころか、指を鳴らすことさえ面倒くさくなったのか、一瞥しただけで同じ結果をもたらす。これならモンスターの襲撃など余計な心配だ。

 そしてその度に、ハイアサースが大仰に驚く。こちらの世界で明らかに魔法に慣れているはずなのに、反応が無駄に新鮮だった。まだ異世界かぶれしている康大の方が現実を受け入れられている。

 いずれにしろ、

(チビだからって舐めた態度取らなくて本当に良かった……)

 選択は間違いではなかった。

「さて、到着、と」

「これが……」

「なんだか教会に近いな」

 ハイアサースの感想は意外にも建物の特徴を良く現していた。

 木と煉瓦で出来た、扉があって窓がある典型的な中世ファンタジー風の家……といったような建物ではなく、建物全体は漆喰で塗られたのか真っ白で、屋根は尖塔状になっており、なにやら重々しい木製の細工が施された扉と、あまり民家のような感じがしない。高さも敷地もそれなりにあり、1人の人間、それも体格の小さいホビットが住むには広すぎるように見えた。森の中でなければ、遠くからでもよく見えていただろう。

 フォックスバードは扉についているノッカーを叩き、「帰ってきたぞ」と中に向かって声をかけた。

 数秒後、けたたましい足音が聞こえ、さらに数秒後内から扉が開かれる。

「お帰りなさい師匠!」

『!?』

 康大もハイアサースも、扉を開けた人間の姿を見て思わず身構えた。

 開けたのは間違いなく人間だ。ただ筋骨隆々で身長も2メートル近く、さらに鬼のような形相をしている蛮族のような男だった。極めつけにこの世界のどこにそんな床屋がいるのか、見事なまでの金髪モヒカンで、彼の周りだけ異世界と言うより世紀末だった。似合うのは、今着ている簡素な布の服よりトゲだらけの革の服だろう。

「まさかここは永遠のロックランドだったのか……」

「何を言っているのか分からないが、何を思っているのかは分かるよ。こう見えて彼はそれなりに真面目で最低限信頼できる蛮族だ。彼ほどの蛮族はまずまず珍しいんじゃないかな」

「ダイランドと言います! よろしくお願いするっス!」

「タイラント?」

「ダイランドっス!」

 康大の聞き間違いに、即座に反応するダイランド。

 どうやら見た目と違い、「ヒャッハー! 男は殺す女は犯す、今は悪魔が微笑む時代だぜ!」というような世紀末的な思考回路ではないようだ。外見通りなら口で訂正する前に、身体をあり得ない状態に矯正されていただろう。ただ、蛮族であるという康大の評価は変わらない。

「・・・・・・」

「おやおや、後ろの彼女には少しダイランドは刺激が強かったらしい」

「え?」

 振り返るとそこには白目を剥いて仁王立ちしている伝説の女騎士そっくりさんが。

 彼女が人間でなく彫像だったなら絵になる姿だ。

 それからハイアサースが復活するまで待って……いると色々面倒なので、張本人であるダイランドに責任を持って担いでもらい、大広間らしき部屋のテーブルで4人(実質3人)で話し合うことにした。

「さて、何から聞きたい」

 赤ちゃん用とも思えるやたら足の長い椅子に座ったフォックスバードが、まずそう切り出す。

 そう聞かれたら、康大の言うべき事は一つだ。

「そもそも貴方達は何者なんですか?」

 ゾンビ化の治し方を聞くことが目的と分かっていても、わき起こる疑問を無視することは出来ない。何故自分達が来るのが分かったのか、何故協力的なのか、何よりダイランドという蛮族は何者なのか……。

 フォックスバードは「どこまで話すべきかな……」と楽しそうに独りごちをしてから、康大の質問に答え始める。

「本来なら彼女の僕の評を聞いてから話したかったが、その様子では仕方ないだろう。僕は元々とある()()に所属していた研究者のようなものだった。ただ色々あってその組織を抜け、こんな田舎で隠遁生活をしているのさ。ダイランドはその途中で返り討ちにした山賊の生き残りだ。僕は力仕事が苦手だからその時殺さずに拾って、弟子という名の実質奴隷にしてる」

「最低限分を弁える知性があったおかげで自分だけ助かったっス。あの日以来ただ生きていることだけに感謝して盗賊稼業から足をあらったっス」

「やっぱり蛮族ではあったんですね……」

 予想以上にとんでもない関係だった。

「何より引っ越しの時持ってきた本をしまう人間が必要だったのが大きかったね。それがなければここに彼はいなかったよ」

「山賊時代の何倍もひりひりした日常を送ってるっス!」

「それはご愁傷様と言うべきか……」

「さて、僕のことはこれぐらいでいいとして、次は君達の話だ。僕は占い的なものから君達がここに来ることは予測していた。ただ名前までは分からない。これから色々話し合うのに、お互い名前を知らないというのは不便じゃないかい?」

「え、あ、はい、俺は仁木康大って言います。こっちの気絶してるのはハイアサースって言います。下の名前はどうでもいいんで綺麗さっぱり忘れました」

「その名前の響きだと最初の方がファミリーネームかな……。ではこれから康大君と呼ばせてもらうよ。さて康大君、君達が僕に会いに来た理由は分かっている。その身体のことだね?」

「・・・・・・」

 康大は無言で頷いた。

「あの、コウタさんって生まれながらの化けもんじゃないんスか?」

 ダイランドが恐る恐る聞いてきた。興味があるというより、本当に怖がりながら聞いている。

 こんななりをしているのに、ゾンビが怖いのだろうか。そう思いながら康大は「はいそうです」と肯定する。

「もともと俺も普通の人間だったんですけど、向こうの世界でゾンビになる病気になって、完全にゾンビになる直前にこの世界に連れてこられたんです」

「そうだったんスか……。ああ、あと自分にはもっと砕けた風にしゃべって下さい」

「え、あ、はあ」

 見た目よりフランクな人なのかなと康大が思っていると、

「師匠と自分に対する態度が同じだと、師匠の機嫌が悪くなって俺が師匠に殺されるから……」

 フランクと言うよりデッドフラグが原因だった。

「まあそういうわけで康大君もダイランドは奴隷のように扱ってもらって構わないよ」

「そこまでは怖いんでしませんが、まあもっと気軽に話すことにします。それでゾンビになってこの世界に来て初めて会ったのがこのハイアサースなんですけど、色々あって俺のゾンビウイルスを感染させてしまって……」

「感染? 興味深い話だね」

 フォックスバードの目が一瞬鋭くなる。康大は話に夢中でそれに気付かなかったが、ダイランドは無関係と分かっていても背筋に冷や汗が流れた。フォックスバードがこう言う目をした時、今まで碌なことが無かった。

「はい。俺の世界のゾンビは死んだ人間が魔術とかでなるんじゃなくて、生きた人間がウイルスによって変質させられるもので……ウイルスって言ってわかります?」

「残念ながら。あとで書物に概念ごと残しておきたい言葉だ」

「まあそこら辺は説明すると長くなし、俺も本職じゃないから詳しくは言えないんですけど、とにかく俺のゾンビ化をうつす媒介みたいな物なんです。そのウイルスはどうも俺の血に入ってたみたいで、血を浴びたハイアサースが見事にゾンビになってしまいました」

「・・・・・・」

 自分のことを言われてもハイアサースはまだ目を覚まさない。

 いい加減彼女の暢気さに康大も腹が立ってくる。

 しかし、フォックスバードはこの現状をまったく違う視点で捉えていた。

「改めて聞くが君は死んではいないんだね。ちゃんと心臓は動いていると」

「はい、何なら確認……したら感染するかもしれないんであまりオススメできませんけど」

「非常に興味深いが止めておこう。ダイランド――」

「すみません勘弁してくださいっス! 自分こういうアンデッド系は死ぬほど苦手なんス!」

「――はゴミの役にも立たなそうだし、ゾンビになっても色々面倒そうだ。まあ僕が耳を澄ませば鼓動は聞こえるのだから嘘ではないのだろう。()()()()()

「はあ……」

 康大は瞬時にはフォックスバードの言葉の意味が理解出来なかった。

 頭が悪いわけではないが、こんなとんでもない状況では普段通りに頭を動かすことなど不可能に近い。

 そんな康大にフォックスバードはある指示を出す。

「では念のため、そこで倒れている彼女の鼓動を聞いてみたらどうかな。ゾンビ同士なら問題ないだろう?」

「ハイアサースの?」

 頭に疑問符を浮かべながら、康大は言われた通りハイアサースの胸に耳を当てる。ただ鎧が邪魔で音までは聞こえない。

 康大は少し考えて、鎧を脱がせることにした。

 服ならまだしも明らかに下に服を着込んでいる鎧なら、勝手に脱がせても問題は無いだろう。鎧の脱がし方も、ネット知識や見た目だけで大体想像がつく。

 康大は特に注意もせず胸当てを外す。

 その瞬間。

「!?」

 ぼろんと音が聞こえそうなほどの大爆発が起こった。

「ほう、彼女は随分胸が大きい女性のようだね」

 フォックスバードが面白そうに現状を表現した。

 一方の康大はそこまで平静ではいられない。

 ハイアサースは康大が今まで見たことがないほどの巨乳の持ち主で、鎧から解放されたと同時にその存在感をこれ以上ないほどアピールしたのだ。むしろこの大きさで良く鎧にしまえていたものだと思う。

 童貞の康大がこの時受けた衝撃は、この世界に来てから最も大きいものだった。彼は自他共に認める※おっぱい星人でもあるのだから。

「・・・・・・」

 頭が真っ白になり生存本能が優先されたのか、康大はハイアサースの胸を突然鷲掴みにした。

 彼の人生の中でこれほど柔らかく、また心地よい物を触った記憶が無い。本当にこのまま心身共にゾンビになっても悔いが無いように思えたぐらいだ。

「コウタさんいきなりレイプっスか?」

「え、あ、ちが――!」

 ダイランドの言葉で我に返ったコウタは慌てて手を離した。慌てすぎたせいでその場に尻餅をつき、強かに腰まで打ち付ける。

 罰が当たったのかな。

 ――そう思う康大であったが、その一方で「プラマイ差し引きしたらまだ完全にプラスだけど」とも思った。

「さて、小芝居はそれぐらいにして僕が言ったことを実践してくれないかな」

「え、あ、実践って、でも胸が……」 

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()、触ろうが問題ないだろう。それになるべく早くした方がいい、僕の推測通りならね」

「……はあ」

 康大は不承不承……を装いつつハイアサースの胸に顔を近づける。幸いにもと言うべきか不幸にもと言うべきか、心臓の位置が左胸ではなくほぼ胸の中央にあることは理解していたので、最初から間違えずに胸の間に耳を当てた。それでも大きすぎるハイアサースの胸に挟まれ、「俺多分そろそろ死ぬな」と望外の幸福感を得ていた。

「こ、鼓動は聞こえます」

「それは君の鼓動だろう。その腐りかけの顔でも分かるほど真っ赤だよ」

「――!」

 康大は落ち着こうと深呼吸する。

 その際、ハイアサースの女性特有の体臭が……。

「……しない?」

 康大の鼻孔に届いたのは、土の臭いと微かな悪臭で、女性を連想させる臭いは全くなかった。

 悪臭でも汗臭いなら理解出来る。だが、ハイアサースからの臭いは、明らかに生きている人間からするものではなかった。

 甘い気持ちが完全に吹き飛んだ康大は、今度は真剣に鼓動を聞いた。

 そして一言。


「死んでる……」


 ゾンビにとって最も相応しく、また最も場違いなこと台詞を言った。


※女性のおっぱいに対して異常な執着を見せる人々。日本人男性の5割以上はおっぱい星人。

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