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第3話

 再び目の前に現れた美麗で間抜けな女騎士。

 康大はため息を吐いた。

 彼女の持っている剣は恐ろしいが、彼女自身は恐怖の対象なり得ない。あまりに情けなさ過ぎる。先ほどの傷も油断さえしていなければ避けられたものだ。

 まさかゾンビに完全に下に見られているとも知らず、女騎士はキッと康大を睨み付ける。

「ああいだ! おめえ何したんだべ!?」

「は?」

 訛りのきつい女騎士の第一声に康大は首をかしげた。

 何かをされたのはむしろ康大の方だ。

 そもそもなんでこの女騎士はあれほど怖がっていたのに、自分を追ってきたのか。

 彼女の行動に何一つ合点がいかなかった。

「だからおめえのせいでこうなったんだべ!」

「いやだから何を」

「おらの顔をよく見て見ろ!」

「顔……」

 言われて康大はしげしげと女騎士の顔を見る。今度は前回の轍を踏まえて剣だけ注視していた。

 すると女騎士は照れくさくなったのか、咄嗟に顔を背けた。

「……喧嘩売ってるのか」

「す、すまん」

 慌てて女騎士は康大の方を向く。

(ふむ、改めて見てもなかなかの美人――)

 そこまで思って、康大はようやく女騎士の言っている異変に気付いた。

 会った時は少し日に焼けた健康的な肌だったのに、今の女騎士は鶯色に近い土気色の肌で、青い目も充血し明らかに何か重い病気に感染しているような状態だった。

「身体を洗ってしばらくして泉で顔を見てみたらこれだ! いったい貴様何をした!?」

「何って何も……」

「そもそもゾンビのくせに話せるのもおかしいんだ! ええいこれを喰らえ!」

 女騎士は問答無用で康大に何かをまき散らす。

 咄嗟のことに反応できなかった康大は、それを顔面から受けた。

「見るがいい! これこそ神より戴いた聖なる水! お前のようなゾンビにはひとたまりもあるまい!」

「つまり俺は聖水をかけられたのか……」

 異世界転生は想像できても、自分が聖水をかけられる立場になるとはさすがの康大も想像できなかった。

「どうだ苦しいか! 天国に行きたければ、消滅する前にこの呪いを解くことだな!」

「いや、そう言われてもただ水ぶっかけられて冷たいなとしか……」

「ま、まさか聖水が効かないのか!?」

「まあ本当に死んだわけじゃないし……」

 ミーレの案を採用すれば、自分は限りなく死に近いゾンビであるが死んでもいない。見た目がゾンビでも生きているなら聖水は効かないだろう。そもそも彼女自身に飛び散った聖水が全く効いていない。

 今まで培ったサブカルチャーの知識から、康大は現状をそう判断した。もっとも女騎士の性格を考えると、偽物の聖水を掴まされた可能性も否定できないが……。

「そんな……馬鹿な……」

 ガックリと膝を落とす女騎士。

 どうやらこれ以外、作戦はなかったらしい。

 自分だったらせめてあと1つか2つは計画を立てていただろうなと、この哀れな女騎士を見ながら思った。

 その一方で、彼女の単純な性格を上手く利用できないかと、邪な気持ちがむくむくと膨らむ。遠くの温厚かつ頭が切れ、頼りになる義理堅い人間より近くのアホの子だ。

「あの、ところで名前は何て言うんだ?」

「……ハイアサース。ハイアサース・ゼオ・シュヴァンガウ」

 女騎士――ハイアサースは少し迷ってからそれでも結局は素直に答えた。

「俺の名前は仁木康大。友達からはコータって呼ばれてる。見た目はゾンビだが元々は別の世界から来た普通の人間だ」

「別の世界?」

「ああ、ミーレ……女神の話だと俺以外にもそういう転生者はいるはずなんだけど……」

「……聞いた事がある。この世界にはこことは違う世界から来た者達が時々現れると。そしてそのほとんどが狼に噛まれたり大猪に噛まれたり蛇に噛まれたりオオコウモリに噛まれたりしてすぐに死んでしまう、と……ッ!」

「現代人貧弱すぎだし噛まれすぎだろ」

 いくら自然から離れた生活をしているとは言えこれはあんまりだ。そんな中ゾンビになったおかげで何にも噛まれず、致命傷の斬り傷を負っただけで済んだ自分は幸運だったかもしれない。

(いやいや、致命傷の傷を負わされた時点で不幸だから)

 康大は心の中で突っ込んだ。

「どうした?」

「いやこっちの話。それよりハイアサースのゾンビ化の件だけど、まあそれは確かに俺が関係しているかもしれない」

「やっぱり!」

「ちょ、落ち着け!」

 剣を持って詰め寄るハイアサースを康大は宥める。

 相手が美人でもゾンビ化した土気色の顔で詰め寄られたら、ただただ怖い。

「す、すまん……」

「まあいいさ。話を戻すが、原因は推測できるがはっきり言って治し方は分からない。俺自身もこの身体をどうにかしたいと思っている」

「なんだ、もしかしてコータは元々人間だったのか? 聖水が効かないからてっきりそういう種族かと……」

「俺は元々お前と同じ人間で、ウイルス……そうだな、この世界で言えば呪いのせいでこうなった。お前がそうなったのは俺の血を浴びて、その呪いが感染してしまったからだ。だからどうだろう、ここからは協力してこの呪いを解かないか?」

「ぬぬぬ……」

 ハイアサースは眉間に皺を寄せる。

 考えていると言うよりは唸っているだけで、このまま放っておいてもただ頭が痛くなるだけだと言うことは明らかだった。

 このままではラチが開かないので、康大から別の話題を振る。

「そもそもハイアサースは何でこんな所にいたんだ?」

「ん、ああ、実は私の本職は騎士ではないんだが――」

「やっぱり」

「ぐぬぬ、そこまではっきり肯定されると腹が立つ……。と、とにかく本当はシスターなのだが、親戚の元にこの鎧を渡すために、故郷の村から旅をしていてな。その途中で仲間とはぐれてしまい、気付けばこんな所で1人に……」

 現状を改めて理解したのか、ハイアサースの瞳に涙がたまり始める。

 本当は争い事など苦手な、気の優しい女性なのだろう。あれほどセンスの無い剣術もそうそう見られるものではない。

「……ぐす、本当はいえっこでお祈りさしてるだけでよがっだのに、うちの村じーちゃんとばーちゃんばっかで、この鎧着られるのわけーのがおらぐらいしかいねーから……。ああ、はやぐ村帰ってかーちゃんの※がっこ食いてえ」

「ま、まあまあ」

 ついに方言丸出しで泣き出したハイアサースを、康大はなんとか宥める。いくら騙しやすいとはいえこのまま彼女に頼ってもいいものかと、一抹どころか千抹ぐらいの不安がよぎった。

 しかし、えり好みができる状況でもない。

「そのお使いだけど、今の状態のまま親戚のとこに行ったら、ゾンビと思われて追い払われるかもしれないな」

「そんなあ!!! びぇぇぇぇぇぇぇええん!!!!!!!!」

「ああ、だからもう泣かないで! そうならないために、俺達は協力してこのゾンビを治さないといけないんだ。分かった?」

「びぇぇぇぇぇぇぇええええええええん!!!!!!!!」

「まいったなこれは……」

 康大は深くため息を吐いた……。


※秋田の方言でつけもののこと、「雅香」と書くことも。何故ハイアサースが秋田弁を使うのかは謎。

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